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iPod課金の夢ふたたび? 「スマホ補償金」議論が再燃

自民党内でワーキンググループが発足し、議論が進められています

石井徹(TORU ISHII), @ishiit_aroka
2019年4月2日, 午前10:00 in Copyright
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「分離プラン」の導入によって、高額化が予想されるスマートフォン。その価格を更に上振れさせかねない議論が水面下で進んでいます。

昨年(2018年)10月、文化庁において、スマートフォンの販売に"補償金"を載せるべきだという議論が提起されました。これは「私的録音・録画補償金制度」の対象となる機器にスマートフォンを追加するという内容です。この議論が報道されると話題を呼び、ひとまず法制化を回避する方向で収束しています。しかし、「補償金」を求める人達は諦めていなかったようです。

ことし2月、自民党内で「私的録音・録画補償金」の対象拡大を検討するワーキンググループが発足し、非公開で議論が進められています。今回、Engadgetでは自民党のワーキンググループや文科省の懇親会で委員を務める有識者数名に取材しました。

自民党内のワーキンググループで進められている議論とは、どういったものなのでしょうか。出席した委員の1人によると、「私的録音・録画補償金制度の対象機器の拡大」を視野に入れたものであるようです。

■「私的録音・録画補償金」とは何か

まず「私的録音・録画補償金制度」とはどういった制度なのか、あらためて整理しておきましょう。

私的録音・録画補償金制度は、著作権法を元に定められた制度です。たとえばレンタルしたCDをコピーするなど、個人の「合法な」複製でこうむったとされる『損害』を補償するという趣旨で、CDなどのメディアの販売時に補償金が上乗せして販売されます。CDなどの場合、補償金はJASRACなど3つの音楽権利者団体に分配され、そこから管理費などが引かれた上で権利者に分配されます。

前提として確認しておくべきは、私的複製、つまり個人がCDなどをプライベートで楽しむためにコピーするような行為は合法あること、そして、補償金制度が「合法な」私的複製に対する補償であること。つまり、「違法にコピーされた音楽」への対策を目的としたものではないということです。

■「iPod課金」の夢、ふたたび

補償金の対象を拡大しようという議論が話題となったのは、今回が初めてではありません。実は文化庁では10年前以上から繰り返し提起され、そのたび立ち消えになっているのです。

一連の議論の中でもっとも話題となったのは、2005年の議論でしょう。当時携帯音楽プレイヤーとして普及しはじめたiPodやWalkman。パソコンなどでストレージ搭載の機器を補償金制度の対象に加えるよう、権利者団体の関係者が要望を出したのがきっかけでした。この件はメディアに「iPod課金」として大きく報道されましたが、意見が1つに集約されなかったとして、制度改定にはつながっていません。

また、私的録画補償金制度については、その管理団体SARVHが機器メーカーの東芝に敗訴したことがきっかけで、デジタル方式の録画機器からの徴収は認められなくなりました。SARVHは2015年に解散し、私的録画補償金は徴収者不在の事態となっています。

昨年2018年に持ち上がった議論でやり玉にあげられているのは、音楽プレイヤーではなく、スマートフォンでした。文化庁の審議会に出席した経験のある委員は「権利者サイドは『不正があれば補償が発生する』という認識のようだ」と話します。

■もともとの趣旨は「利用と補償のバランス」

もともと、私的録音・録画補償金制度は1980年代にCDの隆盛に対応するために生まれた制度です。CDとそれ以前のメディアであるカセットテープやレコードなどとの大きな違いは、品質を落とさないデジタルコピーができることでした。それは、権利者側からみると、「無制限にコピーされてしまう」という懸念につながります。

そうした背景から生まれた私的録音・録画補償金制度は、録画に使うメディア・機器に「補償金」を上乗せして販売し、その売上を権利者への補償に充当します。つまり。「デジタルコピー」がなければ"本来発生していたはず"の売上を補填して、自由な利用と権利者への対価支払いとバランスを取ろうという発想のもとに成り立っています。

私的録音・録画補償金は録音・録画に関わるメディアと機器に課せられていました。ただし、2019年現在の実態としては、補償金が徴収されている対象はほぼCDのみとなっているようです。

■スマートフォンの補償金徴収は適切か

スマートフォンは音楽プレイヤーとは違い、「音楽を聴く」用途に限定された機器ではありません。パソコンと同じ、いわゆる"汎用機器"です。

文化庁の審議のなかでは、過去には"汎用機器"であるパソコンを対象に加える検討がなされたこともありますが、音楽・映像視聴専用ではない汎用機器への課金はふさわしくないという反対意見もあり実現には至っていません。

前述の審議会委員は「権利者側は、まずはこれまでかかっていたが対象外とされているレコーダーなど、そして車載オーディオなどの専用機器に補償金の対象としたいようだ。あわよくばその先を見据えていて、それがスマホ課金ということになる」とコメントしています。

■「対価還元」の不透明さ

「クリエイターへの対価還元」を目的とした補償金制度ですが、その分配方式には不透明な点もあります。特に疑問が残るのは、クリエイターへ直接分配される補償金が、徴収額全体の50%強にとどまることです

機器メーカーにより回収された補償金は、補償金管理団体(音楽著作権の場合はsarah)に渡り、3つの権利者団体(音楽の場合は日本レコード協会、JASRAC、芸団協)に分配されます。この補償金管理団体と権利者団体が分配額からそれぞれ2割程度を手数料としています。

また、徴収額全体の2割程度にあたる分が、芸術振興のための共通目的基金として支出されます。その使途についてsarahでは、①著作権制度の普及、調査研究、②創作振興・普及、③著作権保護に関する国際協力、④デジタル録音録画用機器のコピーガード技術に関する調査研究の4つの項目を案内している一方で「当面は、①の著作権に関する知識の普及・啓発のための事業を中心として実施すること」として、著作権に関する啓発活動に主として支出していることを公表しています。

sarahおよび権利者団体の取り分、基金充当分を除いたものが著作権者に分配されることとなりますが、その分配の算定基準の詳細は公開されていません。また、実際の分配実績は総額に留められており、例えばレコード会社ごとといった大まかな実績も公表されることはありません。

■時代はCDからストリーミングへ

補償金制度ができた1992年と現代を比較すると、社会や技術は様変わりしています。音楽の消費もMDやCDへダビングする文化から、スマートフォンでダウンロード配信やストリーミング再生によって聞く文化へと移行しています。

日本レコード協会の統計によると、2018年の音楽配信の売上は645億円。その中でもストリーミング配信は349億円を占め、ダウンロード配信の売上を初めて上回りました。



一方で、CD販売金額は1542億円となっており、今なお音楽産業の売上の屋台骨となっています。とはいえ、通年のグラフを参照すると、ピークとなる2012年に2246億3100万円を売り上げて以来、年を追う毎に市場が縮小している状況が見て取れます。

ストリーミング配信で主流となっている、Apple MusicやSpotifyなど「聴き放題」型のサービスでは、登録した機器以外では聞けないような技術上の制約が設けられています。また、1回の再生された曲ごとに記録し、著作権者により公平な分配を行うことも(少なくとも技術上は)可能です。

■平成初期の制度を「令和」まで持ち込むべきか

私的録音・録画補償金制度の対象機器は政令で指定されているため、対象となるデバイスを追加する場合、少なくとも形式上は、政令の改定だけで追加できることになります。スマートフォンのような社会に与える影響の大きい機器に追加するなら、本来はより幅広い議論の末に決定するべきですが、政令での変更が可能となると、国民の注目が集まらないうちにひっそり制度改定される、という結末もあり得ます。

文化庁の審議会に出席していた別の委員は、「(権利者団体側の委員は)どうしても補償金だ、補償金制度以外の方法は『100歩譲っても嫌』だと言う」と証言します。補償金制度を運営する側は、より新しく公平な分配制度よりも、現在の制度を延命させた方が良いと考えている、ということでしょう。

私的録音・録画補償金制度が成立した1992年は平成4年。昨日(2019年4月1日)、その平成も31年間もまもなく終わりを迎え、新元号の「令和」に移行します。この間約30年のテクノロジーの進化は目覚ましく、特にインターネットとスマートフォンの登場は、音楽や映像の消費の仕方を大きく変えました。平成生まれでまもなく30歳を迎える筆者は、30年前の制度を生きながらえさせる勢力の存在は、大いに疑問に感じます。新たな時代に文化を盛り上げるためにも、社会の要請と技術にマッチする、より公平に分配制度の可能性を模索するべきではないでしょうか。



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