今年も振り返るとApple製品について触れていることが多かったけれど、本誌読者ならApple製品を改めて紹介するまでもないだろう。

自社で半導体設計を行い、基本ソフトウェアまで作り、空間オーディオ配信や高品位な映像配信サービスまで行っているのだから、現在のAppleはスマートフォンからの一連のイノベーションの中で、ひとつ極まった立ち位置にいることは間違いない。

しかし、Apple自身が刷新した世界観の中で極めているだけに、そこから”逸脱した”製品が生まれにくいと感じたのが2021年だった。

もちろん、MacBook Proに搭載されたM1 Pro、M1 Maxという、ある意味、常識はずれの部品もあった。この2つのSoCは常識を逸脱しているとも言えるが、クリエイターの抱える問題解決のために力業で作ったSoCと言えなくもない。

関連記事:

M1 Pro搭載MacBook Proレビュー。高性能にも程がある、これぞプロ向けの「Pro」

そうした意味であえてエンガジェットではお馴染みのパソコンやスマートフォン"以外"の製品から、開発者の意気、魂を感じた3つの製品を今年の私的なMoving Products賞(心動かされた製品)として、何の副賞もないが選んでみた。

ソニー「HT-A9」

かつてソニーという名前だった企業は金融やらAIやらと、最終製品とは異なるところに企業価値を求めるようになった。これは時代の流れでもあるが、少しばかり寂しいと”感じない”理由は、新しくソニーという名前になった子会社が以前と変わらず、高付加価値の製品づくりに取り組んでいるからだ。

ポータブルオーディオやテレビは得意分野だが、今回はあえて「HT-A9」という少々価格が高めのホームシアターサウンド製品を真っ先に挙げたい。こいつは本当に優れものだ。

素晴らしい立体音響の環境を極めてシンプルに、設置の手間も最小限で得られる。22万円ほどの実売価格だが、ホームシアターサウンドを実現するための手間や設置環境を整えるコストを考えれば、むしろ安いと言える。

ソニーはこの製品の機能に「360 Spatial Sound Mapping」という名称を付けているが、これは従来の仮想サラウンドとはちょっと違う。波面合成というソニーが以前から取り組んできた技術(複数スピーカーが出す音波=空気の波がぶつかり合って新しい波を作る信号処理)を用いて、4つのスピーカーから12個ものの仮想音源を作り出す。

しかも、この4つのスピーカーはワイヤレス接続なうえ、大まかに画面の左右、自分より後方の左右に比較的適当に配置しておけば、内蔵するマイクを使って自動音場測定を行なってくれる。本当に誰でも手軽に立体音響環境を作り出せるのだ。

この12個の音源(仮想スピーカー)を使ってドルビーアトモス、DTS:X、360 Reality Audioといった立体音響の再現を行う。12の音源のうち1つは低い位置にあるサブウーファー(オプションで別途、サブウーファーを加えた方が良い結果になる)を除くと11個。いわゆる7.4.1の環境になる。

仮想音源なので、4つのスピーカーに囲まれた真ん中にいる方が良い結果が得られるが、意外にもピーキーではなく、家族でサラウンドを手軽に楽しめる。ワイヤレススピーカーが繋がるセンターユニットはコンパクトで、ラックの裏に隠すこともできるから、インテリアの雰囲気を壊さずにすむのもいい。この製品をナンバーワンに選ぶのは、製品の技術が素晴らしいこともあるが、今の時代に合っているからというのもある。

映像ストリーミングサービスが日本向け制作コンテンツを積極的に配信し始めたことで、NetflixやAmazonプライムビデオをはじめ、立体音響を組み合わせた映像コンテンツが増加している。さらにApple MusicやAmazon Music HDが立体音響技術を用いた音楽配信もはじめたことで、HT-A9のような製品が活躍する場面が増えている。

ということで、今年のナンバーワンはコイツ。ソニーにはこの技術をさらに磨き込んでいってほしい。

Noble Audio「FoKus PRO」

FoKus PRO

この製品は先日レビューしたばかりなので、改めて紹介し直す必要はないと思う。できればリンク先でレビュー記事を読んでいただければ幸いだ。

関連記事:

音質重視派にファイナルアンサー。Noble Audio「FoKus PRO」が頭2つほど抜け出した完全ワイヤレスイヤホンだった

FoKus PROは「フォーカスプロ」と読むそうで、なんとなくドイツ語っぽい表記がカッコいいからという理由で名付けられたそうだが、聴いてみるとフォーカス感よりも音場の広さが特徴。また装着感も極めて良い。

このモデルに限ったことではないが、Noble Audioのイヤーチップはグラフェンで強化したシリコンチップを使っており、他のイヤーチップに比べて薄く仕上げられているため、耳に馴染みやすく当たりが柔らかいのだ。

ケース蓋の開閉が安っぽかったり、取り出しにコツが必要で何度も落としそうになったり(今では慣れたが)という問題はあるものの、それを超える音質体験がある。コンパクトなサイズやハンドリングの良さを考えれば、音質重視派も有線イヤホン+TWSアダプタではなくこいつを買った方が幸せかもしれないと思う。

ただしこの製品、使いはじめ最初はあまり良い印象ではないかもしれない。基本的な部分の音質がいいので”ダメ”とは感じないだろうが、5万円から5万5000円ぐらいの実売で推移しているこの製品の価格には見合わないと思う人もいるだろう。要はバーンイン、エージングにすごく時間がかかるタイプの製品なのだ。

鳴らしはじめは低域過多で高域も硬い印象だが、数時間で解れ始める。ただし、それでも数日間は低域のボリューム感が多すぎると感じるかもしれない。毎日使って1週間から10日ぐらいすれば、ほぼほぼ変化はなくなるはず。エージングには否定派もいるが、ダイナミックドライバが8.2ミリと大口径なこともあるのだろう、購入することがあるなら、しばらく判断を下さないほうがいいとだけアドバイスしておきたい。

バッテリ交換ができないイヤホンに5万円以上を出すかどうか? という根本的な価値観が合わないなら買いではないが、純粋に音質だけで評価するならば、これ以上のTWS製品はない。

パナソニック「DMR-ZR1」

パナソニックが発売した久々の高級ブルーレイレコーダーである。30万円台後半から40万円程度の高級機を何度も発売してきたパナソニックだが、今回の製品はその決定版とも言うべきものだ。

実は音質に関してはまだ評価できていないため、音質評価は来年に予定しているのだが、画質に関しては本当に素晴らしい。あらかじめ「それってプラセボでしょ」と言う人が出てくることはわかっているがあえて書いておくと、録画系のユーザーインターフェイスなどは最新になっているものの、パナソニックが独走状態のクロマアップサンプリングをはじめとする再生時の映像信号、音声信号処理に関しては、高級UHDブルーレイプレーヤーの「DP-UB9000」からほとんど変わっていない。

DP-UB9000が独走状態だったので、変わる必要がないとも言えるが、このDP-UB9000を4Kレコーダー化するにあたって、パナソニックはアナログ信号出力を削除。HDMIからの映像、音声出力だけに特化する設計にした。

その上で、アナログ向けに割り振っていた独立電源回路をドライブ周りを独立させる回路に割り当て、振動を発生させるHDDのマウント方式を変更。手で触っても振動を感じさせないぐらいに抑えている。この電源の独立と、HDMI出力回路やデジタル処理回路周りに配置したノイズの回り込みを防ぐアイソレータ素子で画質と音質を抑え込んでいるわけだ。

このあたりは映画作品での黒諧調の滑らかさ、ざわつきの少なさによく出る。白ピークもなぜか上がって見えるのは、黒の表現が抑制的かつ滑らかだからだろうか。NHKが放送している「陰翳礼賛」を観ると、黒の中に黒で描かれる微妙なニュアンスが見事に浮かび上がってきた。

……と、これ以上、言及し始めるとマニアックすぎて引いてしまう人が続出になるのでやめておくが、音声出力専用にしたHDMI端子には特に徹底して映像出力HDMIからの高周波ノイズ回り込みを防ぐ対策が施されているそうで、いったいどんな音質になるのか今から楽しみだ。

2022年は新しいMacBook Airに期待

編集部からは求められていないが、せっかくなので来年の話も。

今年、MacBook Proに搭載されたM1 Pro、M1 Maxは素晴らしい仕上がりだったが、一方であらためてM1(無印)の優秀性、それを生かしたMacBook Airの良さも引き立てたように思う。しかし来年にはA14 BionicベースのM2?が出てきてもおかしくはないはずだ。

そしてこのM2?が搭載されるならMacBook Airになるだろう。なぜならM1搭載モデルはメカニカルな設計が維持されたままだからだ。だからこそ、Intelプロセッサ搭載機との違いを感じることもできたが、春ぐらいにはM1搭載のフルモデルチェンジ機がみられればいいなと期待している。

と言うことで皆さん、まだ記事は書くかもしれないけれど良いお年、良いデジタル製品ライフをお過ごしください。