Apple独自のプロセッサを搭載するMac。果たしてそのプロセッサはどのような仕上がりになるのか。

搭載されるMacそのものにも注目していたが、やはり「独自にすることの意味」を探るならば、その注目は必然的にプロセッサの性能に集まる。そして実際に発表された製品がMac向けのApple Silicon=Apple M1チップをさらに引き立たせている。

Appleは「最新ラップトップと比較して」という表現で、消費電力を10ワットに設定した場合のCPU、GPUのパフォーマンスがいずれも2倍になると発表した。CPUに関しては「最新ラップトップの最大パフォーマンスと同じ性能を」CPUは25%、GPUは33%の電力で発揮できるともいう。

この最新ラップトップとはIntel Core i7-1165G7を搭載したノートパソコンのことで、第11世代Intel CoreとXeグラフィックスアーキテクチャを採用する最新モデルだ。彼らの主張が正確ならば、消費電力あたりのパフォーマンスにおいて、他のノート型パソコンに対して大幅なアドバンテージを持つことになる。

今回発表されたMacBook Air、MacBook Pro、Mac miniの外見が全て従前のモデルと全く同じであるのは、インテル版との圧倒的な差を感じさせるためではないか? と疑いたくなるほどの違いだ。いずれも同じ筐体の中に収められているにもかかわらず、MacBook Airにいたっては冷却ファン無しでインテル版よりも高性能。冷却ファンを備えるMacBook ProやMac miniでもその差は縮まらないというスケーラビリティがある。もしデザインを変えていたら、ここまで両者の違いを引き立てることにはならなかっただろう。

さて、各製品に関する考証は、実機レビューにて掘り下げるとして、ここでは「M1」にフォーカスして、このSoCがMacに何をもたらすかを考えてみることにしよう。

M1がA14X Bionicではない理由

筆者自身がそうだったのだが、最初のMacにはA14X Bionic、すなわちCPUとGPUのコア数を増やした強化版のA14 Bionicが搭載されるのだと考えていた。だが、登場したのは「M1」というチップ。おそらくiPad Pro向けにはA14Xという名前が用いられるのではと考えられるが、実はM1という名称が使われるのには理由がある。

それは、"M1はA14 Bionicの拡張版ではない"こと。M1はAppleが持つ最新の回路を再構成し、Mac用にまとめ直したものだからだ。もちろん、Appleが開発した最新の回路(コンポーネント)はA14 Bionicで開発したものと同じ部分も多い。高性能コアと高効率コア、16コアのNeural Engine、GPUコア、ISPなどは同一の設計ではあるが、M1には同じ高性能コアが4つ、GPUコアが8個搭載され、それぞれA14 Bionicに対して倍増しており、またGPUコアの倍増に伴ってメモリ帯域は2倍に拡張されている。このあたりはA12 BionicとA12Z Bionicの関係に似ている。

しかし、MacにはiPhoneやiPadでは必要のない機能も求められる。そのうちのひとつは仮想化で、M1では仮想コンピュータを動かすための機能が加えられている(ただしx86プロセッサの仮想化ではない。あくまで命令セットはARMだ)。GPUのアーキテクチャは同じだが、より多くのテクスチャフォーマットに対応しているという。これはPC向けゲームなどをサポートする上で重要になるだろう。同じようにA14 Bionicには搭載されていないのがThunderbolt 3/USB 4のインターフェイスだ。

つまり、iPhone/iPad向けに開発された設計を最大限に活用し、コンポーネントとして使ってはいるものの、それだけが全てではなくMacに必要とされる要素を全て同じダイの中に収めたということ。今後、iPad Proのモデルチェンジの際にこのままM1が使われるのか、別途、A14X Bionicが作られるのかは不明だが、いずれにしてもM1はMacならではの要素が組み込まれた専用プロセッサであることは間違いない。

熱設計で動的に変化するパフォーマンス。M1のスペックは"ひとつ"だけ

今回登場した3種類のMac全てにM1が搭載されているが、GPUのコア数が制限されているMacBook Airのエントリーモデルを除くと、その仕様は単一だ。どのモデルに搭載されるものもM1であり、そこに動作クロック周波数は記載されていない。というのも、最大の動作クロック周波数は全て同じ(公開されていないため実機で計測するほか知ることはできない)だからだ。正確に言うならば、動作クロック周波数の範囲が同じということになる。

最新の第11世代 Intel Coreがそうであるように、M1も搭載されているシステムの冷却性能や動作環境(気温など)、アプリケーションの動作状況に応じて動的に動作するクロックが変化する。つまりファンレスで薄型のMacBook Airでも、ミニデスクトップ型のMac miniでも、M1そのものは同じで、瞬発力としてはほぼ同等と考えていい。しかし、マルチスレッドでコアがフルに稼働し、GPUもいっぱいまで回すようなゲーム、アプリケーションがあったとするなら、それは冷却能力に余裕があるMac miniの方がパフォーマンスを出せる、といった具合になる。

電力によってパフォーマンスが支配される現代のプロセッサ事情を考えれば、こうした構成は十分に考えられるものだ。しかし視点を変えると、このような使い方ができるのはAppleがパソコンシステムを開発、販売する会社だからこそとも言える。

IntelをはじめCPUベンダーは、これまで出来上がったチップを選別し、性能を分類してランクごとに異なる価格で販売してきた。しかし最終製品しか販売しないAppleにとって、そうした選別による価格ラインナップを作る意味はあまりなく、むしろ設計に応じて性能が変化する方が自然だろう。

共有メモリのSoCだからこその高性能と制約

さて、M1が省電力で高性能な理由は、iPhoneで磨いてきた統合型システムチップ(SoC)のアーキテクチャを導入しているためだ。iPhone向けSoCでは組み込む処理回路の自社開発を進めて行き、異なる目的の処理回路が同じメモリを共有、協調動作するシステムアーキテクチャの完成度を高めてきた。共有メモリアーキテクチャ(UMA)は、CPUとGPU、それに機械学習モデルの推論アルゴリズム専用プロセッサ(Neural Engine)を並列に動作させる上で極めて効率的だ。

特にGPUを汎用的に活用する場合、GPUで処理した結果を反映するためにビデオメモリにデータをロードし、処理してメモリに描き戻すといったことをしていては効率が悪い。同じデータに対し、ある時はCPU、ある時はGPU、ある時はNeural Engine、ある時はISPといった具合に、それぞれが得意とするプロセッサがアクセスできた方が良い。同じテーブルを囲んで複数の専門家が情報を処理するのと、メールでやりとりしながら処理を持ち回りでやるのでは、どちらが効率的かは明らかだろう。

効率が良いということは、消費電力面でも有利ということ。設計そのものの良さや、A13世代で導入していた細かな電源管理機能なども功を奏しているのだろうが、UMAも消費電力低減に寄与しているはずだ。コア数を増やしての処理能力向上時、SoC内部の相互接続帯域を上げるだけでコア数に応じた性能を伸ばせる点も、UMAの優位性かもしれない。

しかし、UMAだからこその制約もある。それは搭載メモリ容量だ。UMAで性能を出すには、各処理回路が共有するメモリ帯域が十分に広くなければならない。M1がDRAMをSIP(システムインパッケージ)の形で一つのパッケージに封入しているのは、メモリへの帯域を最大化するためだと推察される。

ローエンド側からApple Silicon化する理由

言い換えれば、同じパッケージに搭載できるぐらいまでしかメインメモリを搭載できないということで、今回、その経済的に妥当なラインが最大16GBだったのだろう。今後、さらに上位の製品にまでApple Mプロセッサが使われるようになるかどうかは、メインメモリの容量向上が必要不可欠になってくると思われる。

同様にI/Oインターフェイスまでチップに統合していることは利点でもあるが、これは弱点にもなりうる。M1はThunderbolt 3/USB 4のポートを二個しかサポートしていない。これはM1内にインターフェイスを取り込んでいるものの、そのサポートチャネルが2つまでなのだと予想される。ひとつのパッケージにシステムの大部分を集約するというコンセプトは、性能、消費電力、セキュリティなどあらゆる面で有利ではあるが、一方で大きなシステムを作るハードルは高くなるのだ。

このためAppleはMacBook Airは全面的にM1へと移行しているが、MacBook Proは13インチモデルの下位モデル(Thunderbolt 3x2ポートモデル)のみ。Mac miniもThunderbolt 3が4ポートあるIntel搭載モデルが併売される。

いずれも最大メモリや搭載可能なSSD容量などにも違いがある。単純なCPU/GPU性能だけならば、Neural Engine搭載の意味なども考えれば、もっと大胆にApple Siliconに移行しても良さそうだが、ラインナップの一部、もっと言えばスペック的には低いところから順に導入しているのは、CPU/GPUパフォーマンスだけではなくあらゆる面でのシステム拡張性に制約があるからだろう。

Appleは2年をかけてラインナップの一新を図ると話しており、Mac Proを置き換えるまでにはまだしばらくの時間がかかることは間違いない。


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