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新型コロナウイルスによる影響が長らく続いている昨今、その感染に大きく影響するとされる、主要地区で人流がどれだけ減った、増えたという情報が連日報道されているかと思います。そうしたデータを提供しているのは携帯電話会社やその系列企業であり、その1つとして挙げられるのがソフトバンク系のAgoopという会社です。

Agoopはスマートフォンアプリから位置情報を収集して分析し、それを企業や自治体に提供して災害対策やマーケティングなどに役立てるというビジネスを展開している企業。コロナ禍の報道で注目されるようになったAgoopですが、ソフトバンクの前身の1つであるソフトバンクモバイルが、かつてAgoopのデータを使ってネットワークの改善に役立てていたことをアピールしていたことから、実は携帯電話業界ではよく知られた企業でもあります。

そのAgoopの代表取締役社長の柴山和久氏に、人流データを取得する仕組みと他社との違い、そして今後の取り組みなどについて話を聞くことができました。

▲Agoopの柴山氏

先にも触れた通り、Agoopはスマートフォンアプリから人の流れをデータ化しているのですが、そのベースとなるのはGPSによる位置情報です。かつては「ラーメンチェッカー」など自社開発アプリから情報を取得していたAgoopですが、現在は契約しているアプリベンダーにSDKを提供し、それらが提供するアプリを通じて情報を収集しているとのこと。具体的なアプリ名は契約上公表できないそうですが、10〜20程度のアプリがSDKを導入しているそうです。

▲Agoopは提携する企業のアプリから位置情報などのデータを取得し、それを解析した流動人口データをさまざまな企業や自治体などに提供している

それゆえ取得できる位置情報は数百万程度とのことで、NTTドコモの「モバイル空間統計」など、携帯電話の基地局をベースにした同種のサービスが数千万単位の携帯電話契約者情報を活用していることを考えると、データ量が少ない印象も受けます。ただ柴山氏によると、総務省が実施した検証では、人口が非常に少ない山間部の集落などを除けば、他社が提供するデータと精度は大きく変わらなかったとのことです。

また柴山氏によると、データが少ないことは解析のスピードを高速にできるメリットにもつながっているとのこと。それに加えてAgoopでは以前より、RPA(Robotic Process Automation、人間がする作業を自動化する仕組み)やAI技術を活用することでデータ解析のかなりの部分を自動化。全国2万か所の流動人口データを毎日作成しているのだそうです。

ただアプリから位置情報を収集するとなると個人情報の扱いが非常に気になる所ですが、それだけに柴山氏は個人情報にはかなり慎重な配慮をしているといいます。情報の取得に規約への同意が求められるのはもちろん、SDKでも個人情報を取得しないようにしているとのこと。さらに位置データも、個人が特定できる可能性のある住宅街や個々の家庭にはプロットようにするなどの匿名化処理を施した上で、外部に提供するようにしているそうです。

▲AgoopのSDKが組み込まれたアプリは、個人情報保護のため利用者に事前の承諾を求めるなど多くの配慮がなされているという

柴山氏によると、そのAgoopがコロナ禍で政府やメディアに人流データを提供するようになったきっかけは、実は東京五輪だったとのこと。Agoopは一時期米国でも、かつてソフトバンクグループ傘下だったスプリントのネットワーク改善のため、スマートフォンアプリによる位置情報の取得・解析を実施。国内外での位置情報活用に実績を持っていたことから、東京五輪の当初開催予定だった2020年の2、3年前頃に、総務省から海外渡航者の人流調査を依頼され、対応を進めていたのだそうです。

その流れで、2020年に新型コロナウイルスが感染拡大した際に人流の解析を依頼されたとのこと。同様の依頼は他の携帯電話会社にもなされたようですが、Agoopでは既に、全国の主要地域の流動人口データを毎日分析する体制が整っていたことから、他社に先駆けてデータ提供できたのだそうです。その後Agoopは、全国140エリアの人流データをWebサイト上にて無料で公開、多くの自治体やメディアがそれらのデータを活用するようになったことで、注目されるに至ったようです。

▲Agoopのデータに見るコロナ禍の人流変動の一例。ビジネス街となる東京・新橋エリアでは、2020年1月の感染拡大前と現在を比べると既に66%も人流が減少しているという

▲その一方で、住宅街となる東京・葛西エリアでは、感染拡大前から人流が74%増加。テレワークの定着などで既に都心部から住宅街へと人流が移っていることが見えてくる

▲東京の主要駅・繁華街の人流密度と新規陽性者数の変動。4回目の緊急事態宣言が発令されている現在は、以前の緊急事態宣言と人流が大きく変わっていないにもかかわらず、感染が大幅に増えていることからデルタ株の影響を強く受けていることが分かる

とはいえ、コロナ禍でAgoopが関与しているのは人流データの提供のみで、具体的な政策決定などに関与している訳ではありません。ですが今後はデータから企業の戦略や、自治体の政策などに関与する取り組みも進めていきたいと柴山氏は話しており、その取り組みの1つとなるのが、2021年7月8日に発表された滋賀県日野町との地域包括連携協定です。

この協定では、日野町がAgoopのデータを活用し、公共交通の利便性向上による渋滞の緩和を中心に、観光振興、町民の健康増進など多岐にわたった取り組みをしていくとしています。政府、あるいは東京都のような大規模な自治体で企業が政策決定に関わるのは難しいですが、小規模な自治体であれば「話を聞いてもらえる」(柴山氏)とのことで、柴山氏も日野町長とタッグを組んで政策提案などをしていく考えを示しています。

▲2021年7月8日には同社として初めて、滋賀県日野町と地域包括連携協定を締結。公共交通の改善を中心とした日野町の政策に、データを活用して関わっていくとのこと

では今後、Agoopがどのような取り組みに力を入れようとしているのでしょうか。その鍵となるのは取得するデータの拡大です。最近のスマートフォンはGPSだけでなく、加速度や各速度、高度や気圧など多くの情報を測定できるセンサーを備えていることから、Agoopでは3、4年前頃から、位置情報以外のセンサーからもデータを収集し、分析に活用しているのだそうです。

▲Agoopではスマートフォンのセンサーを活用し、位置情報以外にも多くのデータを取得。スマートフォンの高度化によってかなり細かな情報も取得できるようになったとのこと

中でもそうしたセンサーの情報が役立つと考えられているのが災害対策です。例えば中国地方を襲った平成30年7月豪雨では、加速度センサーのデータから、広島県広島市で山陽自動車道が通行止めになり、国道に多くの車が流れ渋滞が発生している状況を見て取ることができたとのこと。渋滞中の迂回路で土砂崩れなどが発生すると多くの被害が出るため危険なことから、そうした情報をリアルタイムに把握して対策に役立てられるのではないかと柴山氏は話しています。

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▲平成30年7月豪雨発生時の、広島市における加速度センサーのデータ。山陽自動車道上にデータがなく、国道2号線の移動速度が通常より遅いことから、通行止めを迂回して国道に渋滞が発生していることが読み取れる

さらに多くのセンサー情報を活用することで、例えばセンサーで取得した振動データから移動手段や建物の強度などを把握したり、気圧などのセンサーから天候など外部環境の変化を把握できたりすることもできるとのこと。センサーの多様化でより幅広い情報分析ができることが、今後同社の強みとなってくることは確かでしょう。

ただ一方で、スマートフォンのデータをどこまで取得できるかというのは、OSを提供するアップルやグーグルの方針によって大きく変わってしまう可能性もあります。個人情報の扱いに厳しくなっている昨今の状況を考慮すると、いつ、どのセンサーのデータが取得できなくなってしまうか分からないというのも正直な所です。

そこで柴山氏は今後、スマートフォンだけでなくIoTデバイスの活用によるデータの取得も進めていきたいと話しています。例えば最近設置が増えている監視カメラから情報を取得できれば、スマートフォンだけでは判別できない屋内の人流を分析することも可能になりますし、災害発生を知らせるセンサーを活用すれば、より迅速な救助活動にもつなげられます。

もちろん個人を特定する情報をいかに排するかというルールが整備されることが活用の前提にはなりますが、スマートフォンとIoTデバイスを組み合わせ、さらに将来的にはデータ取得の主体をIoTデバイスへと移していくことで、特定の企業に左右されることなく高度なデータの取得・分析ができる環境を整えるというのが、今後のAgoopの狙いどころとなっているようです。