米国のドナルド・トランプ大統領が、中国企業が提供する人気の動画投稿サービス「TikTok」の利用禁止に言及するなど、ここ最近米中の対立がITに大きな影響を与える出来事が増えています。ある意味その先駆けとなったのは、米国による中国ファーウェイ・テクノロジーズへの制裁だったといえるでしょう。

2018年末にカナダでファーウェイ・テクノロジーズの副社長の身柄が拘束されたのを機として、米国はファーウェイ・テクノロジーズに対する制裁を相次いで実施、現在もその制裁措置は強化の一途をたどっています。実際米国政府は2020年8月17日、米国の技術を使って製造した半導体をファーウェイ・テクノロジーズに供給することを禁止するという新たな制裁を発表しています。

この制裁の狙いはどこにあるのかというと、簡単に言ってしまえばスマートフォンなどの開発に必要なチップセットの調達をできなくすることです。CPUやGPU、モデムなどをまとめたチップセットはスマートフォンの心臓部でもあり、それを調達できなくなってしまえばファーウェイ・テクノロジーズはスマートフォンの開発ができなくなるため大きな打撃となる可能性が高まる訳です。

なぜ米国政府がファーウェイ・テクノロジーズに対してそこまで強い制裁をするのかといえば、同社が制裁を受けてもなお経営危機になることなくビジネスを継続し、米国側の措置に真っ向から反発し続けているからでしょう。実際これまでの制裁も非常に厳しい内容でしたが、それにもかかわらず同社は現在もスマートフォンの販売を継続しているのです。

具体的に振り返ってみますと、2019年5月にはファーウェイ・テクノロジーズとその関連企業が米国商務省のエンティティリスストに登録され、米国企業との取引が事実上できなくなりました。これによって同社製スマートフォンに米国企業であるグーグル製のアプリやサービスなどをまとめた「Googleモバイルサービス」(GMS)が搭載できなくなり、国内でもいくつかの機種の販売が遅れるなど、市場に混乱が起きていたことは記憶に新しいかと思います。

▲2019年の制裁は、最上位モデル「HUAWEI P30 Pro」をNTTドコモに供給するなど、ファーウェイ・テクノロジーズが国内で絶好調な時に起きただけにその影響も大きかった

ですが、ファーウェイ・テクノロジーズはGMSが搭載できなくなった代わりに、中国で展開していた独自の「HUAWEI Mobile Services」を搭載したスマートフォンを販売する方針に切り替え、再びスマートフォンの新機種投入を加速。国内でも2020年から、「HUAWEI Mate30 Pro 5G」を皮切りとしてHMS搭載スマートフォンを相次いで投入しています。

▲制裁でスマートフォンにGMSを搭載できなくなったことから独自のアプリストア「HUAWEI AppGallery」などを備えたHMSをスマートフォンに搭載するようになった

もちろん日本を始めとしてグーグルのサービスに慣れ親しんでいる国々では、この影響は決して小さなものではありません。ですがファーウェイ・テクノロジーズは中国国内において、制裁を実施している米国への反発もあって圧倒的なシェアを獲得するに至っており、海外での販売の落ち込みを中国で伸ばすことでカバーしているのです。

そうしたことからいくつかの調査会社の報告では、2020年4〜6月期にはスマートフォンの出荷台数シェアで、ファーウェイ・テクノロジーズが韓国サムスン電子を抜き世界トップの座を獲得。このシェア変動には新型コロナウイルスの影響が少なからずあるようですが、GMSが利用できなくなってもなお同社の勢いが衰えていない様子がうかがえます。

米国政府はそうした状況に不満を募らせていたといえ、2020年5月には新たな制裁を打ち出しています。それは同社が設計に関与し、なおかつ米国の技術を使って製造した半導体の輸出を禁止するというものです。

この制裁は何を狙ったものかと言いますと、ファーウェイ・テクノロジーズ傘下のハイシリコン・テクノロジーが開発しているチップセット「Kirin」シリーズを製造できなくすることです。現在ファーウェイ・テクノロジーズ製のスマートフォンはこのKirinシリーズを採用しており、以前の制裁によってクアルコムなど米国企業との取引の道が絶たれてもなお、Kirinがあったからこそ新しいスマートフォンの開発が続けられた訳です。

ですが、特に性能の高いハイエンド向けチップセットの製造を担っていたのは、高い半導体製造技術を持つ台湾企業の台湾積体電路製造(TSMC)でした。しかもTSMCは米国の製造装置を使っていたことから、米国政府はそこに目を付けてこのような措置を打ち出し、ファーウェイ・テクノロジーズがTSMCでチップセットを製造できないようにした訳です。

▲ファーウェイ・テクノロジーズは傘下のハイシリコン・テクノロジーが開発したチップセット「Kirin」を使用していたが、その製造は外部の企業に依存していた

この措置を受け、ファーウェイ・テクノロジーズのコンシューマビジネスグループのCEOであるリチャード・ユー氏は、講演で2020年以降、Kirinが製造できなくなる可能性にも言及していました。ですがこの措置をもってしても、ファーウェイ・テクノロジーズはまだスマートフォンを提供できる可能性があったのです。それは米国企業以外から性能の高いチップセットを調達することです。

実際、サムスン電子や台湾のメディアテックなどもチップセットを外部の企業に提供していることから、そうした企業からハイエンド向けのチップセットを調達する道はまだ残されていました。それゆえ今回打ち出された制裁は、それら企業が米国製の技術を使って製造している限り、ファーウェイ・テクノロジーズにチップセットを供給できないようにする狙いがあるといえるでしょう。

ソフトだけでなくハード面でも多くの制裁を受けたことで、スマートフォン事業の継続に向け多くの道が絶たれてしまったファーウェイ・テクノロジーズですが、まだ継続の可能性がなくなった訳ではありません。その方法の1つとなるのが、HMSと同様にハード面でも米国の制裁の影響を受けない独自の供給体制を整えることです。

つまり米国の技術を使わず中国独自の技術だけを用いてチップセットを製造できれば、スマートフォンの提供を継続できる訳です。中国には中芯国際集成電路製造(SMIC)などの半導体製造メーカーが存在しているので、それらを活用すれば制裁の影響を受けることはないと考えられますが、それら企業が技術面でTSMCに追いついておらず、ハイエンド向けのチップセット製造への対応が難しいことが課題となっているようで、すんなりとはいかないようです。

またファーウェイ・テクノロジーズは世界トップシェアを獲得したスマートフォンメーカーでもあるだけに、そのスマートフォン供給の道が絶たれたとなれば、同社に部材を供給していた企業にも大きな影響が出るでしょう。その中にはもちろん日本企業も多く含まれていることから、スマートフォン業界の今後だけでなく、国内経済に与える影響も大いに懸念される所です。

▲ファーウェイ・テクノロジーズは日本企業からも多くの部材を調達していることから、今回の制裁が間接的に日本企業に与える影響も小さくないと考えられる