「狭いエリア」と「中国メーカー」に苦悩が見える携帯3社の5G戦略(佐野正弘)

エリアカバーは端末だけでなくコンテンツにも影響

佐野正弘(Masahiro Sano)
佐野正弘(Masahiro Sano)
2020年03月28日, 午前 10:30 in 5g
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すでに5Gの商用サービスを発表したソフトバンク、NTTドコモに続いて、3月23日にはKDDIがauの5G商用サービス開始を発表。3月25日のNTTドコモを皮切りとして、大手3社の5Gサービスが順次、始まることになりました。

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▲2020年3月23日にはKDDIも5Gの商用サービス開始を発表。3社の5Gサービス内容が全て出揃うこととなった

そこで改めて3社の5Gに関する取り組みを振り返ってみたいのですが、各社の内容を一言で表すと、「エリアが狭いのに5Gらしいことをしなければならない」という苦悩が見て取れる内容だったといえるでしょう。

実際に3社の5Gのエリアを確認してみますと、はっきり言ってしまえば"点"。各社とも多少の違いはあれ、2020年夏以降までに整備を予定しているエリアを公開していますが、半年近く経過しても面的なカバーはほとんど進まず、スポット的なカバーにとどまっている印象。「狭い」と言われてきた楽天モバイルの4Gのエリアよりもはるかに狭い状況が、当面続くことになりそうです。

sano_ketai5g_bunseki▲KDDIのauサービスエリアマップより。5Gの対応エリアは丸い点で記されているが、2020年夏対応以降のエリア(黄色い丸)を含めてもスポット的なカバーにとどまることが分かる

その理由は、やはり4Gより遠くに飛びにくい周波帯を用いる必要があるためで、少なくとも2020年中は広い範囲で5Gが利用できる可能性は低いと見られています。

ソフトバンクは2021年末に人口カバー率90%を達成、NTTドコモとKDDIは2022年度末に2万局の基地局を設置し、その頃には4Gに匹敵するエリアをカバーできるとしていることから、5Gが今の4Gと同じ感覚で利用できるには1〜2年待つ必要があるようです。

sano_ketai5g_bunseki▲NTTドコモは2022年3月末までに、5Gの基地局を2万局整備するとしており、全国の広いエリアで5Gが利用できるのはその頃になると見られている

しかしどんなにエリアが狭いとはいえ、5Gのサービスを開始したと言っている以上、5Gに関する取り組みは進めなければならず、その苦悩が見えてくるのがサービスです。

3社とも5Gのサービス開始に合わせて、5Gらしい新技術を活用したコンテンツやサービスの提供に力を入れています。例えばソフトバンクは「5G LAB」というサービスを提供し、XR技術などを活用した映像のライブ配信や、クラウドゲーミングサービスの配信を実施するとしています。

またNTTドコモも、「ひかりTV for docomo」や「dアニメストア」などで多視点映像を活用したコンテンツの配信を実施したり、「dゲーム」でコンシューマー機向けゲームをクラウドゲームとして提供したりするなどの取り組みを打ち出しています。

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▲ソフトバンクは5G時代の新しいコンテンツサービスとして「5G LAB」を提供。VRやAR、多視点映像などを活用したライブ配信などのサービスを提供するとしている

ですがこれらのサービスは、もちろん5Gの高速大容量通信があれば利用は快適になるでしょうが、4Gだからといって、できないサービスという訳ではありません。

一方で5Gの性能をフルに生かしたコンテンツやサービスを提供したとしても、利用できるエリアが大幅に限定されている現状では、ほとんどの人が利用できないものになってしまうのも事実です。

そうした現状を割り切って5Gを活用しようとしているのがKDDIです。同社も5Gのサービス提供に向けてさまざまなサービスを打ち出していますが、「Netflix」だけでなく「Apple Music」「YouTube Premium」をセットにした料金プランを用意するなど、スマートフォン上ではあくまで、既存のサービスを使ってもらうことを重視している印象です。

一方、同社が力を入れているのが5Gを活用したイベントの実施です。アニメ作品「攻殻機動隊SAC_2045」と5G、XR等の技術をコラボレートしたイベントを東京・渋谷で実施したり、2020年7月に開業する「Zepp Haneda (TOKYO)」に5Gの基地局を設置し、ライブ会場だけでなくライブビューイング会場での体験をよりリッチなものにする取り組みを実施したりするなど、5Gのある場所に来てもらうことで、5Gをフル活用した新しい体験を提供しようとしている様子がうかがえます。

sano_ketai5g_bunseki▲KDDIは5Gのエリアが当面非常に狭いことを意識してか、5Gのある場所に来てもらうことで、5Gを生かしたサービスを体験してもらうイベントを重視。東京・渋谷では「攻殻機動隊SAC_2045」と5Gなどの新しい技術をコラボレートしたイベントが実施される予定だ

もう1つ、料金プランに関しても、各社のエリアからくる苦悩を見て取ることができます。それはアンリミテッド、つまりデータ通信の使い放題に関する対応です。

3社は以前より、5Gでアンリミテッドな料金プランを検討しているとしていましたが、実際各社が打ち出した主力の5G大容量プランは、アンリミテッドへの対応に差があったのも事実です。

比較的前向きだったのはNTTドコモとKDDIで、前者は大容量プラン「5Gギガホ」の通信量を当面無制限にするキャンペーンを実施、後者は「データMAX 5G」など3つの大容量プランで、スマートフォン上でのデータ通信を無制限にするとしています。

sano_ketai5g_bunseki▲NTTドコモは通信量100GBが上限の「5Gギガホ」を、キャンペーンによって当面アンリミテッドで提供する施策を展開

一方、ソフトバンクの5G料金プランは、既存の4Gの料金プランに1000円上乗せすることで5Gが利用できる仕組みを採用。現在主力と位置付けている「メリハリプラン」は、新たに提供する「5G LAB」など一部サービス利用時の通信量はカウントしないものの、それ以外のサービスを利用する際はデータ通信量上限が50GBとなり、アンリミテッドではありません。

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▲ソフトバンクは4Gの料金プランに1000円をプラスして5Gが利用できる仕組みなので、サービス内容は「メリハリプラン」など既存のプランと同等になる

ソフトバンクとそれ以外とでアンリミテッドへの対応に差が出た理由は、インフラ整備の方針の違いにあるといえます。

ソフトバンクは4Gの周波数帯を5Gと共用する技術を採用することで、大容量通信には強くないものの低コストでスピーディーに全国をカバーすることを重視したのに対し、他の2社は5G向けの周波数帯を使った基地局を多数設置してエリアカバーを進める方針で、整備には時間がかかるものの大容量通信に強く、アンリミテッドな利用でも耐えられるネットワークにすることを重視しているわけです。

とはいえ5Gのエリアは、少なくとも1年間は非常に狭い状況が続くため、ほぼすべてのトラフィックは4G上で発生することになるのも事実です。

それゆえNTTドコモはあくまでキャンペーンでの対応ですし、KDDIはテザリングなど、スマートフォン以外での通信に制限をかけており、やはり何らかの"逃げ道"を用意しなければアンリミテッドは実現できないという苦しさを見て取ることができるでしょう。

一方、スマートフォンに関しては別の悩みを見て取ることができます。改めて3社の5G端末ラインアップを振り返りますと、NTTドコモは従来通り日本や韓国のメーカー製端末を採用した順当なラインアップでしたが、KDDIとソフトバンクはZTE、オッポ、シャオミといった中国メーカーを積極的に採用し、ラインアップの約半数が中国メーカー製となっていることが分かります。

sano_ketai5g_bunseki▲ソフトバンクの5Gスマートフォンラインアップは、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1 II」がなかった一方、従来あまり見られなかった中国メーカーの2機種が並んでいたことが驚きをもたらしていた

なぜ中国メーカーの採用が増えたのかといえば、安価な5Gスマートフォンを提供するためでしょう。2019年10月の電気通信事業法改正によってスマートフォンの値引き販売には大幅な制約がかけられていることから、従来のように高額なハイエンドモデルを値引いて激安価格で販売できなくなっており、5Gを普及させるためには最初から価格の安いスマートフォンを用意する必要が出てきたのです。

ですが価格競争が激しくなり赤字に苦しむスマートフォンメーカーも増えている現状、そうした安価なスマートフォンを積極的に提供してくれるのは中国の大手メーカーくらい。なので安価な端末のラインアップを増やすには中国メーカーを積極的に取り込む必要があると、2社は判断したのではないでしょうか。

sano_ketai5g_bunseki▲5Gで初めて携帯3社向けの端末供給を実現したオッポ。スマートフォン出荷台数シェア世界4位のスケールメリットを生かし、フラッグシップモデルの「Find X2 Pro」も他のハイエンドモデルより安価に提供されるという

ですが携帯電話大手にとって、中国メーカーの採用にはいくつかリスクがあるのも事実です。1つは、日本で実績のある中国メーカーが少ないこと。

ZTEは携帯3社に端末を提供した実績がありますが、オッポとシャオミは今回が初ですし、シャオミに至っては2019年末に日本市場へ参入したばかりで、最近も楽天市場に出店した公式ショップでトラブルが相次ぎ一時閉鎖となるなど、日本市場で十分に実績を築けていない様子がうかがえます。

そしてもう1つは米中摩擦によるカントリーリスクです。携帯3社もこれまで、ZTE、そしてファーウェイ・テクノロジーズが相次いで米国から制裁を受け、製品の販売やサポートに大きな影響が出るなど苦い経験をしています。

ZTEはすでに制裁が解除されていますし、通信設備を手掛けていないオッポやシャオミは制裁を受ける可能性が低いのですが、それでも両国の情勢変化によって何が起きるか分からないというのも確かです。

sano_ketai5g_bunseki▲KDDIから販売されるZTE製の5Gスマートフォン「a1」。ZTEは制裁前まで日本でも携帯3社への供給拡大を進めていたが、2018年に米国から制裁を受けたことで、携帯各社は同社製端末のサポート対応などに大きな影響が出た(現在は制裁解除済み)

NTTドコモはそうしたリスクを嫌って中国メーカーを採用せず、低価格を求める人には当面、4Gスマートフォンの新機種を提供するという判断を下したといえそうです。こうしたラインアップの違いが消費者の評価にどうつながるのかも、5Gの動向を見据える上で注目される所ではないでしょうか。

 

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