菅政権肝いり政策の1つとして注目されている携帯電話料金の引き下げですが、2020年10月末に大きな動きが相次ぎました。

最初に動きを見せたのは総務省で、2020年10月27日に「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表しています。これはその名前の通り、携帯電話市場の公正な競争環境を整備する上で、総務省が今後取り組む内容をまとめたものになります。

総務省はかねて、大手3社による市場寡占とその商習慣が、携帯電話料金の引き下げを妨げる元凶と位置づけており、大手3社による過度な囲い込みを禁止するとともに、消費者が乗り換えやすい環境を整え多様なサービスから自由に選べる環境を整えることに力を注いできました。それゆえ今回のアクションプランも「競争ルールの検証に関するWG」などここ最近の有識者会議での議論を基に、従来の総務省による取り組みをさらに強化する内容となっています。

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▲総務省の「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン[概要]」。3本の柱で乗り換えの障壁を減らし、競争を促進することを軸とした内容となっている

具体的には3つの「柱」から成り立っており、1つ目の柱は「分かりやすく、納得感のある料金・サービスの実現」。2019年に改正され、大幅な端末値引きや、いわゆる「2年縛り」を厳しく規制した改正電気通信事業法を着実に執行するとともに、通常の意味とは異なる形で使われている「頭金」など誤解を与える表記の是正、そして消費者に料金プランの理解を深めてもらうためのポータルサイト構築に取り組むとしています。

2つ目の柱は「事業者間の公正な競争の促進」で、その内容は大きく分けて2つあるようです。1つはMVNOの競争力を高めるための施策で、携帯電話会社から回線を借りる際に支払う接続料を3年間で5割減らすことや、音声卸料金の一層の低廉化を求めています。そしてもう1つは携帯電話会社間の公正競争環境整備で、キャリアに割り当てられた電波が有効利用されているか検証することや、インフラシェアリングの促進などが挙げられています。

そして3つ目の柱が「事業者間の乗換えの円滑化」。番号ポータビリティ(MNP)で転出する顧客の過度な引き止め行為を禁止し、手数料も原則無料化することで転出しやすくするほか、転出後もキャリアメールを利用できる仕組みの検討、よりユーザー側で乗り換え手続きがしやすくなるeSIMの促進などが含まれているようです。

ただ一連の内容を見ますと、これまでの有識者会議で触れられてきた内容にほぼ沿ったもので、ポータルサイトの構築やキャリアメールの持ち運び実現など新たな要素も出てきてはいますが、おおむね既定路線といえるでしょう。菅政権肝いりの政策だけに短期間で成果を出す必要があるとはいえ、新たな施策を打ち出すには時間が足りず、やや手詰まり感がある印象も受けてしまいます。

その手詰まり感をより印象付けたのが、アクション・プラン公開の翌日に発表がなされた新しい料金プラン、KDDIの「UQ mobile」ブランドが提供する「スマホプランV」と、ソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドが提供する「シンプル20」です。双方のサービスは通話サービスや割引適用の有無などで細かな違いがあるものの、いずれも高速データ通信量が20GBで、なおかつ月額4000円で利用できることが特徴となっています。

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▲ソフトバンクがワイモバイルでの提供を打ち出した「シンプル20」。20GBの高速通信に1回10分までの通話定額が付いて月額4480円で利用できるが、「家族割引サービス」などは適用されない

なぜ20GBで4000円なのかといいますと、そこには総務省の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」が大きく影響しています。というのも菅政権が携帯電話料金の引き下げに強くこだわっているのは、この調査で東京の携帯電話料金が全体的に高く、中でも“大容量”とされる20GBのプランで、最も高い水準にあったためとされているからです。

そうしたことから2社は、内外価格差調査で高いとされた20GBのプランを新設し、ニューヨークやソウルなどより安い水準に設定することで、料金引き下げに対応したことをアピールしたといえるでしょう。ただその内容からは、両社の別の本音も見えてきます。

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▲KDDIがUQ mobileでの提供を発表した「スマホプランV」。内外価格調査で高いとされた20GBのプランを低価格で提供することに主眼を置いており、海外主要都市と比較して安いこともアピールされている

なぜなら新プランはいずれもメインブランドの「au」「ソフトバンク」ではなく、あくまで低価格のサブブランド向けのもの。しかもUQ mobileがかつて提供していた「スマホプランL」(月額3980円で14GB)や、ワイモバイルが提供している「スマホプランR」(月額4680円で14GB)などと比べると、新プランは容量が増えてお得感が高まったとはいえ、劇的に安いという水準ではないのです。

そうしたことからこれらのプランは、菅政権に「値下げをしました」というアピールをするために作られた“政府向けプラン”といえるでしょう。内外価格差調査で問題となった20GBプランをサブブランドで提供することで政府の批判をかわし、より高額なプランを提供しているメインブランドの料金水準を維持するのが主な目的といえそうです。

現在の大容量プランの料金引き下げを政府が求めるならば、2社の場合「データMAX 5G」や「メリハリプラン」の料金引き下げを求めてきそうなところです。ですが、翌日の020年10月30日に実施された武田良太総務大臣の会見を見ますと、「各社ともアクション・プランに対してしっかりと対応していただいておるんだろうと思っているところであります」と話すなど、サブブランドによる20GBプランの提供に一定の評価をしている様子がうかがえます。

そうした総務大臣の発言からは、各社の提示した政府向けプランに納得せざるを得なかった印象を受けてしまいます。民間企業が提供するサービスの料金を国が直接コントロールするわけにはいかない以上、乗り換え促進策の強化と、各社の協力による20GBプランの導入が限界というところなのでしょう。

この結果は、メインブランドの契約を変えることなく料金を下げて欲しいという消費者からしてみれば、大いに不満が残る所かもしれません。ですがサブブランドやMVNOで低価格帯の料金プランが充実してきていることは政府も認めているわけですし、すでに乗り換えの障壁がかなり減っていることを考えれば、料金に不満のある消費者が積極的に安いサービスを探してどんどん乗り換えることこそが、料金引き下げと競争促進につながる唯一の解ではないかと筆者は考えます。

ただ1つ、気になるのはNTTドコモの動向です。NTTドコモは現在、日本電信電話(NTT)によるTOB(株式公開買い付け)の最中であることから、株価に大きく影響するであろう料金関連の施策を打ち出すのが難しい状況にあり、2020年10月29日に実施された決算説明会においても、同社の代表取締役社長である吉澤和弘氏は料金引き下げや他社の20GBプランへの対抗策について、明確な回答を避けていました。

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▲2020年10月29日の決算説明会に登壇するNTTドコモの吉澤氏。TOB期間中ということもあって、料金関連の質問には明確な回答を避けていた印象だ

それゆえ同社が料金関連の施策を打ち出すのは、TOB期間が終了した2020年11月16日以降と見られています。同社がまだ展開していないサブブランドを設立し、2社と同様に20GBの低価格プランを導入することが最も有力視されていますが、もし全く異なるウルトラC級の選択肢を取ってくるようであれば競争環境が激変することも考えられるだけに、大いに注目されるところです。