docomo Masahiro Sano

多くの地域で例年よりかなり早い梅雨入りとなったようですが、梅雨が明ければ夏がやってきます。その夏商戦に向けて2021年5月19日、NTTドコモが新サービス・新商品発表会を実施し、今夏以降の戦略をいくつか明らかにしました。

▲NTTドコモは2021年5月19日に新商品・新サービス発表会を実施。スマートフォン新機種や新サービスなどを発表した

その大きな軸となっているのは5Gです。NTTドコモは高速大容量通信に適した5G向けの周波数帯だけを用いて整備を進めている「瞬速5G」をアピールしていますが、その契約者が400万に達しただけでなく、エリアも順調に拡大を続けているとのこと。既に同社は2023年3月末までに、瞬速5Gの人口カバー率70%を目指すとしていますが、今回新たに、2024年3月末までに人口カバー率80%の達成を目指すというスケジュールが明らかにされました。

▲5G向けの新しい周波数帯で整備した「瞬速5G」の人口カバー率。2024年3月末で約80%にまで拡大する計画であることが、今回明らかにされた

さらに2021年度の第3四半期、具体的には2021年の10〜12月頃に、5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアロン運用への移行を進めることも明らかにされており、今後5Gの環境充実が大幅に進むことは確かなようです。そこでNTTドコモとしては、充実度が高まってきた5Gを活用したデバイスやサービスを強化することで、個人ユーザーに本格的に5Gを使ってもらう考えのようです。

サービス面では、瞬速5Gの特徴を生かしやすい大容量通信が必要なコンテンツの強化を図る方針を打ち出しています。その1つはeスポーツ事業「X-MOMENT」で、新たに「STREET FIGHTER V CHAMPION EDITION」のプロリーグ「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2021」をゲーム提供元のカプコンと共同開催すること。5Gを選手の映像配信などに活用するなどして、新しい観戦体験を提供する方針も示しています。

▲新たに「STREET FIGHTER V CHAMPION EDITION」のプロリーグを共同開催することを発表。5Gを用いて選手の表情を試合映像と配信する取り組みも実施されるという

もう1つはライブ配信事業の強化で、NTTドコモの映像配信サービス「dTV」で有料でのライブ配信を提供するほか、THECOOという会社と提携し、大型の4面LEDパネルとメディアサーバーを常設したライブ配信専用スタジオの「BLACKBOX3」を共同運営するとのこと。今後BLACKBOX3に5G環境を整備するのに加え、dTVなどでライブ配信をすることを条件に、BLACKBOX3を無料で貸し出すなどしてコンテンツの強化も図っていく考えのようです。

▲THECOOとの提携でライブ配信専用スタジオ「BLACKBOX3」の共同運営も発表。「dTV」などでのライブ配信を条件に、スタジオを無料で貸し出すことも予定しているという

ですがより注目されるのはデバイス面でしょう。NTTドコモは夏商戦向けの新機種として、「Galaxy S21 Ultra 5G」や「Xperia 1 III」など発表済みの端末5機種に加え、「Galaxy S21 5G」の東京五輪モデル「Galaxy S21 Olympic Games Edition」や、5G対応の小型モバイルWi-Fiルーター「Wi-Fi STATION SH-52B」など、5G端末を新たに3機種追加しているのですが、それらよりも大きな関心を寄せたのは「home 5G」です。

これは5Gのネットワークを固定回線の代替として利用するサービスで、固定ブロードバンド回線の工事をする必要なく、手軽にWi-Fiを導入したいという人に向けたサービス。KDDI傘下のUQコミュニケーションズが提供する「UQ WiMAX」や、ソフトバンクが提供する「SoftBank Air」に類するサービスといえば分かりやすいでしょう。

そうしたことから、home 5G専用の据え置き型Wi-Fiルーター「HR01」は、home 5Gを契約して自宅のコンセントに挿すだけで利用できる手軽さが大きな特徴となっています。5Gだけでなく4Gでの通信にも対応しており幅広いエリアで利用できるのに加え、月額4950円で使い放題と比較的安価で導入しやすい内容となっているようです。

▲「home 5G」の専用デバイス「HR01」はシャープ製。5Gだけでなく4Gにも対応するが、Wi-Fiの最大通信速度が1.2Gbpsであるなど5Gをフルに生かすにはボトルネックもあり、あくまで導入の手軽さを重視したものといえる

ですがUQ WiMAXやSoftBank Airがサービスを開始したのはかなり前のことなので、この分野でNTTドコモは相当出遅れた印象を受けるのも事実です。NTTドコモ代表取締役社長の井伊基之氏は現在のタイミングでhome 5Gを提供した理由について、1つにコロナ禍で“イエナカ”の需要が高まっており、「ドコモ光」よりも工事不要で手軽に導入できるWi-Fi環境を提供したいこと、そしてもう1つに、5Gのエリアが広がっており高速通信が利用しやすい環境が整いつつあることを挙げていました。

ただ同社を取り巻く環境を考えた場合、従来は同じNTTグループに、固定ブロードバンド回線のサービスを提供するNTT東日本・西日本やNTTコミュニケーションズが存在していたことから、それらと競合するhome 5Gのようなサービスはやりにくかったともいえます。ですが2020年にNTTドコモがNTTの完全子会社となり、NTTグループ内で事業の調整が取りやすくなったことで、晴れてhome 5Gが提供できるようになったと見ることもできそうです。

そして、NTTドコモにとってそれだけ提供がしづらかったhome 5Gを、あえて現在のタイミングで提供するに至った理由を考えると、行き着く先は「ahamo」ではないかというのが筆者の見方です。というのも発表会では若い単身者を中心に、申し込んですぐ、手軽にWi-Fiを使い始めたいという声が多く挙がっていたことを受け、home 5Gを提供するに至ったとの説明がなされており、home 5Gがahamoと同様、若い単身者を意識して提供されたものという印象を受けるからです。

▲home 5Gは若い単身世帯を中心に、申し込んですぐ、手軽にWi-Fiを利用したいという声が多かったことを受けて提供するに至ったという

そしてhome 5Gだけでなく、eスポーツやライブ配信など、今回発表されたサービスは若い世代をかなり意識した内容であることを見て取ることができます。一方で、従来の発表会で大きく打ち出していたファミリーやシニアなどに向けた施策は少なく、強いて挙げるならばシニア世代の利用を意識した4G向けの低価格スマートフォン「Xperia Ace II」「arrows Be4 Plus」の2機種を投入したことくらいでしょう。

▲「arrows Be4 Plus」など新たに投入された4Gスマートフォンは、いずれも文字が大きく見やすいホーム画面を備えるなど、シニアの利用を意識した内容となっている

NTTドコモは年配の利用者が多く、若い世代の獲得が思うように進まないことが大きな課題となっていましたが、ahamoの提供がその突破口となったのは確かでしょう。実際同社のアンケートでは、他社からahamoへ乗り換えた顧客の満足度は9割を超えているとのことで、利用者から高い評価を受けている様子がうかがえます。

▲同社のアンケートによると、他社からahamoに乗り換えた人の満足度は93.4%とのこと。料金の安さだけでなく、通信速度やエリアなども高く評価されているとのこと

そこでahamoで得た千載一遇のチャンスを生かすべく、「NTTドコモはこれを提供しない」という従来のセオリーを破って若い世代へのアピールを一層強めたいというのが、今回の発表におけるNTTドコモの大きな狙いと言えそうです。ただ一方で、あまり若い世代向けの施策に偏ってしまうと、多くの顧客を持つ年配層が離れてしまう可能性が出てくるのが、同社にとっては悩ましいところでもあります。

とりわけNTTドコモは、通信量をあまり消費しない「ギガライト」など低容量のプラン契約者が多いと見られている一方、そこに対する料金引き下げ策などは現在も打ち出されておらず、サブブランドでこの領域を強化した他社への顧客流出は引き続き懸念されるところです。低価格の「エコノミー」の領域に関しても、MVNOとの調整が終わっておらず施策を打ち出せていないだけに、若い世代の獲得とどうバランスを取って年配層向けの施策を打っていくのかという点は、今後関心を呼ぶところではないでしょうか。


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