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『メカ・サムライ・エンパイア』書評。枢軸勝利のIF世界を描く人気ロボットSF続編

主に日本人にウケてます

Ittousai, @Ittousai_ej
2018年4月20日, 午後09:30 in Book
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ハヤカワが米国人作家ピーター・トライアスのSF小説『メカ・サムライ・エンパイア』を発売しました。

『メカ・サムライ・エンパイア』は、大日本帝国が核兵器と巨大ロボットで米国本土を蹂躙し、ナチスドイツとともに第二次世界大戦を制した世界を描く改変歴史ものSF『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続編。

映画パシフィック・リムを思わせる表紙に違わず、今作では、日本合衆国の巨大軍用ロボットと、ナチスドイツの半生体兵器「バイオメカ」が激突するバトルを存分に描きます。


日本統治下のアメリカ西海岸を舞台にした前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(USJ)は、ほぼ無名だった米国人作家ピーター・トライアスの国内デビュー作。

「21世紀版『高い城の男』」の売り文句からか、インパクトのある題名とカバー絵からの期待もあってか、国内ではスマッシュヒットとなった作品です。2016年の星雲賞海外長編小説部門・本屋大賞翻訳小説部門2位などを受賞しました。

巨大ロボット「メカ」が表紙を飾り、装丁と題名からはいかにも日本人好みの「勘違い日本」+「架空戦史」+「ロボットアニメ」といった安心エンタメを予想させます。

しかしページをめくれば、日本合衆国は狂信的なアメリカ人抗日組織のテロや東海岸を支配するナチスドイツとの冷戦を抱え、兵器開発のため異常発達した生体工学がグロテスクな怪物を生み、特高警察が疑わしきは逮捕拷問する恐ろしいディストピア。

主人公の石村紅功大尉は英雄でもなければパイロットですらなく、コンピューターゲームの検閲を担当する中年士官。怠惰な享楽主義者を気どりつつ、複雑な生い立ちから葛藤を抱える......といった調子でした。プロットは

第二次世界大戦で日独の枢軸側が勝利し、アメリカ西海岸は日本の統治下にある世界。

巨大ロボット兵器「メカ」が闊歩するこの日本合衆国で、情報統制を担当する帝国陸軍検閲局勤務の石村紅功大尉は、特別高等警察の槻野昭子の訪問を受ける。

槻野は石村のかつての上官、六浦賀将軍を捜しているという。将軍は軍の高名な軍事シミュレーション・ゲーム開発者だったが、先の大戦で日独が負けた改変歴史世界を舞台とするゲーム〈USA〉を開発し、アメリカ人抵抗組織〈ジョージ・ワシントン団〉に協力しているのだという。石村は槻野とともに六浦賀将軍の行方を探ることになるが——



作者本人が意図したという、太平洋側つまり日本に焦点をあてた私家版『高い城の男』として読めば、次から次へと悪趣味なガジェットが投入される異形の世界描写を手がかりに「どうしてこうなった??」を想像させるオフビートな改変歴史物です。

極端なキャラクター描写やユーモアで楽しませつつ、裏返しになった米国と日本の関係から描かれる植民地支配と文化、帰属と孤独とアイデンティティ、ほとんど滑稽ですらある陰謀とパラノイア、世の残酷と理不尽に翻弄される人間性といった主題を描きます。

作者トライアスは「日本合衆国」たる西海岸在住で、作中では帝国陸軍の士官学校となっているカリフォルニア大学バークレー校出身の30代。つまり「米国人から見た大日本帝国」であると同時に、米国人が地元を舞台に「もうひとつのアメリカ」を書いた作品でもあります。

USJ世界ではプロパガンダや教練のためビデオゲームも軍が掌握検閲しており、主人公はボンクラを装いつつ実は有能なハッカーにしてゲーマーという設定ですが、この辺りはルーカスアーツ、ソニー・ピクチャーズなどコンピューターゲーム業界や映画業界でアーティスト兼エンジニアとしてキャリアを重ねてきた作者の経験が、改変歴史のレンズごしにそのまま活かされています。

現代のスマホを凌ぐ高性能な「電卓」(PortiCal)やネットワーク「機界」、神経直結インターフェースが普及し、ナチに至っては地球環境を激変させ月面植民地を建設しつつあるらしい「1980年代」のテクノロジー描写も気になるポイントの一つ。

また作者が偏愛するコンピューターゲームを筆頭に散りばめられたギーク文化リファレンスも、ただの趣味開陳(だけ)でもなく、身近なようで違和感ある別世界の演出です。

(例えばヒロインは八紘一宇の理想を信じ、純血の日本人でないが故に誰よりも皇国と陛下に尽そうと常に前のめりの特高警察エージェント。任務のためなら拷問も殺人も厭わず、冷戦期スパイ映画の悪役KGB局員ですらドン引きの残虐ガジェットを振り回すモンスターとして登場します)。

現実とどこかでつながる異世界に読者を引き込み、ほとんど思いつきのように次々と提示される奇怪なビジョンで惑わせ笑わせ、読後にはひととき読者の現実を新鮮な視点から見せてくれるという意味で、正しくSF小説の楽しみがある良作でした。



一方で。こちらの表紙とタイトルに惹かれて、日本のSF好きやミリタリー好きが慣れ親しんだ緻密な架空戦史や、日本人が安心して笑い飛ばせる愉快な「勘違い日本観」、ディテールに凝った爽快ロボットアクションを期待すると話は別。

戦史部分の分岐は劇中では部分的に触れられるのみ、日本合衆国は目を背けたくなるグロテスクで抑圧的な世界で、何よりロボット戦闘描写がちょっとしかないという、期待マネジメント注意案件でもありました。ここまでは前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の話です。

今度は青春学園(?)ロボット乗り成長譚


前作のスマッシュヒットから日本での出版が先に決まり、日本先行発売となった今作『メカ・サムライ・エンパイア』では、タイトルのとおり「メカ」の描写が大幅に増加しています。

時代は1990年代に進み、主人公も世を拗ねた小太り中年美食家の石村大尉から、メカパイロットに憧れ士官学校の機甲科合格を目指す若者 不二本誠(通称マック)になりました。

(由来はおそらく、謝辞で影響を受けた作品として挙がるボクシングゲーム「パンチアウト!!」の主人公リトル・マックから)。

主人公マックを囲むのは、日独ハーフの留学生グリゼルダ、主人公同様に落ちこぼれ組の悪友 菊池秀記、「ですわ・ますの」口調の完璧優等生お嬢様 橘範子など。特高課員の昭子や、天才的なメカ操縦技能を持つ問題児 久地樂(クジラ)ほか、前作とつながりのある人物も登場します。

今回はメカ戦メインといって偽りはありませんが、主人公はパイロット候補生を目指す学生なので模擬戦が大半。ライバルとの試合や特訓での成長など、要するに青春学園(士官学校)もので、シミュレータゲームの腕だけが取り柄の若者が仲間と事件に遭遇し成長してゆくお話です。

肝心のメカ戦の描写は、この世界のわれわれが「リアル」と感じる兵器戦闘や、メカのルーツとされる戦車戦よりも、むしろ格闘や剣闘、スポーツに近い感覚。ひたすら「リアル」な戦争映画風の描写を期待すると肩透かしになります。

メカは戦車から進化したという設定だけあって、巨大なブリッジには操縦手・装填手・通信士・ナビゲーター・機関士など複数人が搭乗して動かす一方、インターフェースは現実の2010年代を遥かに超えた未来技術。

全高50メートルや100メートルに近い巨人が、生身の人間どうしの格闘技をそのまま反映して縦横無尽に高速機動できる世界です。



ネタバレなしに今回のお楽しみを並べれば、前作ではほとんど描かれなかったあの世界のドイツ、第三帝国健在のナチスドイツがいよいよ動き始めます。

エンタメの世界のナチスドイツといえば、心置きなく悪役にしても怒られないだけあって、何かと荒唐無稽な集団に描かれるのが定番ですが、メカ・サムライ・エンパイアでも「ぼくの考えたさいきょうのナチスドイツ」設定は全開。

大日本帝国と対等以上の超科学力を誇り、「バイオメカ」は生きて波打つ漆黒の流体装甲を纏い大量の昆虫型ドローンを飛ばして攻撃するトンデモぶりです。「壁の向こう」のドイツ領アメリカでは何やら恐ろしいことが進行しており、地中海は埋め立てられ環境激変、月まで植民化しているらしいことが断片的に語られます。


奇怪な日本植民地文化のビジョンは今作でも健在。ただこの世界ではドイツがモスクワ攻略に成功し、日本もユーラシア大陸を確保してから米国を陥落させ数十年が経過した完全な別世界なので、占領政策そのものも史実の大日本帝国とは違い、現地の文化をある程度は取り入れ融合していることになっています。

(キリスト教の神は皇国の国家神道に習合されイエスは神職だったとされる一方、追い詰められたアメリカ人の抗日組織ではキリストがアメリカを救うべく再臨したと主張し、神の復讐を説いている)。

このため日本合衆国は、核攻撃で焦土にならなかった部分の米国西海岸文化+かつての日本っぽい何か+世界各地の日本植民地文化からなるキメラ状態。改変歴史の大日本帝国というフィルタを通して、人種と文化の坩堝と言われ、文化を世界に輸出する現実の米国を描いているともいえます。

現代日本の感覚からすると、そもそも別の歴史を経て久しい別世界であることを忘れて思わず「それはねーわ!」とつっこみたくなるところは無数にあり、それがこのシリーズの楽しみでもあります。

しかし「何年経とうがこんな日本はありえない」とは、われわれよりもむしろ史実の大日本帝国臣民が、現在の日本国を見て発する台詞かもしれないな、といったことまで想像させる作品です。


なお本書は紙先行で、電子書籍版はストアにより4月末前後からリリース予定とのこと。


ここからほぼ無関係なおまけ。古典ゲームに造詣が深く、創作上の影響を受けた作品としてセガ『ファンタシースター』やテクノソフト『ヘルツォーク・ツヴァイ』を挙げる作者トライアス先生に訊いてみました。

Engadget: ニンテンドースイッチでセガの復刻企画 SEGA AGES が発表されましたが、第一弾には先生がベストRPGに挙げるファンタシースターの第1作が入ってました。今後これをぜひ出すべきというタイトルはありますか? セガが権利を取得した関係で、『ヘルツォーク・ツヴァイ』もありうるかもしれません。

トライアス: 『ヘルツォーク・ツヴァイ』は絶対!『ガンスターヒーローズ』『ロケットナイトアドベンチャーズ』(コナミ, 1993年)も。『Street of Rage 2 (ベアナックルII 死闘への鎮魂歌)』。あとは、言うまでもないけれど『ファンタシースターII』と『IV』も。

あまり人気がないのは承知の上で個人的に好きなのは『Sword of Vermilion (ヴァーミリオン)』。あとは『スーパーハイドライド』も不思議な魅力がありますね。イライラするけれど。

Engadget: ハイドライド!!そうそうそう!あれ立体にしただけの出オチ担当みたいな扱い受けてるけど、すごい野心的で実験的な作品ですよね自動生成とかローグライク化とか!(急に早口になる)特に高難度だとマップやコンパスすらないから自分がまっすぐ進んでるかも分からない状態を創意工夫で......

トライアス: (......?)

Engadget: あっ。スーパーの方か。ハイドライド3をメガドライブに移植した方の。サターンの『ヴァーチャルハイドライド』かと。取り乱しました失礼。ハイドライド3は日本では評価されてますよ。金字塔的なシリーズの三部作完結編として。

トライアス: え、そちらでは古典扱いなんですか?それは嬉しいな。音楽も良かったし。ヴァーチャルの方は、ずっとやってみたいと思いつつなかなか機会がなくて。あまり知られていない高難度ゲームというのはどこか特別な魅力がありますね。

Engadget: しかしSEGA AGES、ゲイングランドなり、ヘルツォーク・ツヴァイをスイッチで初めて遊ぶという人から感想を訊くの待ち遠しいですね。

トライアス: まったく。ヘルツォークは本当に凄い。バランスも良いし、マルチは楽しいし。マルチといえば、シャイニングフォースのマルチプレーヤーずっと欲しいなと思ってたんですよね。

Engadget: SEGA AGESは忠実に移植したうえで独自要素もということなので、マルチがなかったレトロゲーに後付けでマルチにするとかは面白いですね。ターン制リアルタイムはしんどいとして、パーティーのデータを戦わせる系とか......。ヘルツォーク、もし出たら勝負しましょう。配信で。どうもありがとうございました!

(本書の内容や作者について、日本からの反響について、気になる映像化やゲーム化の可能性など、USJ / MSE 関連のインタビューはまた後日お伝えします。)
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