Macに最適化して作られる「Apple Silicon」がどんなものになるのか予測してみる(西田宗千佳)

西田宗千佳
西田宗千佳
2020年06月26日, 午前 07:30 in apple
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WWDC 2020の基調講演にて発表されたMacの自社設計プロセッサへの移行だが、Apple Silicon採用のMacはどうなるのか? 特に筆者が気になるのは、「ハイパフォーマンスを必要とする用途がどうなるのか」だ。iPadと同じようなモバイル用途に近い部分は問題なかろう、とすぐに予想がつくが、高性能Macはどうなっていくのだろうか。

現在時点でAppleが開示している情報はまだ少ない。だから「当たるも八卦」な部分はあるが、今回はちょっと予測してみようと思う。

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基調講演の「外」で語られたApple Siliconの姿

日本時間の6月23日早朝、WWDC基調講演が終わった後、Appleは「Platforms State of the Union」というビデオを公開した。これは、Appleの各プラットフォームがいかに統合された形になり、どういった新しい要素があるのか、という概要を開発者向けに公開したものになる。

また、開催3日目となる6月25日には、「Explore the new system architecture of Apple Silicon Macs」という詳細解説ビデオが公開された。こちらはより技術的な情報をまとめたものだ。

これら2つの情報からもApple Siliconの詳細なスペックはわからない。だが、それがどのような方向性で開発されているかは見えてくる。

まず、Appleは本気で「PC用CPU+GPUとは違う環境を作ろうとしている」ということだ。

Appleは解説の中で、Apple Siliconの特徴として複数の点を挙げている。中でもポイントとなるのは「性能の異なるCPUコアを混載し、非同期で利用する」こと、「Tile-Based Deferred Renderingと、Unified Memoryを備える高速なGPUを使う」こと、そして「機械学習のアクセラレータなど、複数の要素を組み込んでいる」ことだ。

詳しい説明はともかく、これらはすべて、iPhone・iPadで現在使われているSoCである「Aシリーズ」に共通の要素である。

実際、単純なベンチマークで比較すると、現在のAシリーズはIntelのモバイルPC向けプロセッサよりも高速な部分がある。開発者向けテストキットでも使われていて、iPad ProのSoCとして知られている「A12Z Bionic」は、MacBook Pro 13インチに使われている「第10世代Core i5(クアッドコア、クロック2.0GHz)」と比較した場合、値が上になっている。GPU処理については若干劣るが、これは実質2018年のSoCに対し、「大幅な刷新の結果、性能が上がった」ことが最大の特徴であるのが第10世代Core i シリーズである、ということを考えると、「かなり健闘している」と言っていい。

以下は全て「Geekbench 5」でのテスト。iPad ProのCPUテスト(上)と第10世代Core i5を搭載するMacBook Pro 13インチモデルのテスト(下)では、若干だが、iPad Proの結果が勝る。

GPUの比較では、第10世代Core i5搭載の新GPU(下)がかろうじてA12Z BionicのGPU(上)性能をかわし、上位につけている。

ただ、この要素はあくまで「今あるSoCを使った場合」の結果に過ぎない点に留意する必要がある。AppleのSoCは、必要な要素の組み合わせ方を製品によって変えることによって成り立っているからだ。iPhoneにはiPhoneに向いた要素のものを、iPadにはiPadに向いた要素のものを、それぞれ必要な「個数」組み合わせ、スケーラビリティの高いSoCに仕立てるやり方をとっている。

「Platforms State of the Union」でプレゼンテーションをした、Apple シリコン・エンジニアリンググループ バイスプレジデントのSri Santhanam氏。

「Platforms State of the Union」の中で、Appleのシリコン・エンジニアリンググループ バイスプレジデントのSri Santhanam氏は次のように語っている。

「PCには適切なハウジングと熱設計がある。それに合わせたシリコンを開発していく」

現在のAシリーズは「スマホ向け」「モバイル向け」にはいい構造だ。だからモバイルPC向け、具体的にはMacBook Airに近い製品にはそのまま向いているかもしれない。しかし、より熱設計に余裕があり、サイズが大きいデスクトップや16インチ版MacBook Proのような製品向けには、CPUコアを増やしたりGPUのコンピューティングユニットを増やしたりして、高いパフォーマンスにしていく可能性が高い。

そもそも、iPhoneやiPadとMacとでは、搭載されるメモリの量も大きく異なる。開発者向けキットでも、Apple Silicon Macには16GBのメモリが搭載されているが、iPhoneやiPadは3GBから6GBと小さい。この1点だけを挙げても「iPadのSoCがそのままMacに使われる」のでないことがわかる。

「big.LITTLE」と「スケーラビリティ」で差別化するCPU戦略

特にCPUパフォーマンスについて、現状のIntel製CPUとの大きな違いは「コアの非対称性」にある。

Apple Siliconもそうだが、ARM系プロセッサでは、現在「big.LITTLE」と呼ばれる戦略が広く使われている。性能はそこまで出ないが消費電力の低い「リトルコア」と、消費電力は高いが性能が高い「ビッグコア」を組み合わせるやり方だ。性能が求められない処理には「リトルコア」を主に使い、性能が求められる処理には「ビッグコア」を使うことで、SoC全体での消費電力を柔軟に変えられるようにしたものだ。「ARM系プロセッサが性能のわりに消費電力が低い」と言われるのは、この仕組みがうまく機能しているため、という部分がある。

IntelMacはCPUが同じコアの集積であるのに対し、Apple Siliconは処理能力と消費電力の違うコアの集積、いわゆる「big.LITTLE」になっている点が大きく異なる。

Intelのメイン商品である「Core iシリーズ」では、現状同じ性能のコアを集積する形が採られている。一方、Intelも消費電力と性能を両立したSoCとして、「Intel Core processors with Intel Hybrid Technology」(通称Lakefield)を準備中だ。

ARMのCPUコアは半導体規模が比較的小さく、SoCが使うトランジスター総量の規模によって、CPUコア数の増減をするのが比較的容易、という特徴を持っている。その上でAppleはApple Siliconで、「big.LITTLE」を活かした戦略を推し進める。とはいえ、PC用プロセッサはモバイルほど省電力性能を求められないので、リトルコアをそこそこの数にとどめ、ビッグコアを必要に応じて増やす戦略を採るのではないか、と推測できる。

集積の容易さは大きなメリットだ。先日処理能力世界一をとったスーパーコンピュータ「富岳」も、演算ノード側ではARMコアを48個集積したプロセッサを並列につなげていく構造を採っている。プロセッサ単位での消費電力性能評価も高い。

もちろん、スパコンとパソコンの事情はイコールで括れないが、「コア集積によるパフォーマンス向上の一例」としては参考になる。

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Apple Siliconの構造は「ゲーム機」に近い?!

ではGPUはどうか?

PCやこれまでのIntel CPU採用Macでは、高性能なGPUを採用する場合、メインメモリの他にGPUに高速なビデオメモリを搭載する形を採ってきた。これは、その構造を採ることが、拡張性と性能の両立に有効だったからだ。

Intel CPU採用MacはGPUを通してビデオメモリにアクセスするのが基本だ。

だが、Appleは以前より、特にiPadの性能を説明する上で別の言い方をしている。

「メインメモリをビデオメモリと共有するUnified Memoryであるからこそ、iPadはすばらしいグラフィックスパフォーマンスを実現している」

この説明はある意味正しい。Unified Memoryの場合、モデルやテクスチャのデータを「GPUのビデオメモリ」に転送する必要がなくなる。処理のためにメモリ内での転送は存在するが、その回数はGPU側にビデオメモリがある構造よりも減る。それがわかっているので、CPUとGPUをつなぐ「バス」の帯域幅はできる限り広いものが用意されるし、GPU側でも、メインメモリにデータを転送することなく、GPUとビデオメモリ側だけで処理を行うよう工夫されているわけだ。

メインメモリとCPUの帯域幅さえ十分に確保できて、さらにGPUの性能も高いのであれば、「CPU+GPUカード」の形よりもグラフィックス性能は上げやすい。

これをうまく使っているのが、PS4などの「ゲーム専用機」だ。ゲーム専用機ではCPUとGPUを一緒にしたSoCを専用設計できるし、拡張性も考える必要はない。だからUnified Memory構造を採用しやすい。

家電やスマホなどのSoCも同様で、こちらはコスト低減を主な目的としてUnified Memory構造が使われる。

Apple Silicon搭載Macは「Appleが独自に設計するSoC」になるので、条件はゲーム専用機のそれに近くなる。だから、Unified Memoryとスケーラビリティの高いGPU構造を活かして性能を追求してくるだろう……と予想できるわけだ。

またUnified Memory構造には、グラフィックス性能向上以外のメリットもある。SoC内に映像の圧縮・展開機構やHDR処理機構を持つことで、動画処理の負荷を下げやすい。また、iPadをMacのサブディスプレイにする「Sidecar」も、処理のパイプラインが単純化するためパフォーマンスアップに期待ができる。

AppleのSoCは様々な機能を集積しており、CPUとGPUはUnified Memory構造になっている。その他ビデオ関連機能などもある。写真はiPhone向けに様々な機能を集積したものだが、Mac用のApple Siliconではここから取捨選択して構成されるのだろう。

「最高性能の世界」でApple Siliconはどう戦っていくのか

なんともいいところづくし……に見えるが、実際にはもちろん、わからないところや不安も多い。

まず、「超高性能PC」を狙う場合、今のARMコアを集積する形で大丈夫なのか、ということだ。IntelやAMDのx86コアの性能は、クロック周波数が高いこともあって確かに有利だが、単一コアの能力ではARM系コアの方が不利だ。

前出のように「富岳」という好例はあるものの、重ね重ね言うが、スパコンとパソコンを同じ土俵で単純に比較するわけにはいかない。

GPUはCPUより事情が複雑だ。性能は単純なコア数だけで決まらず、実装されている機能の差も大きい。NVIDIAやAMDの最新GPUが高性能であるのは、競争によって性能の差をガチンコで比較する状況が長く続いているからでもある。Appleはこれからそこに割って入らなければならない。

現在Appleは、同社独自のGPUを使っている。その源流はImagination Technologiesの「Power VR」であり、2020年1月、同社はAppleと複数年のライセンス契約を交わしている。AppleはGPUの詳細をコメントしていないが、Power VR由来のTile-Based Deferred Renderingを使い、Apple Siliconでも「Tile-Based Deferred Renderingに向けた最適化が重要」と、デベロッパー向けに説明している。このGPUが、本当に「PCにおける最新CPUの競争」に割って入ることができるのか? それを見通すのは難しい。

また、AppleはGPUを操作するためのAPIとして、自社独自の「Metal」を開発しており、今後はMetal以外のAPIを使うことは推奨されない。

GPU向けのAPIには、マイクロソフト系の「Direct X 12」やマルチプラットフォームの「Vulkan」があり、両者とも広く使われているが、iOS / iPadOS / macOSで動くアプリにはMetalを使う必要がある。他のAPIからMetalへの書き換えはデベロッパーにとっては負担だ。

もちろん、Apple自身の手によって開発を支援する環境は整えられているし、ゲームエンジンの「Unity」がApple Silicon+Metalの環境への最適化を発表しているので、「プラットフォームに合わせて1から作り直し」ではない。PhotoshopやMaya、Logic Proなどのプロ向けツールが快適に動作することもアナウンスされているから、そこまで心配する必要はないのかもしれない。

「Photoshop」や「Logic Pro」などのプロ向けツールはすでに最適化がアナウンスされている。
ゲーム開発ツールの「Unity」もApple Silicon搭載Macへの最適化を明言。もちろん、グラフィックス周りはMetalに最適化されたコードが出力される。
x86版アプリのエミュレーションであっても、Metalへの最適化が行われていればゲームは快適に動作するという。写真はデモに使われた「DiRT 4」。

しかし、コアなゲームやプロ向けの制作環境は、PCの上で最適化が進み始めている。そこに対して、アーキテクチャを変更するAppleがどう対応するのか? 逆に有利な点を見せられるのか? 明確な答えを出せる人は少ないだろう。

Appleは「Apple Siliconへの移行には2年をかける」と公言している。この大半は、比較的方向性の見えている一般ビジネス向け・モバイル向けの用途ではなく、プロ向けやゲーマー向けの用途への対応に費やされるのではないか。

筆者はそう予想している。

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