DigitalGlobe/ScapeWare3d via Getty Images
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ディープフェイクといえば、すぐに思い出すのはAIがある人の写真や動画に別の人の顔や身体を入れ替えた合成画像を思い出しがち。それはたとえば人気映画俳優の顔を別の俳優にした悪戯的なものであったり、またはポルノ動画の女優の顔をどういなく別の人のものに入れ替えた悪質なものであったりします。

それらはおそらく「あの人の顔がこの人だったら…」という興味本位の動機からだったりするのでしょうが、そのディープフェイクを地形や街並みなどの画像に適用しようとする人はおそらくほとんどいないでしょう。ところが、そのような風景の画像をいかにもありそうで実在しない画像にしてしまうディープフェイク画像は、一部の研究者が心配していることだったりします。

たとえば地理学者は、人工衛星から地上を撮影した画像をディープフェイクで偽造されることを懸念しています。たとえば、外国のとある場所をいかにも洪水や山火事で甚大な被害が発生したかのように見せかけたり、なにやら大規模な集会やデモが行われているように加工したりして拡散されれば、衛星画像全体の信憑性が損なわれてしまう可能性があります。過去には衛星画像を分析した結果ウイグル人の収容所に関する報道が行われたりしたことがありますが、それも当事者国の政府にフェイクだと言われてしまえば証拠として扱うことが難しくなってしまいかねません。

2019年に米軍はまさにそのようなことが起こる可能性を指摘しています。たとえば進軍計画を立てるための地理計画ソフトウェアがフェイク画像データで入れ替えられてしまえば、作戦の重要ポイントとして示した橋へ向かっていざ出撃したは良いものの、そこに橋はなく…はっ、罠だ!という大問題が起こる可能性もあります。

そんな問題に取り組むため、ワシントン大学の地理学助教授Bo Zhao氏は最近「ディープ・フェイク・ジオグラフィー」というテーマで論文を発表しました。この研究は、下に示したような地理的な衛星画像のフェイク版を生成または検出するために行った実験について記されています。

Zhao et al。、2021、Cartography and Geographic Information Science
Zhao et al。、2021、Cartography and Geographic Information Science

Zhao氏らは、バビロニア文明時代の神話上の地理から、戦時中に敵の士気を削ぐため配布されたプロパガンダ地図まで、そこに地図がある限り、人は地図に関する嘘をついてきたと述べています。たとえば地図制作者が、苦労して作り上げた地図を他人にコピーされてその利益を横取りされてしまわないよう、透かし代わりにこっそりと存在しない道路や集落を地図に紛れ込ませておくといったことは、実際に行われていました。

そして新しい技術は新しい課題を生み出します。Zhao氏は「ディープフェイクで生成された衛星画像は、非常に精巧で、素人目には本物にしか見えません」と説明します。衛星画像は一般に政府機関や専門家など信頼性の高い部署によって作られていることも信憑性高いものと認識される要因です。

Zhao氏らは研究において、敵対的生成ネットワーク(GAN)と呼ばれるAI手法を使って偽衛星画像を生成するソフトウェアを開発しました。そして、学習した衛星画像の特性をさまざまなベースマップに注入することで、地理的ディープフェイクを生成しました。

実験ではワシントン州タコマの道路や建物(下の写真右上)を使い、これを北京の高層ビル群(同右下)またはシアトルの街並み(同左下)を重ね合わせ、色調も合わせています。生成結果は完璧と言えるほどではないものの、なんの説明もなしにこれらの中の1枚だけを見せられれば、多くの人がそのような場所があると信じてしまいそうです。

人の顔を入れ替えるディープフェイク技術がが研究室から巷に流出して悪用されるのにはそれほど時間はかかりませんでした。とすれば、今回のような衛星ディープフェイク画像もどこかで悪戯的に使われ始めるのは時間の問題でしょう。そしてこの記事の前半に記したような事例がそう遠くない将来、発見されるかもしれません。

source:Cartography and Geographic Information Science, The Verge