FANTASIAN

Appleが運営するゲームのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」に、もうすぐ坂口博信氏が率いるミストウォーカーの新作タイトル「FANTASIAN」がやってくる。3月2日深夜、Apple Arcadeの「Coming Soon」ページにその詳細が掲載された。

2019年のApple Arcadeスタート時にアナウンスされていた目玉タイトルがついにもうすぐ遊べるのだ。

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▲もうすぐApple Arcadeに登場する「FANATISIAN」のプレイ画面。Apple Arcadeの会費(月額600円)を支払えば、FANATISIANを含む多数のタイトルが遊び放題になる。

今回は坂口博信氏本人にFANTASIANの概要と開発に至る経緯を伺う機会が得られたので、その模様をお届けしよう。

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▲ミストウォーカーの坂口博信氏。ゲームファンなら知らぬひとはいない"日本のRPGの巨匠"だ

4K対応の「ジオラマ表現」で新しいRPGを

なによりまずはFANTASIANのトレイラー・ムービーを2つご覧いただきたい。「ストーリー・トレイラー(Story Trailer)」は、「おお、これはまさに坂口作品!」と感じるテイスト。もう一方の「フィーチャーズ・トレイラー(Features Trailer)」と名付けられたムービーは、これまでのゲームではあまりみたことのない感じになっている。写真で見るより、動画で観た方が驚きは大きい。

「背景はすべてジオラマで手作りです。専門のスタジオに製作をお願いしたのですが、全部で150くらいありますかね。職人さんも150人くらいに関わっていただいています」と坂口氏は言う。

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▲ゲーム画面の「背景」などはすべて手作りのジオラマ。その上にCGでキャラクターやエフェクトが重ねられている
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▲ジオラマは150以上が製作されたという

坂口氏は「いい意味で、お願いした以上のディテールまで作り込んだものが出来上がってきたんです」と笑う。

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▲作り込みの流れ。イメージボードから手作業で建物などが作られ、それがジオラマとなり、さらに撮影・リアルタイムCG合成を経てゲーム画面になる

「外観を作っているのは当然ですけど、部屋の中にある家具なども全部作っています。ついたてがあったりしますが、これ、蝶つがいでつながっていて、ちゃんと動くんですよ」と坂口氏。

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▲家の中の調度品も、凝りすぎなくらいディテール豊かに作られている

「こちらは、ゲーム中に出てくる、ホバークラフトのような『豪華客船』です。かなり大きめなモデルで、内部構造も、実際の船のようにきっちり木組みで作った隔壁になっています。その中身が、ゲーム中に出てくるわけではないんですけどね。分解できる構造になっているそうですが、弊社の担当者でも、壊すのが怖くてあまり触れません(笑)」

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▲ゲーム内に出てくる「豪華客船」。こちらも凝りに凝った作り込みがなされた模型が使われている

いかにもアナログな作り込みだが、そこから生まれる映像はかなり独特の雰囲気を持っている。キャラクターはCGで、光や影、霧などのエフェクトもCGで重なる。ジオラマの撮影はかなりの高解像度で行われていて、CG側のアセットも高解像度。「4Kにも対応しています。Macに4Kモニターをつないでいただければ、かなりディテール豊かな映像が楽しめますよ」と坂口氏も太鼓判を押す。

アナログな手触りを持ちつつ、解像感やエフェクトは高度で滑らか。そういう、これまでにあまり見たことのない感覚が、FANTASIANの魅力の一つだ。先に掲載した動画は「4K版」になっているので、可能であればぜひ、「4K版」に解像度を上げてご覧いただきたい。

「新しい映像表現、いい映像表現を見せたい、というのは昔からのこだわりですね。特に今回は見るからに『人が作ったよね』という感触が大切でした。それに、Apple ArcadeというiPhoneやiPadにも提供される場である、ということも関係しているかもしれません。見た目が写真のように見えるものをガラス越しに手で触る、という操作感は意外と親和性があるんじゃないか、と思っています」

坂口氏はそう説明する。

ちなみにApple ArcadeはiPhone / iPad / Mac / Apple TVに対応している。FANTASIANの場合、iPhone / iPadでは画面のタッチで操作するが、それだけでなく、マウス+タッチパッドでの操作にも、ゲームパッドでの操作にも完全対応している。だから「家庭用ゲーム機で慣れ親しんだようにも遊ぶことができますよ」(坂口氏)とのことだ。

「心地よいエンディング」があるゲームへの回帰。坂口氏の「原点」とは

坂口氏といえば、ゲームファン、特に日本のRPGが好きなファンには説明不要なビッグネーム。今も続く「ファイナルファンタジー(Final Fantasy)」シリーズのオリジナルクリエイターである。FANTASIANのストーリー・トレイラーを観たときに「そうそう! これこれ!」と感じた方も多かったのではないだろうか。それはまさに、初期ファイナルファンタジーを含む、坂口氏がずっと作ってきた「日本のストーリーRPG」の姿が感じられるからだ。

「ストーリー型のRPGを目指したのは、ここで初心に帰って、エンディングに辿り着いたときになにか優しい気持ちになれるようなものを作りたかったからです。そういう意味では、『手作りのジオラマ』というのも、なにか相乗効果があるんじゃないか、と思っています」(坂口氏)

坂口氏がFANTASIANを作るのには明確なきっかけがあった。2018年にゲーム誌・ファミ通と組んで、YouTubeで配信した「坂口博信がFF VIをクリアする放送」だ。

「その当時、任天堂から『ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン』が発売になったんですよね。それで、FF VIを当時の仲間たちとプレイしてみました。過去の作品ではありますが、やってみると、やはりあれば自分の原点だし、ああいうジャンルが好きなんだ、と思ったんです。オーソドックスなRPGで、ランダムエンカウントで、ターン式のバトル。その中にも新しい要素を入れてみよう、と作り始めたのがきっかけです」と坂口氏は言う。

現在のゲームはスマートフォン向けも家庭用ゲーム機向けも、オンラインでずっと継続する「運営型」のものが主流になっている。坂口氏も運営型にチャレンジした経験はあるが、自身では「作ってきたのはほとんどが『終わりのあるゲーム』です」と話す。

「運営型のゲームは、ストーリーを楽しませるというよりはゲームを楽しませる『サービス』です。それはそれでいいのですが、やはり僕としてはストーリーを語ることにこだわりたい。キャラクターが大事だと思っているんです。彼らの生き方や物語性といった部分ですね。一旦は私も別の形にそれましたが、『終わりのあるゲーム』に戻ってこれてうれしいです。やっぱり、しっくりきますよ(笑)」(坂口氏)

坂口氏によれば、FANTASIANは前編で20時間から30時間、後編で同じく20時間から30時間くらいでエンディングにたどり着くようになっているとのこと。これは、過去のファイナルファンタジー・シリーズと同じくらいのボリュームである。

坂口氏は現在58歳。自身の中でも、FANTASIANは「クリエイター人生の中で後半期のもの」という認識がある。それだけに、この作品にかける意気込みも大きい。

FANTASIANの音楽を手がけるのは、坂口氏の盟友である植松伸夫氏。こちらも、ゲームファンには説明不要だろう。ファイナルファンタジーなどの音楽を手がけ、坂口氏とともに「ファイナルファンタジーのスタイル」を作り上げた。その植松氏がFANTASIANでは全楽曲を担当する。

「植松さんとはもう35年の付き合いになります。『作曲家としてはずっとやっていくけれど、ゲーム一本まるまるやるのは今回が最後。魂を入れて作るよ』と言っていただけています。今回は60本もの音楽を作っていただいたのですが、楽曲が届いて初めて聞いたときには涙が出ました。ゲームに組み込んでみると、はっきりと『格が上がった』というか、手ごたえを感じました。ぜひ楽曲を聴いていただきたいな、と思うんですけれど」と坂口氏。

クラシックな「日本的RPG」に、日本的RPGを支えた植松氏の楽曲。坂口氏の原点に帰るような作品だが、そこにビジュアルの新しさなどのチャレンジを加えたのがFANTASIAN、と言えるだろう。もちろん、ゲーム的に新しい面白さも追求されている。

「基本、敵とはランダムエンカウントなんですけど、『ディメンジョンシステム』というものを用意しました。これを使うと、敵を異次元に吹き飛ばして貯めていける、そして好きなときにまとめてバトルする……ということができます。こちらがちょっと有利になるギミックも入れてあって、程よい爽快感があるようにしています。また、ボス戦は戦略性が高くなるよう作りました。より考えて戦うと有利になるような方向性ですね。こういうボス戦は、一般的に『スクリプト』で敵の挙動を記述します。でも今回は、1体1体、プログラマーが挙動をダイレクトにプログラミングしました。なので、かなりきめ細かくボスの行動が変化しますよ」(坂口氏)

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▲戦闘はRPGの華。今となっては古典的とも言えるコマンド式が採用されているが、その中に新しい工夫も盛り込まれているという

坂口氏の人生を変えたAppleと「ゲームでタッグ」

FANTASIANがリリースされる「Apple Arcade」は、Apple製品に向けたサブスクリプション形式のゲームサービスだ。一般的なスマホゲームとは異なり、課金システムが導入されていることはなく、また買い切りでもない。サービスに加入していれば、Apple Arcade向けに提供されているゲームがすべて遊び放題になるというものだ。前出のように、対応機器はiPhone / iPad / Mac / Apple TVと幅広いが、買い足し・買い直しは不要。どの端末でも遊べるし、iCloudで連携するため、機器をまたいで続きが楽しめるようになっている。

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▲Mac版Apple Arcadeの画面。iPhoneやiPadはもちろん、MacやApple TVで楽しめるのも魅力の一つだ

プラットフォームがApple Arcadeになったことで何か変化は合ったのだろうか。制作の流れについて坂口氏は「非常に自由度が高かった」と話す。

「Apple Arcadeだから作り方が変わった、ということはないですね。本当に自由にやらせていただいていて、信頼感のもと、クリエイティブについてはこちらが100%ハンドルする形でやらせていただいています。もちろん、プロモーションなどで要望はいただきましたが、それはこれまでのゲーム開発でもあったこと。そういう時に僕がいう言葉は決まっていて、『出来ないものは出来ない』(笑)。それはともかくとして、過去には販売店で流通する関係から、『年末商戦に欲しい』とか『この月は売れないから』みたいなこともずいぶん言われたものです。しかしApple Arcadeにそういうことはない。じっくり作れました」(坂口氏)

坂口氏は続けて、「サブスクリプション、それもAppleがやる、というのは大きなこと。Apple Arcadeは、我々のようなスタイルもあればシンプルなものも、スマホ的なものまでたくさんあって、裾野が広いです。良くも悪くも、実験的な部分はあるのかな、とは思います。でも、これから2、3年でApple Arcadeは、我々が思いもしないような方向に変わっていく可能性もある。メールもSNSもそうだったじゃないですか。意外に最初とは違う方向にベクトルが入ったりします。そういう部分を内包しているのが面白いです。そんな、次の時代に向かう風大きな風の中に身を置けるのは、面白いというか、醍醐味を感じますね」と言う。

そんな中、「Appleと一緒に」という部分には喜びと感慨深さもある、と坂口氏は話す。なぜなら、Appleは坂口氏にとっても「原点」であり「転機」だったからだ。

「僕が学生の頃、最初に買ったのはApple IIだったんですよ。そこで、「Wizardry」や「Ultima」のようなゲーム、そして「VisiCalc」のようなツールに出会えたことは、本当にカルチャーショックだったんです。『これからはゲームだろ、パソコンだろ!』って思ったものです。クリエイター人生として後半期になり、改めて自分のスタートだったAppleと組めるというのは、ぐるっと回ってあの頃を思い出すようで、本当にうれしいですね」

もう間もなく登場するであろうFANTASIAN。非常に楽しみだ。