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ソニーの360度オーディオ「360 Reality Audio」が覆す仮想音場の常識(本田雅一)

地面からも音が這い出てくる新感覚

本田雅一, @rokuzouhonda
2019年1月23日, 午前11:50 in 360Audio
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ラスベガスで開催された世界最大の家電ショー......いや、近年は家電を超えて新テクノロジの展覧会となっているInternational CES 2019でソニーが発表、大規模な体験ブースを設けた「360 Reality Audio」は、将来、ハイレゾ音源と同じく新たなオーディオ市場を掘り起こすテクノロジ基盤となるかもしれません。

その理由はいくつかあります。360 Reality Audioではこれまでとは異なる音源製作が必要になりますが、その材料はあらかじめ揃っていること。また、360 Reality Audioを楽しむための機材や要素技術についても、ソニーだけでなく他オーディオメーカー各社が保有、研究を進めている知見を応用できること。つまり、各社が競争しながら"新体験"を提案できるということです。しかも今後、技術の進歩や楽しみ方、制作側の知見の拡がり次第で、さらなるエンターテインメント性をもたらす可能性を秘めています。

360RealityAudio

13チャンネルスピーカー環境を仮想音場で実現

360 Reality Audioは、ソニー・R&Dセンターでオーディオ技術開発部に所属する知念徹氏が長年温めてきたアイデア。聴く人の周囲、天井方向だけでなく、床面にもスピーカーを並べ、半球状ではなく、完全な球体の音場を生み出すことが特徴です。上下方向にも拡がる音をどのように作るか、この10年、ベストなシステムの構築をトライアルしてきたといいます。

そして最終的にできあがったのは、オープンフォーマットのMPEG-H 3D Audioをベースに、最大24オブジェクト(1.5Mbpsの場合、1Mbpsの場合は16オブジェクト、640kbpsの場合は10オブジェクト)を任意の位置に配置できるフォーマットを用い、マルチトラックで制作されている音楽トラックを制作者がリスナーの周囲へ任意に配置することで演出するというもの。新たな音楽エンターテインメントの提案というわけです。

制作側やリファレンスのリスニング環境については後述しますけれど、最初に伝えておきたいのは、全身を取り囲むような音楽体験に必要となる最低限の機材は「スマホとヘッドホンだけ」ということ。

360RealityAudio

CESの会場では、リスナーの360度周囲を取り囲むよう上部、そして下部(床面配置)に分散配置された13台のスピーカーで構成するコンテナが3つ用意され、コンテナあたり6人が同時に体験できるようになっていました。

前述のオブジェクト数とは音源配置の数ことで、通常はここにマルチトラックで制作された音楽パートが割り当てられることになります。たとえば、ベース音は地を這うような位置から左右同時にとか、ちょっとしたエフェクトが背後で鳴り、別のリズムトラックが上方左右に、といった割り付けが行われます。

その後、音楽をどのように料理するかは再生ツール次第。ソニーが用意するアプリの場合は、13のマルチチャンネル音声へと割り付けられることになります。CES会場での13個のスピーカーは、分解したマルチ音声がそれぞれのスピーカーへと割り当てられているわけです。



しかし、これだけなら"凄いね"だけで終わってしまうのは自明でしょう。映画用サラウンドのスピーカーだけでも配置が大変だというのに、上下方向の正確な位置にスピーカーを配置した部屋など作れる人は限られています。

そこで会場では、ヘッドホン(MDR-Z7M2)でも13スピーカーシステムが仮想音場で体験できるようになっていました。驚くべきは、仮想音場にもかかわらず、リアルな13マルチスピーカーのシステムに極めて近い体験が得られたことです。

AI技術で手軽に補正。導入の敷居を低く

ヘッドホンを用いた仮想音場による表現にもかかわらず、自分の周囲にまるで本当のスピーカーがあるかのように感じられるのはなぜでしょう。音の感じ方は耳の形状によって異なりますが、それをリスナーの耳に合わせて補正しているからです。

360RealityAudio

この補正を行うため、会場では外耳道の入り口にコンデンサマイクを配置し、周囲を取り囲むスピーカーから発せられるインパルス波を計測。リファレンス特性との差分を補正し、それにヘッドホンであるMDR-Z7M2Iの特性を掛け合わせることで、正確な仮想音場を実現しているといいます。

同じように耳の特徴を計測するシステムは、JVCがカスタムメイドの高級イヤホンで採用していたことがあります。筆者も体験したことがあるのですが、今回のシステムはそれよりも明らかに高い効果が感じられるほど。実際には、スピーカーとヘッドホンという違いがあり、周波数帯ごとのボリューム感といった異なる部分があるものの、自分自身を包み込む音場そのものは、実スピーカーが取り囲む環境でも、ヘッドホンによる再生でも、両者に大きな違いがなく再現されるのには本当に驚きました。

単に言葉だけでこの仮想音場システムは凄い! といっても、その質の高さは伝わらないかもしれません。しかし、世の中にあるどんな仮想音場システムよりも、360 Reality Audioは高い包囲感を実現しています。

ソニーは360 Reality Audioに対応する製品やアプリを近く整え、様々なサブスクリプション型ハイレゾ音源配信サービス(Deezer、nugs.net、Qobuz、TIDAL)を通じて音源配信を含めたエコシステム全体の立ち上げを2019年内(どのタイミングかは不明)には行うようです。

とはいえ、コンデンサマイクを耳のしかるべき位置に装着し、13チャンネルスピーカーからのインパルス波を取り込む環境を用意することは難しいでしょう。たとえばソニーのショールームで有料サービスとして補正データを作るといったアイデアもあるかもしれませんが、それでも気軽とはいえません。

......以前ならこの時点で"手詰まり"だったはずです。ところが今回は新しい手法、AIを使って補正値を推測するスマートフォン向けアプリを用意することでこの問題を解決するといいます。

具体的には、自分の耳を静止画撮影すると、その写真から形状を判断し、特性を推測するというもの。マイクを使った計測による特性と耳の形状との相関をAIに学習させていくことで、実計測なしで高精度の仮想音場を作ろうとしているわけです。

現時点ではまだ機械学習をかけている途中とのことで、筆者も体験できていません。実計測での補正品質にどこまで近づけることができるのかは、実際のアプリが登場してみなければわからないものの、今後ソニーが提供するプレーヤーアプリでは、写真からの補正機能に加え、ソニー製ヘッドホンの特性に合わせた補正も行われる見込みのようです。

果たしてAIでどこまで正しい補正値の推測ができるのか、もし実計測に近い結果が得られるとしたら画期的といえるでしょう。

ライブ・ネーションと契約、新たな音楽表現のツールに

"音楽向けに設計されたオブジェクトオーディオ"という点では、Auro 3Dに近いコンセプトともいえる360 Reality Audio。Auro 3Dが現実のコンサートホールが持つ音場を再現し、クラシック音楽などに向いたコンセプトを持っているのに対して、360 Reality Audioはクリエイターの創作ツールであることが大きく異なる点です。

つまり、"ありのままの音場"を伝えるためのオブジェクトオーディオではなく、360 Reality Audioは"クリエイターが音源配置を工夫して楽しませる"新しいエンターテインメント創出のツール、プラットフォームということになります。

これまでになかった取り組みだけに、アーティストとの協業が不可欠になるはずです。この点については、アーティストによる大規模ライブイベントの企画で成長を続けているライブ・ネーションと協業し、ライブ・ネーションが持つイベント会場でのブランディング活動を行うとともに、各ライブ会場で演奏した音源をマルチトラックで記録しておき、360 Reality Audioとして空間を再配置し、配信する計画があるとのこと。

ライブ音源の歓声などをどのように空間配置するかなどは、現場のPAを担当するエンジニアやアーティストなどとも話し合っていく必要があるものの、いわゆる"コンサートの再現"ではなく、"空間の中にライブイベントを描く"試みとして考えると、新しい可能性が広がっていくでしょう。

その上で、ソニーはマルチトラック音源から360度好きな位置に各トラックを配置できる制作ツールを提供します。協業するアーティストの多くはEDM系で、演奏の現実感よりも空間を活かし、音楽への没入感を深めるツールとしていく意図があるようです。

これまでにない"南半球"から這い出てくる音

実際に体験して特に印象的だったのは、南半球と知念氏が述べる下方向、つまり地面から這い出てくるような音──実際の演奏で床の下から出てくる音というのはあり得ません──この下の方からやってくる音を「南半球からの音」と知念氏は表現します。なるほど。確かにこれまでの音場は半球状でしたが、それが完全な球体になっているわけです。

しかし実際に聴いてみると、地を這い出てくるような音や、天井からシャワーのように浴びる音など、単に"音を聴く"のではなく、身体での感じ方がコントロールできるという点に新しい可能性を感じさせられました。

加えて、ヘッドホンでもそれが体験できるよう工夫を凝らしているところにも大いに期待ができます。今回のCESではあくまで"参考展示"だった360 Reality Audioですが、他メーカーの再生システム登場も含め、新しい音楽表現のひとつとして、今後の展開に期待したいところです。



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