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去る2020年7月28日、米国のCTA(Consumer Technology Association)という団体が、2021年1月の開催を予定していた「CES 2021」を、オンラインでの開催に変更すると発表しました。

「CES」は毎年1月に米国のラスベガスで実施される家電・ITなど民生機器を主体としたテクノロジーの総合見本市であり、IT業界でもその1年の動向を占う重要なイベントとして毎年非常に高い注目を集めています。しかもCESは年々規模を拡大しており、最近ではIT関連だけでなく、自動車や住宅など非常に幅広い分野の企業が参加する巨大イベントとなっています。

それだけCESは影響力が大きいこともあって、CTAは当初、2021年のCESも従来通りラスベガスで開催する方向で検討していたようです。ですが米国をはじめ、世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が今もなお継続していることから、CTAはリアルイベントとしてのCESの開催を断念、オンラインで実施するという結果に至ったようです。

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▲筆者が最後に訪れた2016年のCES。それ以降もCESは規模を拡大し続けていたが、コロナ禍によって2021年は一転してオンラインでの開催となった

筆者のメインフィールドである携帯電話関連企業の出展が少ないこともあって、筆者はここ最近CESの取材には参加していませんでした。ですがCESの巨大化によって日本のテクノロジー関連企業のほとんどがCESに参加するようになり、1月前半は国内のIT業界が抜け殻状態となってしまい年初から2週間以上取材がゼロになる年も増えていました。

それゆえ筆者も、2021年からは再びCESの取材を復活させるべくホテルを確保するなど事前の準備をしていたところでした。それだけにCESの開催がオンラインのみになってしまったことは、2月に実施予定だった携帯電話の総合見本市「MWC 2020」の中止と合わせて、大きなショックを受けたことは確かです。

ですが2020年のイベント動向を見ると、新型コロナウイルスの感染が急拡大した2月以降、CESだけでなく多くのイベントが中止、もしくはオンラインへの移行を余儀なくされているのも事実。CTAの判断もやむなしという様子が浮かび上がってきます。

実際MWCだけでなく、3月の実施を予定していたカンファレンスイベント「SXSW」や、6月の実施予定だったコンピューターゲームの見本市「E3」も開催中止となっており、それらで新製品の発表などを予定していた多くの企業は、急遽オンラインでの発表会を実施しています。また国内でも「Interop Tokyo」や「CEATEC JAPAN」、「東京ゲームショウ」といった主要IT関連イベントが、相次いでオンラインでの実施へと切り替えているようです。

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▲新型コロナウイルスの影響を受け、国内でも「CEATEC」など主要なIT関連イベントが相次いでオンラインでの実施を表明している。写真は2019年のCEATECより

企業が独自に開催するイベントも、中止やオンラインへの移行が相次いでいるようです。アップルは開発者向けのイベント「WWDC」を、今年はオンラインの開催としていますし、グーグルの開発者向けイベント「Google I/O」は中止となっています。

現時点でオフラインでの実施を表明している大きなイベントといえば、ドイツ・ベルリンで毎年開催されている家電・ITの総合見本市イベント「IFA」くらいでしょう。ただそのIFAも、期間は3日間に短縮してイベントも4つに分割。各イベントに参加できる1日当たりの人数も1000人に限定し、一般客は参加ができないなど大幅に規模を縮小しての開催となるようです。

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▲主要イベントの中で唯一、リアルでの実施を表明している「IFA」だが、一般客の参加を中止するなど大幅に規模を縮小しての実施となるようだ。写真は2018年のIFAより

こうした状況が1年で収まればよいのですが、コロナ禍がいつ収まるのかというは誰にも分からないというのが正直なところ。それゆえ来年以降も現在の状況が継続するようなら、大規模イベントがオンラインへ移行する可能性が大幅に高まると考えられますが、それによって生まれるメリットがあるのも事実です。

なかでも最大のメリットとなるのは、距離の問題を解消してより多くの人がイベントに参加できることではないでしょうか。リアルイベントは会場に行ける人しか参加できず、遠くに住んでいる人が行くのは非常に大変なこと。筆者も海外イベントの取材には交通費と宿泊代などでかなりのお金と時間を費やしており、そのほとんどが赤字というのが正直なところです。

ですがオンラインイベントであれば、インターネットにつながるインフラさえあれば距離の制約を受けることなく多くの人が参加できます。どんなに大きな会場を確保しても集められる人数には限界がありますし、より多くの人にアピールする上ではオンラインが有効な手段となってきているのも事実なだけに、自ら集客できる大企業や、カンファレンス中心のイベントなどはオンラインに注力することのメリットが大きいといえます。

ですがもちろんデメリットもあり、中でも最も大きいのはイベントを開催している都市の経済に与える影響です。CESのような大規模イベントは期間中、世界中から多くの人が集まって宿泊・消費をする訳で、その都市に非常に大きな経済効果をもたらしています。また開催する都市の側も大規模イベントを円滑に実施するため、イベント会場や宿泊施設、交通網などのインフラ整備に投資してきているのです。

それだけにリアルイベントがなくなることは、その地域に計り知れない経済損失をもたらすことも事実。例えば中止となったMWCの場合、バルセロナに与える経済効果が約5億ユーロ、日本円で600億円にも達するそうで、経済損失の大きさもあって今年の開催を巡っては議論が二転三転していた経緯があります。

そしてもう1つ、オンラインへの移行で中小企業やベンチャー企業がマイナスの影響を受ける可能性が高いというのもデメリットといえるでしょう。特に見本市イベントは新製品を発表するだけでなく、商談などで会場に訪れる人達同士の関係を構築する場でもあり、単独での集客が難しい無名の小規模企業にとっては、そうしたイベントや付随イベントなどにブースを構えることが、訪れた多数の人達に自社製品を知ってもらい、商談へとつなげる重要な要素となっているのです。

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▲見本市イベントにはベンチャー専用のブースが設けられる機会が増えているほか、現地を訪れたメディア向けに実施される「ShowStoppers」などの付随イベントに出店する中小・ベンチャーも多い。写真は「ShowStoppers@MWC 2019」より

ですがオンラインのイベントですと会場内をぶらぶら歩いてブースを眺めるわけではなくなることから、参加者が知名度の低い企業のブースに偶発的に訪れる可能性は低くなり、不利に働く可能性の方が高いといえます。小規模の企業が参加するメリットをいかに持たせられるかは、イベントがオンライン化していく上での大きな課題となることでしょう。

このようにイベントのオンライン化には大きなメリットがある一方で、デメリットを受ける人達にとっては死活問題となる可能性も高いだけに、コロナ禍が続く中ではイベントを実施する各企業・団体も難しい判断を迫られているというのが正直なところではないでしょうか。ニューノーマル時代に適したイベントの在り方は、当分模索が続くことになりそうです。