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次世代DVDのDRM団体、ニュースサイトに削除要請を開始。Diggは抗戦の構え



ゴールデンウィーク中に進行していたいわゆる"09 F9"騒ぎについて、経緯と現在の状況を軽くまとめておきます。

すでに各所で話題になっているもののメディアによって採りあげかたが極端に違いなんだかよく分からなくなっていますが、簡単にいえば「次世代DVDのDRM管理団体AACS LAが、クラックされたキー情報およびキー情報へのリンクを含むウェブサイトに片端から削除要請を送り始めた」。そして「ユーザ主導の技術ニュースサイトDiggは当初かなり協力的に削除していたが、気付いたユーザが削除そのものを話題にする&反発した一部ユーザがわざとキーを含めたストーリーを投稿しはじめたため削除が追いつかなくなる」。これが発端。

この時点でDigg 創設者のKevin Roseが、「Diggは常にユーザ主体のサイトだった。大企業に屈するより抗戦して負けることをコミュニティが望むなら、運営はそれに従う」「もし負けたとしてもそれはそれ。少なくとも戦って死ぬんだから」という声明を、件のキーそのものをタイトルにしたblogエントリーで発表したため大騒ぎになりました。



次世代DVDのDRM AACSのクラックやWeb 2.0の花形企業が絡む派手なニュースのためさまざまな反響がでていますが、とんちんかんな論評を避けるため最低限必要な事前知識はたとえば:

  • AACSはBlu-ray / HD DVD双方に使われているDRM技術。映画タイトルの暗号を解く鍵はHD DVDでもBlu-rayでも出回っています。
  • 問題のキーは128bitの数値。クラックは2月ごろからすでに大手メディアでも話題になっており、問題の鍵も普通に見つかる状態でした。ウェブサイト以外にもこのキーを含んだリッピングツールも市販・フリーソフト含め出回っています。
今回問題になっている16バイトのキーで何ができるかといえば、対応するドライブと市販の映画ディスクを手に入れてPCからファイルにアクセスできるよう にした上で、適切な復号用プログラムと「キー」とプロセッサ時間を使えば暗号の解除された状態の動画ファイルが得られる、というもの。復号するためのキー なのでディスクそのものを買ってこないと使えません(まあディスクを買わなくてもBitTorrentなどで落とせないこともないのですが、最初から解除後のファイルが流通するためほとんど無意味)。

そのうえで「なぜここまでユーザが騒いだのか」という観点の話をすれば、コミュニティにとって政府であるところのDigg運営側がネットユーザの大嫌いな 「検閲」をおこなったからというだけではなく、今回の09 F9を含めて数百万の16バイト数をDRM団体が「所有」しているという事実、このキーが出回っても実害がほぼないにも関わらずリンクしているだけで削除されることへの反発、単なる16バイト数でも「著作権保護機構の回避を目的とした装置」と見なされて違法となるDMCA 法への抗議といった要素が考えられます。

「ウェブなら何をやってもいいと思っている暴徒が数を恃んで他人の権利を侵害する情報を大量投稿、web 2.0企業が屈した」といった構図の報道も多いのですが、AACS LA側の削除要請そのものの妥当性、また従ったサイト側の対応(この件について話題にするだけで削除)といった点も考慮しないと「暴徒」が何に抗議してい たのか、「屈した」Diggの判断についてもよく分からなくなります。(最初期に報じたForbes記事のタイトルにあった"Revolt"という単語のニュアンスが伝わっていないのも理由かもしれません)



ユーザの反発はさておきAACS LA(管理団体)の戦術としていえば、DVDの暗号を破るDeCSSがウェブから消そうとした途端に詩や音楽やTシャツになって爆発的に広まった例もあるように、逆効果にしかならないことが容易に予測できるのになぜいまさらこんな動きに出たのかは(そもそも法務の仕事を増やす以外の合理的な動機があるとして)理解に苦しみます。問題のキーは解読前の実ファイルを持っていないと使いようがなく、わざわざツールを駆使してウェブにアップロードするような人物は検閲のしようがないIRCやフォーラムでキーを入手する(あるいは自前でキーの抽出ができる)ため、違法コピーの流通を防ぐという目的からすれば、ウェブ上に掲載されたキー情報を半分に減らせても1%に減らせてもほとんど変わりがないことになります。(次世代DVDに「カジュアルユーザ」が存在するかはともかく、問題のキーは一般ユーザにはほとんど使い道がない)。

またAACSは特定の鍵が流出しても新しいリリースについては無効にすることができる仕組みのため、仮にウェブから特定のキーを駆除できた場合のメリットvs クラック手法やコピー可能であることを宣伝するデメリットで考えても損にしかなりません。(強いていえば訴訟をちらつかせる萎縮効果で次回からの掲載を止めようとしたと考えられなくもないものの、そもそも数百メガバイトやギガバイトの作品そのものの流通をまったく止められていない以上、いくら手紙を送っても16バイトをウェブから消すことは不可能に近い)。

Technorati Chart
(問題の09 F9が話題になった回数グラフ。削除要請が話題になったのは4月末。)



さて、なぜ実害がほぼないという解説をしているかといえば、「いくら実害がゼロに近くても悪いことは悪いことじゃないか」という話をしたいわけではなく、Diggのユーザ(を代表とする「暴徒」)の心理として、「消されてむかつくから嫌がらせ」と同時に「これは政治的な抗議運動である」という意識があるからです。

法律がおかしいと思ったらプチ違法行為に訴えてでも抗議しているうちに法律のほうが変わったという例がたくさんある国だけに(白人専用席とか)、直接的にはストーリー削除やアカウント停止といったDigg運営の対応への抗議を、気の長い話としては著作権法の特定の条項や表現の自由といった問題への態度表明を「たぶん個人はそんなに怒られない範囲で」実行する格好の機会であったという面は強調すべきでしょう。(抗議といっても映画そのものをアップロードしたら捕まるし製作した人たちにも悪いが、今回のキーなら実際の違法コピーを直接助長する効果はほとんどないしAACS LAに訴えられることも恐らくないから安全、という考え)。

というわけでやっとKevin Roseの「敗北宣言」に戻ってきます。上記のようなユーザの行動の背景を考えれば、単に「違法な情報を投稿するユーザを削除したら暴徒化したため負けを認めた」ということ以上に「Diggユーザが抗議しているならサイトも戦って負けるほうがまし」という判断であることが理解できるでしょう(単なる「暴徒化したユーザvs Digg運営」ならばDiggが「戦って」死ぬという表現にはならない)。Web 2.0を語るのが好きな人はコミュニティと運営側の関係についてここぞとばかりに論じてください。



問題の声明が投稿されてから一週間あまり、Digg Blogは更新されないもののDigg.comが閉鎖されることもなく、いまのところ次の動きらしいものもないまま時間だけが経過している状況です。注目は削除要求を無視されたAACS LAがDigg.comを「著作権侵害の幇助につながる情報を削除しなかった」として訴えるかどうか。米国法でどういった手続きになるかは非常にややこしいためここらへんを参照していただくとして、近い前例として挙げられるDeCSSについてはウェブサイトへの掲載を違法とする判決がでています。ただし今回のキーがDeCSSと同等の侵害装置として認められるかどうかは専門家でも裁判になってみないと分からない状況のようです。

ましてやAACS LAがどう動くか動かないかは今のところ予測不可能。新しい動きがありしだいお伝えします。Engadgetの本家ではコロンビア ロースクールと提携してやっている法律系の分析記事シリーズがそれなりに人気ですが、そちらに今回の件が登場したら結論だけ適当に転載するかもしれません。


追記:おまけとして、DRM反対とかDMCA反対といってる連中は何に腹を立ててるのか?について。コピー制限そのものが良くないから撤廃しろという主張とは独立した話として、今回のAACS LAの動きの根拠になっている著作権法の一部DMCAに対する抗議があります。

DMCAでは映画や音楽を違法に配布することやその場所を知らせることではなく、DRMに使われている仕組み自体について話題にすることが「著作権法違反を幇助する装置の流通」として違法行為とみなされる場合があり問題になっています。たとえばソニーがCDにrootkitを仕込んで客をスパイしていた問題でも、コピープロテクト機構について説明するだけでソニーに訴えられる可能性があったため、弁護士に相談するあいだ発表が数週間遅れるという例がありました。あるいはDRMに根本的な欠陥や脆弱性があることをアーティストに警告しようにもそれが「著作権法違反」とされかねないなど。

今回の件もユーザから見ればキーだけが伏せ字になるわけではなく関連記事やページがごっそり消えるという現象だったため、そこでまたブチ切れてしまうのも無理からぬところです。「著作権法 vs 表現の自由」という言い方は「他人の作品を盗む表現の自由などない」という答えを招きがちですが、議論そのものが消されることへの抗議もあると考えると分かりやすいかもしれません。

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