Augmented Reality 技術を使ったカードマジックで一躍名を馳せた Marco Tempest(マルコ・テンペスト)。伝統的なテーブルマジックに画像認識技術と三次元CGを組み合わせ、新しいマジックの境地に挑む一方で、iPhone を使った茶目っ気溢れるストリートマジックを iPhone 発売開始直後に披露するなどガジェット好きでも知られる彼が来日中ということで、お話をうかがってきました。何故テクノロジーやガジェットをマジックに取り入れるのか? AR カードマジックの仕組みは? などなどに迫ったインタビューをお届けします。インタビュー後編では、日本の AR 技術伝道者として名高い、「工学ナビ」の橋本直さんも登場。

まずはインタビュー前編をどうぞ。


Marco Tempest インタビューは5月24日、オライリー・ジャパン主催の「Make: Tokyo Meeting 03」でのカードマジック実演のために来ていたデジタルハリウッド八王子制作スタジオで行われました。

まずは AR カードマジックの仕組みについて、Marco 直々に説明していただきました。


ステージはこんな感じで、テーブルの脇に設けられたスクリーンに CG を重ね合わせた映像が投影されています。テーブルには客席から募ったボランティアが一人座り、カードを一枚選んでサインします。このお客さんは別にヘッドマウントディスプレイをかける訳ではなく、客席と同様、スクリーンの映像とテーブルの両方を観ています。

使われている HMD はシースルーではない、遮断型のもの。その横にテープをぐるぐる巻きにして取り付けられているのが、Eyetoy の外装を外したもの。これが脇に置いてある MacBook につながっています。MacBook でカードの位置姿勢を認識、CG を重ね合わせた映像が HMD と客席用スクリーンの両方に送られています。カードの順番はあらかじめ決まっており、その進行にあわせて表示するアニメーションを切り替えています。何度かカードをシャッフルしたりカットしたりしていますが、当然そこはマジシャンとしての技術でもってコントロールしている訳です。プログラム担当は、openFrameworks の開発者の一人でもある Zachary Lieberman。他にデザイン担当の人がジョーカーのアニメーション他カードの柄をデザインし、カードはわざわざ特注で印刷したもの。



さてそれではインタビューをどうぞ。

Engadget: まずは最新作である、Augmented Reality (以下AR) を使ったテーブルマジックについてお話をうかがいたいと思います。最近だとハイテクを使ったマジックもさほど珍しくありませんが、その多くはステージマジックやデビッド・カッパーフィールドがやっているような野外マジックで、テーブルマジックでハイテクを使うのは結構珍しいように思います。今回そのようなマジックに挑戦された理由をうかがってもいいですか?

Marco:
二つ理由があります。一つは個人的な理由で、私はテクノロジーが大好きだし、AR やガジェット、携帯電話も好きなので。自然とそうしたものを自分の仕事に活かすようになりました。それらに囲まれていることで、色んなインスピレーションを受けます。

もう一つはアーティストとしての側面です。初めて AR 技術を目にしたときに、私には AR そのものがマジックのように思えました。AR は、実際に存在しないものを観せるものですからね。でも残念なことに AR 技術は今のところ広告ぐらいにしか実際には使われていません。だから私は、AR は何に使えるんだろう、AR にしかできないことは何だろうと考えたのです。もちろん、携帯電話に搭載して方向案内に使ったりするなどの実際の役に立つアプリケーションは色々あるでしょうが、私は、これはマジックのショーに使えるぞと思ったのです。

マジックには二つのリアリティが重なりあっています。マジシャンのリアリティと、観客のリアリティで、それらは同じではありません。観客が観ているものと私が見ているものは違うのです。だから私は、AR を使って、私が見ているリアリティを観客にも観せることができるんじゃないかと思いました。


Engadget: ARカードマジックでは、カードそのものについての物語を語っていますね。

Marco:
あのマジックでは、私にとってトランプのカードが何を意味するのかを表現しています。一枚々々のカードにはそれぞれ異なる意味が込められているのですが、それはちょうど AR で使うマーカーによく似ています。カードの中に、様々な情報がエンコードされているのです。カードは AR マーカーだと言ってもいいかもしれません。


Engadget: 今回のマジックは、映像演出がなくても成立するものなのでしょうか。逆に、トリックがなくても映像だけで楽しめるものとなりうるのでしょうか。

Marco:
ショーとしてもまた二つのレイヤーがありますね。一つは、そこでは本物のマジックが行われているということです。カードを選んでサインしてもらって、シャッフルしてその中から選び出すという、もはや古典的というべきトリックですが、AR 技術をまったく使わない純粋なマジックです。しかしこのマジックではそこにアーティスティックなレイヤーが重ね合わされています。

私は、ただのマジックはもはや現代的ではないと思っています。「私は凄いマジシャンだ。私のトリックを見よ!」式のマジックを私はやりたくないのです。私が目指しているのは、観客と一緒になって何かを体験するかのようなショーです。その体験はマジカルであったり、美しいものであったりおかしなことやインスピレーションを与えるようなものでありたいと思っています。


Engadget: マジックに CG を導入すると、なんでも CG で出来てしまう、ということにはなりませんか? こういうと失礼かもしれませんが、こうしたハイテクをマジックに導入することはどう正当化されるのでしょうか。

Marco:
私がハイテクが好きだから、というのが一つの正当化ですね。セールス目的でマジックに何かの要素、例えば流行の音楽を取り入れたとしましょう。もしそれがうまくいかなかったらとても嫌なものです。自分が好きな音楽を使っていたらとても気分よくマジックができますから、それだけでも成功と言えます。私のマジックにハイテクを使ったイリュージョンが多いのは、私がそれが好きだからなんです。

もう一つ、テクノロジーはステージでのマジックをより良いものにするための道具でもありあす。例えば、幻想的な照明効果は普通の明かりよりも強力な表現手段をもたらします。そもそも昔から、新しいテクノロジーはアーティストや職人の助けとなってきました。だからこそ私は最新のテクノロジーを取り入れ、それが何に使えるのかを調査したり実験したりするのはマジシャンとしての職業的義務だとすら思っています。私の AR カードマジックはそうした実験の一つです。初めて AR を 知ったのは一年前ですが、これは使える、と思ってから形になるまで一年もかかってしまいました。

Engadget: なるほど。舞台演出のためのテクノロジーという意味では、あなたが Golden Horse Award (台湾の映画祭) で観せた、「Movie Light Magic」がいい例ですね。


(Movie Light Magic は9:10頃から)

Marco:
あのマジックでは「映画とは何か」について考えました。映画は光で作られています。光のマジックとも言えるでしょう。だから、映画にまつわるマジックに光を使うのはとてもふさわしいと考えたのです。

Engadget: ガジェットとマジックの融合、という意味ではあなたが街中でされた、iPhone のマジックがありますね。マジックのトリックとしては古典的なものですが、新しいガジェットを組み合わせたことで、新しい驚きがありました。



Marco:
あれについては面白い話がありますよ。今ビデオを見ると、あぁ iPhone 用のアプリを事前に用意しておいてやったんだな、としか思えないでしょうが、あのマジックは、iPhone の発売開始30分後に Apple Store の目の前でやったんですよ。

Engadet: それはすごい!

Marco:
あの当時私達は、iPhone は未来からやってきたデバイスのように感じていたし、実のところ iPhone で何ができて何ができないのか誰もまだよくわかっていませんでした。そのため、あのマジックはだいぶ人を惑わしましたね。iPhone は X線撮影ができると本気で信じた人もいたようです。あのビデオには沢山のコメントがついていますが、いまだにあのトリックのどれかをなかば信じているとおぼしきコメントがありますからね(笑)。まさしく「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない」というやつです。

そんなタイミングは、まさしくマジックをするには絶好の機会でした。今となっては同じマジックはもうできません。あの瞬間には、まるで本当のように見えたのです。

Engadget: iPhone のプログラムはどうしたんですか?

Marco:
あれは iTunes 上のムービーなんですよ。iTunes のムービーなら発売日に間に合わせることが充分可能でしたし、iPhone にダウンロードするだけで済みますからね。ただ、事前に分からなかったのは、iPhone がどんなムービーフォーマットに対応しているか、ということでした。だから私は、自分の MacBook に同じムービーを32種類のフォーマットでエンコードしたものを入れておいたのです。再生速度やサイズを色々変えてね。私のアシスタントが Apple Store の前の行列で場所取りをしている間、私は2ブロック離れたオフィスでそのデータを用意していました。

販売開始の時には MacBook を抱えていき、iPhone を手に入れるや否や、店の中でアクティベートですよ。店のスタッフは「何やってんだ?」と私の周りに集まってきましたが、「放っておいてくれ!アクティベートしなきゃ!」とか何とか言いながらなんとかムービーをダウンロードして、動くことが確認できるや否や「さぁカメラを回せ!」(笑)。そしてオフィスまで走っていって、すぐにビデオをアップロードしたという訳です。いろんなニュースがそのビデオを取り上げてくれました。相当な数の人が、iPhone が動いている様子を私のビデオで初めて観たと思いますよ。

Engadget: iPhone マジックの舞台裏にはそんな話があったんですね(笑)。



前編はここまで。インタビュー後編ではテクノロジー・マジックの発想の源についてうかがいます。インタフェース技術の研究者、橋本直さんも参入。
テクノ・マジシャン Marco Tempest インタビュー:前編

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