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「iPhoneのNFC開放」を考察する。WWDC 2018で発表と噂:モバイル決済最前線

秋にリリースされるiOS 12でApple Payはどこまで飛躍できるか

鈴木淳也 (Junya Suzuki), @@j17sf
2018年6月1日, 午後02:30 in apple
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The Informationの5月25日(米国時間)の報道によれば、Appleは現在iPhoneに内蔵されているNFC通信の仕組みをさらに開放して決済以外のサービス、より具体的には公共交通機関の乗車チケットやホテルの"鍵"などを利用可能にする計画だという。

同社はiOS 11.3以降のバージョンですでに中国の北京と上海の都市交通への乗車が可能なベータ版のサービスを公開しているほか、日本ではSuicaを通じて交通サービスや物販利用が可能となっている。今回の報道は、この仕組みをさらに世界中の広範囲なサービスに展開していくことが目的だとみられる。

6月4日(米国時間)には米カリフォルニア州サンノゼでAppleの開発者会議「WWDC18」が開催されるが、早ければこのタイミングでNFC開放に関する何らかの発表が行われるとみられている。今回はiPhoneとNFC、そして海外の交通サービス事情について、事前に少しだけ情報を整理しておく。


NFCの一部機能しか実装されていないiPhoneの"NFC"

2014年にApple Payがデビューしたとき、iPhone 6に初めて搭載されたNFCのアンテナは決済専用だった。Apple Payに対応するクレジットカードまたはデビットカードを登録すると銀行(イシュア)からバーチャルカードが発行され、これを使って店頭またはオンラインでの決済に使える。

店頭ではEMV Contactlessと呼ばれる非接触方式の通信で国際ブランドのカード決済ネットワークを利用し、財布から物理的なカードを取り出さずに支払いが行えるというのがセールスポイントだった。あれから3年半、筆者は世界で日々増え続けるNFC決済対応店舗の中でApple Payを便利に活用し続けている。

さて、本来のモバイルNFCとは近接通信(Near Field Communication)における3つの通信モード(「Card Emulation」「Reader/Writer」「Peer-to-Peer」)を備えたものを指す。だがiPhoneにおける"NFC"では実質的に「Card Emulation」の機能しかサポートしておらず、その機能もApple Pay内でAppleが許可したサービスしか利用できないため、実質的にクローズドなものとなっている。

カードやタグ情報の読み書きが可能な「Reader/Writer」については、iPhone 7以降でSuicaカードの吸い出しという機能限定で利用可能になったものの、一般には開放されていない。iOS 11ではCore NFCのフレームワークが追加されており、NFC Forumが定義する5種類のタグの読み書きが可能になっているものの、これはまだ一歩に過ぎない。モバイル端末同士が対向での通信を行う「Peer-to-Peer」に至っては機能そのものが考慮されておらず、Appleがどのような計画を持っているのかさえ不明だ。

つまり現状のiPhoneの"NFC"は「そもそもNFCのフル機能を備えていない」「Card Emulationに必要なセキュアエレメント(SE)が外部開放されていない」という2つの課題を抱えている。


▲NFC Forumで定義されるNFCの3つのモードとApple Pay

今回のThe Informationの報道は、このうちの後者について、セキュアエレメントをサードパーティの一部に開放するという話だ。開放範囲や条件は不明だが、冒頭にもあるように「公共交通機関」「ホテルの"鍵"」「入館証(身分証)」といった決済以外の部分でサービスの適用範囲を広げるものが中心になるとみられ、特に"鍵"や入館証といった特定の施設やエリアでのみ利用可能な仕組みについて、セキュアエレメントの利用制限を緩和し、ユーザーが指定のアプリを導入することで既存の物理的なICカードをiPhoneで代用できるようになると推測している。

最近の比較的新しいホテルでは部屋の鍵が非接触通信に対応したICカードタイプのものが増えているが、例えばiPhone向けにホテルが"鍵"の機能をオンライン配布できるアプリを提供することで、利用者はフロントを経由せずにそのままオンラインチェックインして部屋に直行することも可能になる。またThe Informationによれば、Appleは新キャンパスのApple Park内においてHID Globalと共同で、このiPhoneによる入館証の仕組みをすでに展開済みだという。HIDの認証ゲートの仕組みは多くの企業やビルで採用されており、これが外部展開されても不思議ではないだろう。

最初の交通系ICサービス対応の事例は西海岸から

ここでやや複雑となるのが「交通系ICカード」の話だ。すでに紹介したように日本国内ではSuica、ベータ版ではあるものの北京と上海の都市交通のICカードがApple Payではサポートされており、Walletアプリに登録して利用することができる。現在Apple Payで乗車可能な公共交通は同社のサポートページで一覧を確認できるが、そのほとんどは普段使いのクレジットカードやデビットカードを非接触通信で"かざす"ことで改札での運賃支払いが可能な「オープンループ(Open Loop)」と呼ばれる仕組みを採用している。

代表的なものはロンドン交通局(TfL)のサービスだが、Apple Payのサポートページに記載されているものだけを挙げてもシカゴのVentra、ポートランドのTriMet、モスクワメトロはそれに該当する。中国の広州(Guangzhou)と杭州(Hangzhou)はCUP(China UnionPay)となっているが、これもいわゆる銀聯カードを使ったオープンループだといえる。オープンループは地域ごとにICカードを購入したり、逐次チャージを行う必要がないため、外国人のような一見客にも優しい仕組みなのが特徴といえる。



▲現在AppleがサポートページでうたっているApple Pay乗車が可能な世界の交通機関

Apple Payは対応する国際ブランドのカードさえ対応していれば、理論的にはどのオープンループの公共交通も利用可能なので手間がない。現在シンガポールで現地交通局(LTA)とMastercardが共同でオープンループのトライアルを1年近くにわたって実行しているほか、2018年中には米ニューヨークのMTAがオープンループに対応した改札システムの広域展開を開始し、従来の磁気カードベースのMetroCardを数年で置き換えていく計画だ。

このほか、オーストラリアではシドニーを含むニューサウスウェールズ(NSW)地域で展開されているOpalカードをオープンループで置き換えていく計画もあり、昨年2017年には一部フェリー路線でクレジットカードやデビットカードを使った改札システムの運用が始まっている。



▲オープンループ乗車の基本モデルとなったロンドンの公共交通

オープンループのシステムは少しずつ増えているものの、依然として世界の都市交通システムは都市単位で閉じていることがほとんどで、互いに相互運用は行われていない。旅行者は、都市を移動するごとに切符やICカードを買い求め、手持ちのスマートフォンを使うことなく公共交通への乗車を強いられている。

日本ではおサイフケータイのモバイルSuicaやApple Payが簡単に利用できるため問題ないが、世界的にみれば交通系ICカードをモバイル対応させるという取り組みは少数派だ。ZDNetが先日、オーストラリアのメルボルンを含むビクトリア地域圏で利用されるMykiカードをモバイル対応させたトライアルサービスを2019年初頭までにAndroid端末を対象に開始すると報じて話題となったが、中国でXiaomiやHuaweiが自社端末搭載の決済サービスで「中国国内の多くの都市交通のモバイル乗車」を可能にしていることを除けば、まだまだ個別の取り組みにとどまっている。

Apple Payの交通系サービス対応とは、こうした各都市ごとに異なる交通系ICの仕組みを順次取り込んでいくことを意味する。The Informationによれば、Cubicとの提携でApple Pay内に交通系ICカードを"Card Emulation"で取り込む仕組みを実装していこうとしているようだ。

Cubicと社名を聞いてもピンとこないかもしれないが、ロンドンでTfLのオープンループを実装した運行システム会社だといえばわかるだろうか。前述のシンガポールやニューヨークのシステムにも噛んでおり、世界的にみてスタンダードな存在だと考えている。

さらにCubicといえば、米サンフランシスコやWWDC18が開催されるサンノゼ一帯のベイエリアで運用されている「Clipper」という交通系ICカードのシステムも提供している。筆者はここ数年ほど、AppleがiPhoneのClipper実装に向けて関係各方面と調整やテストを続けているという話を何度か聞いており、おそらくCubicのApple Pay対応事例として最初に挙げられるものの1つにClipperが含まれると予想している。

このほか、Xiaomiなどの事例ですでに実績のある中国系の交通系サービス取り込みもそれほど難しくないと考えられ、今後iOS 12の世代で一気に対応が進んでいくことになるだろう。


▲米サンフランシスコ・ベイエリア周辺で利用されるClipperカードと英ロンドン(TfL)のOysterカード

セキュアエレメントをどこまで開放するのか

「NFC開放」というと「NFCアンテナの一般開発者への開放」のようにも捉えられるが、ビジネス的な側面から考えれば「セキュアエレメントの領域解放」という意味合いに近い。現在のところ、iPhoneのセキュアエレメントにはApple内部にあるサーバを経由してしかアクセスできず、ごく一部の例外(Suicaアプリ)を除いてアクセスする手段は用意されていない。

これは決済サービスの提供で重要となるカード情報といった個人情報をApple自身がすべて制御下に置いて主導権を握っているというだけでなく、例えばデバイス紛失や乗り換えなどがあったとしても、あらかじめApple IDにカード情報を紐付けておけば、セットアップのプロセスを通じてAppleのサーバから自動的に書き戻しが行われるという、非常に便利な機能が利用できる。これは既存のおサイフケータイにはない、非常に大きなメリットだ。

今回の「セキュアエレメントの領域解放」で気になるポイントは2点あり、「交通系ICカードだけでなく、すべてのカード情報はAppleの制御下に入るのか(つまりAppleのサーバを経由する必要があるのか)」「特定のアプリケーション(例えばHID Globalの入館証)ではデベロッパー(この場合はHID)単位で領域解放が行われ、この領域内では各デベロッパーが自由に読み書きができるのか(つまり入館証をAppleの介在なしに登録できるのか)」という部分に注視している。

デベロッパーの使い勝手としては後者に軍配が上がるが、ユーザー的な利便性やAppleのこれまでの戦略を考えれば前者である可能性が高く、WWDC18で発表される場合の内容に注目したい。いずれにせよ、セキュアエレメントはそれ自体が資産であり、かつては携帯キャリアとGoogleがNFC世界での主導権を巡って激しい争いを繰り広げた最大の戦場でもある。いまいちど、この不毛な争いをApple Payで終結させたAppleの采配に注目したい。

関連キーワード: apple, applepay, nfc
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