SF作品で見てきた未来の技術がリアルになりつつある現代。2029年が設定の都市とされている攻殻機動隊の世界に今どれだけ近づいているのか。2015年11月7日に開かれた神戸ITフェスにて、義体《ロボット》、電脳《人工知能》、都市をテーマに「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT presents 公開ブレスト」が行われました。

第一回のテーマは義体《ロボット》です。




登壇者は『攻殻機動隊S.A.C(STAND ALONE COMPLEX)』シリーズ監督・脚本を担当した映画監督の神山健治氏、神戸大学大学院工学研究科教授の塚本昌彦先生、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の井上大介室長の3名。



モデレーターは、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT事務局 統括顧問・コモンズ代表取締役の武藤博昭氏と、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT事務局 神戸支部支部長・株式会社FirstStep 代表取締役 梛野季之氏。公開ブレストは、ゲスト3名の登場で幕があけます。




――実際に研究開発をされている先生がたからのコメントをいただきながら、義体《ロボット》、電脳《人工知能》、都市の3つのテーマで進めていきたいと思います。最初のテーマは、義体《ロボット》。神山監督、よろしいですか。



神山:攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEXをつくってから実は15年という歳月が経ってしまったんですけれども。今、あらためて振り返ると懐かしいなというのと、ついこの間のようだな、という気もします。脚本を書きはじめたころっていうのは、ネットがようやく一般の人たちに認知されはじめたころで、携帯メールがまだ140文字とかようやく送れて、写真が送れないころだったんですね。そのくらいのときにこの作品をつくりはじめまして。

まず最初のテーマの義体、そしてロボット。当時、僕がどういうふうにとらえていたかっていうと、まず義体は義手義足の延長線で、最終的には全身を機械的なことでリカバリーできるようにしてしまうというような発想で。おそらく第三次世界大戦とかがあった世界なので、肉体を欠損した人もいたりとか。そういった人たちの補助機能としてだんだん進化していって、最終的には生身の人間を超えてしまうようなハイスペックの肉体というイメージでとらえていて。その途中に電脳が入ってくるわけです。だいたい大ざっぱに言うとそんなイメージで義体とはとらえていました。

義体をすごく機械的なものとして表現していて、バイオテクノロジー的なことはあまり入れてなかったんですね。一皮むくとほとんど機械みたいな、そういうイメージで当時はとらえていましたが、15年経つとバイオからもどんどん技術が入ってきていて。今見ると、もうちょっとバイオ技術みたいなことが入っていてもよかったのかなと思います。

ロボットはふたつのとらえかたがあって。生身の人間となるべく見分けがつかないロボットというのがひとつ。でも、この時代はまだAIや肉体を動かす技術がそこまでで。黙っていれば人間そっくりなんだけど、動くと人間と同じにはできないという形でロボットを描いています。

もうひとつはタチコマに代表されるような、人間を支援するAIとしてのロボットですよね。タチコマは蜘蛛型のロボットで、壁を自由自在に動けたりする人間の補助用のロボット。

攻殻のなかでは大きくロボットとひとくくりにしてますけども、大きくその2種類のロボットを登場させていました。こちらも15年経ってみて、AIってだいぶ進化してきている部分はあるんだけれども、たとえばiPhoneに実装されたSiriみたいな感じで、まだまだ会話ひとつとってもとんちんかんなところがあるかなと。

あとは、人間型のいわゆるアンドロイドをつくる技術もずいぶん進んだようにも思うんですけど...。どうしても、そっくりにしていこうとすればするほど人間がそれを気持ち悪いと感じる、不気味の谷のことが。そっくりにしていこうとすればするほど人間がそれを気持ち悪いと感じるというのが。これは、アニメで描いていたときも「タチコマのほうがなぜかかわいくて、人間そっくりのアンドロイドをつくっていこうとするとかわいくないのはなぜだろう?」という議論はあって。

それから、どこか偽物を見抜くっていうのは人間がすごい優れちゃっていて。そうすると、どんどん偽物にしていったほうが勝手に自分たちが想像力を働かせてくれるので、タチコマのクリクリした形のほうがかわいく見えて、人間そっくりでなんとなくなに考えているかわからないアンドロイドのほうがちょっと不気味なんじゃないかと。アニメなので軽減されてますけど、これを実写でやろうとしたら、そこってなかなかクリアできないむずかしさがあると思うんですね。そんなことを考えながらつくってたのと。

あと、やっぱり15年経ってみて、もっと追いついてくるかなと思った部分が追いついていなかったりとか。

――ぜひそのあたりをこのあと聞かせていただければ。

神山:おふたりにもちょっと逆に聞いていきたいなと。

――映像のなかでも、ロボットの職業みたいなものも少し見えるシーンがあったと思います。人間の職業とロボットの職業みたいなところでもあとでお話を聞かせていただければと思います。さて、塚本先生。久しぶりに神山監督と再会されたんじゃないですか。



塚本:そうなんですよ。10年ちょっとぐらい前に雑誌で対談させていただいて。当時からウェアラブルを付けていて、「ヘッドマウントディスプレイとウェアラブルデバイスは近いうちにかならず浸透する」と言っていたんですけど、そのままあまり浸透せずに10年経ってしまったという感じですね。ようやく最近になって、ウェアラブルブームがきて、いよいよ広まる時期かなという気がしてます。

――塚本先生。この義体《ロボット》というテーマで想いなどはありますか。

塚本:これ15年も前の映像なんですよね。まだスマホなんて影も形もない時代で。描かれていた世界を今見ても、わりとそんなもんかなと思うビジョンだったというふうに思うんですね。この義体、義手義足っていうのが、監督もおっしゃっていたように、やっぱり15年前とくらべるとずいぶん進化してきたものの、この絵で描かれているほどには至っていない。技術の加速度的な進化っていうものがありますから、それを考えるとちょうどいい塩梅なのかなという感じがします。

ロボットに関しては、当時は二足歩行がなかなかできないみたいなことを言ってて、そういうロボット技術の開発を日本も盛んにやっていました。それがいつからか当たり前にできるようになって、最近は阪大の石黒先生とかが非常にエンターテインメントの分野でもどんどん披露されていますよね。だいぶ実現してきたという意味で、いい塩梅だという気がします。

それでも、ここで描かれているよりかはまだ不気味の谷がある状態だと思います。それから、人間に似てない動物型のロボットも出てきました。動物型のロボットは急激に運動性能を上げてきてますので。ほんとに生活の中で使われてくるようになる将来がやってくるんじゃないかと感じています。あらためて見てすごいなと思った次第です。

――NICTの井上室長。先ほどの映像をご覧になられてどのようにお感じになられました?



井上:今、日本のベンチャーで、こういった義手や義足を非常に安価につくられているようなメーカーが出てきていまして。デザインがすごいかっこいいんですよね。筋電電動という義手をつくられているメーカーの人とお会いしてお話ししたことがあります。右手か左手か失念しましたが、手がない方が義手をつけてられて展示会で披露したら人だかりなんですね。みんな「かっこいい、かっこいい」って言って。そこに、だんだん攻殻機動隊の世界に現状が追いついてきているなという感じがあるんですよ。

一番左の指がわかれている画像のように、人間のほうに似せていくものと、もう最初からロボットのような手でそれが義手になっていくみたいな方向もあるのかなと思って。

外国のニュースの話ですが、小学生ぐらい手に障害がある子が、図書館にある3Dプリンタを使って自分でデザインした義手をつくって。それがけっこうかっこよく動くんですよね。それをつけて学校に行って、人気者になった。だんだん義手義足が、人間を補助するっていうことよりも、つけてることがかっこよくなっていく時代があるのかなと思います。

ロボットのほうも神山監督がおっしゃられたように、人間にどんどん似せていくというのと、そうではなくて、ある機能に特化して人間よりはるかにいい働きをしてくれてるものがあって。

この前うちのこどもが朝6時ぐらいに誰かとしゃべってたんですよ。ずっと会話をしているんですけど、だれと会話しているかわからないのでよく見みるとiPhoneのSiriとふたりでずっと会話してたんですね。「あなたは誰ですか」「どこから来たんですか」って。こどもは小学生なんですけど、小学生から見ると人間と区別がつかないぐらいのところまできてるんですよね。それは、Siriが身体性というか肉体性を完全に省略した形の音声だけで、裏にビッグデータとつながっていて対話ができるということ。そういう意味では対話の機能として小学生ぐらいならだませるというところまではきているんだと思うんですよ。

――このあとのテーマにも関わってきますが、人間型のロボット、それから人間型である必要のないものというところでいくと、2029年、もしくは2030年のこれから15年後の未来を想像したときに、どういう差、職業でもいいですけど、監督はどんな風に受け止められていますか。

神山:ひとつは、たとえば義手とか、異形のものがかっこいいというような概念は僕が作品をつくっていたときにはなかったんですよね。3Dプリンタが今一気に進化してますけど、自分がデザインした義手をつくってるというのは、僕も聞いていて。ただやっぱり、なるべく人と同じでありたいというか、異形のものを嫌う傾向があったんですが、それをひとつ乗り越えて、自分独自のデザインの義手がかっこいいというのをまわりも受け入れていくっていう。それは、おもしろい現象が起きたなという感じはしますね。想像していなかった部分ですね。

あと、ロボットが機能型と支援型の機能に特化した。二足歩行ってすごく日本がこだわった部分なんですけど、3.11で福島の事故があったあとに、日本はロボット先進国ってことで、いろんなロボットが導入されるんじゃないかという期待感があったなかで、いろんなシチュエーションに全部対応していかなきゃいけないというなかで、ちょっとのアクシデントでうまくいかなくて...。

これ、僕らが攻殻機動隊をつくってたときによく議論したんですけども、すべての人工物は基本的に人間が使うようにつくられてるんですね。そうすると、たとえば階段。平地は大丈夫だけど、階段が出てくるとはロボットは昇れなくなってしまうとか。

階段は昇れるようにはつくったけれども、がれきの石ころが落ちているとそれは認識できるけれど、それで転んでしまってそこから先に行けなくなってしまうとか。なかなか汎用型っていうものがむずかしいんじゃないかなと。

そうすると、すべての人工物が人間用につくられているのであれば、本来は人間の形をしたもののほうがおそらくいいんですよね。でも、なかなか人間とまったく同じ行動、たとえばドアノブを回すというのもむずかしい。そういうところにまだまだ技術的にもぶつかってるんじゃないかなと。そう考えると、まだほんとに夢の世界ではあるんだなと思います。

ただ、義手義足のことでいくと、これは当時描いていたときよりもおもしろいことが起きてきたなとか、リアルになってきたなと思うのは、オリンピックとパラリンピックの関係なんですよね。攻殻機動隊のなかでは、そんなに全部は描けなかったんですけど、パラリンピック選手でバトーが憧れているボクサーが出てくるお話があるんですけど。あの世界のなかではもはやエンターテインメントとしてはオリンピックよりもパラリンピックのほうが人気を博しているという設定なんですね。もはやそれは、義体メーカーのスペックを競うプラス、それを電脳を介しながらさらにうまく動かせるという、F1ドライバーに近いのかな、そんなイメージでとらえていて。

通常のオリンピックよりも記録も伸びるし、ダイナミックだし、そこにさらに義体メーカーだったりとか、それを使っていく経過だったりっていうバックストーリーも出てくるから、おそらくそっちの人気が出るだろうという話を開発当時もしてたんです。

実際、次のオリンピックぐらいからは、もしかしたら義足のランナーのほうが世界記録上回るかもしれないとなったときに果たしてそれを公式の記録として認めるかみたいな議論もやっぱり出てきて、ちょうどそういう過渡期になりつつあるんだと思います。そこは僕ら描いていたことにすごく近づいてきてるんじゃないかなとか、そんな感じはします。

第二回:「人工知能は人間よりも経験値を上げていく速度が速い」神山監督x塚本教授x井上室長が語る攻殻ブレスト
第三回:「SFや科学は明るい未来のために使わなければいけない」神山監督x塚本教授x井上室長が語る攻殻ブレスト

「攻殻機動隊 S.A.C.から15年。世界はどう変わったか?」神山監督x塚本教授x井上室長が公開ブレスト
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