Apple Musicで空間オーディオの配信が始まった。Appleは空間オーディオと表現しているが、ソニーは同様の演出が施された楽曲の再生環境を360 Reality Audioというブランドで数年前から展開している。Amazonが3Dオーディオと称してEcho Studio向けに配信しているのも同様だ。

これらの配信フォーマットには、ドルビーATMOSを用いたものと、MPEG-Hを用いたものがあるが、どちらも目的や基本的な考え方は同じとなる(Amazonのように両方に対応している場合もある)。

今回は筆者がApple Musicの空間オーディオにおいて評価に使った楽曲を紹介しながら、その楽しみ方や推奨する再生環境などについて話を進めていきたい。

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どのぐらい”真円”に近く音が回る?

Apple Musicで空間オーディオを再生する環境はいくつかあり、すでに本誌の記事でも紹介されているので、ここではあまり詳しくは掘り下げない。が、大まかには「ドルビーATMOS対応のサラウンドシステムで楽しむ」か「ヘッドホンで楽しむ」のいずれかから入るのが良いだろう。

筆者はホームシアター用に7.1.2構成(7.1サラウンドシステムに2つのトップスピーカーを加えた構成)のシステムを用意しているため、AVレシーバーにApple TVあるいはMacを接続すれば空間オーディオが楽しめることになる。

理想的に言えば、7.2.4(トップスピーカーが4本)以上ある方が音場は整うだろうが、それでも立体感という意味では、ヘッドホンで聴く場合とは大違い。音楽ステージの中で、音のシャワーを浴びるような感覚を味わえるのだ。

とはいえ、空間オーディオのために規模の大きなシステムを組むのは現実的とは言えない。そのためソニーも今回のAppleも、ヘッドホンやイヤホン(Appleは機器内蔵スピーカーでも)で立体音響を楽しめるようにしている。ただし、使っている機材によって立体感にはそれなりに違いが出てくる。

「なんだ、やっぱりAppleのイヤホンじゃないとだめ?」

と思うかもしれないが、どの機材でも”雰囲気”を味わうことはできる。あとは立体感の程度の違いだ。AppleやBeatsの対応製品を持っているならそれで、持っていないようならMusicの設定でドルビーアトモスを「常にオン」に設定して、次の楽曲を再生してみてほしい。

クラフトワークの名作「Tour De France (Etape 2)」を立体的にミキシングしたものだが、弾力感のあるベースラインが身体の周りで弾んでいるような感覚、体内の真ん中で囁くボーカル、そして自分の周りを行き交う、あるいはぐるぐると身体の周囲を回り続ける効果音など、最初からこの曲を製作する際に、こういう演出をしようとしていたんじゃないの? というくらいに立体音響のデザインがハマっている。

効果音が綺麗に真円に近い感覚で回る感覚や、一部の効果音が斜め上方向から聴こえるなど、高さも十分に感じさせてくれる演出がシアターシステムで確認できた。

これをひとつのベンチマーク(基準)とし、音の動きと音場の立体感、音場全体の形状(半円球が理想的)などに加え、仮想立体音響の処理を行うことで、特定の周波数帯域が薄くなるなどの音域バランス変化が起きないかに注意を払いつつ、いくつかのイヤホン、ヘッドホンをテストしてみることにした。

ベストチューニングはAirPods Max

あらかじめ予想されていたことではあるが、ベストチューニングはAirPods Max。色々な楽曲を試すほどに、AirPods Maxと空間オーディオの相性の良さを感じた。

二つのイヤーピースで立体的な音場を感じさせるには、かなり綿密な位相管理が必要になるため、自社製品を自動認識した上で最適な処理をするのだろうとは予想していたが、ここまでよく作り込まれていると空間オーディオのためにAirPods Maxを選ぶ人がいても不思議ではない。

Tour De France (Etape 2)の例で言えば、真円でクルクルと効果音が回るわけではないが、前後の奥行き感や高さ方向の表現がとても良く、少し横長の楕円形に効果音が回る感覚。さらに高さ方向の位置も把握しやすい。

例えばTiest & Sevennの「BOOM」はアトラクティブな音源の移動なども面白いが、地を這うように湧き出るベースの音が楽しめる。

低く力強い低音は「地を這うような」と比喩的に書かれることがあるが、この場合は文字通り下の方から聴こえてくる。

AirPods Maxは装着具合による音の聴こえ方、特に低音の聴こえ方を補正する機能があり、常時、フィードバックをかけながら想定した音へと近づける処理が行われている。その辺りが、空間オーディオの再現性や低音の質感を高めることに寄与しているのだろう。

AirPods Maxはワイヤレスヘッドホンとしては、かなり優秀な音質を備えたヘッドホンではあったが、その本領が空間オーディオ再生で発揮されたという印象だ。

もちろん、AirPods ProやAirPods、Powerbeats Proなどにも最適化はされているようで「常にオン」を使って他社製イヤホンを使うよりは、前述の”効果音が回る楕円形”は前後に大きさがあるものの、AirPods Maxと比べて高さ方向はスケールが出にくい。もちろん、イヤホンだけに低域の再生帯域も狭いため、ベースの質感や量感にも大きな違いが出てくる。

とはいえ、”仮想的に立体音響を実現”する部分において、きちんと機種ごとの調整が行われていることは十分に感じられる。

他社イヤホン/ヘッドホンのフィーリングは?

冒頭でも書いたように、ドルビーアトモスを「常にオン」にして他社製イヤホン、ヘッドホンを使った場合でも、ステレオミックスとは異なる立体的な音楽表現の雰囲気を味わうことは可能だ。

ただし、前後の奥行きや高さに関しては、Apple純正ほどの期待はできない。中には具合の良い製品もあるだろうが、それはAppleが想定している想立体音響処理のデフォルト条件にたまたま近いからだろう。

今回のテストでは、ワイヤレスイヤホンとしてソニー「WF-1000XM3」とノーブルオーディオ「FALCON PRO」、有線イヤホンとして「FitEar Titanium」を用いて試した。結果はと言うと、WF-1000XM3は前後の奥行きがある程度出たものの、FALCON PROとFitEar TItaniumは前後の奥行きがかなり狭くなってしまった。

これはそれぞれのイヤホンの質が低いわけではない。単純に相性の問題だろう。また音場の広さや形状とは別に、音の質で評価するなら、FitEar Titaniumは流石の低域再生能力で、帯域バランスはとても良い。

筆者はあまりヘッドホンを使わないため多くは所有していないが、オープン型のシュア「SRH-1840」、密閉型のソニー「MDR-Z7」、ワイヤレスのソニー「WH-1000XM3」でも試してみたところ、やはり音場の立体感はApple製には及ばない。今後、空間オーディオへの最適化が行えるようになる可能性もゼロではないと思うが、当面の間、Appleは自社製品だけに最適化を行うのではないだろうか。

繰り返しになるが、他社製イヤホン/ヘッドホンでも楽しめるが、AirPods Maxでの聴こえ方を体験してしまうとその差は明らか。AirPods Maxがきっと欲しくなってしまうだろう。

自然な没入感が得られる曲も多数

テストのために、あえてわかりやすい演出が施された楽曲を選んだが、立体音響技術の使い方はアーティストやミックスを担当したエンジニアなど、制作サイドの意図によって大きく変わる。それはステレオ再生という手法を、さまざまな形で使いこなそうとしたのと似ている。

米DJのIlleniumがValerie BroussardとNurkoをフィーチャーした「Sideways」は通常のステレオ楽曲のようにはじまるが、サビが近づくにつれてエモーショナルな音が多数重ねられ、リスナーを大きな音の塊で包み込むようだ。

Illeniumはこうした3Dミックスが気に入ってるようで、他アーティストのコラボ楽曲を似たような手法で空間オーディオにしていた。例えば「Nightlight」や「Paper Thin」だ。

もっと自然な作りのものはないかって?

Nora Jonesのデビュー曲「Don’t Know Why? 」を聴いてどう感じるだろうか。

ヘッドホン向けの仮想サラウンドでは、脳内定位を解決するため前の方から聴こえるように工夫するようなものもあるが、この曲はステレオミックスを自然な感じで半円球状に展開している。意外性はないかもしれないが、よく聴いていると「あれ、自分が歌手としてバンドを従えているのじゃ?」と感じるような配置になっていないだろうか(もちろんステージ上の音の聴こえ方とは実際には違うのだが)。

小さなライブハウスでジャズのセッションが目の前に展開しているような感じ、タイトな空間に張り詰めた空気。そんな雰囲気を味わえるのが、Wayne Shorterの「Juju」。

クラシック系の楽曲ならば、LAフィルの音楽監督ドゥダメルが棒を振った「帝国のマーチ」。誰もが知ってるスターウォーズの楽曲だが、上下左右、そして奥行き方向に広がる楽器に包まれ、まるでデュダメルの位置で聴いているかのようだ。

他にも興味深いと思った空間オーディオのミックスをテスト用プレイリストにしているので、もしよければ参考にして欲しい。

まずは楽しもう

さて、前述したように、Apple Musicの空間オーディオはAppleのデバイスに最適なチューニングが行われているが、手元のイヤホンでもある程度は楽しめる。音楽は楽しんでナンボだ。

まずは手元のイヤホンなどで楽しんで、宝探しのように面白いアレンジを探してみるのも楽しいだろう。現在はまだ対応楽曲が豊富というほどではないが、それでも新鮮な体験を楽しんでいるだけで時間を忘れるぐらいには、豊富に良いコンテンツが揃っている。

そうしているうちに、段々と新作にも空間オーディオでアレンジされたもの、アーティスト自身が空間オーディオを想定して創作した楽曲が出てくるはずだ。

その時に「ではどのデバイスで聴くのが一番楽しいかな?」とあらためて考えてみても遅くはない。

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