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iPadで変わる邦画の現場。『キングダム』『BLEACH』佐藤監督とPE大屋氏・スクリプター田口氏に訊く【後編】

カフェでiPad Proを観て号泣する男性が居たらもしかして……

Ittousai, @Ittousai_ej
2019年5月30日, 午後09:08 in ipad
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©TITE KUBO/SHUEISHA ©2018 "BLEACH" FILM PARTNERS

原泰久の人気漫画を原作に、興収40億円を超える大ヒット上映中の『キングダム』や、『BLEACH』『アイアムアヒーロー』など多くの作品を手がける佐藤信介監督。CGやデジタル撮影が当たり前になる一方、現場は未だに紙依存でデジタル化が進まないといわれる邦画界でも、佐藤監督は2010年発売の初代iPadから映画製作に活用してきたことで知られています。

『キングダム』『BLEACH』を含め最近の現場ではさらにiPadの導入を進め、監督だけでなく他のスタッフにとっても制作に不可欠な存在にまでなったとのこと。しかし企業の一括導入ならばともかく、スタッフの多くがフリーランスで作品ごとに集まる邦画界で一体どう導入を進めたのか、WindowsやAndroidタブレットではなくiPadを選ぶ理由は本当にあるのか?等々の疑問が浮かびます。

そこで佐藤監督と、「佐藤組」参加も多くiPadをフル活用するスクリプター田口良子氏、映像制作全般に技術ソリューションを提供するピクチャーエレメント社のテクニカルプロデューサー大屋哲男氏のお三方にお話をうかがいました。

【この記事はインタビュー後編です。前編はこちら

辿り着いたGEMBA Note(ゲンバノート)

東宝

こうしてお話をうかがうと、佐藤組のデジタル化は何か多機能なプロジェクト管理やアセット管理などの制作支援ツールを導入したり、スタッフ全員がタブレットを持ってデジタルで仕事するように一気に置き換えたのではなく、むしろ今まで回っていた紙中心のワークフローと共存しつつ、個人単位で紙の不便を解消して効率化する道具としてiPad Proを導入していることが印象的です。

そこで大きな存在になるのが、iPadを「紙の上位版」にするアプリ。特に映画の完成に向けてすべての情報を一望して判断することが求められる監督と、補佐として監督とスタッフの橋渡しを担うスクリプターにとっては、刻々と変わる状況にすぐ対応できるインプット機能、できるだけロスを減らすコミュニケーション機能、そして既存の紙と互換性があり多数のスタッフに伝わるアウトプット機能を備えたソフトが必要です。

佐藤監督によれば、iPadの導入以来さまざまなメモアプリを遍歴したのち、最終的に辿り着いたのがMetaMojiの現場IT化向けノートアプリ GEMBA Note(ゲンバノート)。

MetaMojiといえば、ジャストシステムの創業者でもある浮川夫妻が2009年に創業した企業。手書き日本語入力のmazecや、テキストと手描きイラストや図形、画像、音声などを共存できるノートアプリ MetaMoji Noteでも知られています。

佐藤監督はかつて取材の際にテクノロジージャーナリストの西田宗千佳氏からMetaMojiのアプリについて伝えられていたことに加えて、ゲンバノートはネットでいち早く発見して試したスクリプター田口氏に薦められてから使うようになったそうです。

佐藤監督も田口氏も今では手放せないと語るゲンバノートは、「現場では紙の書式に記入して、帰社してからPC入力」の二度手間をなくすことが謳い文句の多機能なノートアプリ。文書の取り込みと手書きのほか、カレンダー連携や表計算統合、テンプレート作成、ToDo統合など多数の業務向け機能を備えます。

お二人にうかがうと、ゲンバノートが佐藤組のゲンバで便利なのは、取り込んだ絵コンテや台本にその場ですばやく指示や注釈、図を手描きして追加できること、その際に拡大縮小やコピペ、移動、図形描画支援、テンプレート貼り付けなど実物の紙ではできない「デジタルな紙」ならではの機能が使えること、そしてひとつのノートをシェアして同時編集できること。




たとえば単純に、指示を手書きしているうちに余白がなくなった場合、選択してズームしたり移動ができます。紙をただ再現したようでいて、アナログの切り貼りでは手間がかかりすぎてその場ではとてもできない作業です。

佐藤監督「現場はアナログな世界というか、本当に忙しいので、瞬間瞬間で判断をしなければならない。色々な変更もかかってくるし、頭の中がぐちゃぐちゃになりかねない。ハプニングも起きるし。(逆に、)瞬発的に思いついたことが良いね!となってババッと変わったりもする。

常に中枢の近くで聞き耳を立ててないと、周りにその変更が伝わっていなかったり。説明するのだけど、口頭では説明しているこっちは分かっていても、聞いているほうは良く分からない、伝言ゲームになってしまうこともある。それで、要するに次は何撮るの?ということが起こってしまう。

(これまでは)絵コンテでそういった急な変更があったところで、順番を入れ替えて新しい絵を描いて、ということは不可能だったんですよ。それが今は、MetaMojiのゲンバノートがシェア機能を持っているおかげで、こうしたい!ってパパッとメモるじゃないですか。すぐに次の仕事をしなければならないときでも、そのあいだに田口さんにきれいに清書してもらうこともできるんです。

ぼくが役者さんに説明しているあいだに、ぱっと自分のiPadを見ると、すっかり書き換わった絵コンテがここにある。シェアしている人にはみんな見られるし、編集部にも逐一、現場でいま何を撮っているか、書き換わっていることが分かる」。

東宝

スクリプター田口氏のデジタル転向


佐藤監督「ぼくもiPadでだいぶデジタルドアが広がっていってるけれど、田口さんの仕事は昔すべて紙だったのが、いまでは全部デジタルに置き換わってます」。iPadは良いよ~手書きできるから、と監督は以前から薦めていたものの、大きく変わったのはiPad Proが出てから。

田口氏 「前まではスタイラスペンというものが、頭でイメージした文字がまったく書けなかったんですね。でもこのApple Pencilでは、そのまま思ったとおりに書ける。なんならちょっとキレイに書けるので、絶対これは使えるな、と思いました。それまでは、Proになるまでは無理でした」(大屋氏も「この手書き、キレイに書けるよね?紙に書くよりきれいに書ける。」)

佐藤監督「今でも覚えているんですけど、田口さんが半信半疑でiPad Proを「えー、ほんと使えるんですか?」って感じで手書きしてるうちに、あれ?満更でもないかな?って表情が変わってきた。その瞬間を隣でビデオで撮ってたんですけど(笑)」

田口氏「すべてのことを台本にびっしり手書きしていたのが、デジタル化するからといって、じゃあエクセルのようなもので入力してゆくのかというとそうでもなくて。手書きを手書きのまま、全部デジタルになってゆくのが効率が良かったですね」。

手描きならではの利点としてはこのほか、元の印刷されたテキストに埋没せず、後から編集部が確認する際に目がゆきやすいことも挙げます。

田口氏「(あとから確認する立場からすると)手書きのほうが嬉しいとはよく聞くんです。だから、結果これがベストなのかな、と。」

かつては佐藤監督だけが「全員に白い目で見られつつ」iPadを持ち込んでいたのが、田口氏の転向を筆頭に、最近になって急速に映画スタッフのあいだで導入が進み、現場でも持っている人が増えつつあるといいます。

佐藤監督「最近やっとどんどん広がっていて、操作を訊かれたり。どこかに潮目があった気がしますね。ずっと白い目でしか見られてなかったんだけど、あるとき「どう?」と訊かれ始める始めるタイミングがあって。「僕も買いましたよー!」とか、制作部が写真を見せるのがiPadになったり。抵抗される側から、こうして取材が来るまでになって」。

大屋氏「職人は自分の道具を大事にする人ばかりだから、新しいものを渡すと抵抗があるんです。でも逆に意外と職人の方が、良い道具と分かるとすごく使ってくれたりする。描いてみて、こんな書き味なの?と。」

iPad Proを導入したデジタル仕事術の講義もするようになった田口氏によると、使い方を教えて欲しいという人が増えたのは第三世代iPad Pro(2018)が出たあたりから。 やはり分水嶺はApple Pencilで手書き精度が大幅に向上した初代 iPad Pro登場と、外観も変わりさらにPro仕様に舵を切った第三世代(2018年モデル)にあったようです。

まさかの画面撮り・監督が欲しいもの


ラッシュチェックにPE RUSH!、紙と共存する上位版としてのゲンバノートを活用する佐藤監督にも、あれば便利なのに、と思うものはまだまだあると語ります。ひとつは使いやすい絵コンテ専用ツール。もうひとつは、たったいま撮影したものを簡易的に、ぱっと編集して確認する方法。

佐藤監督「意外と、今撮ったやつをパパッと編集したい!と思っても、簡易的にはできない。しっかりとしたシステムを組めばできるとしても。いま3カット撮ったけど、追加で撮る必要があるか?と確認したいだけなんです。1シーン全部編集して、良かったか確認するような必要はまたくないんですけど。意外となかったりして。仕方ないからiPadで(カメラの)モニタを撮影して、iMovieでチョコチョコと編集してます」。

「GANTZのころ iPhoneで同じことをやっていて、いつかこれ簡単にできるようになるんだろうな、と思っていたら、10年後もまだやっている(笑)」

「ただ、原始的なようでいて、カメラがついてないとできない。アナログとデジタルの狭間なんですけど、意外とこれが一番早かったりする。どうやって取り込むかを最初は考えていたんですけど、撮っちゃったほうが早くねえか?と。」

佐藤監督はいわゆるプリビズ、ビデオコンテを早くから導入しており、ここでもiPadは活躍します。特にアクションやCGで仕上げる複雑なシーンであるほど、スタッフが仮に演じたものを手元で撮って、みずから編集して、iPadで確認するプロセスを通じてアイデアを練り、最終的に撮影する映像につなげるプロセスを踏んでいるとのこと。

BLEACHの撮影最終シーンは「手で演じたクモ型ホロウ」

田口氏「BLEACHで思い出したんですけど、3D CGの敵だからCGができる前の編集に困って、グリーンバックにでクモのようなクリーチャーを演じて撮りましたよね。iPhoneかなにかで。それを入れて編集してましたよね」

佐藤監督「そう、BLEACHの撮影最終日は、手でクモの動きをこうやっているのを、iPhoneで撮るっていう(笑)。誰も居なくなったあと、三人か四人くらいで」「意外と、アナログなことが役に立ったりするんです」

全部デジタル化しない良さ


佐藤監督「デジタル化というと、いきおい全部デジタル化しようとするじゃないですか。そうじゃなくて、うまく利用して、いままでこんなことしなかったよね、といったことのアナログ感がふっと手助けで入ると、効率がものすごく上がったりするんですよ。全部デジタル化しようとするとまた違うのだけど、ちょっと手助けすると変わってくる。

「いまAIと人間が共同作業することによって、AIだけよりも良くなるんじゃないか?と言われているじゃないですか。それと同じで、全部デジタルにしようとするとそれはそれで難しいのだけれど、ちょっとわれわれの変なアイデアを足して共同作業するとものすごく効率化したり、これまで絶対できなかったことができたり。そうしたことを経験してますね。笑ってしまうのだけど、意外とそれが一番良い、みたいな」

iPadに期待すること


このようにiPad Proをフル活用する佐藤組ですが、まだiPadに足りないところ、こうなってほしいという部分はあるのかについても教えていただきました。たとえば、iPad Proのディスプレイが4K解像度に対応したり、有機ELの採用でさらにダイナミックレンジが広がりHDRも確認できるようになったら?

佐藤監督「iPadはいろんなことに使ってるんですよね。自分以外の映画を観るときにも使ってるので、そのときには(ディスプレイ品質が)どんどん上がってほしいと思うし。

映画製作上、監督って立場でいうと、だいたいこれで不満があるわけではないですよ。すばらしいと思っています。でもたとえば撮影監督が、もっと完璧にしたい!と思っていたりするなら、もう少し欲しいのかもしれないですけれど。今後は4K8Kだとか。Netflixも4Kがマストなので。そうなってきたときにどう見えるのかで、もっと上がって欲しいと思う人もいるのかもしれないですね」

「ただそれでもしバッテリーの保ちが短くなったりだとかであれば、いまのこの感じがベストですね。ひとくちにiPad Proと言ったって、結構いろいろなところで使っているので、贅沢言ったらキリがないというか。」

大屋氏「(ディスプレイの)クオリティが上がってきて変わったことといえば、昔のiPadの場合はそれで見て画質が悪いとか色がおかしいとかクレームがあったときに、ああ、それではちゃんと見えてないですからこっちで見てください、というものを用意していたけれど、最近これ(iPad Pro)で起きてることはほぼほぼマスターモニター上でも起きているので、ジャッジできてしまうんですよ。

PE Rush!に上げるときにコーデックとしてクオリティを下げてしまっていると、そこから先は当然判断できないですけれども。そういう意味で、クオリティを上げてしまえば、全体的な環境、たとえばWiFiのスピードが上がりました、サーバの容量が1TBから1ペタになりましたとなると、当然そういうデータを飛ばしてくれるかもしれない。

そうなると、大きなスクリーンで見なくてもiPad Proで拡大して、やっぱりこの人ニキビが映ってるから消そうよ、とかができてしまう。合成のジャッジなんかも、iPadで見えなければOKとなるかもしれない。そうなるともっとチェック体制が変わることはあるかもしれません。ただiPadだけではなくて、いろいろな条件が複合的に揃えば、iPadで映像の仕事ができる範囲が広がる可能性はあります」。


佐藤監督「画質についていえば、編集が始まると二時間の作品を通しで何回も観るんですよ。もうイヤってくらい観るんです。そうすると、もちろんスクリーンや大きなモニターで二時間見て、ここはもうちょっとだな、とか、あるいは感動した!とか、もう他の人がなんと言おうが俺が感動したんだからいいやもう本当にこれで、みたいな判断をする。

そういうときに、編集部ではこういう大きなモニターで観るわけなんですけど、映画は本当はスクリーンで観るじゃないですか。たまには試写室を借りて大きなスクリーンでみようよということもあります。

これは僕だけかも......いや僕だけなんですけれど、逆にこういう(iPadのような)小さなスクリーンで見たときにどうなんだ?と。映画は公開が終わってしまうと、モニタで見る人がほとんどになりますよね。ここから先10年、20年を考えると、iPadのような端末で見る人が増えてくるわけじゃないですか。DVD、BD、ビデオの時代にしたって、この名作、劇場で見たこと無いな、ということがよくあるわけで。そう考えると、こういう端末でも見ておこうかな、ということが最近良くあって。

僕がよくやるのは喫茶店とかに持っていてって、一人こっそり二時間見たときに、ちゃんと伝わってくるのかな?画面がでかいから誤魔化されてるんじゃないかな?と確認するうえでも、まあiPhoneで観ることはさすがにないけれど、iPad Proくらいの大きさになると、こうテーブルに置いて観て、良かったかどうかを確認することがよくあって。

意外とね、こうヘッドホンで見ていると、すっごい集中できたりして。ひとりボロ泣きしてることがあるんです。まあ自己満足も良いところなんですけど。」

--それはご自分の作品で......?

「もちろんですよ!(力強く)」

お話をうかがって


印象的だったのは、撮影がデジタルでもワークフローはまだアナログで紙中心な邦画の現場を、トップダウンで一気に入れ替えるのではなく、紙あるいは手書きと属人的なアジャイルさはそのまま、個人の能力を拡張する道具としてのiPadが活躍していること。

それにはもちろん、大規模なゲーム開発やCG制作会社で使われるようなワークフローマネジメントソフトウェアを導入しようにも、離散集合するフリーランスの集団なのでトップダウンが難しいという現実的な事情があり、監督自身も映画制作現場向けのアプリやサービスがもっとあっていい、アイデアはあると述べているように、ちょうど使いやすい包括的なソリューションが見つかっていないという理由もあります。

しかし比較的少人数なクリエイティブの現場で、特に監督個人に判断が集中する究極の属人的環境であれば、結局はその個人のインプット・アウトプット・コミュニケーション能力を拡張することが、もっとも全体の効率化につながるということでもあります。

データの再利用性がない、検索できないと忌み嫌われる紙も、複製コストが異様に安く、書き換え不能でも書き込みは可能、なにより電源不要で壊れにくい表示伝達デバイスと捉えれば、iPadは一枚のコストが高くても書き換え可能・取り込み可能で数千数万枚分になり、Pencilの登場により紙以上の書き込み能力を備え、かつ無線で他のデバイスに瞬時に、あるいはプリンタを介して他の紙に出力共有できる「ハイブリッドな紙」ということもできます。

紙と手書きが非効率、従来的な「コンピュータ」とデジタルデータ中心が効率的であり、「アナログ」からそちら側に移行することがデジタル化であり善であるという、ある意味素朴な先入観がどこかまだありましたが、紙と共存する佐藤組のiPad活用が示すように、人に近いアナログの良さにデジタルが近づいてゆくことがむしろ現代のコンピュータの進歩であり、個人の眼と手にもっとも近い存在としてそれを象徴するのが、現時点ではiPadということになるのかもしれません。アップルがもっとも安価な無印 iPadまで、オーバーキルにも思える高精度なApple Pencilに対応させてきた動きも、こう考えると示唆的でもあります。




「TechCrunch Tokyo 2019」11月14日、15日に開催



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