Apple Silicon(=Apple自社開発半導体の意味)搭載Macが発表され、いよいよ出荷が開始されました。この記事が掲載されている11月17日に、早速製品を手にしている方もいらっしゃるでしょう。

今回、Apple SiliconことApple M1プロセッサが搭載されたのは3シリーズ。中でもMacBook Airは全面的にインテルプロセッサからM1に置き換えられました。さらにMac miniとMacBook Proの下位モデルも置き換えています。言い換えれば、Mac miniとMacBook Proの上位モデル以上は、M1プロセッサでは置き換えていないということです。

これは何を意味しているのでしょうか? 実機テストの結果は後回しにするとして、まずは結論から書き進めていきたいと思います。

予想以上だったAirのパフォーマンス

Apple Silicon搭載Macの発表を見て最も驚いたのは、MacBook AirからMacBook Pro、Mac miniまで幅広いタイプのコンピュータに採用されていることでした。現代のコンピュータはプロセッサ(SoC)からの発熱によってデザイン(設計)を支配されています。

今回、M1が搭載されている製品には、それぞれ基本的な機構設計が同じでIntelプロセッサ搭載の前モデルがあります。そのうち、完全に置き換えられたのはMacBook Air。MacBook ProとMac miniの上位にはIntelプロセッサ搭載モデルが残っています。その理由については後述しますが、プロセッサの熱を処理するという観点から言うと、この3つの製品には大きな違いがあります。

新型MacBook Airはおそらく熱設計(TDPと言って、どの程度の消費電力のプロセッサを搭載できるかの目安。大きいほど性能を上げやすい)で10ワットを目処に設計されていると推測しています。ちなみに旧型のIntelプロセッサ(Ice Lake)搭載モデルは、12〜13ワットぐらいを目処に設計されていたのではないでしょうか。M1に切り替えることで10ワット以下に抑えても性能を出せることから、冷却ファンを搭載しない設計に切り替えたのだと思います。

発表イベントでAppleは、Intelの最新モバイルチップ(具体的にはCore i7-1165G7)と比べ、10ワットの時に2倍の性能となり、Core i7-1165G7のフルパワー時と同じ性能を25%の消費電力で発揮できると訴求していたのを覚えているでしょうか。実際、M1の性能はGeekBench 5の値でシングルコア1750程度、マルチコアでは7600前後。しかも、Cinebench R23のような、より実践的なベンチマークでもTDPが3倍近いCore i7-1165G7の28ワット設定時よりも高性能な結果が出ます。

そうは言っても、ファンレス設計だとすぐに熱が溜まって”熱々”になり、性能が落ちるのではないか?と懸念されていましたが、実によく粘るのです。

予想外に小さいProとminiの差

一方、MacBook ProはThunderbolt 3が2ポートみの下位モデルが置き換えられています。筐体設計も従来同様で、底面左右の大きなスリットはなく、Intel時代の設計を踏襲しつつ、28ワットではなく15ワットの熱設計を採用しています。これがMac miniの場合、6コアのCoffee Lake-Hにも対応しているため、熱設計基準は65ワット。ずいぶんと余裕があることになりますよね。

ということで、筆者を含めて大勢は同じスペックのM1ながら、搭載するシステムの熱処理によって大きく性能が変化するのだろうと考えていました。ところが、実際にはMacBook Airの性能がとても高く、MacBook Proとの差は条件付きでテストしなければ明確な数字にならないほど小さかったのです。そして、MacBook ProとMac miniのパフォーマンス差もまた、ほとんど出ませんでした。

そして、MacBook ProとMac miniのパフォーマンス差もまた、ほとんど出ませんでした。65ワットのプロセッサを搭載できるMac miniにもかかわらず、同じM1を搭載するMacBook Proとの性能差はほとんどなく、全く同じと断言してもいいほど。あるいは全てのCPUとGPUが同時に100%近い負荷をかけるといった場合は、Mac miniの方が良い性能になるかもしれませんが、テスト期間中、違いを感じるようなアプリケーションを探すことはできませんでした。

つまり15ワット分の発熱よりも多くの排熱ができたとしても、冷却性能に見合う性能向上は期待できないということですね。M1のクロック周波数上限は3.2GHz(下限は不明)ですが、10ワット程度で大部分の性能は出し切り、15〜20ワットぐらいの熱設計があれば、M1の性能をほぼ引き出せるわけです。

結論で言えばMacBook ProとMac miniの性能差は「ほぼゼロ」で、負荷が大きくなった場合に「ノイズがほぼ聞こえない」程度にしか冷却ファンが回らないということが異なる点でしょうか。実際、Mac miniに高負荷をかけ続けても筐体の温度はほとんど上がりません。

10ワットでも15ワットでも、ほとんど変わらない実力

さて、Apple Silicon搭載Macのテスト機を受け取って、最初に行ったのはベンチマークテストです。実際のアプリケーション体験を数値化できるわけではありませんが、位置付けを理解する助けにはなります。

Apple Siliconに対応済みのGeekbench 5でテストした結果は既に報告した通りですが、3つの製品は異なる筐体、異なる冷却システムながら、ほぼ同じ値を示します。GeekBench程度の負荷では、ファンレス設計のMacBook Airでも性能が落ちるところまで温度が上がらないということです。

では全く違わないかといえば、ほんの少しだけ異なります。その違いを確認できるのがApple Siliconに対応したCinebench R23です。このベンチマークはCPUしか使いませんが、ほぼフルにCPUを使い切る上、処理時間も長いためCPUの本当の実力を見通しやすいという特徴があります。

ただし、Cinebenchも一周だけでは差が出ません。このベンチマークでは3Dで高精細な画像をレンダリングする速度を計測するのですが、R23のリリースに合わせて"10分間計測し続けた結果"の値をスコアとして記録するよう変更となりました。つまり、高負荷をかけ続けた場合に性能がどこまで落ちるのか、落ちないのかを計測することができるわけです。なお、アドバンス設定で"繰り返さない"、"10分"、"30分"と切り替えることも可能です。

1枚の映像を出すだけであれば、MacBook Airを含めて全ての製品のスコアはほぼ同じ(シングルで1470、マルチで7800程度)。ところがCineBenchを10分間繰り返し動かすテストでは、MacBook Airがやや低いスコアになります。

わかりやすく30分で計測すると、MacBook Airのスコアはマルチプロセッサモードで6600程度まで落ちます(それでもTiger Lake Core i7-1165G7の28ワットモード、約4900より高性能)。本体の一番熱い部分の温度は10分程度なら40度(室温25度)ですが、30分になると42度まで上昇しました。おそらく、42〜44度ぐらいが上限でしょう。他のMacBook系モデルも最も熱い時の温度がこのぐらいだからです。

一方、MacBook Proのスコアは30分連続で負荷をかけても7450までしか落ちませんでした。ほぼ性能低下がないような結果です。温度も上面の最も熱い部分で35度、底面で37度とMacBook Airより低い温度。ちなみにMac miniは何分回し続けても性能に変化は起きません。

この差を大きいと捉えるか、小さいと捉えるかですが、横に並べて同時にベンチマークを始めると、Cinebenchのレンダリングが4週目ぐらいになってから差がで始めることがわかります。

言い換えれば、その程度の違いしかなく、よほどロングスパートが必要な処理の時以外は、MacBook AirとMacBook Proの差はないと言っていいでしょう。またThunderbolt 3を4ポート備えるMacBook Proの13インチ版がラインナップには残っていますが、SSDやメモリの最大容量といったスペックを除けば、パフォーマンスの面で選ぶ理由はすでになくなっています。

実アプリの速度から垣間見える実力

GPUに関しても大幅な性能向上が図られていますが、今回はCPU性能を中心にテストしてみます。12分のフルHD/30P動画をFinal Cut ProでH.264に書き出すテストを行いましたが、なんと16インチMacBook ProのCore i9モデルに近い性能が出てしまいました。僕が普段使っているMacBook Proの2018 Lateモデル(クアッドコアになった初の13インチモデル)など、性能では全く歯が立たず。16インチのMacBook ProもCore i9搭載モデルのためM1を超えていますが、スタンダードモデルならば同等、あるいはM1の方が高速かもしれません。

12分のフルHD/30P動画のH.264書き出しテスト(Final Cut Pro)

  • Mac mini 2分55秒

  • MacBook Pro 2分57秒

  • MacBook Air 2分57秒

  • MacBook Pro(2020Mid、i9モデル、16インチ)2分23秒

  • MacBook Pro (2018Late上位モデル、13インチ)11分7秒

しかも処理の後、ファンレスのMacBook Airでもほんのりと暖かい程度でした。16インチモデルに搭載されているCofee Lake-Hの8コアプロセッサでは、ガンガンと冷却ファンが回ります。もちろん、製造プロセスが全く違うから比較にならないと言うのは確かですが、このような処理でもMacBook Airの処理能力が落ちないことに驚きました。

次にIntel CPU向けに開発されているアプリケーションの速度をチェックするため、AdobeのLightroomでリコーGR IIIのRAWファイルを20枚現像してJPEGで書き出してみました。こちらはM1搭載モデルは全て同じ結果でした。

リコーGR IIIのRAWファイル20枚現像テスト(Lightroom)

  • M1搭載Mac 22.5秒

  • MacBook Pro(2020Mid、i9モデル、16インチ)20.3秒

  • MacBook Pro(2018Late上位モデル、13インチ)36.4秒

こちらもCoffee LakeのMacBook Pro13インチモデルは歯が立ちません。Rosetta2によるエミュレーションでは3割ほど性能が削がれると言われていますから、LightroomがApple Silicon対応すれば、ここからさらに3割程度の性能改善が期待できるでしょう。何より、エミュレーションなのに高速で、しかも電力消費も少ない。 同じ筐体デザインであるだけに、心臓部のパフォーマンス差がより浮かび上がります。

"電力あたりパフォーマンス"のその先

今回はCPUパフォーマンスに絞って評価しましたが、M1はGPU性能(内蔵GPUとしては)も極めて高く、GeekBench 5 Computeスコアは1万9000に達しています。外部GPUであるGeForce MX350のスコアがおよそ1万4000程度であることを考えれば、内蔵GPUとしては極めて高い性能だというのがわかるでしょう。また、IntelのXeアーキテクチャに対しても優位性があることは確かです。もちろん、M1がTSMCの5ナノメートルプロセスで生産され、18億トランジスタを集積するプロセッサだからという、現時点でのアドバンテージがあるのは確か。ライバルが同じ道具を得たときにどこまで優位性を保てるかは未知数となります。

しかし、M1はCPU、GPUともに、これまでにないほど電力あたりの性能が引き出せています。いや、実際にはスマートフォン向けSoCをアップスケールしてパソコン向けに再アレンジすれば、どのプロセッサもM1ぐらいの電力あたりパフォーマンスを出せるのかもしれません。いずれにしろIntel(+ここではAMDも含めることにすると)の電力あたりパフォーマンスを上回っていることは間違いないでしょう。

第11世代Intel Coreを採用するMacがラインナップされていないため、フェアな比較はできません。とはいえ、M1を搭載するMacはいずれも発熱が非常に小さく、Cinebenchを動かしていた時こそ温度が40度を超えましたが、MacBook Airも基本的には極めて"涼しい"パソコンに仕上がっています。

M1は、より消費電力が高いIntelのクアッドコアよりも高いCPU性能を備えるだけでなく、よりサイズが大きい6コアのPC向けプロセッサと比べても上回ります。テストを通して"暑苦しい"と感じることは一切なく、電力あたりのパフォーマンスがIntelのモバイルプロセッサよりも3倍優れているという主張は間違いありません。

今回評価した3シリーズではやはりMacBook AirがM1の特徴を最も引き出せる素材と言えます。もちろん、MacBook Proも優秀であり、条件によってはMacbook Airよりも高性能です。搭載バッテリ容量も大きいですし、3万円の価格差を許容できるかどうかは使い方によるところでしょう。ただし、"この先をどうするのか"はテーマとして残ります。

"スケーラビリティ"が今後の課題か

今回、全く予想していなかったわけではないものの、ここまで3シリーズ間の性能差が小さいとは思いませんでした。M1はスペックがひとつしか存在せず、どれもクロック周波数の上限は3.2GHz。もっとも、その時々に適したクロック周波数で動作し、熱の問題があれば動作周波数が下がるため、複数のスペックが存在する必要はあまりないと言えます。

ただしMac miniの放熱能力は完全にオーバースペック。概ね10〜15ワットのあたりに性能と消費電力のバランスが良いポイントがあり、それ以上は消費電力の枠を外しても性能があまり伸びないということなのでしょう。あるいは開発者向けのテスト環境として、あえてM1を採用するMac miniを用意したのかもしれません(もちろん、用途次第。ファンノイズが気になる音楽制作などの場ではMac miniの静音性とパフォーマンスの両立は好まれるでしょう)。

しかし、上位のMacBook ProやMac mini、iMacでのパフォーマンス、あるいはMac Proレベルの高性能が必要なユーザー向けには、性能だけではなく拡張性の面でも答えを提供できていません。無論、Appleは「2年をかけて移行」と話しているように、時間をかけてアップスケールしていくのでしょう。来年には拡張性を高め、モバイル系は全てApple Siliconに統一し、再来年にデスクトップ向けのソリューションを提供する。あるいは来年にiMacまでカバーした上で、Mac Proのみを再来年に置き換えるといったシナリオも考えられますが、確たる情報は今のところありません。

なお、Rosetta 2の互換性は極めて高かったことも報告しておきます。手元のテストでは(係争中でもある)Epic Gamesのフォートナイトは異常終了することがあったものの、そのほかのゲームなどを含めて互換性の問題はほとんど出ていません。また、Mac App StoreではiPad、iPhone用アプリを検索してダウンロードもできます(一部、Mac用があるアプリは検索に出てこない)。Macにはないセンサーを用いている場合などは動作しないアプリもありますが、Big Sur上でiOS/iPad OS用アプリを動かす際の互換性はかなり高いという印象です。

非公式にはなりますが、Apple Silicon対応のアプリケーションも現時点で出始めており、来月になれば基調講演で約束されていた大手ソフトウェアベンダーのMac用アプリも続々とApple Siliconに対応すると聞いています。

テスト中、なかなか減らないバッテリや高負荷テストをしても熱くならない筐体を肌で知ってしまっている身としては、MacBook AirとMacBook Proの双方ともに魅力的に見えています。しかも体感的に"速い"と思うほどの違いまでで感じられました。とりわけMacBook Airを狙っているユーザーは買い時がやってきたと言えそうです。


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