Apple Logic Pro

Appleの音楽制作ソフトLogicといえば、かつて5〜6万円程度で “箱売り”されていたのが当たり前。その後ソフトウェアへと切り替わり、徐々に高機能化しました。学生のころ、筆者の周りには「作曲はできないけど興味本位で Logic Pro だけ買って使ってみた」という知人が意外といて、驚いたのをいまでも覚えています。

そんな Logic Pro がいよいよ空間オーディオに対応しました。最新バージョンは 10.7 。既存ユーザーは無料アップデートが可能で、新規ユーザーは Mac App Store にて2万4000円で購入できます。この記事では空間オーディオを中心に制作時のポイントをチェックしてみます。


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Apple Logic Pro
▲ 機能制限に縛られない完全モードがオススメ
Apple Logic Pro
Apple Logic Pro
▲ サウンドのダウンロード完了までに一晩かかった(ネットワーク環境によるものだろう)

Dolby Atmos などで使用可能な空間オーディオは、頭を動かしても正しい方向(あるいは制作者の意図した通りの位置)から音が聞こえるヘッドトラッキングにも対応します。

空間オーディオの楽曲は「Pro Tools」(Avid Technology)と Dolby Atmos Renderer の組み合わせや、「Nuendo」(Steinberg)でも制作できましたが、制作現場や専門学校で多く採用されると言われている Logic Pro が加わった形(当然、Macでしか使えませんが)。

ですが、実際に Logic Pro 10.7 を触りはじめてみると、空間オーディオの楽曲をどんな手順で作ればいいのか、という疑問を解決できそうな糸口を見つけることができませんでした。そんな人のために Logic Pro 10.7 には、リル・ナズ・Xのヒット曲「Montero (Call Me by Your Name)」のオリジナルマルチトラックプロジェクトが付属しており、このトラックの Dolby Atmos 空間オーディオミックスも収録されています。

Apple Logic Pro
▲ リル・ナズ・Xのヒット曲「Montero (Call Me by Your Name)」のオリジナルマルチトラックプロジェクトを選ぶと、空間オーディオ楽曲制作の糸口が掴めるかもしれない

なので、はじめはデモのようなコンテンツを選んで、イメージをつかむのがオススメ。ただし、プロジェクト起動時もしくは「ミックス」→「ドルビーアトモス」→「プロジェクト設定」の順に選択し、「空間オーディオ」の項目を「ドルビーアトモス」に変更しておく必要があります。

ぱっと見では14トラックと思いきや、各トラックを展開してみると、その10倍となる140ものトラックで構成されるプロジェクトでした。

Apple Logic Pro
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▲ 展開するとかなりのトラック数だということに気づいた。もちろん楽曲によっては、もっとトラック数や後述するパン、オートメーションなどの膨大な情報量になる

これらトラックの出力先となるMasterトラックを開くと、プラグインの一覧に「Atmos」という項目が見当たります。これをクリックすれば Dolby Atmos のモニター画面が表示され、人の頭を囲むように各オブジェクトが配置されていることが確認できます。視覚的に位置を把握できるのが良さなのかもしれません。

この画面の上部に表示される、Monitoring Format を「Binaural」(デフォルトではこれが選択されています)から「2.0」「5.1」「7.1」「5.1.4」「7.1.4」のいずれかに変更することができます(下3枚の画像)。

Apple Logic Pro
Apple Logic Pro
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▲ Dolby Atmos のモニター画面

ただ、Dolby Atmos モニター画面は全体のトラックにおけるオブジェクトの位置の把握に使うもののようです。実際に各トラックでオブジェクトの配置や、パンを振ったりするには、これまで通りミキサーコンソールから「パン」を開いて設定していく必要があります。

また、オブジェクトの配置を固定させるだけでなく、オートメーションを使って変化させていくこともできる模様。例えば、冒頭2秒では左右に配置しておいて、途中で中央にそろえる、といったことに活用できます。

さて、気になる音質はどうでしょうか? ここでモニタースピーカーや MacBook Pro 内蔵スピーカーなど、再生環境を変えた場合の聴こえ方をチェックしてみます。

プロジェクトの制作にはモニタースピーカーがかかせないといいたいところですが……昨今、サブスクが大流行していることからプロのクリエーターでさえも、手元のスマートフォンやワイヤレスイヤホンなどで全体的な音の聴こえ方やバランスをチェックしている、という話を聞いたことがあります。

Apple Logic Pro
▲ モニタースピーカーには敵わないが、MacBook Pro 内蔵スピーカーもなかなかの出来だ
Apple Logic Pro
▲ MacBook Pro (14 / 16 インチ)にはスマートフォンなどでは排除されがちな3.5mmイヤホンジャックが備わるため、Apple純正品や市販のものを挿して試聴できる

MacBook Pro のスピーカー音質が気になる人のためにお伝えすると、モニタースピーカーには届かないが、Airシリーズよりは格段によい……とでもいっておけば、ある程度のイメージが伝わるでしょう。あるいは、書き出した後にAppleが推奨するワイヤレスヘッドホン AirPods Pro Max で試聴するのもアリでしょう。

その書き出しについても実際に試してみました。空間オーディオ対応楽曲に仕上げるには、Apple Music をはじめとするオンライン音楽配信サービスに納品する際に必要な Audio Definition Model Broadcast Wave Format(ADM BWF) で書き出す必要があります。ちなみに、このファイルは Dolby Atmos を配信用に編集およびマスタリングするのに業界で使われているツールとの互換性があるとのこと。

デモとして使用したプロジェクト(約2分47秒の楽曲)の書き出しにかかった時間はわずか3分程度。よく聞く「それほどトラック数が多くないのに、CPUに負荷がかかり、レスポンスにも影響してしまう……」という点はなさそうでした(下の画像)。

Apple Logic Pro
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▲ アクティビティモニタで「コマンド」+「3」を押して、CPU履歴を単体表示してみたところ。何度かトラックを重ねたり、オートメーションツールを活用したりしてみたところ、やはり書き出しに時間を要する場合もあった。この辺りは条件によって異なるようだ

こうした処理にかかる負担軽減に「M1 Pro」「M1 Max」が大きく貢献しているのでしょう。ちなみに、トランジスタは前世代比で約2倍増え、CPU速度が最大70%向上したとのこと(詳細記事はこちら)。性能向上は間違いなさそうです。ただ、トラック数や処理内容によっては、ときより高速回転するファンの音が気になりました。

とはいえ、かつて PowerBook G4(2004年モデル)を使って作曲をしたときのモッサリとした動作とは段違い。空間オーディオ対応だけでなく、膨大なトラック数の処理ができる、というだけでも、過去のストレスから解放される……と感じた次第です。空間オーディオ対応のみならず、直感的に操作できるUIや、高速レスポンスが、音楽・作曲に向かい出した10代の若者をうまく取り込んでいける要素となるに違いありません。


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