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スマホに「著作権補償金」は必要? 音楽権利団体の主張に反論

クリエイターの利益を守るのも大切ですが……。

石井徹(TORU ISHII), @ishiit_aroka
2018年12月1日, 午前11:30 in Copyright
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10月、文化庁にて「スマートフォンから『私的録音・録画補償金』を徴収するべき」という議論が突如として提起されました。これを受けて11月28日、参議院議員会館​​​にて、「私的録音・録画補償金制度」を考えるシンポジウム(討論会)が開催されました。

今回のシンポジウムは、「アジアインターネット日本連盟(AICJ)」が主催したもの。AICJはインターネット企業が加盟する団体で、加盟社にはApple Japan、アマゾンジャパン、グーグルといったプラットフォーマーも含まれています。

司会をつとめたのは自由民主党の参議院議員、三宅伸吾氏。音楽業界関連者や著作権者団体、消費者団体などからパネリストが登壇し、私的録音・録画補償金制度の是非を考えました。 ​​

「補償金制度」は何のために存在するのか

「私的録音・録画補償金制度」とは、複製用のメディア(音楽CDなど)や録画複製機器(ビデオデッキやコピーガード非対応のDVDレコーダーなど)に"複製に対する補償金"を上乗せして販売するという制度。著作権者への分配を目的として、1992年に導入されました。

この制度が導入された1992年には、CDやDVDといった、いわゆるデジタル方式のメディアが市場に流通しはじめたころ。その当時、「劣化しないコピーを誰でも簡単に作れるようになると、音楽販売に影響がでるのではないか」という危機感を抱いた著作権権利者団体による働きかけで、"補償金制度"が成立しました。

AICJシンポジウム

つまり、補償金制度には「そもそも著作物の私的複製は自由だが、デジタルコピーが簡単にできるようになったことで、権利者のビジネスに影響が出てしまう」という1992年当時の時代背景があり、「"私的複製による損害"を補填するため、補償金分配という間接的な徴収を作ろう」という発想がありました。

この制度では、著作権者が直接徴収するわけではなく、著作権者らで作る団体が機器・メディアのメーカーから補償金を徴収し、著作権者へ分配する事業を担っています。

ただし、映像の補償金制度は、事実上機能していない状態となっています。これは、補償金制度の対象外となる、コピー制限機能付きの録画機器が主流となったため。制度を維持できるほどの録画補償金を集めるのが難しくなったことから、録画補償金制度の管理団体は2015年に解散しています。

AICJシンポジウム

"聴き放題"の台頭

一方、音楽については「私的録音補償金管理協会(sarah)」という団体が存在し、現在も「音楽用CD」などを対象に補償金を徴収しています。

とはいえ、インターネット上の音楽配信サービスの流行など、時代の変化により、私的録音補償金は年々、減少する傾向にあります。

直近で特に大きい変化が「定額制で音楽聴き放題」の音楽配信サービスの台頭。この市場ではスウェーデン発のベンチャー企業「Spotify」がリードし、AppleやAmazonも独自の音楽配信サービスを展開しています。

AICJシンポジウム

ここでポイントとなるのは、Spotifyなどの音楽聴き放題のサービスには、再生数に応じて著作権者らに利益を分配する機能が整備されていることです。権利者と配信楽曲を紐づけ、実際の再生数に応じて把握できるため、補償金制度より公平な分配の仕組みをローコストで実現できる可能性があります。

AICJシンポジウム

シンポジウムで基調講演を行った鈴木貴歩氏(ParadeAll社代表)は、欧米の音楽配信サービスの現状について紹介しました。鈴木氏はレコード会社で音楽配信事業に携わっていた経歴があり、現在はエンターテインメント関連のコンサルティング業を手がけています。

AICJシンポジウム▲鈴木貴歩氏

鈴木氏は、欧米のレコード会社と音楽配信事業者の関係を「プロレスのように、表では対立しているように見えて、裏ではしっかり手を握っている」と表現。日本の音楽市場と似ているドイツやフランスにも音楽聴き放題サービスがしっかりと根付きつつあると言及しました。

一方で、EUや米国では現在、著作権法の"しばり"を厳格にするような法改正が検討されています。

時代の要請が生んだ「私的複製」の補償金

電子情報技術産業協会(JEITA)で著作権専門委員会 委員長を務める太佐種一氏(日本IBM 社内弁理士)は、法律上の観点から「補償金問題」を整理しました。

前提として「著作物の私的複製」(家庭内での利用を目的として音楽や映像などをコピーする行為)は原則、合法とされています。

AICJシンポジウム▲太佐種一氏

その上で、私的録音・録画補償金制度は、自由な私的複製を担保しながらも「コンテンツが勝手にコピーされるのではないか」という権利者側の懸念に応えるという、時代の要請があって生まれた制度として生まれた、と太佐氏は説明します。

そして補償金制度は「誕生した当初には一定の意義があった」としつつも、「時代にあわなくなってきている」と指摘。

特に補償金の分配システムについては「補償金の配分を受けるには、管理団体に所属しないといけない」とした上で、「権利者に公平にひろくあまねく還元されてきたとは思えない。制度が機能していないのではないかという疑問がある」と見解を示しました。

津田大介氏「抜本的な見直しが求められている」

ジャーナリストでインターネットユーザー協会 代表理事でもある津田大介氏も、著作者への還元の仕組みの不備を指摘しました。

特に音楽コンテンツの流通経路が変化に着目して、「アナログ時代にはレコード会社が音楽流通を取り仕切っていたが、現代にはインターネットがある。"CDは売れていないが、ネットで火がついてたくさん聴かれている音楽を作った人"に対して、現状の補償金制度では対応しきれない」と言及。

「インターネットでの音楽利用に基づいた適切な対価還元の仕組みになるよう、制度の抜本的な見直しが求められている」という意見を示しました。
​​​​​​
AICJシンポジウム▲津田大介氏

ただし、津田氏の考えは、補償金制度を直ちに廃止せよという積極的廃止論ではありません。津田氏は「かつては技術的な問題で権利者の厳密な特定と適切な分配実現できず、その時に作られた対価還元の仕組みとして、補償金制度は一定の意義があった」と理解を示しつつ、「補償金制度を続けたことで、権利者にとってある種の"既得権益"になっている」と現行の制度運用については否定的な立場を取ります。

津田氏の主張は、新制度へ緩やかに移行していく必要性があるというもので、そのために「補償金を徴収する団体をいきなり解散するというのは反発が大きい。適切な分配と保護の実現のために新制度を構築しつつ、今ある権利者団体には、クリエイター支援など、別の役割を持たせるべきではないか」と訴えました。

「消費者が加害者として扱われる」

コンテンツを利用する消費者の立場から参加したのは、主婦連合会 事務局長の河村真紀子氏。

主婦連代表として"補償金問題"を10年間担当してきたという河村氏は「この問題の議論の場では、消費者が加害者として扱われる」と文化庁での検討会に苦言を呈します。

AICJシンポジウム▲河村真紀子氏

その上で、「文化庁での議論は毎回似たようなメンバーが参加していて、まったく進まない」と批判しました。

そして、「もともと私的複製は違法ではない。(補償金制度は)『デジタルデータは劣化しない』という(権利者側の)妄想が生み出したもの」して指摘した上で、「ユーザーがスマートフォンで音楽を楽しんでいるのは、"デバイスシフト"の結果ではないか」と権利者側の主張に対して異議を唱えました。

一番の問題は違法コピー、補償金拡大はナンセンス

権利者としての立場で参加したのは、マンガ家で大阪芸術大学教授の里中満智子氏。里中氏は、補償金制度に対する理解を求めつつも、現行制度の拡大を目指す文化庁に対しては懐疑的な態度を示しました。

里中氏は「CD出さずに活動して、そこから火を付くのもよくある時代。特に恵まれないクリエイターにたいし、正当な対価を支払ってほしいと思う気持ちはある。特に恵まれないクリエイターに対し、正当な対価を支払ってほしいと思う気持ちはある。そのために私的録音・録画補償金制度を使いたいというクリエイターの気持ちも分かっていただきたい」と補償金制度の意義を訴えます。

AICJシンポジウム▲里中満智子氏

その上で、現行の制度については「分配に公平性があるのかどうか」を検討すべきとする里中氏。「補償金制度が機能していないのなら、もっと有効な制度に移行するのが良いのでは」と主張します。

一方で、文化庁での議論については「『消費者はずるで、著作者はけち』、その枠組みでの議論ばかり。うんざりする」と後ろ向きな内容となっていることを非難しました。

また、里中氏は著作権者としての立場から、違法コピー対策を強化するべきと主張。その上で、「違法コピーの対策は違法対策としてきちんと行うべきで、そもそも違法ではない私的複製の補償金を拡大して補おうとするのはナンセンス」と補償金制度の拡大をもって"違法コピー対策"とする主張には懐疑的な見方を示しました。

「補償金制度は、過去の慣性で動いている」

シンポジウムで司会を務めたのは自由民主党の三宅伸吾参議院議員。三宅議員は著作権問題を注力分野としていて、フェアユース制度の導入を政策課題として掲げる人物。

議論のとりまとめとして「私的録音・録画補償金制度は、過去の慣性で動いている。立法趣旨は制度を作ったときは適切だったが、時代に合わなくなっているのではないか」と述べました。

AICJシンポジウム▲三宅伸吾議員

そして、三宅議員が強調したのは「納得感」。「補償金としてお金を集めたとしても、集め方や、集めたお金の使い方に納得感がないと、国民感情の反発を招き、制度は潰れると思う」として、国民にとって納得できる形での課金制度の構築から、制度の廃止まで視野に入れた形で議論を進めるよう訴えました。

シンポジウムには自由民主党の政策責任者を務める、山本一太参議院議員も聴講者として参加していました。三宅議員から意見を求められると、「私的録音・録画補償金制度で、スマートフォンのような汎用機器まで課金されるような制度改定はよほど慎重に進めないといけないと思っている。参議院の検討委員会としては慎重に考えていきたい」とコメント。加えて、「文化庁での議論はあまりにも後ろ向きだ」と苦言を呈しました。

シンポジウムでの議論を振り返ると、補償金制度に対する是非の差はあれ、登壇者共通の認識として「公平な分配が技術的に可能になったのに、古い時代の制度が残り続けている」という違和感があるようでした。

留意しておきたいのは、今回のシンポジウムはインターネット企業の団体AICJが主催したものだということ。私的録音・録画補償金制度に積極的賛成という立場の登壇者がいない場であるため、どうしても片方の意見によりがちだという点は、気をつけてた方が良さそうです。

とはいえ、著作権法が掲げる目的は「文化の発展をうながすこと」で、著作者の権利を保護するのは、創作を促進するためのひとつの手段であるということは、踏まえておいたほうが良いかもしれません。「私的録音・録画補償金制度」の拡大が、文化の発展につながるかという観点から眺めると、単純に肯定できないのも事実です。インターネット時代にふさわしい、新しい著作権保護の仕組みが求められているのかもしれません。


Source: AICJ
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