AQUOS global sales channels Masahiro Sano

最近ではマスクの製造・販売で大きな話題をふりまいたシャープですが、2020年6月10日にインドネシアで「AQUOS zero2」「AQUOS R3」を販売することを発表しています。いずれも国内では既に販売されている同社のフラッグシップモデルですが、インドネシアにも販路を広げ販売の拡大を図りたいようです。

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▲シャープは「AQUOS zero2」などのフラッグシップモデルをインドネシア市場に投入すると発表。海外でのフラッグシップモデル販売を加速しているようだ

ですがそもそもシャープが、テレビや家電だけでなくスマートフォンでもインドネシアに進出していたことことを知らない人も多いことでしょう。実はシャープはインドネシアで継続的にスマートフォンを投入しており、2020年には先の2機種より前に、海外向けのミドルクラスのスマートフォン「AQUOS V」を販売しています。

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▲インドネシアなど海外向けに投入されている「AQUOS V」。クアルコムの旧世代のハイエンドチップセット「Snapdragon 835」を搭載し、ミドルクラスながら高い性能を持つのが特徴だ

同様に、シャープのスマートフォンが継続的に投入されているのが台湾です。シャープは2016年に台湾の鴻海精密工業の傘下となっているのに加え、台湾は元々日本の製品が人気を獲得しやすいこともあってか、同社は台湾でも継続的に製品投入。AQUOS R3やAQUOS zero2もインドネシアに先んじて販売されています。

またシャープは、2018年から欧州市場へも再進出を果たしています。当初はやはり海外向けのミドルクラスのモデルを中心に販売してきましたが、2019年にはフラッグシップモデルのAQUOS R3の販売を発表し、ハイエンドモデルも積極投入していく姿勢のようです。

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▲シャープは2018年に欧州市場へ再参入、2019年の「IFA 2019」ではAQUOS R3を欧州市場にも投入することを発表している

こうして見ると、シャープは国内だけでなく、海外でもスマートフォンの販売を拡大しようという姿勢を強めていることが分かります。海外では日本以上にスマートフォンの価格競争が激しく、進出は困難を極めると考えられるのですが、なぜシャープはそうした状況下でも海外進出を推し進めているのでしょうか。

最も大きく影響しているのは鴻海精密工業の影響でしょう。先にも触れた通り、シャープは液晶事業の不振で経営危機に陥り、2016年に鴻海精密工業の傘下に入ることで再建を進めてきましたが、その再建の過程でシャープは経営危機によって手放した、テレビを中心とした海外での販路を買い戻す動きを進めているのです。

実際シャープは2016年に、欧州でのテレビ事業の販売権を売却したスロバキアのユニバーサルメディアコーポレーション(UMC)を買収。また2019年には、米国での商標権を売却していた中国のハイセンスと交渉の末、米国でのテレビ販売再開に合意するに至っています。

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▲シャープは欧州でのテレビの販売権などをスロバキアのUMCに売却していたが、2016年に同社を買収することで販売権を買い戻している。写真はシャープの買収前に実施された「IFA 2016」のUMCブース

こうした販路を活用し、日本以外では一部の国での小規模展開にとどまっていたスマートフォンの海外販売を積極化しているわけです。実際欧州でのスマートフォン販路開拓にはUMCの販売網が活用されているそうで、テレビとスマートフォンのセット販売なども実施されているようです。

ですがスマートフォンは、今となっては価格競争が激しく決して“美味しい”事業ではありません。にもかかわらずシャープがテレビだけでなく、スマートフォンの販売を世界的に拡大しようとしているのには、やはり「5G」が影響しているのではないかと考えられます。

シャープは現在自らが強みを持つディスプレイ技術を生かした「8K」のエコシステム拡大に力を入れていますが、そこにはワイヤレスで8Kの映像伝送ができるなど、高い性能を持つ5Gのネットワークが欠かせないと考えられています。

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▲ディスプレイ技術に強みを持つシャープは8Kの映像を活用したエコシステムの構築に力を入れているが、その上で5Gが欠かせない要素と見ているようだ

そして5Gを有効活用したビジネスを展開する上では、スマートフォンなどの通信デバイスを自ら手掛けていることが重要な意味を持ってきます。そうしたことからシャープは5Gが本格化する今後に備え、テレビだけでなくスマートフォンの販売を拡大して世界的な8Kのエコシステムを構築しようとしているのではないかと考えられるわけです。

同様の方針を取っているのがソニーです。ソニーモバイルコミュニケーションズのスマートフォン事業は長年赤字に苦しみ、販売台数が激減しており幾度となく撤退の噂が立っている状況ですが、にもかかわらず同社がスマートフォン事業から撤退しないのには、やはり今後のビジネスに5Gが重要な存在となり、その5Gを活用するデバイスを自ら手がけていることが有利に働くと考えているからこそなのです。

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▲ソニーモバイルコミュニケーションズが不振を極めながらもスマートフォンから撤退しないのは、今後産業全体で重要性が高まる5Gのデバイスを自ら手掛けることが重要と判断しているからこそだ

とはいえ、日本企業がスマートフォンを世界的に販売拡大する上では課題が非常に多いのも事実です。最も大きな課題は、日本と海外とではスマートフォンに求められるニーズが大きく異なることです。

日本の消費者は高い機能や性能に加え、高い品質を求める傾向が強いことから、比較的値段が高くても質がいハイエンドモデルが売れ筋となる傾向が強く、質よりも価格が強く求められる海外の多くの国とはニーズが結構違っています。

2019年に電気通信事業法が改正されて低価格スマートフォンのニーズが高まっているといわれてもなお、高額なiPhoneが市場の半数近いシェアを獲得していることが、そうした市場の特性を証明しているといえるでしょう。

それゆえ日本の携帯電話メーカーは、日本市場で人気のハイエンドモデルを海外向けに投入しても、オーバースペックで値段が高く、ニーズが合わないので全く売れないという苦い経験を多くしてきました。

シャープは鴻海精密工業の傘下となりスケールメリットを得たことで、そうした弱みを補い低価格モデルのラインアップを増やして海外での販売を拡大しているようですが、日本で手がけているフラッグシップモデルでは勝負ができておらず、自社技術を存分に生かせているとは言い難いのです。

そうした意味でも、海外でAQUOS R3やAQUOS zero2などのフラッグシップモデルを次々投入していることが、今後海外でどのような評価をされるのかが大いに注目されるところ。シャープが5G時代にスマートフォンで存在感を高められるかを見据える上でも、今回のインドネシアでのフラッグシップモデル販売は重要なポイントになってくるかもしれません。