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6月7日(現地時間)に開催されたWWDCでは、iOS、iPadOS、watchOS、macOSそれぞれの最新バージョンが発表されました。個人的に、もっとも面白かったのがiPadOS 15です。iPadOS 14は、ウィジェット対応が部分的で、スクリブルにも日本語が未対応と、日本のユーザーにとってメリットが少なかった一方で、iPadOS 15はこういった課題を克服した感があります。全体を通して、PCとは違った形のコンピューターの姿を模索している印象を受けました。

▲WWDCが開催され、各OSの最新バージョンが発表された

iPadOS 15の進化の方向性は、大きく2つの軸があると思います。1つがコンピューターとしての性能強化。もう1つがiPadシリーズの代名詞的な機能になりつつある、Apple Pencilを活かした機能の強化です。キーボードやトラックパッドを装着して使ったときの操作性を高めつつ、Apple Pencilで独自の価値を出していく戦略に見えました。

▲マルチタスクやメモアプリ機能が大きく強化されたiPadOS 15

まず、コンピューターとしての進化ですが、分かりやすいのはマルチタスクでしょう。従来のiPadOSには、「Split View」と「Slide Over」という2つのマルチタスク機能が搭載されています。前者は画面分割、後者は縦長の小さな画面を重ねる機能です。2つないしは3つ以上のアプリを同時に表示できる点では、確かにマルチタスクと言えますが、操作方法が複雑で、呼び出しづらかったのも正直な感想です。

例えば、Split Viewは画面に1つ目のアプリを表示しているときに、ドックからアプリのアイコンをドラッグして、右端ないしは左端に持っていく必要があります。この指を途中で離すと、Slide Overになりますが、Slide Overで表示されたアプリの上部をドラッグして、1つ目のアプリの端に持っていくとSplit Viewに切り替わります。説明するとまあまあ分かりやすいのですが、初見殺しなUIであることも事実。2つ目以降のアプリがドックにないといけないのも、使い勝手としてイマイチなところです。

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▲iPadOS 14までは、ドッグからアイコンをドラッグする必要があり、マルチタスクの起動方法が少々煩雑。アプリの選択肢も限られてしまっていた

iPadOS 15では、画面上部にマルチタスクボタンが表示され、タップするだけでSplit ViewかSlide Overを選択できるようになります。アイコンとして明示的に選択できるため、これなら初めてでも直感的に使えそう。操作ミスも減りそうです。特にトラックパッドつきキーボードを使っている場合、ドラッグ&ドロップの操作はまどろこっしいことこの上なかったため、タップだけで切り替えができるUIは評価できます。その意味では、マルチタスクを活用しそうなシーンにUIを最適化したと言えるでしょう。

iPadOS 15はマルチタスク強化にフォーカス。ホーム画面やショートカットキーの改善も

▲画面上部の「…」をタップして表示されるメニューから、Split ViewとSlide Overを選択可能に

▲2つ目のアプリは、ホーム画面からアイコンを選択するだけでOK

iPhoneと同じように、ウィジェットとアイコンをホーム画面上で混在できるようになったのも、これと近い文脈の進化と捉えています。基調講演で例として挙がっていたレイアウトを見ると、ファイルアプリのウィジェットが画面のかなりのスペースを占め、結果としてPCのデスクトップのようになっていたからです。iOSベースで進化してきたiPadは、アプリを起点にした導線が作られていましたが、ウィジェットで両方の“いいとこ取り”ができるというわけです。

▲ファイルの履歴が表示されるウィジェットを配置すると、あたかもデスクトップのようにホーム画面を使える

さらに、Swift Playgroundによって、iPad単体ではできなかったアプリの作成も可能になりました。これまでのiPadは、コードまでは書けたものの、コンパイルやApp Storeへの登録などには、どうしてもPCが必要でした。自らの上で動くアプリを生み出せるPCとの最大の違いがここにあったと言っても過言ではないでしょう。Swift Playgroundのみの対応になるため、作れるアプリは限定的ですが、iPadがアプリを消費するだけのデバイスではなくなるという点では大きな進化。コンピューターとして、着実に進化していることの現れと言えます。

もう1つの軸がApple Pencilの使い勝手強化で、主にメモアプリが進化しています。英語での「Note」という名称の方がしっくりくるぐらい多機能なメモアプリですが、iPadOS用の新機能として「クイックメモ」に対応。画面の端からサッと呼び出し、メモを取ることができます。起動中のアプリへのリンクも張ることができ、スクラップブック的に使えるのもポイント。メモのタグ付けにも対応し、検索性が上がりました。

▲クイックメモに対応し、急ぎのメモをすぐに取れるにようになった

ローカライズの1つになるため、基調講演では触れられていませんが、スクリブルもついにiPadOS 15で日本語に対応します。スクリブルとは、手書き文字を認識する機能のこと。英語が対応していたため、URLを手書きしたり、電話番号をメモして認識させ、そのまま発信したりといったことはできましたが、日本語で書いた文書は読み取れませんでした。日本語が対応したことで、手書きのメモを清書するのが楽になりそう。使ってみるまで精度がどれほどかは分かりませんが、日本のユーザーにとって期待できそうな機能です。

▲スクリブルが、日本語に対応する

このように見ていくと、iPadらしさは残しつつも、生産性の高いPCの要素をどんどん取り入れているのが、今のiPadOSと言えそうです。M1チップを搭載したことで、macOSがそのまま動くiPad Proを期待する向きもありますが、少なくとも、iPadOS 15を見る限り、MacとiPadのUIは、それぞれのデバイスに合わせた形に最適化されている印象を受けます。

▲iPadの汎用性を強化したと語るクレイグ・フェデリギ氏だが、その方向性はPCのそれとは異なる

見方によっては、それが中途半端な進化だと思えるかもしれませんが、タブレットとして単体で使えて、キーボードを装着するとPCライクに使えるというスタイルを考えると、iOSをベースにしながらiPadOSの独自機能を載せていく現状の方向性が最適解ではないでしょうか。ただし、macOSとのアプリの差分は気になるところ。開発者が集うWWDCという場だからこそ、M1チップを積んだ高機能なiPadOS向けのアプリをどう増やしていくのかは、きちんとアピールしてほしかったのが本音です。

5分でわかるWWDC21まとめ。iOS 15、iPadOS 15、watchOS 8、macOS「Monterey」発表