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©1976, 1988, 1990, 2020 SANRIO CO., LTD.

2020年10月に開催されたAdobe MAX 2020に合わせて、iPad版のIllustratorが正式にリリースされました。定番のデザインツールがiPad対応したことは、AI関連の機能強化と同じく、同年を象徴するできごとの一つだったと言えます。

本稿では、Adobe MAXの日本向けキーノートでビデオ出演をした、テーマパーク「サンリオピューロランド」を運営する株式会社サンリオエンターテイメントの酒井宏高さんに、iPad版Illustratorの実際のところについて、改めて伺いました。

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▲サンリオエンターテイメント エンターテイメント企画・制作部 プロデュース課長の酒井宏高さん。同社に入社してからテーマパーク内の企画を担うプロデュース課に所属し、サンリオキャラクターの世界観を伝えるためのシーズンイベントや、アトラクション、ショップやレストランの改装等を担当してきた。現在は、企画をプロデュースする立場にあり、ディレクションやアートディレクションなどに携わる

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iPadで何が変わったのか?

酒井さんらは、Adobe MAX 2020の発表時にiPad版Illustratorの使用感を伝える役割を担ったこともあり、いち早く同アプリを業務に取り入れていたのです。誰よりも同アプリの使い勝手を知っている存在として、まず、実際の業務フローのなかで、どんな変化があったのかを伺いました。

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▲「Adobe製品は学生の頃から使ってきましたので、20年以上ですね。実は、サンリオ本社とグループ会社も含めて、制作物はAdobe製品を使って作成していることがほとんどです。Adobe MAX 2020の件で、Adobeさんからお話をいただいた時にも、“毎日使っているツールの会社さんと何かできるんだ”、と皆興味津々でテストユーズに参加させてもらいましたよ」、と酒井さん


酒井氏:サンリオピューロランドでは、各シーズンのイベントや、キャラクターの何周年記念といったイベントなどで、まずコンセプトをイラスト化するという作業を行います。こうした際に、従前はラフスケッチをペンタブレットや手書きで作成し、これらを元にフィニッシュワークに繋げていました。こうしたラフを作成する時点では、企画担当とデザイン担当でかなり密にコミュニケーションを取る必要があります。

酒井氏:iPad版Illustratorを使うようになって大きく変わったのは、打ち合わせの現場でラフスケッチを描くようになったこと。クリエイティブクラウドにアップロードしていた実際のキャラクターのデータを当て込むこともできて、コミュニケーションが行いやすくなり、クリエイティビティーの幅も広がったと感じます。

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▲Adobe Creative Cloudにライブラリとして保存しておいたデータは、アプリ内から素早く呼び出せる。iPad版Illustratorは、ラフスケッチ作成や打ち合わせ段階のコミュニケーションで重宝するという


酒井氏:これもAdobe MAX 2020のセッションの中でも話をさせていただいたのですが、iPadで写真を撮って、その上に描くという作業も飛躍的にスマートになりました。例えば、実際にある壁面や建物の扉部分とかに、装飾を加える際には、キャラクターのポーズをそこに重ねることでイメージが膨らみます。iPadを手に持ち歩きながら作業するシーンは、本当に増えましたね。

酒井氏:実は、元々iPad自体を現場に持ち歩くことはあったのですが、Illustratorの『.ai』ファイルを開けずに困っていました。正式にiPad版Illustratorが出たことで、スムーズな連携ができるようになり、同じくデザインを行うメンバーも1番喜んでいるところだと思います。

実際の使い勝手はどうなのか?

Adobe MAX 2020で放送された動画で語られなかった裏側についても気になるところです。iPad版Illustratorの使い勝手は実際のところどうなのでしょうか? 酒井さんに尋ねてみました。

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▲iPad版を使ってデジタライズするメリットは、業務効率のUPにあるとのこと


酒井氏:現場ではきっちりしたデザインワークを行うというよりも、レイアウト作業というのが近いですので、iPadを使った現場作業がやりづらいという感覚はあまりありません。現場で何かをゼロから書いて、線を書いて塗りをやって、影をつけるといったような作業はやりませんから。あくまでラフや構図、アイソメ図のようなものを作成するイメージです。オフィスに戻って作業を行うための、一歩手前の状態を作るのです。


酒井氏:こうした作業工程については、もともとiPadなしで似たようなことをしているメンバーもいました。ただ、それはデジタルではなかったのです。ノートやスケッチブックを使っていたところが、iPad版Illustratorによってデジタライズされたことで、作業負荷が軽減されたようには思います。また、大きなところでは、色味の確認もスマートにできるようになりました。やっぱりスマホで写真を撮ってきたり、スケッチブックに絵を書いてきたりしたものをもとにオフィスで作業する場合、頭の中にある色味と、実際の現場にある色味というのが結構違ってきてしまう。そこの整合性がかなり良くなりましたね。なので、ワークフローの中に新しいステップが追加されたと言うよりは、効率化されたと言う方が、合っていると思います。


酒井氏:ちなみに、Adobe MAX 2020のキーノートのビデオでは、私たちが立って作業している映像がありましたけれども、実際は椅子出して座ることも多いですよ(笑)。


酒井氏:これまではこうした作業のために、MacBookを現場に持って行って、ペンタブをつなげて描くというところまではやっていませんでした。iPadで手軽に写真を撮ってそれにトレースできるというのは、内装などのデザイン業務においてかなりの強みになります。


酒井氏:
一方、オフィスではiPad版Illustratorを使う作業というのはあまりありません。その先の工程は、パソコンで作業するからです。敢えて言えば、Creative Cloud上にファイルをアップロードしたものが上がっているかなぁ、と確認する位ですね。ネットワーク環境があるところで同期する作業が必須ですので。

テーマパークにおけるデザインのコツとは

さて、iPad版Illustratorが活きるような現場でのデザイン業務では、プロフェッショナルはどんなことを意識しているのでしょう。サンリオピューロランドでは、5つのシーズンイベントと、それ以外にも小さなスモールイベントが多くあるというが、実際にどんな部分を意識して取り組んでいるのか、酒井さんに伺った。

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▲シーズンイベントなどの装飾は、視点によってどう見えるかまで考えなくてはならないところが特徴


酒井氏:テーマパーク内の装飾という観点でいえば、5つのシーズンイベントがありますので、それぞれフォトスポットや、モニュメントなどを整える必要があります。イベントによって作るものは違いますが、既存のアトラクションにシーズンにあったイメージの装飾物をつけることもあります。また、それとは別に、アトラクションや、ショップ、レストランの改装なども定期的にあります。一回設営したらそのまま、ということはありませんので、装飾という範囲だけでも、かなりの頻度でデザインの製作を行っていますよ。


酒井氏:どんな業界でも、1つのデザインを使い回すというか、いろいろな場所にそのデザインが露出するということはよくあることだと思います。しかし、テーマパークの場合、装飾物としてのデザインと、商品になるデザインというのが実は異なるのです。ユーザーによって見る箇所も違うので、どうしても調整しなければならない部分があります。例えば、手に取って見る商品は細かく描かれていたり、可愛らしさの伝え方も近くで見るように最適化されていたりします。一方、装飾物では、かなり引いたところから見て、可愛く認識できなければいけません。少しタッチを変えたりとか、配置を変えたりとか、そういった工夫が必要です。


酒井氏:
iPad版Illustratorを使う作業はレイアウト作業に近い、と先ほども申し上げましたが、実は商品用デザインが先にできているという場合もあるのです。となると、それを装飾として配置し、俯瞰で見たときに、いかに綺麗に見えるか、可愛く見えるか、伝えたいことが伝わるか、ということを意識しなくてはなりません。


酒井氏:サンリオピューロランドは、2020年の12月7日で30年を迎えたテーマパークです。子供向けと言うイメージもありますが、実はメインターゲットとして大人向けをずっと意識してやってきています。ここ最近ですと、F1層やF2層の大人の女性を意識したデザインが、非常に増えております。こういった層のお客様に対して、子供っぽいデザインを出してしまうと、大人の方には少し居づらいテーマパークに感じられてしまいます。だからこそ、絵のタッチもそうですし、キャラクターの配置の仕方、キャラクターが何をしているのかという“デザインのモチーフ”までも、工夫を凝らしているのです。


酒井氏:なかなか出歩きづらいご時世とは思うのですが、サンリオピューロランドには、多くの人に力を与える、励ましになるようにと描いたものが、たくさんございます。きっと皆様を元気付けることができると自負しておりますので、ぜひサンリオピューロランドにお越しいただき、サンリオの世界観に触れてもらえれば嬉しいです。

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