デザイン性と高音質の両立をはるか数十年前から実践してきたBang & Olufsen(B&O)が、初めてノイズキャンセリング機能搭載の完全ワイヤレスイヤホン(TWS = True Wireless Stereo)「Beoplay EQ」を発表した。2色展開で価格は3万9900円(税込)。ブラックアンスラサイトは発売済みだが、肌色に近い色合いのサンドゴールドトーンは8月中旬の発売が予定されている。

発表レポートはすでに本誌でもレポートされているので、このコラムでは音質や使いやすさ、他製品と比較した場合の位置付けなどをお伝えしていこう。

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結論から言うと、伸びやかで自然な音作りは幅広い音楽ファンにとって心地よいものだ。TWSとしての使いやすさやアクティブノイズキャンセリング(ANC)能力は、このクラスでは平均的なのだが、ANCをオフにした時の音がよく、またパッシブ(本体自身の耳栓効果)での遮音性が高い。

▲AirPods Proとの比較

後述するが、この製品はANCそのものを売りにする製品ではなく、これまでも評価が高かったBeoplay E8シリーズの音質やデザイン性、特徴を引き継ぎつつ、再生帯域や音楽を楽しめる場面を拡張するためにANCを活用した。そんな製品である。

▲シリコンイヤーチップ4サイズに加え、ウレタンフォーム製チップも同梱されている

B&Oファンはもちろん、これまで非ANCのTWSを好んできた人たちも検討に値する製品と言えよう。

Bang & Olufsen Beoplay EQ (Amazon.co.jp)

B&Oは北欧の老舗オーディオブランド

B&Oと言えば、かつて(ちょうど我々の世代だ)は憧れの高級オーディオ機器だった。スウェーデンやデンマークといった北欧には、良質かつ硬質な木材が資源として豊富なためか、あるいは厳しい冬の気候からオーディオ製品が好まれるためか、昔からオーディオブランドが育ちやすい。

北欧ならではのシンプルで独創的なデザインの中に、そのデザイン性からは想像もできない本格的な音が出てくる。そんなブランドイメージが"昔の"B&Oである。B&Oが再び脚光を浴びるようになったのは、デザイン性、質感、音質、装着感などに優れたイヤホン(当時は有線)を発売し、さらにスマートフォン市場の拡大とともに「Beoplay」ブランドを立ち上げてからだ。

かつて輝いていた多くのオーディオブランドが衰退したのは、上手く市場の変化に適応できなかったからと思われるが、B&Oはデザイン性と音楽性を両立させた独特の立ち位置で多くのファンを獲得し、今もそのブランド力を維持し続けている。

B&Oの製品群の中では比較的リーズナブルかつ、しかしオーディオメーカーならではのこだわりの音質チューニングと北欧メーカーらしいデザインの良さで存在感を示してきた「Beoplay」ブランドだが、このところはワイヤレスイヤホンとヘッドホンの開発に力を入れている。

たとえば最新ワイヤレスヘッドホンの「Beoplay HX」は、以前にこの連載の中で紹介したAppleの「AirPods Max」と価格帯もパフォーマンスも競合する製品だ。

純粋に機能、装着感などを比較し始めると複雑になるため、あえて音質だけに絞って評価するが、色付けが少なく正確かつ透明感のある音を出すAirPods Maxに対して、熱い想いが伝わるかのようなヴォーカルの厚みと透明感の同居、まるで大きなスピーカーで聴いているかのような低域の質感などが魅力的だった。Appleはニュートラルを信条とし、その中で質を追求したのだろう。一方のB&Oは音楽表現というところにフォーカスしてキャラクターを確立させ、細やかな音質チューニングで表現力を高めようとしている。

TWSはヘッドホンよりも音質設計の自由度が低いが、その中でも3万円台というTWSとしては高価格帯で、しかもANCを搭載せずに競争力を発揮していたのがBeoplay E8シリーズだった。今回の「Beoplay EQ」は、そのANC付きバージョンということになる。

WF-1000XM4とは競合しないと感じる理由

Beoplay EQの直接のライバルといえば、おそらくソニーの最新作である「WF-1000XM4」になってくるだろう。本誌でも先日、WF-1000XM4について音質などをレポートしている。今回のレビューでも同様の基準で製品を見ているので、気になる方はそちらも参照していただきたい。

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また、本誌でのヘッドホン、イヤホン評価に使っているApple Musicのプレイリストを今回も使っているので、後のレビューで音質のキャラクターを把握するときに参考にしていただければ幸いだ。

さて、実際に聴き始める前まではライバル関係になるかと思った両者だが、使い始めると商品そのもののコンセプトがかなり異なっていた。

ソニーは業界最強のANC能力と新たに採用した耐久性の高いウレタンフォームイヤーチップ、新しい自社開発のTWS向けチップなどで"静寂"を実現し、そこに音楽を載せている。機能的にもこなれており、ANC動作中のウィンドノイズが大幅に緩和され、喋り始めると周囲の音を自動的に取り込みつつ音楽をミュートする「Speak to Chat」といった機能も便利。ANC機能を中心に考えた場合、現在、もっとも充実した機能と性能、音質を備えた製品だ。もしANC至上主義ということならば、現時点ではソニーの総合力は高い。

しかし、あくまでも音楽を楽しむ道具として捉えた時、必ずしも絶対的なANCの能力や総合力だけでは判断できないのが、趣味性の高いオーディオ製品である。

そもそも、Beoplay EQはそもそもの出発点が「より優れたANCのTWSを作る」という部分にない。ANCの能力を欲張っていないことが、聴き始めるとすぐにわかる。高音質な TWSとして評価の高かった歴代のBeoplay E8シリーズで築いた音質を引き継ぎつつ、「周囲の状況に応じてANCで視聴環境を整え、より音楽を深く楽しむ」というコンセプトなのだ。

というのも、ANCの能力と音質はトレードオフの関係にある。ANCは"音で音を打ち消す"仕組みであるため、音質に関してはある程度は犠牲にならざるを得ない。もちろん騒音だらけの中で音楽を聴くよりも、ノイズを引き下げた方が音楽は楽しめるが、要はそのバランスが大切ということだ。

Beoplay E8シリーズと同様に音質を追求した上で、周囲の状況に合わせて必要な量のANCを効かせる。これはB&O自身も意識してそうしたキャラクターに仕上げているようで「我々の製品はあえてANC機能を最大に効かせていない。音楽を楽しむための程よいANCに仕上げている」と取材時に話していた。

欲張らないANCと自然に広がる再生帯域

とはいえ、実は8月中にリリースされる対応アプリを用いることで、採用するチップの最大能力でANCを引き出すこともできる「ANC強度調整機能」も追加される予定だという。これによりオフの状態も含め11段階の強度設定が可能になる。ちなみに現状は周囲の音の状況に合わせて最適な効き具合が自動選択される仕組みだ。

"ANCを最大に固定できる"ようにすることは、この製品のコンセプトと矛盾するようだが、おそらくは販売現場からの要望があったのかもしれない。本機はaptX Adaptiveに対応しているため、Qualcomm製の最新TWSチップセットを採用していると思われる(同コーデックはTWS向けには自社チップセットにしかライセンスされていないため)。同じチップセットでもマイクの位置や数などでANCの性能は異なるが、効かせ具合はある程度コントロールできる。

本機の場合、Beoplay E8シリーズに対してドライバ径を拡大(5.2ミリに対して6.8ミリ)することで低域の再生能力とANC補正能力を高め、マイク数を2個から6個に増やすことで(音声通話時のビームフォーミング精度を高めるとともに)フィードフォワード、フィードバックを併用するANC機能を付加している。

ANCの効きが良いのは主に低域から中低域にかけて。中域から中高域にかけてはANC効果が薄れていくのを感じる。中高域から上の帯域は、基本的にパッシブの遮音効果に頼ってるようだ。パッシブの遮音効果も比較的高めであるため、騒がしいカフェや電車内などを除けばANCオフでも十分だと感じる。

ちなみに適応的にANCの効き方が変化することに関しては、それを体感することはなかった。またトランスペアレントモード(外音取り込み)機能は、やや硬質な音にはなるものの周囲の状況は把握しやすく、十分な品質だ。ひとつ気になる点があるとするなら、風が強い日にANCをオンにしていると、ウインドノイズ(風切音)が少し目立ちやすいことぐらいだろうか。

伸びやかで自然に広がる再生帯域の広さと空間表現力が魅力

長々と製品の位置付けについて説明をしてしまったが、やはり肝は音質だ。ライバル機との直接比較は、もう少し使い込んで聴き比べてからにしたいが、まずは一週間ほど使い込んだ上でのインプレッションをお届けしよう。

なお評価の際は、ANCの効き具合が自動で変化するためANCをオフにしたうえで静かな室内で評価を行なっている。とはいえ、ANCがオンになっても(品位の変化はともかく)音の質感に基本的な変化はない。

カナル型にありがちな閉塞感はなく、一般的なポピュラー音楽を楽しむために必要な帯域は十分にカバーされており、伸びやかでクセのない質感と空間表現の大きさ、広さを感じる。

ビリー・アイリッシュの「bury a friend」はタイトで弾力感のあるベース音色はもう少しタイトならばベストだが、一方で量感を演出するところがない。ローエンドをカットして中低域を元気よく聴かせるなどのチューニングもない。

高域も程よく伸びており、刺激の強さや歪感など耳障りな感触がないのは好ましい。一方で帯域や音像のシャープさは保たれている。

もちろん、オーバーイヤーのヘッドホンとは異なり、いわゆる耳栓型のイヤホンだけに音場のスケール感は求められない。編成が大きなオーケストラでは、ホールに漂う空気感、あるいはボン・イヴェール「Hay, Ma」の柔らかな低音で包み込むような音場の作りはやや薄味だ。しかし薄味なりに低域まで描こうという意思は感じられる。あまりテクニックで誤魔化そうとしていないため、ジャンルの得意、不得意を感じないことも好ましい。

前述のbury a friend、それにザムヴォーロ「In Love and War」、ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」、クラフトワーク「Tour De France (Etap 2)」と、特徴的なシンセベース音の質感を比べても、しっかりと音作りの方向性が描き分けられている。

ヴォーカルは優しい印象で女性ヴォーカルはシルキーに、心地よく聞かせてくれた。ダイド・アームストロング「Don’t Believe in Love」のドライなオンマイクのヴォーカルは、生々しくも掠れることなく、リアリティを伴う描き方だ。

これはケイシー・マクグレイブスの「Slow Burn」でも同様で、カナル型イヤホンにありがちな閉塞感を感じさせず、伸びやかな広い音場の中で心地よい女性ヴォーカルを聞かせる。

もちろん、評価はTWSという機器形態の中でのものだ。マニア層の中には、ハイレゾ電装ができないのに音質評価といっても限定的だと批判的に見る人もいるだろう。しかしTWSという本質的にモビリティが重視される製品の場合、ハイレゾ対応よりも圧縮音源の範囲でどう聞こえるかのほうが重要だと思う。同じQualcommのSoCを使いつつも音質で勝負できている。

音楽を楽しむためのTWS

音質面では満足度の高い本機だが、使いやすさの面で少しばかり要望を書き添えておきたい。

それはANCのモード設定が判別しにくい点の改善希望だ。周りがうるさい場合はともかく、静かな部屋ではANCのモード判別が難しい。パッシブの遮音性が高いことも理由だが、アプリ上での確認も現時点では行えなかった。音声ガイドを流すなどの工夫が欲しいところ。また、左ピースのダブルタップでANCモードを変更できるが、現状は「ANCオン」「トランスペアレンシー」「ANCオフ」のトグル切り替えとなる。これを任意の2つの切り替えにするだけでも使いやすさが増すだろう。

この点を除けば、高品位なアルミ素材を採用することで傷付きにくくしているという充電機能付きケースもコンパクトで使いやすい。

あくまでANC性能のみが評価基準ということならば、無理に主張はしない。しかし、あくまでも"どんな環境でも音が良い完全ワイヤレスイヤホンが欲しい"というならば、検討の価値はある。音楽を楽しむ道具は、音楽のためにあるべきだと思うからだ。

Bang & Olufsen Beoplay EQ (Amazon.co.jp)