「モバイルPASMO」発表にみる交通系ICのスマホ対応。今後の展望は(鈴木淳也)

2020年春に沿線民待望の「モバイルPASMO」がついにスタート

鈴木淳也 (Junya Suzuki)
鈴木淳也 (Junya Suzuki), @j17sf
2020年01月22日, 午前 09:30 in pasmo
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既報の通り、PASMO協議会は1月21日に交通系ICカード「PASMO」のモバイル版にあたる「モバイルPASMO」の提供を2020年春より開始すると発表した。

ただ報道にもあるように、現時点ではAndroid 6.0以上がプリインストールされたおサイフケータイ対応機種が対象という仕様しか発表されておらず、詳細については3月に入った段階で改めて公表するとしている。まだ不明な点は多いが、周囲の状況から判断してモバイルPASMOがこのタイミングで投入された背景と、今後の展開について少し考察したい。

2020年東京五輪前の参入ラッシュ

2020年夏に開催される東京五輪に合わせ、交通系IC事情が大きく変化している。

特に変化が見込まれるのが2020年3月前後の動きで、例えばビューカード利用以外で発生していたモバイルSuicaの年会費が2月末日時点で廃止となるほか、これまで交通系ICカードは地元の「OKICA」以外利用できなかった沖縄の「ゆいレール」が他の地域の主要交通系ICカード(通称「10カード」)の受け入れを3月から開始したりと(運営会社の沖縄都市モノレールは現時点で公式には開始年月日を公表していない)、一気に利便性が高まる。

このモバイルPASMOの参入もまた、年度末のタイミングでの駆け込みに近い形でのリリースになった。

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▲現時点ではまだ交通系ICカードに「OKICA」しか利用できない「ゆいレール」

「キャッシュレス決済比率を2025年までに40%に引き上げる」ことを目標にする日本政府にとって、交通系ICカードを含むインフラ整備は近年の大きな課題だ。特に2020年は海外からのインバウンド需要が大きく見込めるため、これら訪問客を迎えるための「利便性向上」は重要な柱になる。

2年以上前に「モバイルPASMO導入が難しい理由」をまとめた記事を公開したが、この最後のまとめにあるような「東京五輪に合わせたタイミングで何らかの動きが見込まれる」という流れが実現している。

邪推だが、ゆいレールの件や今回のモバイルPASMO開始の両件について「政府や関係機関のプッシュがあったのではないか?」と想像していたが、この質問をPASMO協議会の現在の広報担当である京王電鉄広報部の担当者に投げてみたところ「PASMO発行枚数はすでに3900万枚を越えており、あくまで多くの顧客の利便性を考えてのもの。このタイミングになったのも、『準備が整ったのがこのタイミング』だから」との回答だった。

以前のレポートにもあったように、モバイルPASMO投入には「技術的」「政治的」の2つのハードルがあった。特に後者について、PASMO協議会では大小さまざまな私鉄の寄り合い所帯という性質上、モバイル対応に向けたシステム投資に「どの会社がどれだけ予算を投じて、かつ各社の合意にこぎ着けるか」というのが課題になる。

モバイル対応は自社開発と、すでにモバイルSuicaを提供しているJR東日本への委託といういくつかのパターンが想定されるが、これについてPASMO協議会経由で株式会社PASMOに問い合わせたところ「予算などの話は回答できない」との理由で断られた。いずれにせよ、最大課題であった政治問題をクリアしてモバイルPASMO投入にこぎ着けたわけで、その点に賞賛を送りたい。

技術的課題をクリアする

ハードルの2つめは「技術的」な課題だ。すでに本誌でも「『モバイルPASMO』はApple Pay対応? モバイルSuicaと共存は?PASMO協議会に聞いた」のタイトルでまとめられているが、おサイフケータイにおける交通系ICカードは共存が難しい仕組みになっており、モバイルSuicaを入れた場合とモバイルPASMOを入れた場合とで互いが排他の関係になる可能性が高い。

現時点ではPASMO協議会の回答も「3月の詳細発表を待ってほしい」とのことで、技術的詳細については語っていない。ただ、技術的にはおそらく共存が難しい可能性が高いため、「モバイルPASMOで定期を登録したい」という私鉄沿線民で、かつこれまではモバイルSuicaを利用していたユーザーの場合、この排他関係には頭を悩ませることになるかもしれない。

また今回はAndroid対応がうたわれて「iPhone対応」についての話がなかった件について、PASMO協議会では「導入するかも含め検討中」という回答にとどめている。

Apple関連サービスでの対応について、過去のさまざまなサービスの対応状況を見る限り、Apple自身が発表、あるいはゴーサインを出したタイミングでない限り「正式サービスインには至らない」というケースが多い。なので、Apple側の対応が完了してサービスインするそのタイミングまで「対応をうたえない」というのが実際だろう。

場合によってはAndroid版とほぼ同タイミングでリリースされる可能性もあり、春の正式発表のタイミングを待ちたい。なお、仕様の関係でApple Payでは複数のSuicaカードを保持できるようになっているため、仮にモバイルPASMOのiPhone対応が行われるのであれば、SuicaとPASMOの共存も容易と予想する。

モバイル対応はPASMO先に広がるか

首都圏以外の沿線民が気にするのはこの点だろう。ただ、PASMOの先はかなり難しいのではないかと考える。

現在Suicaの発行枚数が約7600万枚、PASMOは前述のように3900万枚、そして昨年2019年3月に2000万枚突破を発表したICOCAが続く。各社の交通系ICカード発行枚数を紹介しているサイトがあるが、上位3つに続くのがmanacaの680万枚で、5位以下は400万枚を切っている。

そして最も注目してほしいのがJR東日本の発表しているモバイルSuicaの会員数で、iPhoneユーザー流入によるブーストがあってさえICカード発行枚数の1割未満であり、仮にモバイルPASMOがiPhoneユーザーに広がったとしても400万会員に到達するのはかなり厳しいだろう。ICOCAはそのさらに半分となるわけで、システム投資や維持費などを考えてもモバイル対応は採算割れとなる可能性が高い。

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▲2019年3月時点のSuica発行枚数とモバイルSuica会員数の推移(出典:JR東日本)

むしろPASMOがよくここまで成長したと感心するレベルだが、ICOCA以下の発行枚数の交通系ICカードのモバイル対応は「安価にシステムが用意される」というような隠し球でもない限り、おそらく今後も難しいというのが筆者の予想だ。

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