教育現場で進む児童1人1台LTE版iPad導入の理由。鎌倉市と枚方市のチャレンジとは

子供たちや先生の『やりたい』を実現できる無限の可能性をもっている

相川いずみ
相川いずみ
2020年09月14日, 午前 07:00 in ipad
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日本で大きな教育改革が始まっているのはご存知だろうか。

そのひとつが、文部科学省が2019年12月に明らかにした「GIGAスクール構想」だ。日本のすべての小中学校と特別支援学校に「1人1台」の学習用コンピュータ、そして高校までの学校に高速ネットワークを導入するというものだ。

この構想によって、先進国としては学校のICT環境が整っていなかった日本の教育が大きく前進することが期待されている。ちなみに、「GIGAスクール構想」で導入する学習用コンピュータは自治体や学校がそれぞれの教育の方針や実践内容によって選定するが、文科省ではWindows、Chrome OS、iPadOSの3つのOSについて、CPUやメモリーなどの「標準仕様」を提示している。「1人1台」の導入については、当初2025年までの5か年計画で予定されていたが、コロナ禍における臨時休校などの影響もあり、現在は前倒しで進められている。

この記事では、市内の全小中学校に対して、iPadの「1人1台」導入を進めている鎌倉市と枚方市の取り組みを紹介していく。

事例1 「神奈川県鎌倉市」最先端のデジタルと鎌倉の歴史を生かした教育

■iPadとWindowsを同時に検証

神奈川県鎌倉市は人口約17万人、鎌倉大仏のほか、神社仏閣なども有名な人気の観光地だ。市内には小学校16校、中学校9校があり、児童生徒数は約1万2000人。鎌倉市教育委員会は、市内の小中学校に対して2020年2月の時点で899台のiPadを導入しており、2020年度中には、すべての小学校と中学校に「1人1台」の導入ができるように進めている。

iPad鎌倉市
▲鎌倉市教育委員会の石川眞喜教育指導課長(写真中央)、濱地優氏(写真左)、上太一氏。

鎌倉市教育委員会 教育指導課長の石川眞喜氏によると、「GIGAスクール構想以前から、将来的に外せないツールとしてICTの導入に取り組んできた」として、2016年度にはLTE版iPadがすでに導入されていた。

当初はWindowsを使用していた同市がiPadを導入した経緯について、教育指導課指導主事で情報教育担当の上太一氏は、「それまで使用していたWindowsは起動までに時間がかかったり、アプリケーションの購入・インストールに手間がかかったりするという問題がありました。そこで、学習支援の無料アプリが多数あり、直感的に操作できるiPadを導入したいという声があったため、WindowsとiPadを各20台使用し、どちらの使い勝手がよいか比較することになりました」と話している。

2016年当時の学校現場ではWindowsが主流であったが、「iPadを実際に使ってみると、先生のやりたい授業を下支えしてくれる機能や操作性の良さが好評で、結果としてすべてiPadでいこうということになりました」という。2018年度からは2年間にわたって、市内のパイロット校と教育委員会でiPadを活用した教育効果の研究を行ってきた。

iPadと教育
▲鎌倉市のパイロット校での様子。子供同士の教え合い、学び合いといったコミュニケーションも生まれた。

また、上氏は実際の授業に参加したうえで、「iPadを使った初めての授業では、45分の間に子供たちがアプリを使いこなして動画をつくったり、友だち同士で教え合ったりしていた。その姿を見て、本当にデジタルネイティブであり、ICT機器との親和性の高さを感じた。ここまで使えたのは、iPadだったからだと思う」と感想を語った。

■2020年度中に計13000台のLTE版iPadを導入

2019年度からは、鎌倉市の全校で40台ずつのLTE版iPadが導入されており、様々な授業で活用されている。

Appleが無料で提供している動画制作アプリ「Clips」を全校で導入しており、特別活動では子供たち一人ひとりが「自分紹介ビデオをつくろう」というテーマに挑戦した。パイロット校ではさらに一歩踏み込んだ実践として、「iMovie」による本格的な動画編集にも挑戦している。実際に、鎌倉市を全世界にアピールする動画を子供たちが作成し、期間限定で公開なども行った。そのほか、グループごとにテーマを決めて映画作りをするなど、「総合的な学習の時間」を中心とした活用を行っている。

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▲iPadであれば、直感的な操作で簡単に動画も撮影することができる。

「iPadは解像度の高い写真を簡単に撮影でき、動画のスローモーション機能は体育の授業などでも有効に活用されています」として、同市教育委員会 教育指導課指導主事で情報教育担当の濱地優氏は、「体育では、支援アプリ『はなまるフォーム』を使い、自分の動きの写真をiPadで撮影し、友だちといっしょに動きを確認しています」といった実践も紹介した。

さらに、図工の授業ではAirDrop機能を活用し、自分の身の回りのものを「アップ」と「ルーズ」で撮影し、友だちと共有して鑑賞し、コメントをしあった。「子供たちでも、とても簡単にできたのが印象的でした」と濱地氏は話した。

LTE版を導入した理由として、石川氏は「教室だけに留まらず、校庭で観察したり、鎌倉ならではの神社仏閣や自然を見に行ったりといった、いろいろな場所で学びができます。また、GPSで安全確認や紛失に対しても強固な形で対応できます」といった点を挙げていた。

■休校中はAndroidを端末を家庭に貸し出し

鎌倉市ではコロナ禍における休校中にも様々な取り組みをし、オンラインホームルームを行うほか、紙のプリントと併用して、デジタルドリルなども活用した。その際、インターネット環境や端末がない家庭については、リースしたAndroid端末を貸与しサポートを行っている。

今回導入するiPadについても、「当然、家庭学習で使うことも想定しています。将来的には、自由に家庭へ持ち帰り、学校だけでなく家庭でも学びの場をつくってほしいですね」と石川氏は話したが、 具体的にどういった形で持ち帰るかは現在検討中だという。今後については、「リテラシーやネットのモラルといったところも、両輪としてやっていく必要があります。だからといって、厳しく『使わせない』『制限をかける』というのではなく、効果的に活用できるよう対策をしていきたいと思っています」と話した。

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▲小学1年生もiPadにチャレンジした。

「新学習指導要領では、子供たちの創造性を伸ばすこと、他者との協働的な学びなどが非常に重視されています。子供たちがクリエイティブな活動をしたいと思ったときに、実現可能なツールとしてiPadは効果的であると考えています」(林氏)。

鎌倉市では、2020年度中に、現在導入済のものもふくめて、児童生徒と教職員用に計1万3000台のLTE版iPadが導入される予定だ。

事例2「大阪府枚方市」ICTのワークキングチームを発足し、すべての学校をサポート

■直感的な操作性と、自由度の高さでiPad導入を決定

大阪府の北東に位置する枚方市は、人口40万人の中核市だ。小学校45校、中学校19校で約3万1000人の児童生徒をもつ規模の同市だが、2020年度中には教職員と児童生徒に対して「1人1台」、3万2000台ものLTE版iPadの導入を進めている。

同市のICT教育における基本目標は、「ICT活用による新しい教育の確立」であり、「子供たちを誰ひとり取り残すことのない、個別最適化された学びの実現」だ。

その目標をベースに、「主体的対話的で深い学びの実現」と情報活用能力の育成に向けて、これまで3年間にわたってWindowsのタブレットを検証し、同時にiPadなど他機種の検証も行ってきた。最終的にiPadを選んだ理由として、枚方市教育委員会 学校教育部 教育指導課の嶋田崇課長は「直感的に操作できる操作性と、自由度や表現の高さ」を挙げている。

また、同市教育委員会の高橋瑞人係長は、「2019年度は、動画撮影やプレゼン機能を使った活用のほか、遠隔による防災教室、他市との交流など、様々な面でタブレットを活用しました。検証した2校をずっと視察して、子供たちや先生の姿を見て課題を共有しながら、LTE版iPadの導入にいたりました」と話す。

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▲枚方市教育委員会 学校教育部 教育指導課の大久保伸一係長、嶋田崇課長、高橋瑞人係長(写真左から)。

■「情報教育推進ワーキングチーム」で学校を越えた取り組みを行う

「1人1台」の導入に先駆けて、枚方市では、iPadの活用方法についてICTのワーキングチーム「情報教育推進ワーキングチーム」を2020年6月に発足した。

小中64校すべてにリーダーとなる先生をつくり、その中でもさらに発信力のある先生を「コアメンバー」とした。ICT活用に長けている校長、教頭がチームに参加し、毎週のオンラインで会議でこれまで取り組んできた実践を情報交流し、全市に対しての情報発信も行っている。さらに、コアの先生がリーダーとなって、「ゼネラル」チームをつくって情報共有し、トラブルの対処法など、活用の進みにくい学校もフォローできるような組織作りをしているという。

高橋氏は「ひとつの学校でなかなか活用が進まない場合、『体育ならこんな活用ができる』『この単元にはこの機能つかうと、すごく子供たちの反応がいい』といった、先進的に進んでいるリーダーの先生の事例を発表する場をつくって情報交換し、フォローアップにつなげたい」と話している。

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▲体育の授業でもiPadを活用。「LTE版であれば、校庭で撮影した写真や動画をその場ですぐ共有することができる」こともメリットだという。

枚方市が3万台以上のiPadを導入を実現できた背景には、枚方市長や教育委員会の教育長がICT教育に熱意をもっていたことも大きい。「市長、教育長の強い思いのなか、市の教育チームが一丸となって真摯な取り組みを進めています」と、嶋田氏は枚方市の姿勢を話した。

■プログラミング教材も学年にあわせて複数準備

これまで枚方市の学校で行われてきた授業事例としては、「Keynote」によるプレゼンテーションや「iMovie」での動画作成などが中心だったという。その他にも、Appleの文書作成アプリ「Pages」のエンドロール機能を使い、子供たちが発表する際に原稿を流す方法なども取り入れている。

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▲理科の授業での事例。グループで天気図を見ながら話し合い、まとめた考えをiPadで表現し、発表を行った。

また、プログラミング教育に関しては、2019年度から検証を進めており、色々な学年で活用できる教材を、現在進行形で学校に配置している。具体的には、安価で子供たちにも人気のマイコン「micro:bit」のほか、レゴブロックを使ってロボットを組み立ててプログラミングする「レゴ WeDo 2.0」、さらにアンプラグドの教材としてプログラミング絵本の「ルビィのぼうけん」などが挙げられた。

枚方市では、ICT教育を進めるにあたって、先進的に取り組みを進めている他の自治体や学校の例も大いに参考にしたという。「2019年度は、熊本市をはじめ近隣の近畿大附属など、先進的に進めている学校に行って子供たちの様子を見てきました」という高橋氏は、「本当にiPadは何でもできるし、子供たちはすごい」と感じたいうエピソードを語ってくれた。

「小学2年生の子が、iPadを持って本のプレゼンをしていているのを見て驚きました。ICTツールは無限の可能性を秘めていて、子供たちや先生の発想ひとつでいろんなことができますし、 その発想を大事にしたいと思っています。『こういう風にしなければいけない』と決めるのではなく、先生や子供たちの『やってみたい』をサポートできるようにしていきたいですね」(高橋氏)。

iPadと教育
Engadget Japan

現在、課題となっている1つが、こうした取り組みの周知だ。「保護者の方からは、兄弟で1台と思っている方もいらっしゃって、色々と発信はしているものの、まだ周知されていないと感じています。ICT機器の活用や導入については困っている自治体もあると思いますので、枚方市の事例を発信することで、少しでも参考になればと考えています。我々も、色々な自治体の情報を得てここまで進めてこられたこともあるので、ぜひこれからも一緒に頑張っていきたいと思います」と、高橋氏は情報発信の意義と、今後のICT教育推進への思いを語った。

2つの自治体に共通する「教育への思い」

今回の取材は、鎌倉市と枚方市の教育委員会とそれぞれオンラインで取材を行った。従来であれば実際に現地まで足を運び取材を行うことが当たり前だったが、コロナ禍によってこれまでのスタンダードが大きく変わってきていることを改めて感じた。

鎌倉市と枚方市の両方に共通していることは、国が「GIGAスクール構想」を明らかにする以前から、ICT教育の必要性を感じ、市独自の方法で地道に取り組んできたということだ。そして、教育委員会と現場の先生方が熱意をもって、試行錯誤しつつもICT教育の実践を進めてきたことがうかがえる。さらに、コロナ禍によって、これまではWi-Fi環境を中心に進められていた学校でのICT整備は、家庭での学習も意識した「いつでもどこでもつなげられる」環境の重要性が高まっている。

これから「1人1台」の時代が学校にやってくると、授業の方法、学校や家庭での学び自体も大きく変わっていくだろう。「GIGAスクール構想」によって、この変革は全国に広がりつつある。今後も、大きく変わる日本の教育について、引き続き最新の情報をお届けしていきたい。

 
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