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「2年縛り」違約金が1000円に。行政が携帯キャリアへの介入を強める理由:佐野正弘のITトレンドウォッチ

先行きは不透明

佐野正弘(Masahiro Sano)
2019年6月22日, 午前09:00 in Business
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携帯電話会社が2年間の契約を求める代わりに料金を割り引く、俗に「2年縛り」と呼ばれる仕組み。総務省の「モバイル市場の競争環境に関する研究会」で、その中途解約時の解除料を、現行の9500円から1000円と大幅な引き下げを求める案を打ち出したことが、大きな話題となっています。

筆者も2019年6月18日に実施された第15回の同会議を傍聴したのですが、提示された案に関して有識者からの疑問や議論不足の指摘が相次ぎ、行政側の強引さが目立つ印象を受けました。しかしなぜ、行政側は"行き過ぎ"と言われるほどの介入をしてまで携帯電話業界のビジネスを大きく変えようとしているのでしょうか。これまでの経緯を大まかに振り返りながら、考えていきたいと思います。

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▲「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第15回会合。"2年縛り"の違約金や端末の値引き額に関しする議論がなされたが、総務省側の強引な姿勢が目立っていた印象

筆者が記憶する限りですが、行政側から携帯電話業界の商習慣を大幅に見直そうという動きが出たのは、2007年に実施された有識者会議「モバイルビジネス研究会」が最初だったと言えます。この会議は、携帯電話市場のさらなる活性化のために多様なビジネスモデルを作り出すことを目的としたもので、それを妨げている主な要素の1つとして挙げられていたのが、大手携帯電話会社主体のビジネスモデルです。

2007年頃の日本の携帯電話市場は、携帯電話会社がネットワークだけでなく、端末、そして「iモード」などのサービスに至るまで、全てを取り仕切る垂直統合型のビジネスが主流でした。一方でこの時期には既に携帯電話市場が飽和しており、携帯電話会社も再編が進んだことで、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル(現在はソフトバンク)、そしてPHSを展開するウィルコムの4社に減少。同年にイー・モバイル(後にイー・アクセスに統合)が参入して5社に増えたものの、競争は停滞傾向にあった訳です。

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▲フィーチャーフォンを主体としたスマートフォン以前の携帯電話会社は、ネットワークから端末、サービスまで全てを自社で揃えるビジネスを主体に展開していました

そこでモバイルビジネス研究会では、市場活性化のため通信と端末、サービスを自由に選べる水平分離型のオープンな市場を作り出すことを重視。MVNOによる新規参入などさまざまな側面での話し合いが進められたのですが、そうしたオープンな市場を作り上げる上での障壁とされたのが、「SIMロック」と「販売奨励金」です。

従来の携帯電話会社のビジネスは、販売奨励金で携帯電話の端末価格を"0円"にするように大幅な値引き販売を行い、その分を毎月の通信料から回収するというのが一般的でした。それゆえ短期間で解約されてしまうと端末値引き分の料金が回収できなくなってしまうことから、そのリスクを避けるために他社のSIMを挿入して利用できないよう、SIMロックをかけていた訳です。

ですがこの仕組みは、端末を買い替えない人が損をする不公平感があり、なおかつ料金体系が複雑になるとして問題視されていました。その結果、通信料金と端末代金を分離する「分離プラン」の導入検討を求めるよう結論付けられたのです。ですが、販売奨励金の廃止について「必ずしも妥当とは言えない」と結論付けられていますし、SIMロック解除に関しても、当時は携帯電話会社によって通信方式が異なるなどSIMロック以外の問題も多く存在したため、この時点では見送られています(2010年に再び議論がなされ、任意でSIMロック解除をするようガイドラインが策定されています)。

とはいうものの、モバイルビジネス研究会の結果を受けて各社が2007年より分離プランの導入を進めたことで、販売奨励金は抑制の方向に向かっていきました。ですがその代わりに値引きがなくなったことで端末価格は高騰、端末販売が1年で3割以上減少するなど、市場を大幅に冷え込ませることとなったのです。

加えて2006年にはソフトバンクモバイルが、端末を2年の割賦を前提に購入する代わりに料金を割り引く「スーパーボーナス」、2007年にはKDDIが、現在の2年縛りの基礎にもなる「誰でも割」を提供。顧客の囲い込みに力を入れるようになったことで、携帯電話会社間の競争はむしろ停滞へと向かっていきました。

その流れを大きく変えたのは、スマートフォンです。2008年に「iPhone 3G」が発売されて以降、日本でもスマートフォンに対する関心が急速に高まり、フィーチャーフォンからの買い替えが急増することで携帯電話市場の競争が再び盛り上がっていったのです。

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▲iPhoneの登場以降、スマートフォンへの買い替えが急加速したことで市場は活性化したものの、その競争軸は端末代の値引きへと向かっていきました

しかし、その盛り上がりによって、携帯電話各社が他社から顧客を奪うべく、番号ポータビリティで他社から乗り換えた顧客を重視したスマートフォンの大幅値引きにものすごく力を入れたことが、行政の判断に大きな影響を与えたと言えます。実際この値引き競争は異常といえるほどの盛り上がりを見せ、最盛期となる2014年の春頃には、乗り換えユーザーは最新のiPhoneが0円で手に入るだけでなく、さらに数万円、家族全員で乗り換えれば数十万円もの莫大なキャッシュバックがもらえる状況にまで至ったのです。

携帯電話会社としては、全てのユーザーの料金を引き下げる必要がある通信料金の値下げよりも、適用されるユーザーが限定される端末代の大幅値下げの方が、ビジネスに与える影響が小さいうえに顧客獲得に繋がりやすいことから、そちらを重視する戦略を取り続けたのだと考えられます。ただ、ここまで競争が過熱してしまうと、スマートフォンを積極的に買い替える人と、そうでない人との間の不公平感が一層高まってしまうことは事実です。

その一方で、競争激化の余波を受ける形でウィルコムとイー・アクセスがソフトバンク傘下となり、市場は3社の寡占体制となっていきました。そこで総務省は、MVNOを増やすことで市場競争を強化する方針を打ち出し、一時は成功したように見えたのですが、携帯電話大手の料金引き下げや、サブブランドなどによる低価格戦略の強化によって、最近は停滞傾向にあります。

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▲2012年には現在のソフトバンクグループに当たるソフトバンクが、イー・アクセスを統合するなど再編が進んだことで、現在携帯電話市場は3社の寡占となっています

プレーヤーが減少し市場が停滞する中にありながら、携帯電話会社同士の"行き過ぎ"た販売戦略が横行し、競争の軸がゆがんでしまったこと。それが行政側の怒りを買って強硬な姿勢を強めるに至った訳です。実際、2014年以降に総務省が実施した有識者会議の議論とその結果を見ると、モバイルビジネス研究会の時と比べ慎重さよりも、強硬さが目立つ印象を受けます。

具体的な例を挙げますと、2014年に総務省のICTサービス安心・安全研究会が実施した「消費者保護ルールの見直し・充実に関するWG」での議論では、それまで任意だったSIMロックの解除を、義務化することが決定しています。さらに同年、安倍晋三首相が携帯電話料金引き下げに言及したことを受けて実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の議論では、それまで一般的に容認されていたスマートフォンの「実質0円」販売を、事実上禁止することが決められました。

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▲それまで携帯電話会社の任意であったSIMロックの解除が、2014年の議論を経て2015年には義務化。MVNOにとっては歓迎する施策であったことから、楽天モバイルでは義務化を記念したキャンペーンを実施

そして2018年には、菅義偉官房長官が「携帯電話料金は4割引き下げる余地がある」と発言したことを受ける形で「モバイル市場の競争環境に関する研究会」が実施されました。分離プランの義務化や販売代理店の登録制の導入、そして2年縛りの違約金を1000円に引き下げ、端末値引きの額上限を2万円にするなど、従来の携帯電話の商習慣を根底から覆すような措置が次々と打ち出されています。

しかしながら、"行き過ぎ"が良い結果をもたらさないというのは、民間も行政も同じはずです。自由化がなされているはずの日本の携帯電話市場で、有識者からでさえ異論が出るほどの行政による強硬な市場介入が、どのような結果をもたらすのか非常に不安だというのが、筆者の今の正直な気持ちでもあります。



「TechCrunch Tokyo 2019」11月14日、15日に開催



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