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iPadで変わる邦画の現場。『キングダム』『BLEACH』佐藤監督とPE大屋氏・スクリプター田口氏に訊く【前編】

紙と共存するデジタル

Ittousai, @Ittousai_ej
2019年5月30日, 午後09:05 in ipad
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(c)原泰久/集英社 (c)2019映画「キングダム」製作委員会

原泰久の人気漫画を原作に、興収40億円を超える大ヒット上映中の『キングダム』や、『BLEACH』『アイアムアヒーロー』など多くの作品を手がける佐藤信介監督。CGやデジタル撮影が当たり前になる一方、現場は未だに紙依存でデジタル化が進まないといわれる邦画界でも、佐藤監督は2010年発売の初代iPadから映画製作に活用してきたことで知られています。

『キングダム』『BLEACH』を含め最近の現場ではさらにiPadの導入を進め、監督だけでなく他のスタッフにとっても制作に不可欠な存在にまでなったとのこと。しかし企業の一括導入ならばともかく、スタッフの多くがフリーランスで作品ごとに集まる邦画界で一体どう導入を進めたのか、WindowsやAndroidタブレットではなくiPadを選ぶ理由は本当にあるのか?等々の疑問が浮かびます。

そこで佐藤監督と、「佐藤組」参加も多くiPadをフル活用するスクリプター田口良子氏、映像制作全般に技術ソリューションを提供するピクチャーエレメント社のテクニカルプロデューサー大屋哲男氏のお三方にお話をうかがいました。

まずはお三方のプロフィールをごく簡単に。

東宝

佐藤信介監督

映画監督・脚本家。作品は大ヒット上映中の『キングダム』はじめ、『BLEACH 死神代行編』『いぬやしき』『アイアムアヒーロー』『デスノート Light up the NEW world』『図書館戦争』シリーズ、『GANTZ』二部作など。メジャー映画監督デビューは『LOVE SONG』(2001)。釈由美子版の『修羅雪姫』(2001)も監督。


東宝

田口良子さん

日本を代表するスクリプターのひとり。「佐藤組」参加作品は『キングダム』『BLEACH 死神代行編』『いぬやしき』『デスノート Light up the NEW world』『アイアムアヒーロー』『GANTZ』など。ほか庵野秀明総監督・樋口真嗣監督の『シン・ゴジラ』など。

スクリプターは撮影現場のあらゆる要素を記録し、シーンごとの継続性(「つながり」)を保証するお仕事。英語ではScript Supervisor や Continuity Supervisor。また撮影現場の意図を汲み編集側に伝えるなど監督の秘書的な業務も。スクリプトライター / 脚本家とは別。

東宝

大屋哲男さん

テクニカルプロデューサー。株式会社ピクチャーエレメント代表取締役。平成ゴジラシリーズはじめ多数の作品でCGやVFXスーパーバイザー、プロデューサーを務め、2011年にピクチャーエレメントを創業。特撮だけでなく映像制作全般に技術ソリューションを提供する。

参加作品は平成ゴジラシリーズほか、近年では『キングダム』『シン・ゴジラ』『進撃の巨人』『デスノート Light up the NEW world』『いぬやしき』『BLEACH 死神代行編』等。東宝特撮好きにはクレジットで刷り込まれた名前です。

東宝

PE RUSH!導入で劇的な変化

佐藤監督はiPadの発売前からiPhoneのカメラを現場で使うことがあり、iPadも2010年の初代からいち早く、個人的に活用していたといいます。監督によると、最初にiPadを持ち込んだのは『ANOTHER GANTZ』(2011年放送)の現場でした。

佐藤監督「(iPadを現場で使ったのは) 映画監督としては世界最速のひとりだったと思います」
田口氏「私を含め、全員が白い目で見てましたね」
佐藤監督「もう周囲は全員抵抗勢力で(笑)」


当時は資料や台本など紙の取り込みとテキストの参照など、ビューアとしての使い方が主。監督いわく、映画の現場は台本をはじめとにかく紙が多く、わずかな変更があるたびにまた大量にコピーして配布が当たり前の世界。デジタル化した資料のクラウド共有もここ数年でようやく普通になってきたものの、いまだに紙が支配的な状況です。「紙をこんなに使って良いのか?と思うほど」(佐藤監督)

監督が紙と戦い、共存するためさまざまなツールを遍歴したのち手書きノートアプリ「GEMBA Note」(MetaMoji)に辿り着いた話や、白い目で見られつつ孤軍奮闘していたのが iPad ProとApple Pencilの登場で状況が大きく変わりつつある話などは後ほど詳しく伺うとして、ここ数年のもっとも大きな変化は、撮ったばかりの未編集映像(ラッシュ)の確認に、現場全体でiPad Proと専用サービス PE RUSH! を導入したことだと言います。

佐藤監督「僕のなかで一番大きいのは、やはり撮った素材をどう確認して、次のフローに渡してゆくかということ。それがここ数年で、劇的に変わってきたところだと思います」

PE RUSH! は大屋氏が創業し代表取締役を務めるピクチャーエレメント社の提供するアプリとサービス。従来のラッシュは一日の撮影後にスタッフが集まってスクリーン投映やモニタで確認したり、あるいはDVD/BDに焼いて各自の環境で見るのが一般的でした。しかしPE RUSH!では撮影素材やCG素材をすべてセキュアなサーバに格納したうえで、専用のiPad Proアプリでアクセスすることにより、監督はじめスタッフがいつ、どこにいてもラッシュを確認でき、フィードバックや判断、次の指示を出すことが可能になります。

全員集まっての上映やDVD配布の必要がなくなりスケジュール的に効率化できるだけでなく、簡易的なグレーディング(明るさや色を演出意図にそって調整する作業)にも対応しており、映画と同じDCI-P3に準拠したiPad Proのディスプレイで観ることで、全員が同じ環境でグレーディングまで確認できる利点もあります。


監督によれば、ラッシュは素材をただ確認するだけでなく、今後の撮影に必要なカットの判断や、CG加工など様々な作業工程に回すもの、そのままグレーディングするものを仕分けたり、作業後に合流したカットの確認など、非常に複雑な工程。CGもかつては監督がCG部門に直接出向いて確認する時間が必要だったものが、現在はiPadのPE RUSH! でできるようになったため、「たとえば別の作品の準備中でも延々とCGチェックができる。作品の制作効率がものすごく変わってくる。制作時間もどんどん短縮できます」


佐藤監督「映像の確認から判断というフローがギクシャクしていたものが、ここ数年で流れやすくなった。(テクノロジーでもっとも大きく変わったのは)そこですね。」


VFXの大屋氏、「テクニカルプロデューサー」へ

PE RUSH!を提供するのは、テクニカルプロデューサー大屋氏が率いるピクチャーエレメント社。大屋氏といえば、平成ゴジラシリーズなど東宝特撮作品のクレジットで記憶している人も多いVFXの第一人者です。CGやVFXの専門家でもある大屋氏がさらに広い意味での制作支援を手がけ、テクニカルプロデューサーという肩書を使われるまでの経緯についてお聞きしました。

大屋氏「自分たちの仕事を助けるためにコンピュータを使うということをずっと、結構自然にやっていた」

VFXを主に手がける以前、映画とのかかわりは編集作業から。現在のようにデジタルではなく、物理的なフィルムを文字どおりカットして、つなげて編集していた時代です。このフィルムの管理にPC98でデータベースを作ったり、ワープロから写植で文字を拾うための座標に変換するソフトを書くなど、VFXやCG以前からテクノロジーで作業効率を上げることに取り組んでいたといいます。

大屋氏「いかに効率よく、人の才能を技術的に補えるか、をずっとやってきています」「いまのテクニカルプロデューサーという肩書も、その延長線上の最終的なものかな、という思いがあって。ピクチャーエレメントを立ち上げるとき、VFXプロデューサーという肩書を一旦外して、テクニカルプロデューサーというかたちで、VFXだけじゃなく映画の撮り方、ワークフローを作ったり、編集とのコラボであるとか、そういうなかにどう技術を入れてゆくか。言ってみれば、個人プレイをいかにまとめてゆけるかということに価値を置ければなと立ち上げたんです」。

さまざまな映画への参加を通じて、VFXに留まらない撮り方そのもの、制作のワークフローに対してもテクノロジーとノウハウを提供するようになったことが、PE RUSH!のようなソリューションにつながりました。

PE RUSH!を提供するきっかけも、佐藤監督が述べたようなラッシュ確認の非効率や、紛失や流出リスクの問題、確認するモニタ環境の不統一といった課題があったといいます。

大屋氏「フィルムの場合はそれしか無いので、なくすってことが無いんですよ。それがDVDとかVHSでラッシュを見ていた時代は、DVDなんか一体何枚焼いたかも忘れて配ってしまって、それがどこにあるのか、回収もできないことがある。まだ製品になる前に、撮影した俳優とか人気の人の映像がどこかに行ってしまう可能性があるんです。そうした流出が問われた時代があって、そのときはデータをどうやって見るか?DVD焼いちゃいけないという映像会社もあったし、かといってフィルムはなくしてしまったし......というなかで見つけたのが、iPadで観るということ」

大屋氏によると、米国の映画業界ではデジタルシネマへの移行とともに、撮影のデジタル部分をサポートするDIT (Digital Imaging Technician)という職種ができており、PE Rush!はそうしたスタッフが使うためのツールから、これは日本でも使えるだろうという機能を取り入れたもの。

海外の映像制作ソフトウェア会社が開発するアプリをベースとしていますが、独自の改良や日本発のフィードバックで追加された機能もあります。具体的には透かし(ウォーターマーク)の追加など。またiPad上でのグレーディングも、リクエストとして出したところちょうど本体でも検討中で、ピクチャーエレメントからのフィードバックを踏まえて実装された機能です。

「そうこうするうちに、iPadの色再現性が映画と同じ(DCI) P3になってくれた」(大屋氏)。ピクチャーエレメントのサービスとしては、同一世代のiPad Pro本体も込みでレンタル提供することで環境を統一しています。

佐藤監督「モニタでチェックする場合は、マスターモニターといってもそのモニタってどうなの?黒すぎるんじゃないの?とか疑惑が残るんですけど、iPadの場合は基本的には同じ設定で見ているじゃないですか。同じものを見ている安心感がある」

PE RUSH!用のiPad Proは、セキュリティ確保のためもあり原則的にはアプリ込みで専用ですが、監督だけは特別に、他の作業にも使う私物のiPad Proにインストールして使っているとのこと(ただし、いざとなればリモートワイプなどセキュリティ対策は施しているそうです)。

(Apple.comのピクチャーエレメント事例紹介ページ)

東宝

佐藤組デジタル化の道

ラッシュ確認以外、もっと広い意味で邦画のゲンバはどう回っているのか、デジタル技術やサービスはどう使われているのか、佐藤組の場合をお伺いしました。

・スタッフのコミュニケーションに使われるのは主に(いまだに)メール。LINEは禁止されている現場も多いものの、やはり使われることが多い(同報メールがLINEグループで流されるなど)。

・映画制作用のアプリではなく、作品ごとに閉じたツールでもないため、誤配信などの問題も発生する。たとえば宛先の自動補完で誤った相手に未公開作品の情報を送ってしまうなどの事故も。そのため敢えて便利な機能を提供していないアプリや手段を選ぶこともある。


大規模なプロジェクトの管理やワークフロー効率化には、業界によってアプリや専用サービスといったIT化の支援が進んでいるところもありますが、映画業界ではまだまだ導入が進んでいないようです。

佐藤監督「正直、(映像制作プロジェクトの)専用アプリがもっとあって良いと思ってるんですよ。本当に少ないので、今からじゃないかなと。案自体は僕も色々と思いつくんです。こういうのが欲しい!って。

ただやっぱりそれを作って、回収するまで持ってゆく、そこまでたくさんの人に使ってもらう、となるとなかなか難しい。投資として、ならないかもしれないけれど、作ってもらいたいな、と思ってます」

・撮影前の段階では、資料・台本・絵コンテをクラウドで共有。ここ数年で導入されるようになった。共有するのはPDFやWord文書、画像、動画など。

・原作物の原作マンガなどは、100% iPad Proで見ている。物理的に持ち歩けない原作もすべて持ち歩いてすぐ確認できる。縦でみれば原画に近いイメージ。

・以前はとにかく膨大な紙のコピー。ひたすら印刷、バージョンが変わるごとにまたコピー、夜遅くまで残ってコピー。台本などは頻繁に書き換わるが、互いにバージョン違いを持っていては困るので頻繁にコピー。

・取り込んだPDFやテキストファイル、ノートアプリを通じたクラウド共有を導入した現在も、膨大な紙は共存している。

・シナリオについては、佐藤監督は台本をテキストファイル(word)化した字コンテも導入。台本への書き込みで修正指示は大変だが、テキストならばiPadで、立ったままでもカット順の書き換えまでできる。

・現場での変更点は、かつては「ここはこうします」と宣言して、全員がそれぞれの台本などメモすることでアップデートしていた。テキストならばともかく、絵が絡むと途端に遅くなっていた。現在はiPad Proと手書きノートアプリのGEMBA Note(ゲンバノート)を導入して、最新バージョンを常に共有できる。

・iPad ProとApple Pencilが登場する前は、サードパーティのiPad用スタイラスを使い、色々なメモアプリで手描きしてDropboxに上げていた。

佐藤組デジタルホラー


田口氏「絵コンテや資料、素材を共有するために以前はDropboxを使っていたのですが、みな使い方がいまひとつ分かっていなかったので、(クラウドと同期するローカルフォルダの)容量が満杯になったからと削除してしまう人がいて......二回くらいありましたね」

佐藤監督「撮影が終わったあと、僕らは編集作業でそこから何か月も、逆に以前より頻繁に見るのだけれど、終わったスタッフは次の現場にゆくから、もう前のは要らないやって捨ててしまうんですよ。ポイって。それである日見ると、ぼくのも全部消えてたり(笑)」。


現在はクラウド共有にピクチャーエレメントの提供するセキュアなストレージサービスPE Cloudを使用するようになり、誰かが勝手に消してしまう事故は発生しないようになったそうです。

後編に続きます




「TechCrunch Tokyo 2019」11月14日、15日に開催



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