先日発売された新 AirMac Extreme (MB763J/A) には、802.11n・デュアルチャンネル対応で11gの5倍速いことを示す「5x Faster」の表記がなされています。賢明なAppleウォッチャーの方はお気づきかもしれませんが、前バージョンのAirMac Extereme(MB053J/A)も発売当初は同様に5x Fasterの表記がありました。しかし、いつのまにか5x Fasterのマークは削除され、「11gの2.5倍の通信速度を実現」へと修正されていました。転送速度を売りにするルータ製品で規格上の最高速度をこっそり半分に減らしていたことになります。



そもそもの発端は、新AirMac / AirPort Extreme発表記事に「5x Fasterに高速化」と書いた点について、「前バージョンも"5x Faster"でしたが?」との読者の方からのタレこみでした。2008年1月当時の前モデル AirMac Extremeページ (Web Archive)を開いてみると、通信速度表記は確かに5x Fasterです。前バージョンは2007年1月発売ですから、発売後約1年間はこのままの表記であったと予想されます。しかしページの下部をよく読むと、「現在国内の法規により帯域幅は仕様上可能な上限の半分に制限されており、通信速度の上限も帯域幅に応じたものとなります」と注意書きがされています。つまり、「5x Fasterの表記してるけど、日本では実際には2.5倍しかでません」との意味です。では、ここでいう「国内の法規」とはなんでしょうか?

この法規とは、と前置きするまでもなくもちろん電波法です。従来無線LANに使用されていた電波は20MHz幅であったのに対し、11nの使用するバンド幅は40MHz。従来の2倍の帯域で通信を高速化できます。しかし2007年6月の法改正以前は、国内では11nでも20MHz分しか使用できず、本来の1/2の速度でしかゆんゆんできていない状態でした。この点、『AirMac ネットワーク構成の手引き AirMac ユーティリティ編』(p.24)には、「参考:ワイドチャンネルの使用は一部の国では許可されていません」という、日本語で書いてあっても「一部の国」としか表現しない極めてグローバル企業らしい説明がありますし、実使用環境のベンチマークでも5倍には(規格上の上限ということを考慮しても) 遠く及ばないという結果があります。

さて以上から、「前バージョンのAirMac Extremeは、電波法の制限により日本国内では2.5倍しか速度が出せないにもかかわらず、非常に分かりにくい注意書きを付けることで5x Fasterというグローバルとの表記統一を行っていたが、さすがに消費者の誤解を招きかねないためいつのまにか表記を変更した (そして新バージョンで5xを復活させた)」という仮説aが導き出されます。また、法改正がなされたのちも新バージョン発売まで「2.5倍」表記であったという事実から、「ファームウェアのアップデートでは対応できない、ハードウェア的な制限が設けられていた」という推測bも導き出されます。

まず、仮説aについてAppleに確認したところ、「電波関連法改正後、表記を変更しました」とあっさり認めていただきました。表記変更をしたということは、上記のような不親切な表記が消費者の誤解を招くと判断した結果と考えられます。なお、調べ方が甘かったのか、この点に関するAppleからの謝罪コメントは、現在のところウェブ上では確認できていません。次に、推測bについて確認したところ、こちらもはっきりと「前バージョンのファームウェアのアップデートによる速度向上(5x Faster化)はできません」とのこと。「新バージョンを購入してください、ということですね、わかります」と多くのユーザが考えるとは思えません。5x Fasterの表記を信頼して前バージョンを購入したユーザが納得できるような説明や購入後サポートを行えなければ、一般消費者のAppleに対する不信感を募らせるだけではないでしょうか。