▲2021年のiPhoneのラインナップ。今年も4モデル構成で、カメラを軸に上下に分かれた形

「iPhoneはどんどん高くなる」「カメラに進化が集約されている」

iPhone 13シリーズが発表され、そんな声も聴かれる。確かにわからない話ではない。

だが、iPhoneのラインナップ戦略を読み解くと、その辺の事情がもう少し見えやすくなってくる。少し長い目で見て、「iPhoneのラインナップはどんな風に決まっているか」を考えてみよう。

すると、2021年モデルのどれを選ぶべきか、もしくは「いつのモデルをいつ買うべきか」というある種の戦略が見えてくる。

数の力を背景に進化するiPhone

iPhone 13の進化点はシンプルに4つにまとめられる。

  • 高性能な自社開発SoC(A15 Bionic)の採用

  • 設計見直しによるバッテリー搭載量増加に伴う動作時間の延長

  • カメラモジュールの改善による撮影性能向上

  • 高い機械学習能力を前提としたカメラ機能とユーザビリティの向上

▲やっぱり目立つのは「Pro」でのカメラモジュールの進化ではある

順当でシンプルな進化であり、デザイン変更や「二つ折り」のようなわかりやすい変化とは違う。だが筆者はこれを「とても今のiPhoneらしい選択」だとも感じている。

現在にiPhoneを語る上でのポイントは「圧倒的に大量に、同じものを売ることで1台あたりの性能を上げることを前提とした製品」である、ということだ。量産効果の最大化は工業製品の常ではあるが、iPhoneはその効果をあらゆる部分で徹底した存在である。

ご存じのように、iPhoneというスマートフォンは、他社に比べるとラインナップがシンプル。結果として、同じパーツを使う製品の数が増え、調達量が上がる。

iPhone 13で採用された「A15 Bionic」は、現状最先端の半導体製造プロセスで製造される。iPhone 12シリーズに使われた「A14 Bionic」からの性能アップは、トランジスタ数で約27%増(150億トランジスタ)、1秒当たりの処理能力は約44%増(毎秒15.8兆回)だ。省電力性能強化・GPU強化がメインになっていると感じる。

▲今年の「A15 Bionic」は、トランジスタ数も処理能力もさらに増えた

この数字はどちらもスタンダードモデルであるiPhone 13と13 miniのもので、「Pro」ではさらにGPUが強化されている。AppleはiPhone 13 Proシリーズに採用している「GPU5コア版A15 Bionic」を、カタログでは「スマートフォンで最速のチップ」と表記している。

▲iPhone 13の「A15 Bionic」(上)と13 Proのもの(下)とでは、GPUのコア数が「4」と「5」という違いがある

このプロセッサーが本当に「他社製品を圧倒するスピード」なのかは、ベンチマークなどの値が見えてこないとわからないので、その点はご留意いただきたい。ただ、A14 Bionicが非常に高速なプロセッサーであったのは事実であり、その進化版であることを考えると、そこまで的外れではなかろう。

このプロセッサーは、iPhone 13はもちろん同時に発売される「iPad mini」でも使われる。製造を担当するTSMCの製造ラインは逼迫していると言われているが、Appleは「たくさんの製品で使うことを前提に、事前にラインをがっつり抑える」形でカバーしている、と言われている。

▲iPad miniのリニューアルも、iPhoneの生産数を活かしたものと言っていい

性能が向上することにより、Pro以外でも処理が重くなる新しい機能が展開しやすい。プロ向けのフォーマットである「ProRes」での動画撮影など、iPhone 13 Proシリーズだけが対応する機能もあるのだが、目玉の一つである「シネマティックモード」は、iPhone 13シリーズ全体での対応となった。

シネマティックモードは「動画撮影に深度情報を付加する」「日常的な撮影では難しかったフォーカス送りを自動化する」もので、動画撮影の可能性を大きく広げるものだ。

発想としては静止画の「ポートレートモード」からの延長だが、処理するデータ量が一気に増えるので、当然それだけ高性能なプロセッサーが必要になる。A15 Bionicが必須なのかはともかく、進化によって生まれていく余裕が重要であるのは間違いなかろう。

前出のように、これがPro以外のスタンダードモデルにも提供され、多くの人の手に届く、というのは大きなことだ。映像撮影には照明など多数の要素がからみ、フォーカスの変化だけで映画のような映像になる訳ではないが、少なくとも、ポートレートモード以降にボケ味が注目されたように、日常的に撮影する動画に対する見方が変わる可能性は高い。

新モデル以外でもかまわない? Appleが重視するのは「iPhoneを選び続けてくれること」

そうは言っても「新機種は高い」と思っている人も多いだろう。「すぐに買い換えるべきか」と思案している人もいるかもしれない。

そこは悩んでいいし、常に最新モデルをすぐに買うだけが選択肢ではない、と真面目に思っている。

もちろん、昔に比べればずいぶんと数が増えたし、対応する通信規格などの理由から、国や地域別に多数のバリエーションがあり、デザインから見えるほどシンプルではない。同じiPhone 13でも中身は何種類もあるのだ。

だが、それでも他社よりはかなりモデル数が少ないのは事実。「ラインナップに過去モデルが残ることで価格バリエーションが生まれる」という組み合わせによって、発表する「新機種」の数を抑える構造になっている。

▲過去のモデルがラインナップに残ることで、新機種数を抑えつつバリエーションは拡大する戦略

実際の販売数という点では「iPhone SE」などの低価格モデルが増えている。また、今回「iPhone 12」の価格改定も行われ、お買い得度が増しているのも重要な点である。特にiPhone 12については、これから5Gに移行する人が増えていくことを考えると、ある意味最適なモデルだ。

価格上昇の件は彼らも理解している。Appleにとって重要のなのは「ユーザーがiPhoneを使い続け、Appleのエコシステムの中にいてくれる」ことであり、価格が理由でiPhoneを選ばなくなることはマイナスだからだ。

プロセッサーなどの性能を積極的にあげ、陳腐化を遅くすることは「過去モデルの競争力を維持する」ことにもつながる。iPhoneで作ったプロセッサーはそのままiPadでも使われ、差別化要因になる。

「買取り」も活かすビジネスモデルの妙

とはいえ、だ。

最新モデルをすぐに買うということは、それだけ陳腐化までの時間が長くなるということであり、最新の機能を長く楽しめるということでもある。「時間をお金で買う」のは悪い話ではない。

iPhoneは特にリセールバリューが高いことで知られている。Apple自身が下取りをしてくれるし、各携帯電話事業者による買取りもある。特に、NTTドコモから発表された「いつでもカエドキプログラム」は、買取価格がかなり高く設定されていてお得感が増している。

前述のように、昨年・一昨年のモデルが現行商品としてそのまま残るのは、製品の中古価格を維持する上でもプラスだろう。

このように考えると、「シンプルなラインナップ構成の積み重ね」というAppleのやり方が、なかなかうまく「iPhoneを買い続けるモチベーション」になるビジネスモデルとして機能していることがわかる。少数の尖ったモデルを売るよりも幅広く売ることを前提としているのも、こうした長期的・多層的ビジョンがあるからなのだろう。

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