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矢野りんが春日井良隆に訊く!
タブレットがデザイナーに拓く未来
――Windows 8の新ユーザー・インタフェースは
“コト作り”を加速するか?

【前編】ヒントは日本の交通機関のサイン・システム。ユーザーを迷わず“コト”の世界に誘うために


 

By AOL編集部

→関連記事:adamrocker x 矢野りんに訊く! タブレット・アプリ開発の現在、そして未来――Windows 8の登場でタブレットの世界はどう変わるのか?【前編】【後編】

→インタビュー後編はこちら

間もなくリリースされるWindows 8の大きな特徴は、タッチに最適化されたユーザー・インタフェース(UI)を新たに搭載し、これまでのマウスとキーボードで操作するUI(マイクロソフトではデスクトップと呼んでいる)とWindowsキーを押すだけで切り替えて使える点です。「ユーザーにとっての使いやすさ」を何よりも重視して、マイクロソフトはUIだけでなく、ユーザー・エクスペリエンス(UX)のあり方にまで大きく踏み込んだ枠組みを作り上げました。そのコンセプトや、Windows 8がアプリのデザインにもたらす可能性について、Android用の日本語入力アプリとして多くのファンを持つ「Simeji」のUIデザイナー 矢野りんさんが、マイクロソフトのUXエバンジェリスト 春日井良隆氏に切り込みます!
 

コンピュータ・デバイスのUIは、“タッチ“にシフトする

矢野:そもそもの点からお伺いしたいのですが、Windows 8には、なぜデスクトップ用とタブレット用という2種類のUIが用意されているのでしょうか?

春日井:「コンピュータ・デバイスは、いずれタッチ・インタフェースにシフトしていくだろう」という発想が、Windows 8の出発点になっています。タッチという、マウスやキーボードを使うのとは異なる操作に対し、Windows OSとしてどのようなUXを提供すべきか? それを追求して誕生したのが、このタッチに最適化された新しいWindows 8のUIなんです。

タッチに最適化されたWindows 8のUI


 ただし現状、日本国内だけでも7,000万台以上のPCが使われていると言われていますが、それらの大半はマウスとキーボードで操作するように設計されています。これらのOSがタッチのみのUIになってしまったのでは混乱が生じます。それに過去の資産(Windows 7やWindows XPで動作しているアプリやサービス)との互換性を保つことも大切です。さらに例えばデザインやプログラミング、Excelなどを使った数値や文字入力が中心の作業には、マウスとキーボードが向いていると言えるでしょう。

 そうした判断もあり、Windows 8は2つのUIを搭載することになりました。今は一種の過渡期だと言えます。Windows 8では、これら2つのUIを状況に応じて切り替えて使うという利用スタイルを提案しています。

矢野:Windows 8では、アプリをまたいだ一貫した操作性がOSの側から提供されます。これは、ほかのOSにはない発想だと思います。例えば、Androidはアプリ間の連携を重視して作られていて、インテントなどによって他人が作ったアプリと処理をやり取りする設計も許容されます。それとはまた違ったアプローチですよね。

春日井:そうした観点からWindows 8を特徴付ける機能の1つに、画面右側から引き出して使う「チャーム」があります。これは、ユーザーの操作パターンをカテゴライズして集約したもので、チャームに並んだ「検索」、「共有」、「デバイス」、「設定」は、「コントラクト」と呼ばれるアプリとアプリ、アプリとOSをつなぐ機能を介して、各アプリから共通して利用することができます。どのアプリでも頻繁に使われるこれらの機能は、OS側から提供して使い方を共通化したほうが、ユーザーが操作に迷わないだろうという配慮からです。

右端に表示されている縦長のバーがチャームと呼ばれるUI。この画面ではYouTubeの動画を「共有」で共有しようとしている。

なぜグリッド・システムなのか?

――Windows 8のUIをデザイナーの観点から見てどう思われますか?

矢野:率直に言って、表現の幅は少ないですよね。もの凄くストイックだし(笑) 例えば、アイコン1つとっても、完全にピクトグラムで作れって言うわけです。ピクトグラムって、ほかと差別化するのが難しいじゃないですか。どうしてくれるんだと(笑)

春日井:我々はそれを「インフォグラフィックス」という言葉で表現していますが、確かにそこはデザイナーさんの力量が問われるところだと思います。そうした制約の中でどう差別化していくかが課題になりますね。

――Windows 8がUI設計のベースに据えている「グリッド・システム」というアプローチは、エディトリアル・デザインの世界で生まれたものですよね。それをなぜ、タブレットのUI設計に採用したのでしょうか?

春日井:個別に開発されるアプリのUIに一定の統一感を持たせるためです。OSのUIとアプリのUIにも統一感を持たせたいという目的もあります。

 個々のアプリのUIがまったく異なる場合、ユーザーはアプリを切り替える度に、どう操作したらよいか迷ってしまう可能性があります。そこで、グリッドをベースにしたレイアウトを規定すれば、アプリの操作体系が共通化されて、迷わずに操作できるようになるだろうと考えたわけです。Windows 8ではグリッド・システムをベースにしたUI設計を含め、UXに関する「ガイドライン」を設けています。

MSDNデベロッパーセンターで公開されているUXガイドライン

 ただし、ここ数カ月間、いろいろな方とお話しする中で、このガイドラインの規約について皆さんに少し厳しく伝えすぎたかなと反省しています。と言うのも最近、「Windows 8では、こういうことは許されないんでしょ?」とか、「こんなことしたら、アプリの審査を通らないでしょ?」と尋ねられるケースが多いんです。

 なぜガイドラインがあるのかというと、一定の指標を示すためです。「ただの原っぱではどう遊んでいいか分かりづらいので、グランドとして整地して、白線を引いた」という感じでしょうか。白線を利用して、ドッジボールをしてもいいし、50m走をしてもいい。組体操をしたって構いません。グランドに穴を掘られては困りますが(笑)

ガイドラインを踏襲しつつ、独自の工夫を加えたアプリも登場

矢野:ガイドラインである程度の制約をかけるというアプローチをとった背景には、反面教師としてAndroidがあるんですか?

春日井:反面教師にしているのは、かつてマイクロソフト自身が提案したタブレットPCでしょう。残念ながら、これは広く普及するまでには至らなかったため、「なぜうまくいかなかったのか」を考えるところからスタートしたのだと思います。逆に、AndroidやiOSは“先生”だと思います。

矢野:なるほど、AndroidやiOSの良い面を取り入れて、改善すべきところは改善しようということですね。

春日井:その通りです。ガイドラインの話に戻ると、自己主張の強い方が多い欧米では、ガイドラインを尊重しつつも、自分なりに解釈した独自のUIを持つアプリがチラホラと現れ始めています。

 例えば、「Cocktail Flow」というアプリの場合、グリッド・システムでレイアウトされていますが、単純に四角いタイルを並べるというパターンではなく、画面フローにも独自の工夫を凝らしています。これなどは、ガイドラインを踏襲しつつも、アプリの作者が「カクテルをおいしそうに、わかりやすく見せるにはどうしたらよいか」を熟慮して練り上げたインタフェースの好例です。

英国Distinctionが開発した「Cocktail Flow」は、さまざまなカクテルを流麗なビジュアルで紹介してくれる Windows 8アプリ。ダウンロードはコチラから

矢野:なるほど、こんなアプリもあるんですね。グリッド・システムを使っていても、“抜き”の表現を効果的に使えば、単にタイルを並べただけのようにはならず、バランスも良く見せられるという成功例ですね。考えてみれば、ホワイト・スペースも、グリッド・システムによるデザインでは重要な要素ですものね。

日本の交通機関の優れたサイン・システムに触発されて

矢野:Windows 8のガイドラインなどはマイクロソフトの社内で作っているんですか?

春日井:はい、社内のデザイン部門が作っています。Windows 8の新しいUIは長い歳月をかけて練り上げたと聞いています。

矢野:スマートフォンが出てきたとき、Z軸を使うUIが一時流行ったじゃないですか。でも、UIにZ軸を使うと、一体どこからどこまでの範囲が有効なのかを把握するのが難しく、逆に使いづらいんですよね。

春日井:そもそもディスプレイは平面ですしね。立体視が一般化してくれば別かもしれませんが、現時点では平面が主流なので、無理に表現力を上げるため立体的にする必要はないと思います。


 

 ちなみに、このUIは「Metro」というコードネームで呼ばれていましたが、このコードネームはずばり地下鉄、それも日本の地下鉄から来ているんです。デザイン部門の者が本社から日本に出張で来るとき、彼らは飛行機で成田空港に着いて、そこから電車やリムジンバスで都内、当時の新宿オフィスまで来るわけですけど、日本語を読めない、話せないのに、成田空港から新宿まで迷わずに来ることができる。

 「これはなぜだろう」と思案したときに、縦横無尽に走る地下鉄をはじめとする日本の交通機関の案内表示、つまりサイン システムがとても良くできていることに気づきました。優れたサイン・システムのおかげで、目的地まで迷わずに最短距離でたどり着ける。そして、この導線に対する考え方は、PCでも同じだと考えたわけです。ユーザーは、PCを操作したいわけではなくて、PCというデバイスを通じて享受できるコンテンツやサービスを使いたい。それならば、「そのコンテンツに向かって、いかに迷わずにユーザーを案内していくか」というところからスタートし、それをタッチ・デバイスのUIに落とし込んでいったそうです。Windows 8が装飾性を排したインフォグラフィックスを多用しているのも、サイン・システムに触発されているからです。

Windows 8の日本語環境は?

矢野:そんな由来があったんですか。交通機関など、公共機関のサイン システムではテキストも重要ですが、フォントなど文字に関しては何か工夫がありますか?

春日井:欧文については、「Segoe(シーゴ) UI」というフォントが標準です。Helvetica やTahoma、Arialなどのサンセリフ書体を参考に、親しみやすさと読みやすさを追求してデザインされたそうです。例えば、Helveticaの大文字はどれも同じ幅ですが、Segoe UIではEやSを狭くするなどして視認性を高めています。ウェイトは5種類ですね。

 実は最近、マイクロソフトは25年振りに会社のロゴを新しくしたのですが、そこでもSegoeを使っているんですよ。

矢野:日本人としては、日本語フォントが気になるのですが。

春日井:日本語については、「Meiryo UI」というフォントを標準で用意しています。これはOffice 2007で搭載されたリボンUIのために設計されたもので、狭いところにレイアウトしてもきちんと読めるようにデザインされています。

 ただし、Meiryo UIは現状、ウェイトがレギュラーとボールドの2種類しかありませんし、フォントデザインそのものもSegoeとはやや異なるため、個人的には満足していません。この辺りは今後に向けて改善を図っていきたいと思っています。UIの中で、フォントはとても大切な要素ですから。

矢野:日本語フォントは差別化のポイントになると思います。Androidが残念な点は日本語フォントに統一感がないところなので...

春日井:その点について、Windows 8は皆さんに安心して使っていただけるかたちでお届けできると思いますよ。

矢野:私がWindows 8のUIを見てびっくりしたことの1つは、IMEなんですよ。

春日井:Simejiの開発者としては気になるところですよね(笑)

矢野:普通はソフト・キーボードの上に変換候補が出てくると思うのですが、Windows 8のIMEでは入力位置の横に変換候補がどんどん出てきますよね。これは相当自信があるからやっていることだと思うのですが。相当な予測精度がないと、少ない候補で済ませるのは難しいですよね。


同じIMEでもハードウェアのキーボードとソフトキーボードでは変換候補の出現の仕方が異なる。

 

春日井:IMEは、調布にある開発部門、マイクロソフト ディベロップメントで開発しています。同じIMEでも、変換候補の出し方がソフト・キーボードとハードウェアのキーボードで打つときでは異なります。また、ソフト・キーボードではタッチされたときのキー、例えば、日本語ではSの後に母音が来ることが多いので、Sの隣に候補表示されるAはややS寄りの位置でタップしてもAとして認識するように調整しているのだそうです。

 そう言えば、この間学生さんと話していて、タブレット用のOSには、いわゆるフリック入力の機能を付けてほしいと言われたんですよ。皆さん、すでにスマートフォンでフリック入力に馴染まれているようで、通常のレイアウトのソフト・キーボードでは打ちづらいのだそうです。フリック入力の練習を1週間続けて習得を断念した者としては、ジェネレーション・ギャップを感じました(笑)

矢野:フリック入力なら、片手でできる可能性もありますしね。実は、片手でできる面白いキー・レイアウトのIMEをWindows 8用に作りたいと思って調べたのですが、サードパーティはキー・レイアウトを変えられないんですよね、残念!

春日井:おっしゃるとおり、現在のところ、その部分は変更できない仕様になっています。ただし、いずれ変更可能になるかもしれません。そうしたご要望がありましたら、ぜひおっしゃってください!

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→関連記事:adamrocker x 矢野りんに訊く! タブレット・アプリ開発の現在、そして未来――Windows 8の登場でタブレットの世界はどう変わるのか?【前編】【後編】


 
提供
日本マイクロソフト株式会社
掲載期間
2012年9月18日〜2012年12月16日

 

開発者のためのクリニック

 


 
春日井良隆(かすがい よしたか)
日本マイクロソフト株式会社
UXエバンジェリスト
岐阜大学を卒業後、大沢商会を経て、アドビ システムズに入社。ビデオ編集ツールのマーケティング一筋の10年を過ごす。2007年1月、Expressionのプロダクトマネージャーとして、マイクロソフトに入社。その後、Silverlightのプロダクトマネージャーを兼務し、両製品のマーケティングを統括する。2009年7月、エバンジェリスト部門に異動。担当するのはWindows 8、IE10、HTML5、ユーザーエクスペリエンス (UX) そのもの。

 
矢野りん(やの りん)
バイドゥ株式会社モバイルプロダクト事業部
マネージャー。フリーランスのデザイナーとして、メーカのWebコンテンツなどデザイン経験多数。2011年12月よりバイドゥ株式会社入社。自社プロダクトのSimejiやBaiduIMEのUX/UIのデザインやプロモーション企画・デザイン担当。Android女子部を主催するなど、国内におけるAndroid普及に努めている。Simeji(シメジ)を中心とするサービスの開発に関わる一方、講演や、書籍の執筆も行っている。
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