food delivery Masahiro Sano
MASAOU YAMAJI

フードデリバリーは、コロナ禍で人気が高まったサービスの代表例に挙げられるものの1つ。コロナ禍以前のサービスと言えば「Uber Eats」「出前館」「楽天デリバリー」くらいで、「DiDi Food」が新規参入を打ち出したばかり……という状況だったのですが、2020年に入るとかなりの勢いで新規参入が相次いでいます。

実際2020年4月には、スマートフォンゲームなどを手掛けるレアゾン・ホールディングス傘下の「menu」がフードテイクアウトからデリバリーにも参入、突如加盟店を募るテレビCMを積極展開していたのを覚えています。ですがこの市場への参入は、外資系企業が非常に多いのが特徴的で、2020年にはフィンランドから「Walt」、ドイツから「foodpanda」、韓国から「FOODNEKO」が相次いで参入しています。

ですがそれでも外資系企業の参入ペースはまだ落ちていないようで、最近もまた新たなプレーヤーの参入表明がありました。それが米国のフードデリバリーサービス最大手「DoorDash」です。

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▲DoorDashは2021年6月9日に日本市場への参入を表明。宮城県仙台市を皮切りとして日本市場への参入に力を入れるとしている
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同社は2021年6月9日に日本への参入を表明、宮城県仙台市を皮切りとして日本市場での正式サービス開始を打ち出しています。DoorDashは地域密着型のサービスが特徴とのことで、当面は仙台エリアに重点を置き、地元の飲食店を重視した戦略を取っていくとのこと。またDoorDashのアプリだけでなく、各飲食店のWebサイトからDoorDashでの注文ができる「Storefront」を国内でも提供するとしており、飲食店との連携を重視しようとしている姿勢を見て取ることができます。

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▲DoorDashサービス開始時の加盟店。全国チェーンだけでなく地域に根差した店舗の開拓も積極的に進めるとのことで、「利久」「ひがしやま」など仙台在住経験のある筆者には馴染みのある名前も多い

実は新規参入する外資系のフードデリバリーサービスは東京ではなく、地方から日本展開を図る傾向にあるようです。実際Waltは広島から、foodpandaは神戸や横浜などから事業をスタートしていますし、DiDi Foodも当初サービスを開始したのは大阪からでした。

その背景には、既に競争が激化している首都圏を避け、地方でそれなりの規模が大きい地域に進出することで、確固たる基盤を作りたい狙いがあるといえるでしょう。実際DoorDashも仙台からサービスを始める理由について、1つ目に人口100万人を超える大都市であること、2つ目にフードデリバリーの浸透が進んでいないことを挙げていました。

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▲DoorDashは仙台から進出を開始した理由として、人口の多さとフードデリバリー普及率の低さ、そして都市だけでなく郊外の顔も持ち合わせている点を挙げていた

ですが新興のフードデリバリーサービスはUber Eatsと同様、配送員にギグワーカーを起用していることから、飲食店と配達先との距離が長くなりがちな地方では配送員が効率よく稼げないので配送網構築が難しいという課題もあります。筆者は仙台に住んでいた経験があるのでよく知っているのですが、仙台市には多くの人がイメージする仙台駅前の中心部だけでなく、秋保温泉や作並温泉といった山間の温泉地までもが含まれるので、単に仙台エリアと言ってしまうと相当な距離をカバーする必要が出てくるのでは?という疑問も沸いてくるところです。

ドアダッシュジャパンの代表兼カントリーマネージャーである山本竜馬氏は、郊外を対象とすれば「日本全体を見るとホワイトスペースが大きいと思っている」と話し、仙台を進出先に選んだもう1つの理由として、都市部と郊外の顔を持ち合わせており、郊外でのサービス開拓を見据えた狙いがあることを示していました。DoorDashは日本よりはるかに面積が広い米国で高いシェアを獲得しているだけに、従来の事業者とは異なる市場開拓に期待したいところです。

ですが郊外や地方にまで市場を広げることができたとしても、これだけフードデリバリーサービスが急増してしまうと、その全てが生き残るのは難しいというのが正直なところです。実際海外では既に競争過熱の結果、フードデリバリーサービス同士の再編が急速に進んでいるようで、その影響を受けて日本でも参入間もないFOODNEKOがfoodpandaと統合するに至っています。

そこで注目されるのが携帯4社の動きです。ここ最近国内で大きな顧客基盤を持つ4社が、政府の携帯電話料金引き下げ要請の影響もあって新たな成長領域を求め、生活系のインターネットサービス拡大に力を入れていることから、それら4社との関係構築が競争に大きな影響を与える可能性があるからです。

そこで大きな動きを見せたのがmenuです。menuは2021年6月1日に、携帯大手の一角を占めるKDDIと資本・業務提携すると発表。この提携によってmenuは持分法適用関連会社となるだけでなく、KDDIの「au ID」の基盤を軸にmenuと「au PAY」などのデータを連携させることで、顧客へのサービス提案をしたり、企業のマーケティングに活用したりするなど、KDDIと深い連携を図るとしています。

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▲menuは2021年6月1日にKDDIとの提携を発表。KDDIはmenuに50億円を出資し、持分法適用関連会社にするとしている

なぜmenuがKDDIとの提携に至ったのかといえば、双方にとってタイミングが良かったが故といえそうです。menuは積極的なテレビCM展開などで加盟店と利用者を獲得、2020年に新規参入したサービスの中では頭1つ抜け出した存在となってきたことから、更なる事業拡大のため資金調達を進めているところだったようです。

一方でKDDIは、フードデリバリーサービスに自社のIDを連携させた密な連携を求めて提携相手を探していたようですが、そこまでの深い連携をするとなるとグローバルに展開する外資系企業では、本部の許諾が必要になるため時間がかかり、対応が難しいという事情があったようです。そこで国内企業でなおかつ競合の資本が入っていない、独立系のmenuに白羽の矢が立ち今回の提携に至ったといえるでしょう。

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▲KDDIはmenuとの提携で、au IDの基盤と双方が持つデータを活用した顧客へのサービス提案を実現したいとしており、フードデリバリー事業者とかなり深いレベルでの連携を求めていた様子がうかがえる

そうしたことからmenuは、KDDIが持つ顧客基盤を活用できるようになったことから振興の競合より一層優位なポジションに立てる可能性が出てきたといえます。となると今後注目されるのはNTTドコモの動向ということになりそうです。

ソフトバンクはLINEを実質的な傘下に収めたことで、その傘下である出前館をグループに持つこととなりましたし、親会社のソフトバンクグループにまで範囲を広げれば、その出資先はUber EatsやDiDi Food、DoorDashにも及んでいます。また楽天グループは2021年7月をもって、飲食に強い傘下のぐるなびに楽天デリバリーなどの事業を承継するとしており、今後事業強化がなされることが予想されます。

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▲楽天グループは2021年7月に、傘下となったぐるなびに「楽天デリバリー」「楽天リアルタイムテイクアウト」などの事業を承継。現状この分野であまり大きな動きを見せていない楽天グループだが、事業承継により動きを見せる可能性もある

一方NTTドコモは、「dデリバリー」で連携していた出前館が競合の傘下となってしまったこともあって2021年6月でサービスを終了。KDDIがmenuと組んだ今となっては4社の中で唯一、フードデリバリーサービスが手つかずの状況にあるのです。

それゆえ今後、NTTドコモが何らかの形でこの分野への再参入を進める可能性は高いといえそうですし、その際どのサービスと、どのような形で手を組むかは、国内フードデリバリーサービスの今後を占う上で非常に大きな意味を持つことになるのではないでしょうか。