iPhone 12の登場によって、iPhoneでも5Gが使えるようになりました。しかし、5Gエリアはどのキャリアも限定的で、今すぐどこでも高速な通信ができる、というにはほど遠い状況です。

それでも実際のところはどうなのか。ということで10月末、NTTドコモ/au/ソフトバンクの3キャリアでiPhone 12|12 Proは5Gがどのくらい使えるのか、その実力を都内で検証しました。

■iPhone 12の5Gについて

今回のiPhone 12シリーズは「iPhone 12」「iPhone 12 mini」「iPhone 12 Pro」「iPhone 12 Pro Max」の4モデル展開ですが、5Gを含むモバイル通信の仕様はすべて共通です。日本で発売されているモデルではsub-6周波数帯の5Gが利用できます。

▲iPhone 12|12 Proともに5Gの仕様は共通です

より高速な通信が期待できるミリ波帯は日本版では対応していません。iPhone 12シリーズにはミリ波対応のバージョンもありますが、世界でも米国版だけの対応となっています。米国の大手携帯キャリアVerizonが世界でも珍しくミリ波を主体に5Gネットワークを設計しているため、米国版では対応せざるを得なかったということでしょう(なお、VerizonはEngadgetの運営会社の親会社でもあります)。

実際のところ日本では、ミリ波帯に対応していなくとも、実用上はあまり支障はありません。2020年10月末時点では、NTTドコモとauがミリ波帯の5Gサービスを展開しています。ただしドコモは屋内などで試験的に展開するにとどまっています。

ミリ波帯非対応で唯一影響がありそうなのがauで、積極的に展開しており、一部のエリアではミリ波を中心に整備しています。とはいえ、auもミリ波帯のみのエリアはそれほど多くはないため、気にするほどではないでしょう。

そもそも、ミリ波対応どうこう以前の話ですが、現状ではsub-6周波数帯であったとしても、5Gで安定して通信するのはかなり困難です。これは実際に5Gエリアを探して歩いて見れば筆者でなくとも実感できるはずです。

2020年10月末現在、iPhoneを扱う3キャリアは大都市圏の一部から5Gエリアを徐々に広めている状況です。ただし。どこでもつながるようになった4G LTEエリアと比べてほとんどオマケ程度のエリア展開で、わざわざ尋ねていかなければ5Gと巡り会うことはできません。

■江東区のソフトバンク5Gエリアは実在するのか

さて、ここからは実際に5Gエリアを探してフィールドに出てみましょう。筆者の住む関東近郊の街には3キャリアとも5Gの展開予定がまだないため、東京都心まで出向いて5Gエリアを探しました。

3キャリアの5Gエリアの展開を見るなかで、“エリアマップ上では”5Gエリアが広まっているように見えたソフトバンク。中でも江東区の木場駅から豊洲駅にかけてのエリアは「5Gエリア」のピンク色で塗りつぶされています。本当にこの範囲で5Gにつながるならば、なかなか実用的に使えそう。

▲ソフトバンク5Gのスイートスポット、湾岸エリアの実情はいかに

というわけで、まずは東京メトロ東西線の木場駅からテストをスタートしました。ドコモとauはこのエリアに対応していないため、ソフトバンク5Gを中心に検証しています。

ソフトバンク5Gの湾岸エリアは木場駅すぐそばの木場五丁目交差点から南から広がっています。この交差点に出てみると……さっそく掴みました! iPhone 12で「5G」のピクト表示を難なく目にすることができました。

しかし、5Gと表示されていても、実際に高速な通信ができなければ意味がありません。技術的な話になりますが、現状の5Gは「NSA(Non-Standalone)」という方式で展開されており、4G LTEの制御機能をフックに、5Gエリアであれば5Gの通信を行うという仕様になっています。ここで問題となるのが「5Gという表示になっていても、実際の通信は4G LTEだけ」という状態も起こりえるということ。ソフトバンク5Gではこの状況を頻繁に目にしました。

たしかに、5Gピクトは表示されます。しかし、その状態で実際にデータ通信をしてみると、4G LTEに戻ってしまうのです。スピードテストアプリで計測した結果では、数十Mbpsにとどまります。スピードテストだけでなく、動画アプリでも同じような結果でした。ギガビット級の固定回線並みの速度で、動画再生もスムーズ、というような5Gの理想的な形にはなり得ません。

木場駅から都道319号線沿いに湾岸方面へと30分ほど歩きながら試しましたが、ソフトバンク5Gはピクト表示こそ出るものの、5Gらしい速度を体感できることはまれな状況。ミリ波よりはつながりやすいと言われるサブ6の周波数帯でも、やはりつながる範囲はかなり限定されるようです。うーむ、これはなかなか厳しい……。ただし、繋がった一部の場所では程度の下り速度を記録しました。

▲4Gに落ちなくても、もう少し速いといいな、と思う湾岸エリアのソフトバンク5G

豊洲駅に移動し、ソフトバンク5Gで安定した速度が出せるスポットを無事に発見。交差点の端から100Mbps超の速度を観測しました。ソフトバンク5Gではその後、渋谷駅前のハチ公広場や秋葉原駅の総武線のホームなどで、100Mbps超の通信ができるスポットを発見しました。秋葉原駅のホームの場合、ワンフロア降りてしまえば4Gに戻るようなピンポイントなエリア化ですが、通勤時間帯に安定した通信ができるのは重宝しそうです。

▲ハチ公前広場では特定の地点で100Mbpsに迫る速度に

■幻のドコモ5G。4Gは速いものの……

豊洲では、意外にもドコモ5Gに遭遇しました。なぜ意外なのかというと、ドコモの公開している「5Gエリア一覧」には該当するスポットが記載されていないからです。ドコモはエリアマップではなく、地点ベースで情報を公開していますが、非公開や調整中のスポットも存在するようです。ただし、5Gスポットは都内でも限られており、半分以上がドコモショップ店内の「お試しスポット」になっています。ドコモの場合、5G初年度は東京オリンピック会場を重点的に整備する方針だったため、網羅性にかける整備状況となっているのかもしれません。

ドコモの5Gを掴んだのはショッピングモール「ららぽーと豊洲」の入り口付近でした。ただし一瞬で4G LTEピクトに戻ったため、まともに通信できたわけではありません。このショッピングモールには「d gardenららぽーと豊洲店」が入居しています。しかも5Gの体験スポットもあるそうです。これは行ってみるしかないでしょう。

ということで店内に入ると、奥の方にこじんまりと5Gスマホの体験コーナーが設けられていました。このコーナー付近の数メートルの範囲では、ドコモ5Gピクトが表示されます。ただし、5Gで安定した通信を保つのは難しい状態で、測定を始めると4G LTEに戻ってしまいました。5Gサービスが体験できる展示機にも「この展示機ではダウンロードしたコンテンツかWi-Fi接続を用いています。5Gは調整中です」という旨の注意書きが記載されていました。

5Gは厳しい状況ですが、ドコモのモバイルネットワークは4G LTEでもなかなか高速です。ドコモは4G LTEで潤沢な周波数帯を保有し、理論値1.7Gbpsの最大速度で通信が可能となっています。保有する周波数帯をフル活用しているのは混雑しがちな都心部のみですが、場所によっては4G LTEで200〜400Mbpsの安定した通信が可能でした。

▲ドコモ代々木ビルのある代々木駅前のドコモは4G LTEエリア。しかし速い

今回の取材から数日後、11月4日にドコモの5Gエリアマップがついに公開されました。都内をみても現状ではほとんどスカスカな状況ですが、2021年夏には山手線内の大部分をカバーする計画となっています。なお、現状のエリアマップでは5Gのsub-6帯とミリ波帯の区別は示されていません。

▲ドコモ5Gエリアは2021年夏までに大きく広がる見通し

■渋谷はauの庭だった

auは、5Gのサービス開始当初からsub-6帯とミリ波帯を並行して整備しています。iPhone 12ではsub-6帯のみが利用できるため、この整備方針はやや不利にも思えます。しかし、都心部の5Gで強さを見せつけたのはauでした。まずはエリアから見てみましょう。

auのエリアマップはiPhone 12の発表にあわせて、サブ6帯とミリ波帯のエリアを分けて表示するようになりました。ソフトバンクのようなべた塗りではなく、5G基地局の周囲のエリアを小さな円で囲うような表現になっています。

正直な表示ではありますが、同時に5Gのエリア整備の厳しさを実感させられます。ただ、地図の見づらさは気になります。5Gエリアの色分けは4パターンがあり(sub6とミリ波、展開済みと展開予定)、auのブランドカラーのオレンジ(4G LTEエリア)で地図上がべた塗りした上、同系色で塗り分けているのはややこしいように思えます。

▲auのエリアマップが3キャリアの中では一番誠実な内容に思えます。絞り込みができたら尚良しですが……

auが重点的に整備しているエリアは、渋谷や新宿、新橋といった山手線の主要駅が中心です。特に渋谷はKDDIの第2拠点となる渋谷ヒカリエの所在地で、「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」で渋谷区とも協力関係にあります。渋谷のスクランブル交差点やバスケットボールストリート(渋谷センター街)はau 5Gエリアがことさら重点的に整備されているはずです。

渋谷のハチ公口に出てみると、ほどなくしてau 5Gのピクト表示が立ちました。ハチ公前広場の中でも掴みが良い場所とあまり良くない場所があるようですが、絶好調だったのがスクランブル交差点の信号待ちの歩道でした。夕方の人が行き交う歩道の端っこでスピード測定をしてみたところ、300Mbpsという速度を記録しました。実測で300Mbpsなら、NetflixでHDR動画を再生するのも難しくはないでしょう。実際に、30秒も待たずに再生できました。

▲auの本気をスクランブル交差点で見る

バスケットボールストリートに出てみても、au 5Gがおおよそ維持されていました。今のところ全国でも数少ない、実用的な5Gエリアが形成されていると言えそうです。

ちなみに、渋谷のハチ公前広場は、ドコモとソフトバンクも5Gサービスを展開しています。ドコモの表記では「渋谷駅周辺」というかなりざっくりとした表記ですが、ハチ公前広場でもJRの高架橋の近辺で5G網を掴みました。渋谷駅に掲げられたソフトバンク5Gの大きな広告看板も見える位置です。ここでは3キャリアの5Gピクトを同時に眺めることができました。

■アキヨドで5Gの夢を垣間見る

最後に、3キャリアの5Gエリアと公式に謳っているスポットに行ってみました。秋葉原駅前の「ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba」(通称アキヨド)です。

アキヨドでは10月23日よりドコモ、au、ソフトバンクの5G網が利用可能となっています。1階の携帯電話コーナーでは、「5G使えます」の垂れ幕がそこかしこに吊り下げられ、アピールされていました。

この検証の際に、筆者は3キャリアのiPhone 12 Proを主に使っていますが、バックアップとして3キャリアのiPhone 12も持ち歩いていました。アキヨドではauのiPhone 12 Proがなぜか5Gを掴まず、iPhone 12だけが5G表示になりました。首をひねりつつ店員さんに「5G、どこでつながりますか?」と聞いてみると、親切に5Gの接続設定を見ていただけました。

それでも依然として5GピクトにならないiPhone 12 Proを前に首をひねることしきり。店員さんいわく「展示機でも日によって5Gを掴まないことがある」そうです。モバイル通信にも機嫌の良し悪しがあるのでしょうか。

ともあれ、3キャリアのiPhone 12 ProとiPhone 12でスピード測定してみると、その結果は衝撃的でした。ソフトバンクでは300Mbps前後、auとドコモは600〜800Mbps程度という、他のスポットでは体感できなかった試せなかった数字をいとも簡単に叩き出します。屋内で理想的な条件で整備すれば、本当に高速な通信を体感できる、という5Gの夢を見せてくれました。

ちなみに、高速な5G通信が1階の携帯コーナーで体験できたのなら、では上のフロアはどうなのかと気になるところでしょう。3キャリアの5G対応iPhoneを持ってアキヨドのエスカレーターを昇ってみたところ、ドコモは2階、auは3階、ソフトバンクは4階を過ぎると4G LTEエリアに戻ってしまいました。店舗を出て、入り口前のベンチ(通称すれちがい広場)に寄ってみても、ドコモはすぐに4G LTEに戻ってしまいます。

▲2020年にすれちがい通信をしている人もいないでしょう

全体的な傾向として、ドコモ5Gはスポットも少なめで、条件が整わないと5Gピクトにならない(厳密な表示)という印象。ドコモの場合、4G LTEでも高速なので5Gエリアを急いで整備する必要がないのかもしれません。au 5Gは駅前など重点エリアで良好なパフォーマンスを見せた印象です。今回の検証では寄っていませんが、新橋駅前もau 5Gは高速で比較的安定した通信が可能でした。ソフトバンク5Gはピクト表示で「5G」と出てくる時間は長めなものの、実際に5Gを使って通信を行える場所がかなり限られていたのが残念でした。また、5Gのエリア展開の表示についても、より分かりやすく、適切なエリアマップを公表する取り組みとしては不十分に思えます。

3キャリアで多少の差は出たものの、5Gの整備はまだこれからが本番です。iPhone 12シリーズが発売されたことでようやく本格的な整備が始まることでしょう。3キャリアでは現在、既存の4G LTEの周波数帯域を5Gに転用する「周波数転用」の導入が検討されています。周波数転用では高速な通信は望めませんが、見かけ上の5Gエリアは大きく広がり、レスポンスもより良くなります。使っているうちに段々と改善されていく見込みがあるということです。現状ではまず「ここは5Gが入る」という確認からはじめることになりますが、遠からぬうちに「山手線主要駅での5Gの速度比較」といったような検証ができるようになるでしょう。楽天モバイル(現状では都内エリアが世田谷区と板橋区しかない)を含めた4キャリアで、エリア整備を切磋琢磨してほしいと期待しています。


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