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iPhone 6sイベントでの「Optimized for real-world use」がSnapdragon 810への皮肉となる理由

Shingi Hashimoto
2015年9月13日, 午後12:00 in A9
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アップルが開催するイベントでの名言といえば、かの「One more thing」をはじめいろいろとありますが、イベント中にそれとなくライバルへのツッコミを入れる時こそ最高に輝いてる......そう考える人は、筋金入りのEngadget読者諸兄の中にはきっと多いと思います。

そうした視点で今回のスペシャルイベントを見ると、見逃せない名フレーズがあります。それはiPhone 6sと6s Plusの発表の中、Apple A9の紹介スライドに書かれた「Optimized for real-world use」というフレーズ。

イベント全体がハイペースだけあり、口頭説明もOSと合わせて設計している云々という、いつもの話で流されてしまいましたが、筆者は原稿をまとめつつ、思わずアップルのこういうときの(いい意味での)皮肉の上手さに吹いてしまったほど。というのも、これはほぼ間違いなく、裏に(いわゆる)クアルコム Snapdragon 810の発熱問題に対するツッコミを含めたものだからです。

Gallery: Appleスペシャルイベント A9関連スライド | 9 Photos


なぜそう考えるのかは、この文章のニュアンスを見ていくとヒントが出てきます。まずは直訳すると「現実世界に合わせて最適化(設計)をしました」となります。そして若干乱暴ですがニュアンスを広げて訳すと「実際の機器、そして使うユーザーの要求に合わせて(性能と消費電力のバランスを)設計しました」というところ。

ここで重要なのが、Optimizeという言葉。これは「最適化」と訳され、IT企業系のプレゼン文章では乱発されていますが、本来半導体業界では「複数の相反する要求がある中で、想定されるユーザーの使い方に合わせてバランスを取る」といった意味あいを持ちます。

昨今はマーケティングワードとして便利なため、相反する要素が出てきてないのに「頑張りました」的に使う傾向もありますが、本来はそこまでゆるふわではなく、むしろ「トレードオフを見極めました(ので、想定に合わない局面では欠点が出ます)」という、割とシビアな言葉です。

こうした意味を踏まえて「real-world」という言葉を見ていくと、このフレーズはより味わい深くなります。直訳すると現実世界となりますが、半導体などではこうしたフレーズを使う場合、「理論上性能に対しての実機上性能」といった対比的な意味合いを持つからです。

そして続くのが「use」、つまり使われる状況や使われ方を示しているあたりも面白いところ。というのも、こういった場合のフレーズでよく使われるのはperformance。つまり「実機での性能」を誇示します。対して今回はuseと、より広い範囲を示す言葉になっているわけです。

アップルがあえてuseという言葉を使っているからは、性能以外の要素、つまり発熱やバッテリー駆動時間といった快適性に関係する要素もOptimizeしたという意味合いが入っていると考えたほうが妥当でしょう(後述しますが、A9のバランスはこうしたツッコミを入れられるだけのものとなっています)。

こうした意味合いをフィードバックして訳すと、「(A9は)実際にユーザーが使う際、iPhoneに入った状態での性能や快適性を重視して、各種のトレードオフを図った」となり、ひいては裏に「理論上性能を重視するあまりに、スマートフォンに入れるとバランスを欠くSoCではない」という意味合いが出てくるわけです。


▲iPad向けAシリーズの速度比較。iPad公式ページのモデル比較より


また、もう一つ重要なのは、今回(A9で)このフレーズを出しているという点。実はこれまでも他の半導体メーカーが「Optimized for real-world use」的な表現を使ったことがありますが、こうした場合の多くは、「ライバルに比べて理論上の性能は悪く見える。しかし実機での性能は高いんだ」という場合の言い訳的な意味合いが多かったのです。

(余談ですが、こうした言い訳を出した製品の場合、なぜか実機での性能も惜しいことが多いのですが、これは別の話)。

こう書くと、当然今回(A9)もそういう言い訳じゃないの? という話は出るでしょう。しかし言い訳として使うには、実は今回ではなくA8(iPhone 6と6 Plus)の時点のほうがふさわしいのです。というのもA8は、昨今のアップル製SoCの中では性能向上率が低かったため。

iPhone 6とPlusのApple A8発表時、A7からの公称高速化率は「CPUが最大30%、GPUが最大60%」でした。なおこれはiPad Airの場合で、iPhone 6ではCPUが最大25%、GPUが最大80%となります。これがA6からA7の場合(iPhone 5s)では「CPU、GPUとも2倍」ですし、今回のA9ではA8比で「CPUが最大70%、GPUが最大90%」なのです(上図左はiPad ProのA9Xで、またA7比較のため、数字がさらに大きくなっている点に注意)。

こう列挙するとGPUはともかくとしても、A8のCPU速度アップ率は、昨今のアップルSoCの中ではかなり低いことがおわかりいただけると思います。こうした言い訳的な話をするなら、むしろA8の時というわけです。

そしてA8でも、iOSとAndroid共用アプリなどを動作させると(iOS側も手伝って)スマートフォン全体から見ても高速である点は、両OS機を併用する方はお分かりいただけるでしょう。また、SoCの性能通りとはいかなくとも、iPhoneが世代交代するたびにしっかりと高速化するという点も、使っているユーザーはご理解いただけるかと思います。

ということで、今回の「Optimized~」は、A9での高速化率が高いからこそ、他社に対するツッコミとなりえるわけです。



さて一方で、アップルがA9にこれだけの自信を持っている理由に関しても実はヒントが出ています。それは「Optimized~」の上に書かれた「New transistor architecture」というフレーズ。

スマートフォン向けSoCが世代交代する際には、多くの場合回路設計が変更されるとともに、「(半導体)製造プロセス」と呼ばれるものが変更されます。これは若干乱暴ですが、半導体を製造工程の技術世代を表現する言葉。

プロセスの世代が進む(回路の長さが短くなる=数字が小さくなる)と、同じ回路を製造しても物理的な大きさ(ダイサイズ)が小さくなり、理論上の半導体性能も向上。結果として理論上の動作可能なクロックが上がり、動作電圧、ひいては消費電力も下げられるという、半導体メーカーにとっては大きな改良となります。



アップルもAシリーズを世代交代するたびにプロセス世代を進めてきました。Aシリーズが(細かな点では行きつ戻りつがあっても)性能を向上させ、消費電力の効率も改善できるのは、こうした製造プロセスの進歩の恩恵もあるわけです。

しかし今回のA9で焦点としているTransistor Architectureという言葉は、製造プロセスの進歩では使いません。現状のアップル製SoCにおいてこの言葉が妥当となる技術は、三次元構造トランジスタ、いわゆる『FinFET』です。


▲SamsungとGLOBALFOUNDRIESのFinFET模式図

これは製造難度は大きく上がるものの、消費電力や発熱低減効果が大きい技術。実は効果の少なくなってきたプロセスの進歩を補うことができます。三次元という言葉が出てきたのは、回路を立体、つまり三次元構造的に配置しているため。実は一般的なLSIの構造は、トランジスタなどの電子部品を二次元(平面)的に配置しているだけでした。

なお、プロセスの進歩による効果が少なくなってきたといういい例が、A8やSnapdragon 810(S810)が使っている「20nmプロセス」。これは前世代からの性能向上率が少なく、上述したA8の高速化率が低い点や、S810の発熱が相対的に多い点もこのあたりが影響しています。

対して、A9がA8からの性能向上と消費電力低減率が(少なくとも公称レベルで)かなり大きいのは、この三次元トランジスタ技術の恩恵。例えば他社のSoCでは、インテルはCore MやClover Trail(Z2000シリーズ)以降のAtom、SamsungはGalaxy S6などのExynos 7420で採用していますが、いずれも性能と電力、発熱のバランスという点では一定の評価があるSoC。



さらに、A9はモーションプロセッサーであるM9を1チップ化した点もポイント(A8+M8世代では別チップでした)。性能を伸ばしつつ、従来別だったチップまでもまとめているからには、製造プロセスも進歩していると考えられます。おそらく従来の噂通り、14nm(または16nm)のFinFET採用プロセス、つまりExynos 7420と同等と考えて良さそうです。

アップルはA8でさえも上述したように上手なバランスでまとめていますが、これに14nm FinFETプロセスが加わるのであれば、よほどのOptimizeミスをしない限り、A9は「当たり」SoCとなる可能性が保証されているようなもの、と言っても過言ではありません。

そして他企業での失敗率の大きい20nmプロセスでもA8を作れたように、実はアップルはこの失敗率がかなり低い企業。半導体設計企業としてのアップルが真に恐ろしいのは、この失敗率の低さと、ファブレス(工場を持たない)なのに大量のSoC生産をハンドリングする手腕です。



このように「Optimized for real-world use」というキャッチは、いつものマーケティング的なメッセージかと思いきや、裏に含むところが意外と深い一文。
こうした(自社の優位が確保できた局面で)ライバルに対するツッコミを入れるアップルが輝いている理由は、比較している自社製品の優位性に対して一定以上の説得力がある場合が多いからでもあります。iPhone 6sとPlus、そしてA9はこの観点からも期待して良さそうだと感じた一件でした。

Gallery: iPhone 6s / 6s Plus実機ギャラリー | 20 Photos

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