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2022年を迎えた携帯電話業界。料金引き下げで携帯電話業界に嵐を巻き起こした菅義偉前首相が退任したことで、料金に関する動きは落ち着きつつありますが、新たに首相に就任した岸田文雄氏の影響で、今年は5Gを取り巻く動向に大きな変化が起きると筆者は予測しています。

そのことを示しているのが、岸田政権が掲げる「デジタル田園都市国家構想」です。これは要するに、少子高齢化が著しい地方のデジタルインフラ整備に力を入れ、都市部との格差をなくして地方活性化を推し進めるという政策になります。

そして、5Gが主要なデジタルインフラの1つとなることに間違いなく、携帯4社は岸田政権下で、地方での5Gエリア整備強化が求められる可能性が高いといえるでしょう。実際その傾向は、2021年末頃から既に表面化しつつあります。

1つは2021年12月17日に総務省が公開した、新たな5G向けの周波数帯である2.3GHz帯の割り当て指針案の内容です。この周波数帯は2022年4月から5月頃の割り当てが予定されているものです。同案を見ますとデジタル田園都市国家構想の実現のため、都市と地方での一体的な5G整備が期待されることから、5Gの整備が遅れている地方や、離島・山間部など条件不利地域でのエリア整備を重視している事業者をより高く評価するとしています。

▲総務省が公開した5G向け2.3GHz帯の割り当て指針案より。岸田政権が掲げる「デジタル田園都市構想」の実現に向け、地方でのエリア整備を高く評価しようとしている様子が伺える

実際、2.3GHz帯の比較審査に用いられる9つの審査項目を見ると、「認定から5年後における”現に5G基地局の整備が全国平均以下の都道府県の5G特定基地局”の開設数がより多いこと」の配点が18点と、9つの項目の中で配点が最も高いほか、「認定から5年後における”条件不利地域の5G特定基地局の開設数がより多いこと”」も12点と、高い配点がなされていることが分かります。

▲同じく2.3GHz帯の割り当て指針案より。5Gの整備が遅れている地方での5G特定基地局開設数の多さという項目が、他の項目より配点が高くなっていることが分かる

そしてもう1つは、総務省が2021年12月28日に、携帯4社に対して実施した要請です。これは分かりやすく言えば、携帯各社に対して5Gの基地局整備を加速するよう求めるもの。5Gのネットワーク整備はこれまで、各地域の基盤となる5G高度特定基地局を設置することを重視して進められてきましたが、これは面的なカバーを進めるための前準備に過ぎず、面でのエリアカバーを進めるには、5G高度特定基地局から張り出す5G基地局の設置が必要になります。

しかも3.7GHz帯や4.5GHz帯といった5G向けの周波数帯割り当て時に、携帯4社が提出した5G高度特定基地局設置数の計画を見ますと、細かな違いはあるもののいずれも2021〜2022年度末頃までは整備があまり進まず、2023〜2024年度から急加速させる予定となっています。5Gのエリア整備が進まない背景にはサービス開始の遅れだけでなく、携帯各社の整備計画自体が遅いことも影響している訳です。

▲総務省「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定に係る審査結果」より。3.7GHz帯などの免許割り当て時における各社の計画を見ると、2022年末頃までの5G高度特定基地局の設置数がかなり少ないことが分かる

そこで総務省は、「国民が5Gの恩恵を実感できるよう、5G高度特定基地局の整備に加えて、5G基地局(子局)の整備の加速による人口カバー率の向上も重要」とし、携帯各社に5Gの面的カバーを急ぐよう要請している訳ですその具体的な策としては、都道府県ごとの5G高度特定基地局と5G基地局の開設数、そして2025年度末までの各年度末における5G人口カバー率の計画を携帯各社に提出させ、なおかつ半期ごとに整備状況の報告を求めるとしています。

▲総務省が2021年12月28日に実施した、5G基地局整備の加速化に関する要請より。画像はNTTドコモ向けだが、他の3社にも同様の要請がなされている

こうして見れば、岸田政権下でいかに5Gのエリア整備を重視するようになったかを見て取ることができるでしょう。日本はただでさえ5Gのサービス開始が世界的に大きく遅れてしまっているだけに、政府が5Gの整備加速に重きを置くようになったこと自体はポジティブに筆者は見ています。

ただ、その実現に向けて気になるのが、菅前政権と岸田政権との政策の違いによって生じた問題です。菅前政権下では携帯各社に料金引き下げを迫り、結果として携帯各社は収益を大幅に悪化させ企業体力を落としているのですが、にもかかわらず岸田政権下では一転して5Gのエリア整備を急ぐ、つまり投資を大幅に増やすことが求められた訳ですから、各社が不満を募らせるのは想像に難くないでしょう。

しかも5Gはネットワーク自体がまだ発展途上ということもあって具体的な利活用方法の開拓が進んでおらず、現在はスマートフォンの通信速度を速くする程度の活用しかなされていません。5Gはスマートフォンにとってオーバースペックなネットワークと言われており、その実力を発揮するにはデバイス側の進化や変化が必要とされているのですが、それを主導するのは企業での活用になると見られているのです。

▲5Gでは高速大容量通信が必要なXRデバイスや、低遅延が求められる自動運転車などでの活用が注目されているが、まだスマートフォン以外での本格活用が進む段階には至っていない

そうした5Gを取り巻く状況と現状のエリア整備状況、そして先の5G高度特定基地局開設計画を見るに、携帯各社は当初の5G基地局を大都市圏に集中的に設置してスマートフォンでの5G利用者を増やし、5Gをフル活用できる高額な使い放題プランの利用を広げて収益を高めるとともに、企業との連携で新たなデバイスでの5G利活用手段を開拓。その上でエリアを地方へと広げ、自治体などでの活用を進めようとしていたのではないかと考えられます。

ですが各政権から一貫性のない要請が続いたことで、そうした計画が狂ってしまった感は否めないでしょう。それだけにデジタル田園都市国家構想を本気で実現するというのであれば、やはり政府が携帯各社に対して金銭面での明確な補助をすべきではないかと筆者は考えます。既に政府与党は、2021年度までに限られていた5Gの基地局整備に係る税の控除を2024年度まで延長する措置を打ち出していますが、今後はより踏み込んだ措置が求められる所ではないでしょうか。