欧州原子核研究機構 CERN が、世界最初のウェブサイト info.cern.ch を復刻公開しました。公開日の2013年4月30日は、CERNが World Wide Web にかかわる規格文書やソフトウェアについて権利を主張せずパブリックドメインとすることを宣言し、ウェブが誰でも自由に無料で利用できるプラットフォームとして発展する道を開いた1993年4月30日からちょうど20周年にあたります。
(1993年当時の NeXT ウェブブラウザの画面)
info.cern.ch の復刻公開は、最初期のウェブの姿を未来の世代のためのデジタル遺産として保全する Restoring the first website プロジェクトの一環。公開された「最初のURL」
http://info.cern.ch/hypertext/WWW/TheProject.html
は、当時 CERN でティム・バーナーズ=リーが啓発普及を進めていた World Wide Web プロジェクトそのもののページです。ページから1992年当時の説明文を引けば:
" The WorldWideWeb (W3) is a wide-area hypermedia information retrieval initiative aiming to give universal access to a large universe of documents. "
(ワールドワイドウェブ (W3) は広域ハイパーメディア情報取得の取り組みです。広大な資料文書の世界へ、世界どこからでもアクセスできることを目指しています)。
携帯電話がインターネットにつながっていて当たり前、「ウェブ」も「ネット」もあまり区別せずに使われるようになった現在からは何がなにやら分かりませんが、「情報」の教科書的な話を超暴力的に要約すると:
「世界のコンピュータ同士がつながっているのがインターネット。1980年代くらいにできた。ゲームや Twitter などいろいろな用途(アプリケーション)に使われる。そうした用途のひとつ、いわゆる「ホームページ」や「ウェブサイト」と呼ばれるもの、文書や画像があってリンクを押すとどんどん辿れる仕組みが World Wide Web (ウェブ)。インターネットよりもだいぶ後、1990年くらいに開発された。」
になります。今回1992年当時の世界初のウェブサイトとして復刻公開されたのは、「インターネットでこうやって文書同士をつないで辿れる WWW って仕組みを考えました。実例はこんな感じです」ページ。
「インターネットとウェブの歴史」をもう少し手加減して要約すると:
1960年代末から1970年代:大学や研究機関には大型のコンピュータがあり、利便のため接続されることはあったが、接続プロトコルはさまざまで統一された「インターネット」は存在しなかった。
後に DARPA となる米国国防省の研究管理機関 ARPA は、さまざまな研究プロジェクトのためのネットワーク ARPANET を構築し、多数のホストコンピュータの相互接続に適したパケット交換式のネットワークを研究する。ネットワーク同士を接続する形式として TCP/IP の開発が進む。(観点によって何人もいる「インターネットの父」のひとりビント・サーフ先生はこのあたりに貢献)。
1970年代を通じて、米国内外のさまざまな研究機関や政府機関のネットワークどうしがARPANETを介して相互接続を拡大する。
1980年代:TCP/IPで ARPANETのほか世界の研究機関ネットワークなどが相互接続を進める。それまで相互接続ネットワーク ( Internetwork ) の略語であった " Internet(s) " が、世界にひとつの " (The) Internet " に拡大。
1989年:欧州原子核研究機構 CERN にデータ管理システムの仕事で雇われていたティム・バーナーズ=リーが、実験データや文書を効率的に整理しアクセスしやすくするため、文書同士をリンクする「ハイパーテキスト」の概念と、インターネットを融合した「分散ハイパーテキストシステム」を提案する。
ティム・バーナーズ=リーはCERNの承認を得て、コツコツと World Wide Web の仕組みを開発。1990年には HTMLや最初のWebサーバ、最初のウェブブラウザ兼ウェブエディタなどを完成させ、仕事用の NeXT ワークステーション上に最初のウェブサーバを立ち上げる。
1993年4月30日、CERNは当時普及しつつあった WWW について、接続規格文書やソフトウェアについて権利を主張せず、誰でも自由に無料で使えるパブリックドメインとすることを宣言。
といったところ。今年はこのパブリックドメイン宣言から20周年。当時からWWW以外にもインターネットを使った情報共有のプロトコルは存在していましたが、このフリー化宣言がさまざまな組織のWWW採用を加速し、いわゆる「インターネット」と同一視されるような「ウェブ」の爆発的な発展につながったと評価されています。
Restoring the first website プロジェクトでは「世界最初のウェブサイト」だけでなく、当時そのままのIPアドレスやネットワーク構成、サーバ構成なども含めて復刻保全を進めるとしており、ティム・バーナーズ=リーが使っていた NeXT ワークステーションのハードディスク複製とデータ復旧、NeXTの動態保存にまで取り組んでいます。放っておくといずれ「当時のティム・バーナーズ=リーを再現したAI」くらいは作りそうです。
ティム・バーナーズ=リーがCERNに提出した、のちのウェブにつながる提案書 (「情報管理:案」)。ページ上部には当時の上司が書き込んだ、" Vague, but exciting... " (漠然としているが、なかなか面白い......) が残っています。高解像度版は info.cern.ch へ。