台湾の天才IT担当大臣オードリー・タンに訊く、新型コロナウイルスの先にある未来の国家とは

Siriの多言語対応にも貢献

松村太郎(Taro Matsumura)
松村太郎(Taro Matsumura)
2020年07月7日, 午前 07:01 in taiwan
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新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を抑えるべくマスク・マップの普及を進めたことで日本にもその名を轟かせた台湾のIT担当大臣オードリー・タン(唐鳳)氏。1981年生まれの39歳にして、既に台湾でIT担当大臣のキャリア4年も務める人物です。

学校に馴染めず中学を中退、同時に学んでいたPerlにのめり込み、19歳でシリコンバレーの企業、Appleとも契約していました。前述の通り、台湾での感染拡大防止や市民サービスにテクノロジーで素早い対応をしたことが世界で話題となり、東京都の新型コロナウイルスに関するウェブサイトへGitHubを通じて協力したことをご存じの方多いことでしょう。

そのほかにも2005年から女性への性転換を始めたこと、「鳳」の英語読みを日本語の「おおとり」から取ったことなど、話題は尽きません。そんなオードリー・タン氏にリモートでのインタビューを行う機会が得られたので、新型コロナウイルス対策について、自身のキャリアについて、そして台湾の未来像について、じっくりとお話を伺ってみました。

新型コロナにも迅速対応、情報戦を制するデジタル行政

──マスクの事前注文のシステムは3日で出来上がりましたよね。なぜそんな短時間でできたのでしょう?

オードリー・タン氏(以下、オードリー氏):実は、テキストファイルのわずかな変更だったからです。台湾の納税申告は、国民健康保険証を使って、1万2000台以上あるコンビニのATMから行えます。また、所得が低い場合は窓口で支払うことになります。そのため、基本的には政府の窓口、すべての薬局、郵便局、ATMがシステムでつながっているのです。生後3日目に配られる保険証のシステムは公共サービスでのみ利用できるため、国民からの信頼も厚い。これを利用した結果でした。

こうして誰もが信頼できる形で公平な配給政策を実現しましたが、その一方でパニック買いなど、噂による行動は防ぐ必要があります。そこに対しては、インフォデミック(≒情報の氾濫)より面白いユーモアを発信するという対策に取り組みました。こうした正しい情報を人々が自主的にシェアしたことで、ロックダウンをすることなく新型コロナウイルスおよびインフォデミックとの戦いを制してきたのです。

──台湾の行政におけるテクノロジーの役割は既に大きなものになっていますね。

オードリー氏:はい、その通りです。非常に重要な存在となっています。誰もが中央で行っている記者会見をライブストリームで見ることができますし、新しいアイデアを思いついたら、それが共有できる仕組みも実現しています。

例えば、支給マスクの色がランダムで、ピンクが当たった男子生徒が登校拒否になっているという声が届きましたが、その翌日には閣僚の男性陣によるピンクマスク着用のキャンペーンが始まりました。

このように、1月初旬の内部告発から始まった新型コロナウイルス感染拡大の情報に対して、コミュニティからの良い情報を確実に集め、一刻も早く確実な予防措置を執り、そうした情報や活動がソーシャルメディア上で増幅されるよう努めてきました。

──なぜ台湾は、そこまで情報とテクノロジーに強いのでしょうか?

オードリー氏:理由の一つに、官民の新しいパートナーシップが挙げられます。

一般的には政府がアイデアを出し、調達を通じて、民間企業がそれを実現しますよね。そして社会セクターがコミュニティに対してアイデアを説明し、参加とフィードバックを求める、伝統的な滝のようなモデルです。しかし台湾では、アジャイル開発を取り入れています。一般的なものとの最大の違いは社会の要請からスタートする点です。

先ほどの医療用マスクの例で言えば、「医療用マスクをどこで入手すれば良いかわからない」という社会的要請がありました。そこで、入手可能な場所を地図に表示する解決策が提案されましたが、これを実現したのは政府ではありません。

もともとはHowardという名前の台南にいる人物が、友人や家族のデータを地図上にクラウドソーシングしており、その技術を活用したところから始まりました。しかし、台湾から非常に多くの人々がマスクの在庫情報をレポートしたため、たった2日間でGoogle Maps APIの利用料が膨大に膨れ上がってしまう結果に。それと同時に行政がより信頼性の高い情報を提供するべきだと私は思いました。

そこで私はこのアイデアを引き継ぎました。Googleはこの時点で、API利用料の免除に合意していました。また行政機関に対して3秒ごとに更新されるデータの提供を迫ったのも民間側の要請です。こうして、マスクマップだけでなく、チャットボット、音声アシスタント、情報を示すダッシュボードなど、わずか数週間で140以上のアプリケーションを作り出したのです。

これは、アジャイル開発を取り入れたからこそ実現できた成果と言えます。調達プロセスを待つ必要がなく、そうした能力を持つ人材はすでに社会セクターに存在しているのです。

──今後行政において、どのような人材がどのように活躍できると思いますか? また、その仕組みはどのようなものになりますか?

オードリー氏:例えば、東京都が行っている新型コロナウイルス感染症対策サイトのダッシュボードは、本当に良いスタートだったと思います。GitHubを通じて、私を含むエンジニアが参加できるようにしただけでなく、デザイナーも巻き込むことに成功していると思うからです。ダッシュボードでは緑のバー1色で表現されていましたが、それを見た時、デザイナーは「色覚異常の人、視力が弱い人にも見やすい色を活用すべきだ」と言っていました。

これはアジャイル開発に対して、エンジニアだけでなくデザイナーに対しても参加を訴求していくことにつながるのではないでしょうか。プロダクトデザイナー、ビジュアルデザイナー、サービスデザイナー、インタラクションデザイナーも同様です。

最も重要なことは、こうした多様な人々が、一緒に働く「文化」を築いていくことです。そのためには、不満を言う人を「コクリエイター」(共同制作者)に転換する、マインドセットを変化させるためのエンゲージメント戦略が必要になります。その良い例が、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトのダッシュボードだと言えるでしょう。

学び続けるキャリア

──中学で学校に通わなくなったと聞きましたが、それは何がきっかけだったのですか?

オードリー氏:私は14歳の時、科学フェアの仕事をしていました。その当時は全国科学フェアにおいて1位になったことで高校への進学は保証されていましたし、オンラインの研究コミュニティとつながりもできていたころです。

その時に気づいたことは、もし高校に行ったとしても、教科書では古い知見しか学習することができないということです。それと同時に新しい科学的発見はサーバにオンラインで共有されていることも知りました。

そこで中学校の校長に相談したところ「明日から学校に来なくていい」と言われました。現在では自宅での学習、つまりオルタナティブ教育が台湾の日常の一部となっており、すでに10%の生徒たちが私と同じ選択をしています。しかし25年前の台湾ではもちろん違法でした。

──あなたにとって、学びとはどういうものでしょう?

オードリー氏:結局、私は中学を中退して自分の会社を立ち上げました。その一方で、学ぶ事は一生続くと常に思っています。

近くにあった大学では特に哲学や人間性の授業を受け、そこでは教科書を読むだけでなく多くのブレーンストーミングが必要で、物理的な会話を通じた学びを重視するようになりました。また、1971年に始まったプロジェクト・グーテンベルク(著作権切れの名作を全文電子化する)仕事を通じ、非常に多くの古典や書籍を読み、フリーソフトウェア運動などへの貢献も多くしてきました。

生涯続く学びの中で、私の好奇心を駆り立てているのは、「なぜ人々は、実際に顔を合わせるよりも簡単にオンライン上で信頼し合うのか」ということです。この問いに答えるには、7つの異なる分野の知識を学ばなければならず、それらの異なる分野から自分の分野を作り上げることに他なりません。

──そうした中で、中学での起業でキャリアをスタートしましたね。

オードリー氏:私の仕事の1つは、「フュージョン検索」といわれるローカルとリモートを融合させた検索エンジンです。これは例えばmacOSに実装されているSpotlightのように、コンピュータの中にある情報をインデックス化し、当時はAltaVista、現在のGoogleのような既存のオンライン検索と組み合わせ、検索者の望む情報を予測して取り出すことを目指しています。

その後、同じ会社でCoolBidというCtoCオークションサイトなども立ち上げており、台湾でも有数の規模を誇るソフトウェア企業に成長したのです。1998年頃、ちょうどIntelから投資を受けたタイミングで会社を離れ、フリーソフトウェアの開発に集中するようになりました。

──その後、Appleにも参画しましたね?

オードリー氏:はい、Appleと個人でコンサルタント契約を結び、Siriの多言語対応に取り組みました。Siriは当初英語しか喋れませんでしたが、様々な言語に対応できることを証明するのが私の挑戦の主となりました。これは私の興味とも重なっていました。

実は長年、Perlコミュニティの多言語化のスペシャリストとして活動しており、その友人であるKevin Lenzoに誘われて、macOS Sierraがリリースされるまでの間、参画してきました。

この仕事を通じて非常に多くのことを学びました。例えば、クラウドサービスや人工知能のローカライズにおいて、資料が少ない言語を使えるようにする方法についてです。

私はオックスフォード大学出版と協力し、クラウドソーシングの辞書を使って、Siriも現地の言葉を確実に聞き取れるよう改良しました。その後、Mozillaが音声認識プロジェクトを立ち上げて同様の問題に直面し、少なくとも台湾版については手伝うことができたのです。

ちなみに、Appleとの契約時に時給は1ビットコインだと言いました。当時1ビットコインは100ドルだったのですが、その価値が200ドル以上になると踏んでいたからです。しかし、AppleとApple University(人事)は、会計システムがビットコイン支払いに対応していないとして、米ドルや英ポンドに換算して支払いをしていました。結局、ビットコインでは支払ってくれませんでしたが、私の時給はビットコインのレートのように上がっていったのです。

未来の若者と政治、そして未来の台湾

──現在、そしてこれからのテクノロジーと政治の関係について、どんな変化が起きると思いますか?

オードリー氏:例えば、ソーシャルメディアは政治活動のための組織を大きく変えました。これまで大規模な運動を組織するにはリーダー同士が知り合っている必要がありましたが、今ではハッシュタグ一つで、気候変動に関するストライキを起こすことができます。必要なのは人々が賛同できる適切なハッシュタグだけですよね。

現在ハッシュタグは、もっとも新しい社会的イノベーションに参加する方法になりつつあります。より早く、公平で、楽しい方法と言えます。そして誇るべきことは、そのハッシュタグが自然発生的で誰も管理しておらず、しかも少しずつ改変して誰でも進化を加えられることです。これはオープンプロジェクトのようなものと言えるでしょう。

また、Google Docsのようにバージョンが競合しないアルゴリズムによって、エンジニアではない一般の人々であっても何百・何千の人々を巻き込む協調作業が可能となりました。これらの技術は、集団的知性の新しい方法を実現します。もちろん、同時に対立性や陰謀論を生み出す反社会的なものとしても作用します。

こうしたハッシュタグによる政治活動が、社会にとって利益があるものになるか、害があるものになるか、その選択はそのソーシャルメディア空間のデザイナーが決定するものなのです。

──そうした中で台湾を含む国家の新しい戦略はどこにありますか?

オードリー氏:端的に、オープンソースとオープンデータ、そしてクラウドソーシングが、新たな国家的方向性を決めていくことになるでしょう。実際、台湾ではオープンな政策を支持する首長が選挙で勝ちました。専門的な知識を持つファシリテーターから十分な情報を得た一般の人々が組織的なリスク対策とその判断を下すのです。

台湾は、20以上の文化を持つ市民の共和国であり、それぞれの文化によって生活様式が異なることは確かです。そこで重要な概念は、「トランスカルチャー」というアイデアです。効率性や管理性に特化して進歩するのではなく、文化を犠牲にせず社会の改善が行われる必要があります。例えばインターネット文化は、大まかな合意と実行コードによって成立しています。これによって全ての人や関係するステークホルダーの意志を伴って発展するなら、そこに私たちの共通の価値観が普遍的に生じたことを意味するのです。

結果として、誰も取り残されない徹底的な改善を行うことであり、SDGs(持続可能な開発目標)であれば、17のうち16を犠牲にして1つを達成するのではなく、17全てを達成することを目指しているのです。それは、多くの「他」を犠牲にして1つの価値を達成する、国家統制や資本主義とは異なるビジョンです。

──今後台湾は、そうした新しい価値を発信する存在となるのでしょうか?

オードリー氏:現在、同じ時間スケールかつ同じ地球規模において、情報のパンデミックという問題に取り組むという、人類にとって初めての経験をしています。気候変動ですら価値観の統一ができなかった我々にとって、非常に貴重な機会なのです。

気候変動は、一部の地域の人々にとっては問題視されておらず、そういった地域においては自国のメリットにすらならないため、人類共通の課題にはなり得なかったのです。しかし新型コロナウイルスの場合、関連する情報は瞬時に世界を駆け巡り、主に自由民主主義に影響を及ぼしているのです。リベラルになればなるほど、影響を受けやすくなっていきます。

世界で同時多発的に発生している感染爆発は、お互いの地域同士で見れば、2か月前もしくは2か月後の自国の様子を反映していることになります。つまり、台湾で有効だったインフォデミックを制してロックダウンを回避したアイデアは、容易に他の国にも輸出することができるのです。

ビデオ会議で政務を進める姿が当たり前となり、どの国でも高級官僚同士、政治家同士がマスクをしながら画面に映り、内政・外交でビデオ会議を活用するようになりました。国際コミュニケーションは我々が想像する以上に平等主義的になっています。

台湾はこれからもアイデアを武器に連帯とハイレベルでの協力を忘れず、地球規模の問題に貢献していくことを目指しているのです。

 

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