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CERNの大型ハドロン衝突型加速器!ビッグバンのロマンと未来に思いを馳せる(スイスTech探訪 Vol.4)

ヒッグス粒子を発見したCERNの大型ハドロン衝突型加速器を見学

Marika Watanabe
2019年12月12日, 午後12:15 in Swiss
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「水兵リーベ僕の船......」――試験前、元素記号周期表を暗記するために、この呪文を唱えたことのある人は多いのではないでしょうか?

元素は、原子核とそれを回る電子をセットにした原子から、原子の中心となる原子核は、さらに小さい陽子と中性子を材料としています。

まだ続きがあります。陽子や中性子は「素粒子」と呼ばれるさらに小さな粒――クォークやレプトンからできています。言い換えてみれば、わたしたちも、身の回りのものも、宇宙も、全ての材料がクォークやレプトンである、ということです。

とはいえ、クォークやレプトンは、重さがなく(!)光速で飛び回るのが本来の姿。「え? でも、空気にさえ重さがあるよね?」と思いますよね。その「重さ」をクォークやレプトンに与えているのが、2013年にノーベル物理学賞を受賞したフランソワ・アングレール氏とピーター・ヒッグス氏の研究対象である「ヒッグス粒子」なんです。

そして、あるだろうと仮定されていたヒッグス粒子を観測した実験施設が、スイスとフランスにまたがるCERN(セルン、欧州原子核研究機構)の世界最大のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)です。

スイスメディアツアーの最終日、CERNのLHCがもつ4つの観測施設のうち、ATLAS(アトラス)とALICE(アリス)を見学することができました。

CERN_02

山手線とほぼ同じ大きさ――全周27kmのチューブをぐるぐる陽子ビームが周る

CERNやLHCについて、まず概要をお伝えします。

CERNは、1954年に「平和のための科学」を掲げ、欧州12カ国の国際的研究機関として設立。現在の加盟国は23に上ります。そのミッションは人類知の協会を押し広げることや加速器と検出器の新しいテクノロジーを開発すること、明日の科学者や技術者を養成すること、異なる国や文化を持った人々を結びつけること。特に、人類知ということに関しては、宇宙の始まりについて解明することに焦点を合わせています。

宇宙がビッグバンで始まった、というのはよく知られている仮設ですが、そのときには膨大なエネルギーの影響があったはず。というわけで、「モノ」にそのときと同じほどのエネルギー(スピードを加えることで行える)を与えるため、CERNのLHCは巨大な施設となっています。

CERN_03

大きすぎて写真に収まっていませんが、スイスとフランスにまたがる全周27kmのパイプを加速器として使っています。山手線の全周が約34.5kmなので、なんとなく規模感は想像つくことでしょう。

では、そのパイプの中で何をしているのでしょうか?

それは、原子核を構成している陽子(プラスの電荷を持っている)を、巨大で強力な磁場により勢いよく押し出して陽子のビームを作り、衝突させる、という実験を行っているのです。勢いよくぶつけることで陽子ばらばらに分解し、陽子に含まれると仮定される未観測のヒッグス粒子を見つけよう、というわけです。

速度を限りなく光の速さに近づけるため、パイプの中にはいくつもの磁石が効率よく配置されているだけでなく、摩擦抵抗がなくなる超電導の空間を作るため、真空状態になっていますし、約5万Lの液体ヘリウムでパイプ内を-270℃に冷やしています。そして、ソフトボールのピッチャーが腕を数回転させることで球威を出すように、小さい円から中くらいの円を通り、最終的に全周27kmの巨大な円に陽子ビームを送り出します。

こうして送り出された陽子ビームは、ほぼ光の速さでパイプの中を通過します。

もちろん、通過するだけでは意味がないので、衝突する仕組みも作ってあります。パイプの中に2本のチューブを通し、それぞれ時計回り、反時計回りで陽子ビームを飛ばし、検出器のある観測所でその2つを1本にしてぶつける、というわけです。

原子核ですらかなり小さい(大雑把にいえば1000兆分の1m)のに、陽子はその材料ですから、さらに小さくなります。それを衝突させたり、そこから放出される物質を観測するのには精密さが求められます。スイス ジュネーブ郊外とフランスの国境付近は、ほぼ地震が起きない、ということから、地理的にもぴったりだということができるでしょう。

ヒッグス粒子を観測したATLAS


CERN研究所の観測所のひとつ、ATLASに到着したわたしたちは、まず地下100mまで下りました。

......と思い込んでしまうほど、作り込まれたエレベーターらしき乗り物に乗り、実際に使われているものと同じ加速器のパイプを見学しました。



CERN_05▲ATLAS見学施設の入り口

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▲実際に加速器として使われているのと同じパイプ

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▲その中にはさらに2本のパイプが

青い筒はダイポールマグネット。N極とS極をそれぞれひとつずつ内蔵しており、緩いカーブを描いている加速器の中で陽子ビームを曲げるための装置です。長さは11mあり、これが27kmの全周のほとんどを占めている、とのことでした。

また、白い筒は極を増やし、ビームの広がりを抑えてコントロールする役割を持っています。

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▲工事を再現したもの。青い筒のほうが断然多い



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▲青い筒(ダイポール)の断面。上下にS極とN極の磁石があり、垂直方向に磁場が発生している。中央付近に左右に並んでいるパイプの中を陽子ビームが通過する。パイプの周りは頑丈な物質で固められており、万が一、温度が上昇し、パイプ内が膨張してもそれを抑え込む働きをする

2012年にヒッグス粒子を観測するという大きな功績を残したATLASですが、つまりわたしたちが訪問したときはメンテナンス中でした。
次のターゲットは宇宙の大部分を構成していると考えられている「ダークマター(暗黒物質)」の検出だそうです。

ビッグバン直後の状態を再現?――ALICE


ATLASを後にし、2つ目の観測所、ALICEに行きました。
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ATLASが陽子を衝突させた結果を観測し、どのような素粒子が出てきているのか、それらの性質は何かを調べているのに対し、ALICEでは重イオン(鉛などかなり重量のある原子核)同士の衝突を観測しています。

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▲衝突の結果飛び散った粒子とその動きをモニタリングしているディスプレイ。なお、ALICEは「A Large Ion Collider Experiment」の略

重イオンをぶつけてどうするのでしょうか? 重イオン同士を高エネルギーを持った状態(高速のスピードにまで加速させた状態)でぶつければ、ビッグバン直後にあったはずのクォーク・グルーオン・プラズマと呼ばれるものができるのではないかと考えられています。

ATLASでは、物に重さを与えるヒッグス粒子を調査していましたが、物を構成するクォークは、今の世界では単体で存在することはありません。グルーオンと呼ばれる非常に強い力でクォーク同士が繋がれている状態にあります。

これを、研究所では「クォークの閉じ込め」と呼んでいます。

クォークを閉じ込められた状態から開放してあげようじゃないか、というのがALICEの目指すところなのです。

もちろんこれは、クォークを自由にしてあげたいという理由ではなく、クォーク同士を引きはがすことで、ビッグバン直後の数マイクロ秒内の状態を再現したいからです。その短い時間、クォークとグルーオンは自由に(つまり無秩序に)飛び回っていたと考えられています。「クォークとグルーオンがスープのような状態で存在していた」と、細川律也博士。仮説を立証するだけでなく、そのときに何が起きたのか、詳細を調べるためにも実験をしているとのことでした。

CERN_20▲ALICEで説明をしてくださったTapan Nayak氏

ALICEの心臓部


この施設で何をしているのかレクチャーを受けた後、一般人が普段は立ち入れないALICEの心臓部ともいえる観測器(実物)のある場所に入れてもらえました。

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空洞になっていますが、ここは検出器を収めるスペースとなっています。向こう側に見える突起物はミューオン(レプトンの一種。ミュー粒子とも)検出のためのアブソーバー(ミューオン以外の不純物を濾過するもの)と呼ばれるもので、通常であれば検出器が邪魔をして、わたしたちの立ち位置からでは見えないのだとか。

なお、ミューオンに焦点を合わせているのは、発生するクォーク・グルーオン・プラズマの性質や情報を、より調べやすい素粒子だからです。

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▲これが、ミューオン(ミュー粒子)検出のためのアブソーバー

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▲中身がないだけでなく、メンテナンスのために左右に見える赤い扉が開いた状態だった。非常にレアな場面に遭遇できた

CERNは欧州12カ国によって設立されましたが、現在では遠く離れた日本もメンバーに加わっています。ALICEの実験にも広島大学、東京大学、筑波大学、奈良女子大学、長崎総合科学大学が正式参加しています。

通訳や案内を担当してくださったALICE 細川律也博士や、ATLAS 青木雅人博士も日本からの参加メンバーでした。

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▲細川律也博士研究員

138億年前のこと、100年後のこと


もともと重さのなかった物質の元 クォークに重さを与えたヒッグス粒子、物質として形を保たせるグルーオンとの結びつきなど、ビッグバン直後の状態を作り出せればなぜそれらが結びついたのか、生まれたのかを解明できます。

でも、そんな昔のことがわたしたちの生活にどう結びつくのでしょうか?

青木博士は「すぐに役立つことはないでしょう」と回答しつつ、次のように続けました。

「電子が発見されたとき、それは当時の人々の生活に何の役にも立ちませんでした。でも、電子の性質の応用は、現代人の生活を支えています。それと同じように、素粒子がなんであるかを知ったところで今すぐには役立たないかもしれませんが、50年後、100年後というスパンで見たときに、生活を変える何かになっていることでしょう。わたしたちの行っている基礎研究とは、そういうものなのです」

ニュースでときどきしか目にしないような研究が、将来の技術に結びついている、と考えると、それだけでワクワクしませんか?

過去を解明し、未来につなぐ。その研究の一端に直に触れられたスイス最終日でした。


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