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iPhoneがクールだからできたこと。自閉症の息子の声になる「Voice4u」アプリの意義

簡単でかっこいいアクセシビリティツールを目指した

井上晃(AKIRA INOUE)
2019年5月24日, 午後02:00 in accessibility
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皆さんは「Voice4u」というアプリをご存知でしょうか。このアプリは、言葉をうまく表現するのが難しい人達が自分の意思を伝えるために作られたアクセシビリティツールです。2009年に日本とアメリカ向けにリリースされ、現在では多くの国で提供されています。そんな同アプリの開発に携わった久保由美さんと樋口聖さんに話を伺う機会が得られたのでその模様をお届けしましょう。

Gallery: Voice4u | 4 Photos

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Voice4uという名前に込められた意味

そもそも「Voice4u」という名前は何を意味しているのでしょうか。駐在員の妻としてアメリカに渡った久保さんは、アプリ名の由来についてこう話してくれました。

久保さん「うちの長男の渡は自閉症なんです──。自閉症の子は、人にうまく意思を伝えるのが難しいことがあります。だから彼らの『声』になってほしいという想いからこの名を付けました。最初はVoice2goにしようかと考えたのですが、なんだかダサい。10代の子にも使ってもらうならVoice4uの方が良いだろう、とこの名前にしました」(※4uは「for you」の意味)

こうした意思を伝えるためのツールは元々アナログだったそうです。アプリを作ろうと思ったきっかけは、当時、実際に使っていたツールの使い勝手が悪かったからだと久保さんは言います。

久保さん「Voice4uがなかった当時は、イラストが描かれたアイコンカードを分厚いファイルに入れて使っていました。"これちょうだい"とか"トイレ行きたい"とか──息子はカードを選ぶことで意思を伝えていたんです。でも伝えたいことが増えていくにつれて、ファイルもどんどん分厚くなっていきました。渡は食品アレルギーもあったので、アレルゲンのない食べ物も持っていかなければいけない。水たまりを見つけると飛び込んじゃうので着替えも必要。さらにその状態で多動の息子を抑えなくてはいけませんでした」

また、古典的なアイコンカードを使うには、かなりの手間とコストがかかったそうです。共通の絵カードのデータを購入して、それをプリントアウトし、ラミネートで表面を保護して、ファイリングし、持ち運ぶ。これでは確かに大変です。

久保さん「もし分厚いファイルがなければ、左手が空くじゃないですか。当時はiPod Touchでしたけど、iPhoneのアプリになればスッキリするだろうなって。そこで知り合いの技術者だった樋口に頼んだわけです。こんなアプリが作りたいって」

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iPhoneだからこその意義があった


Voice4uが登場する以前にも、コミュニケーションを意図したデバイスは存在したといいます。しかし、iPhoneのアプリで使えるVoice4uと比べると大きな差があったようです。

久保さん「専用のコミュニケーション機器が約100万円。医療保険の対象ではあるのですが、弁護士を雇ったり、心理学のレポートを作成してもらったりするのにかなりコストがかかりました。しかも、認定してもらうのには、予約をとる必要がある。認定の日に息子があばれて行けなかったら、また手に入るのが先に伸びてしまう。そんな状況でした。いまその時のコミュニケーションを息子と取りたいだけなのに、これはすごくおかしいと思いました。こういうツールは欲しいと感じたらすぐに手に入るべきだと」

また、そんな苦労を経てようやく手に入れた機器でショッキングな経験もしたと言います。

久保さん「その機器は首からかけてタイピングした文字を表示させる仕組みでした。息子はタイピングならできるからやり方を教えたんです。それで息子はファストフードのポテトが食べたいから、頑張って練習しました。でも、お店のカウンターで機器を見せていざ注文しようとしたときにスタッフがみんな逃げちゃったの」

久保さん「突然、見たこともない機器をだされたから、爆弾か!? と思われたんでしょうね。でも、それで息子はすごく傷ついた。機器が嫌われたのか、自分が嫌われたのかはわからないから。そのあと"No Potato, No More"、"みんな僕のこと嫌い"と言って、落ち込んでいましたよ。その時、こんな傷つけるものを持たせちゃいけないなと強く思いました」

しかし、iOSアプリとして作ったVoice4uを使ったところ周囲の反応がガラリと変わったと言います。

久保さん「Voice4uができてから、当時発売されたばかりのiPhoneを取り出すと、みんな"カッコいい!"って言いながら見にきてくれるようになったんですよ。この差はすごかった。見せて逃げられるのと、抵抗なく寄ってきてくれるのとでは全然違う。この経験があるからこそ、障がい者向けのツールはクールなものであるべきという気持ちが大きいんです」

ITコンシェルジュ

こうした背景で作られたVoice4u。いまでこそ世界中の多くの人に使われるアプリとなりましたが、当初は「世界に広げたい」といった野心はまったくなかったと言います。

久保さん「同じような境遇のママ友に、お世話になっていたお返しと思って、完成したアプリを見せて教えたんですよ。そうしたら"ゆみ、あなたはずるい"って言われちゃったの。何でと思ったら、"あなたは日本から来ていて、世界中にあなたと同じ想いをしているお母さんがたくさんいるって知っているでしょう。せっかくAppleのプラットフォームがあるのだから、私だけじゃなく製品としてたくさんの人に届けるべきよ"ってことでした。それならやらなきゃと思いました」

今後は介護現場への応用も検討している

実際にVoice4uアプリの開発を主導したのは、エンジニアの樋口さんです。彼は、日本で早稲田大学を卒業したあと、スタンフォード大学の博士課程に進み、当時携わったボランティアで久保さんと知り合ったそうです。Voice4uのリリース後、「必要な人に、必要な技術が届いていない」という想いから、久保さんと共にSpectrum Visions Global, Inc.を設立。樋口さんはiPhoneだからこそできたことについて、デベロッパー視点でこう話します。

樋口さん「当時、他社スマホはデベロッパーのおもちゃみたいな状態でしたからね。マーケット的な認知があったのはiPhoneだったので、iOS向けに作ろうとするのが自然な流れでした。いまは他社OSもかなり洗練されたので両者の差は小さいでしょうけれど、有料アプリの売り上げはまだまだiOSの方が大きい。アプリ開発者としてはiOS向けに作っていくのが自然なのではないでしょうか」

ITコンシェルジュ

また、実はVoice4uには、先述のようにアイコンカードを表示する「Voice4u AAC」タイプのほかに、「TTS(Text-To-Speech)」という入力した言葉や文章を自動的に読み上げる会話補助アプリも提供されています。こちらはどういった理由で開発されたのでしょうか。

樋口さん「あるユーザーさんから、"1〜2年後に声がなくなってアイコンが作れなくなっちゃうので、音声がでるようにできませんか?"という要望があったんです。そこでテキストを入力して音声を読み上げるTTSを用意し、こちらで必要な音声を作れるようにしました」

さらに、2018年には日本にVoice4u株式会社を設立。樋口さんは代表取締役になっています。今後はこちらで既存のアプリケーションの技術を生かした別分野での展開や、テクニカルコンサル事業についても進めていくそうです。

樋口さん「日本法人は開発拠点として機能します。次に考えているのは、Voice4uの介護向けのソリューションでして、まだまだコンセプト段階ですが、病院や大学と協力しながら開発を進めています。将来的には、ニューラルネットワークによる予測機能を実装して、アプリを起動した段階でパッと画面に必要な絵カードが表示されるような機能をつけていきたいけれど、こちらはまだ先の話ですね」

海外旅行で言葉が通じないときに、文章を指差して会話するような経験をした人は多くいるでしょう。Voice4uも要はこうしたコミュニケーションを行うためのアプリ。これを使うことによって、スムーズな意思疎通が可能になる人たちがたくさんいます。一人の主婦のアイデアが、アプリを通じて世界中の人の可能性を広げた事例。ぜひ記憶に留めておいて欲しいと思います。




「TechCrunch Tokyo 2019」11月14日、15日に開催



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関連キーワード: aac, accessibility, app, apple, ios, ipad, iphone, tts, voice4u
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