10月下旬に開催された「Adobe MAX 2020」では、Illustrator iPad版などの新製品が発表されたほか、多くの製品に関するアップデートが紹介されました。

それに合わせ、同社Creative Cloud製品担当エグゼクティブバイスプレジデント兼CPOであるスコット・ベルスキー氏、およびAdobe Senseiエンジニアリング担当のバイスプレジデントであるスコット・プレヴォスト氏へのグループインタビューの機会が得られましたので、同社の戦略を探るべく、本稿ではその内容をピックアップしてまとめてみます。

Adobe Stockで7万点以上の素材を無料で使える理由

同イベントのキーノートでも強調されたように、2020年において新型コロナ禍の影響は避けては通れない話題です。クリエイティブ製品群を提供するアドビとしては、どんな変化を感じ、どんな戦略を見据えているのか。Creative Cloud製品担当エグゼクティブバイスプレジデント兼CPOであるスコット・ベルスキー氏は、以下のような旨を話しました。

ITコンシェルジュ
▲スコット・ベルスキー氏

「これまでと違うチャンスでもあると考えています。仕事の仕方は、この8か月間で大きく変わりました。コラボレーションをデジタル上でやらなければならなくなりましたし、変化に対する耐性も変わってきたと思うのです。要するに、これまでは『新しいテクノロジーはもうちょっと待っておこう』と思っていた人たちが、率先して新しいツールを使い始め、そしてこれまでの仕事の仕方が変わった。それが、今クリエイティブの世界で起こっていることだと思います。例えば、デザイナーの方の多くが、CCライブラリを用いた共同編集作業のメリットを理解し、ブラシや、色、フォントなどを共有してチームで活動できるようになっています」

また、新しく生まれたニーズとして、動画編集ツールや、スキルアップの学習コンテンツに人気が集まっていると言います。

「プロダクトの分析を通じて、新しく分かってきたこともあります。例えば、動画製品については、ビジネス用あるいはことを個人的に使いたいと考える人が増えてきたのでしょう。また、自宅にいる人が増えたこともあり、Adobeライブストリーミングでトレーニングクラスのようなものを配信して、スキルのレベルアップを図るというニーズも増えていますね」

こうした背景をもとに、職業としてクリエイティブ業に従事していない人でも、より制作にチャレンジしたいという需要が増しています。アドビとしても、こうした流れには注目しているとのこと。

「現在、たくさんのお客様にクリエイティブクラウドを使っていただいています。これは昨今の需要が高まっているからです。企業や業界を問わず、様々な試みが行われ、それに伴い需要が増しているのです。ソーシャルメディアの利用者や、パワーポイントをよく使うような『クリエイティブな業種ではない層』に対しての需要も上がってきています。アドビとしては、一般向けの製品、例えば『Adobe Spark』『Photoshop Express』『Premiere Rush』などの製品を提供しています。こうした製品は、何時間も製品のトレーニングを受けてはいられないが、それでもプロのような成果を発揮したいという人向けのものです。こういった製品は非常に順調で、そこに需要があるのだと理解しています。アドビとしても今後も投資を続けていく予定です」

また、同社の「Adobe Stock」で7万点以上の写真や映像などの素材が無料化されたことも大きなトピックでした。同サービスでダウンロードできる素材は、商用利用も認められているので、プロ・アマ問わず、知らなければ損をすることも多いでしょう。こうした施策に関して、スコット・ベルスキー氏はこう説明しています。

「Stockはこれまでも評判がすごく高く、オーディオや3Dオブジェクトなどを含め、素材をどんどん追加しています。我々が気づいたのは、プロではない方アマチュアの方にとって、特にコンテンツファーストのクリエイティブが必要になってきているということです。クリエイティブなプロセスが始まるときにPhotoshopの真っ白なページから始まるのではなく、何らかの画像ベクター素材を使って始めたいですからね。『コンテンツファーストクリエーター』という新しい世代の人たちに対して、何らかのライブラリが存在し、それが無料であることは、とても重要です。潜在的なAdobeのお客様に、こうした素材で遊んでいただくことは、非常に大切だと考えています。もちろん、Adobe Stockとしての戦略もあります。無料で使えるコンテンツを探してもらうことをきっかけにして、コレクションの全体のバリューを知って欲しいのです」

成長のキーワードは「AIファースト」

さて、昨今アドビが発表する新製品や機能のアップデートでは、AIプラットフォームの「Adobe Sensei」の活用が欠かせなくなっています。例えば、「Photoshop」のアップデートでは、空を置き換えられる機能が追加されたほか、人の表情や年齢などをスライダ操作で簡単に調整できる「ニューラルフィルター」というワークスペースも追加され、話題となりました。クリエーターを時間のかかるタスクから解放し、より重要な作業に集中させることで、ツールの新たな価値を創出しているのです。

Adobe Senseiエンジニアリング担当のバイスプレジデントであるスコット・プレヴォスト氏は、最近のAdobe Senseiの進化について、こう説明します。

ITコンシェルジュ
▲スコット・プレヴォスト氏

「Adobe Senseiのプラットフォームは今、非常にエキサイティングな進化を迎えています。中でも、クリエイティブインテリジェンスの進化は顕著で、特に画像処理と検索が最も高度な分野です。例えば、Photoshopのコンテンツに応じた処理や、顔認識、Adobe Stockのビジュアルサーチにも使われています。また、画像を学習させながら、より高いレベルで理解できるように成長していて、オブジェクトやコンポジションなども理解できるようになってきています。例えば、照明や、3D、画像のコンセプト、外見上のプロパティなども理解できるのです。こうした進化によって、似たようなコンテンツの色なども見分けられるようになるでしょう。例えば、オブジェクトの位置などをビジュアルサーチの中で指定することもできるわけです」

また、AIを活用した製品開発への取り組み方も、変化しているとのこと。同氏は今後の取り組みに対して、下記のような旨を述べました。

「これまで何年にも渡り、Adobe Senseiは、『既存のツールに対して機能をどう盛り込むのか』という点に注力してきました。しかし、我々が今考えているのは、AIを軸にしてツールを刷新できないかということです。例えば、PhotoshopカメラのようにAIがなければ実現できないもの、AIから作られているものです。デスクトップ向けのPhotoshopにも『ニューラルフィルター』が入りました。今後は、既存のツールによりAIを組み込んでいくのはもちろん、さらにAIを核としたツールの開発を続けていきます。現在も、デザインや自然言語処理の文脈で、新たなツールの開発を行っています。また、AIファーストな作り方をすることで、AI機能の高速化も図っていきます」

在宅時間が長くなったことに伴い、動画編集やデザインツールのスキルアップに興味が沸いたという文脈が、当てはまる読者も多いはず。クリエイティブな取り組みがより身近な存在になった昨今、仕事として接することがなくても、ツールにどんな進化が加えられているのかについて知っておくことが重要になっていくかもしれません。