あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]

小中学校に一人一台の学習用コンピュータを導入するGIGAスクール構想によって、いよいよ学校でICTを活用する環境が全国に整いつつある。

しかし、その一方で「どのように活用したらいいのかわからない」と悩んでいる現場の先生も少なくない。

そんな先生がたにぜひ読んでいただきたい素晴らしいカリキュラムガイドが登場した。それが「あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]」だ。この本は電子書籍として公開されており、「Apple Books」アプリから無料でダウンロードして、誰でも読むことができる。

「あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]」
「あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]」

滋賀大学教育学部教授の岳野公人氏がリーダーとなり、全国の小学校の先生9人とともに、小学校の授業でiPadを活用した事例を紹介している。

岳野氏を含む今回執筆に携わった10人の先生は、全員ADEに認定されている。ADEとは、「Apple Distinguished Educator」の略称で、Appleのテクノロジーを活用している優れた教育者であり、いわば、iPadなどを利活用した教育のエヴァンジェリスト的な存在だ。

今回、プロジェクトのリーダーである岳野氏、関西大学初等部の金本竜一教諭、近畿大学附属小学校の外山宏行教諭に、カリキュラムガイド制作の背景や、iPadによって子どもたちの学びがどう変わっていったかをお聞きした。

■「GIGAスクール構想の課題を解消し、より良い学びを実現したい」

岳野氏は、「ICTの環境実現に注目が集まりすぎていて、事例の中身があまり重要視されていない。先生や学校は導入されたタブレットやパソコンに対応するだけでも大変で、教育内容に向き合えていないといったGIGAスクール構想の課題を解消するために作成した」と、カリキュラムガイドをつくった経緯を語った。

ADE
滋賀大学教育学部教授の岳野公人氏。専門は技術教育で、STEM教育の研究などにも携わっている。

ADE
事例を執筆した、ADEの9人の先生。関西だけでなく、東京や福島など、学校と地域を超えて、研究会などを行っている。

このカリキュラムガイドには、小学校6年間のうち、どの段階のどの教科で活用ができるかが一目でわかる表があり、これが大変重宝する。岳野氏は「一覧性があり、各教科と各発達段階を見通せる。教育に関わる人にとって大きな指針となる重要なもの」と紹介した。

あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]
「あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]」より、学年や教科別にまとめられた表。使用するアプリも明記されており、非常に内容の濃いものになっている。

■iPadで実現でした「3つのつながり」

次に、小学校低学年国語を担当した関西大学初等部の金本竜一教諭が、同校での事例を紹介した。

ADE
関西大学初等部の金本竜一教諭。iPhoneやiPadを使い始めて3年ほどとのことだが、同僚の先生とともにiPad活用のアイデアを出し合い、授業のデザイン力を高めていったという。

関西大学初等部では、1年生から6年生までの全学年に一人一台のiPad環境が今年から整ったものの、金本教諭自身は「正直なところ、テクノロジーには強くなく、使い慣れていないiPadをうまく使いこなせるかどうか不安だった」という。

そんななか、「低学年の学びは孤独なものではなく、他者とのかかわりを通してこそ生まれる」として、iPadを活用した3つのつながりに取り組んだ。

そのひとつが「学校と家庭とのつながり」だ。たとえば、国語の宿題である音読では、家で子どもが音読している様子を保護者がiPadで動画を撮影し、提出している。これにより、一人ひとりに応じた評価ができ、保護者も先生と同じ視点で子どもを励ますことができるようになった。また、「子どもたちがICTを使うことを心配していた保護者にとっても、こうした活用を継続することで不安を解消できるというメリットがある」という。

ADE
口を大きく開けて、音読を行う小学生。動画を撮ることで先生もその様子がよくわかり、子どもたちにとっても口をしっかり開けることを意識して音読する効果が期待できそうだ。

2つめのつながりが、「日常と学びのつながり」だ。カリキュラムガイドには、その事例として国語・低学年の「かたかなビンゴをしよう」が紹介されている。

あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]
iPadの「カメラ」と「Keynote」を使った「かたかなビンゴをしよう」

iPadのカメラ機能で、日常にある「かたかな言葉」を見つけて写真を撮り、Keynoteに挿入してビンゴを完成させるというシンプルなものだが、そのアイデアが秀逸だ。身近にあるものに興味をもち、かつ友だちとともに共有できるという、素晴らしい授業に仕上がっている。

そして、3つめのつながりが、「友だちと学びをつなぐ」ことだ。

金本教諭は、「他者の価値観を受け入れて視野を広げていくことで、学習の幅が広がり深まっていく」として、対話意欲をもたせる工夫にiPadを活用した。言葉カードを並べて見せ合う共同制作によって、「どうしてこう並べるのかな」「聞いてみたい」という対話意欲が生まれ、主体的な学びに向かっていくという。

ADE
国語・低学年の「ものの名前」で、自分の気づきをApple Pencilで書き込む子どもたち。この授業では、Appleの学校向けアプリ「スクールワーク」とKeynoteを使っている。

iPadを1年生の授業で活用した結果、「今までのプリントやノートベースでは叶わなかった学びが、iPadで実現した。子どもが変わり、学習に対するエネルギーが格段にアップした」ことを感じたという。

そして、表現が拙い1年生であっても、多様な表現ツールを備えるiPadであれば、ムービーや絵など自分に合った方法を使うことができ、「個別最適な学び、表現の多様性の入り口に立たせてくれた」と、1年間の成果を語った。

■iPadでなら、授業で子どもたちも簡単に活用していける

Apple Distinguished Educator

美しい左右対称のイラストの数々。これは、すべて小学生がiPadを使ってつくりだした作品だ。

この授業を行ったのは、近畿大学附属小学校の外山宏行教諭で、カリキュラムガイドでは、小学校高学年の算数の事例を執筆した。

ADE
近畿大学附属小学校の外山宏行教諭。2015年からiPadを活用した授業に取り組んでいる。

外山教諭は、小学校の学習指導要領にある「数学のよさを実感と共にあじわうことができる」ことに注目し、「テクノロジーが多くの知識やスキルを代替えしている現在、算数的な見方、考え方を身に着けることは、多様な考え方の中から最適なものを導くために学びあったり、その良さを認めたり、追及していくことが深い学びにつながる」と考えた。

また、「テクノロジーの活用については、ゲームやSNSなどの受動的活用にネガティブなイメージを持っている教師や保護者も少なくない」としたうえで、自分のアイデアや意見を形にして表現し、コミュニケーションを広げるものを「能動的活用」とした。

ADE

カリキュラムガイドで紹介している事例のひとつが、最初に紹介した算数・高学年の「対称な図形を見つけよう」だ。身のまわりにある線対称な図形を見つけ、その性質や面白さに着目して、自分たちでも作品をつくり鑑賞しあう。

「iPadを使うことで、子どもたちが創造することのハードルが下がった。結果として、子どもたちの興味がどんどんほかの単元に広がり、算数を使ったアートを壁紙デザインしたり、生活の場面で"算数"のワードが出てくるようになったりした」という。

あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]
算数高学年の「対照な図形を見つけよう」の事例。図形や絵の作成には、Keynoteのほか、「Tayasui Sketches School」などを使用した。ガイドでは、電子書籍の良さを生かし、子どもたちの様子を紹介する動画も掲載されている。

さらに、6年生の授業では、この授業を発展させた「しきつめられる図形について考えよう」を行った。「子どもたちの、正解のない算数を使ったアート作品には、自由で柔軟な発想があふれていて驚かされた」と、外山教諭は語った。

ADE
授業を受けた6年生の感想。算数が苦手な子も、楽しんで取り組んでいる様子が見られた。

近畿大学附属小学校の場合、2015年から教員一人に一台のiPadが用意されたものの、最初のころは使いこなすことができなかったという。その後、ICTに詳しくない教員でも簡単に授業動画などをつくることができるiPadのクリエイティブさに手ごたえを感じ、「iPadでなら、授業で子どもたちも簡単に活用していける」という考えに移行していったという。

一方で、高学年に一人一台のiPadを購入することになった際、保護者からは不安の声が上がった。そこで、ICTは「コミュニケーション&クリエイション」のツールとして使うというコンセプトでスタートをした。現在もその部分は揺るがず、子どもたちの発信と表現のためにどんなことができるかの研究を日々続けている。

■主語は子どもだけれど、先生も楽しめる授業になる

今回のカリキュラムガイドの特徴のひとつに、「すぐに使える事例がそろっている」ということだ。事例のほとんどがiPadに標準で入っているアプリを使うもので、先生側に高度なスキルがなくても実現できる。

「ADE」というと元からテクノロジーに強く、常に最先端を走っている特別な先生というイメージを持ってしまいがちだが、実は、今回の金本教諭のように、不安の中からスタートし、試行錯誤しながらiPadを子どもたちの学びに活用する授業をデザインし、結果としてADEになったという例もある。

つまり、「知識や経験がないから、活用できない」というのはもはや理由にはならない。特にiPadの場合、専用アプリも豊富に用意され、直感的な操作で活用できることから、経験のない先生にこそ、活用できる大きなチャンスがあると感じた。

カリキュラムガイドには、今回の記事では紹介しきれなかったすばらしい事例が多数掲載されている。これらの事例は、そのまま授業で使うこともできるが、ここから先生自身も学び続け、さらに良い学びの連鎖が生まれていくことに期待したい。これらの事例に興味をもった方は、ぜひこのカリキュラムガイドをチェックしてみてほしい。

「あらゆる学びを創造的にデザインする iPadカリキュラムガイド[小学校編]」