2018年に発売されたAppleのHomePodは実に独創的な製品だった。

360度に放出する低域ユニットに組み合わせられるのは、本体周囲に放射状に7個取り付けられたフルレンジユニット。位相干渉で指向性を制御できるビームフォーミング機能を持ち、同じく周囲に取り付けられた6つのマイクで環境音を測定しながら、自動的に音質を調整する自律性を備える。

高性能の演算チップを用いることで、マイクから集めた音と自らが出す音の比較をし、より良い体験がもたらされるよう演算で調整を行うというコンセプトは、現在でもユニークなものだ。

新製品のHomePod miniには、そうしたビームフォーミング機能をもつドライバユニットは搭載されていない。1万円強というプライスタグを見れば、多数のドライバユニットやマイクを使った贅沢なスピーカーではないことはすぐにわかるだろう。

しかし、贅沢ではないが、満足度は高い。なぜなら生活に溶け込み、心地よい音で部屋を埋め尽くしてくれるからだ。一般的なハイファイシステムの基準には当てはまらない、生活空間を心地よい音で埋め尽くしてくれる。そんな魅力を持つスピーカーがHomePod miniだ。

小さなボディに納得の音質

そもそもスピーカーという商品に求められるニーズはシンプルだ。

“スマートスピーカー"というと、どうしてもその機能に目が行きがちになる。スピーカーの向こう側にデジタルアシスタントがいて、音楽はもちろん様々なオーディオコンテンツが届くといった要素も評価されているが、スピーカーの本分は心地よい音を出すこと。

スマートスピーカーとして、ユーザーニーズを満たすだけの機能性を持つことは重要だが、それは商品として最低限、求められるもの。オーディオを評価する上での一番のポイントは"音質"にほかならない。その点でHomePod miniは、このサイズのスマートスピーカーとしてダントツで心地よい音を出してくれる。心地よいというのは、いやなノイズ感、歪感などの不純成分が混じらないという意味だ。

HomePod miniはフルレンジドライバユニットを下向きに装着し、それを360度に放出するディフューザーで無指向性スピーカーとして設計されている。低域は適切なサイズのパッシブラジエータが2つ、対向配置されているため、リンゴほどの小さなサイズで軽量ながらも、音量を上げても振動やビビり感が気にならない。

おもむろに音量を上げてみるが、小型スピーカーにありがちな歪みが増大して聴きづらくなることがなく、多少の音量では怯まないどころか、なおさら元気にハリのある音になっていく。パッシブラジエータによる中低域のボリューム感が少し演出的とも感じるが、そこは許容範囲。高級オーディオのような忠実再生を目指していないのであれば十分に楽しめる。

まずは心地よく音楽を楽しめ、時折、Podcastなどの音声コンテンツやニュースも、なんて使い方では実に納得。大きなスピーカーでも、音量を上げるとすぐに悲鳴をあげるものもあるというのに!!

コンピュータ技術で問題を解決するというアプローチ

スピーカーの音質は、多くの場合、本体の容積とある程度の相関関係がある。空気を効率的に動かす(音を出す)ためには、ある程度の大きさのドライバユニットが必要で、大きなドライバユニットを心地よく動かすためには本体にも大きさが必要となるためだ。

しかしHomePod miniにおいてAppleは、「コンピュテーショナルオーディオ」という手法でこの問題の解決を図った。このために再生音楽の分析と信号処理を行う「Apple S5」チップを開発、採用している。このチップは自律的に再生する音を分析し、適切な形で再生するよう信号処理をリアルタイムで施す。

AppleはApple Musicに登録されている多様なジャンル、多様なタイプの曲について分析し、機械学習によりHomePod miniのドライバが破綻せずに心地よく音を出せるよう、信号処理を施す仕組みを作り上げた。

全ての周波数帯域でHomePod miniのドライバユニットが能力的な限界を超えて歪んだ音にならないよう、しかし可能な限り忠実な音としてリスナーの耳から聞こえるように信号処理が行われる。

なるほどそういう仕組みかと知った上で、ライブ音源やクラシックなどのダイナミックレンジが広い音楽を聴いてみると、音楽ソースによってはダイナミックレンジが圧縮されたように聞こえなくもない。しかし、爆音で音楽を楽しむのではなく、日常生活の中で音楽を楽しんだり、Podcastでお気に入りの番組を流しておいたりといったシーンでは、聴きやすく小音量でも見通しの良い音が出てくる方が心地よい。

そうした意味において、HomePod miniはハイファイシステムとは全くの別方向で素晴らしい仕上がりと言えよう。無指向性スピーカーという点もリスニングポイントに鎮座して音楽を聴くというよりも、部屋の中に漂う音を楽しむ上では心地よい。スマートスピーカー的な機能以前に、こうした独創的な音作りだけでも価格以上の価値がある。

驚くほど簡単なセットアップと魔法のような体験

一方でさらに期待を大きく裏切ったのが、セットアップと使い勝手のよさだ。とりわけU1チップ内蔵のiPhoneとは極めて相性がいい。iPhoneをHomePod miniに近づけるだけで自動的にセットアップが開始されるのは従前の通りだが、U1チップを内蔵したことによりまるで魔法のような使い勝手が実現されている。

U1チップは距離や方向を認識できるため、HomePod miniに向けてiPhone 11以降の端末を近づけると、再生中の楽曲情報、関連する楽曲のおすすめリストがiPhoneの画面上に表示される。もちろん、そのまま画面を操作すればHomePod miniから楽曲が流れ始める仕組み。この"近づく"という操作は、これまでも楽曲再生中にHomePodへ近づくことでiPhoneから"移す"ことができていたが、それをさらに一歩踏み込んだ形だ。

また、HomePod miniはステレオシステムへの発展性も備えるが、そのセットアップも極めて簡単だ。同じ部屋に2つのHomePod miniを発見すると、自動的にステレオペアリングするかを尋ねてくれる。

こうした操作を簡便にするためのあくなき工夫は、Appleの真骨頂ともいうべき部分だ。

日本でのサービス、機能充実で"100%のHomePod mini"を体験したい

一方でスマートスピーカーとして捉えると、もう少し柔軟性が欲しいと感じる場面は少なくない。HomePod miniはAppleのHome Kitに対応し、Home Kit対応デバイスに囲まれた生活の中では高い利便性を確認できる。

……が、問題は日本でHomeKit対応製品が少ないことだろうか。今後、対応製品がどう広がるかが、日本でHomeKitの認知が広がるかどうかを決めることになる。今後、IoT家電の連携を進めるため、Appleに加え、Google、Amazonが、ZigBee(無線によるホームネットワークの規格)と共に標準化を進めていくようだが、そうなった時には日本でも本格的にHomeKitへの注目が集まるようになるはずだ。

しかし現状、そうはなっておらず、Siriの日本におけるサービスの品位や多様性を含め、まだ整備の余地があると思う。英語環境かつ、米国で感じるSiriのパフォーマンスと日本でのパフォーマンス差は明確にある。もちろん、AirPlay 2という優れた仕組みがあることで、使えないサービスは皆無だが、HomePod miniのインテリジェンス性を生かすならば、本体自身が対応するサービスの増加、柔軟性が望まれる。

HomePod miniの良さは手頃な価格と、一部屋に1つあれば音楽だけではなく、音声に関わるさまざまなコンテンツ、サービスと繋がれること。しかも生活空間を邪魔しないコンパクトなサイズと音質でだ。それだけに日本におけるHomePod miniを使う環境が整い、100%のHomePod miniが楽しめる日を心待ちにしたい。

部屋ごとにHomePod miniを置きたくなる

最後にインターコムについても触れておきたい。スマートスピーカーにおいて、インターホンと類似する機能はどれも備えているが、Appleはもう一本進んだ機能をインターコムとして実装した。スマートスピーカー同士で音声をやりとりするだけではなく、その範囲をiPhoneおよび、その先にあるAirPodsにまで広げたのだ。

音声メッセージは特定のスピーカーだけでなく、特定の家族にも送ることができる。受け取った家族はiPhoneで音声メッセージとして受け取れるほか、AirPodsで音楽を聴いているときにも耳元へ届くのだ。音声操作で簡単に利用できるインターコムが通知の手段として定着すると、次に考えたくなるのはHomePod miniを全部屋に置きたくなることだろうか。

オーディオ関連サービスは言語依存、地域依存が多いだけに、日本と米国のサービスレベル、機能レベルが揃うことを今後は望みたいが、そうしたエクスキューズを考慮した上でも1万800円(税別)という価格はバーゲンと言えるだろう。

初代HomePodは一部屋に1台置くには、サイズも大きく高価な製品だった。しかし、そのような制約はHomePod miniにはない。家族でiPhoneを愛用しているならば、スマートスピーカーとしてHomePod miniを積極的に選びたくなるだろう。

この手軽さこそがHomePodになかったものだ。それはHomePod miniになることで失ったものよりもずっと大きい。


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