KDDIは8月24日、首都直下型大地震を想定した非常参集訓練を実施しました。この訓練、いわゆる形だけの催しではなく、社内でもごく一部の限られたスタッフのみが訓練の日を知っているという抜き打ち形式のもの。事前にKDDI広報部から取材の打診があった際には、同じ広報部内でさえも他言しないよう要望されるなど徹底したものでした。

 

災害時にどうふるまうべきか。2011年3月の東日本大震災以降、企業の防災対策などにおいてBCP(事業継続計画)が強く叫ばれるようになりました。今回の訓練は、国内の通信インフラの一翼を担うKDDIの大規模な抜き打ち災害訓練です。

最初に言ってしまうと、この取り組みは拠点に集まることと、集まったメンバーだけで災害対策や情報収集などにあたるという、傍目には非常に地味なものです。しかしその内容は、願わくば訪れない方がいい有事を見据えた本格的な内容となっています。



KDDIでは毎年各部署から数名を災害時の緊急対応メンバーに選出しています。このメンバーは、大規模災害発生時など災害対策本部の設置基準に満たした場合、指定の拠点に自発的に集まりに災害対応を行います。

今回の災害は早朝5時半に首都圏に直下型大地震が発生したことを想定、地震の規模はマグニチュード7.3。メンバーには事前に7〜9月の土日のいずれかに訓練がある、とだけ伝えてあり、被災状況も含め事前情報は提供されません。



早朝5時半のメールを確認した時点から訓練開始。訓練に参加したのはKDDI関東甲信越エリアの300名の社員。抜き打ち形式となるため、出張や旅行など遠方にいるスタッフは拠点には来られません。担当者によるとそれも本番さながらの環境を作るためで、誰が拠点に集まれるのかわからず集まったメンバーで自力で対策本部を築く必要があるからです。

参集メールを受け取ったスタッフは、新宿、飯田橋、多摩、小山の4拠点にバイクか自転車、徒歩で向かい災害対策に乗り出します。なお、地震によってほぼ全てのライフラインが停止している状態を想定した訓練ではありますが、今回は拠点にいるメンバーとの携帯電話のやりとりは許可していました。




4拠点を繋ぐ通信システムとして、テレビ会議システム、国内電話会議システム、BGAN衛星会議システムなどがあります。災害によるダメージに応じてこうした通信システムで拠点間の情報を集約し、災害対策を行います。



なお副本部長以上はイリジウム衛星携帯電話を所持しており、携帯回線が使えない際にも対応できる体制を築いています。



またKDDI新宿ビル周辺のホテルには、24時間365日、在京の副本部長以上の役職者がつめています。これは意志決定者が拠点に辿り着かないことを想定したもの。今回の訓練は、その日たまたま輪番担当だった赤木本部長(コーポレート統括本部購買本部)にも情報が知らされないまま行われました。

訓練終了後、赤木氏に感想を問うと「輪番担当はメールがあればすぐに確認しなければならないため、たとえ関係のないメールであってもチェックするので寝られません。今回はとにかくすぐに拠点にかけつけ、通信システムを立ち上げて情報収集に乗り出すことを考えました」とコメントしました。



朝7時半頃になると、取材が許可されたKDDI新宿ビルには徒歩や自転車で続々とスタッフが集まってきました。現在のKDDIの本社は飯田橋にありますが、新宿が重要な拠点となっているのはバッテリー設備やビルの堅牢性も含めた兼ね合いからです。新宿ビルは国際電話事業手がけていた旧KDDの本社ビルで、かつてはこのビルに電話交換機がありました。国内電話のNTT東日本とも関係が深く、初台のNTTとは地下で繫がっているともささやかれています。







9時過ぎ、災害対策本部が発足し、4拠点と送信所のいくつかに参集した社員とテレビ電話のやりとりが始まりました。多摩拠点に原付で駆けつけた田中孝司社長の陣頭指揮を受け、現時点でわかっている被害状況の報告があがります。

各部門から情報収集や社員の安否に関わる情報があがる一方で、ライフラインが停止状態という想定であるため、スタッフの安否については確認がとれないといった報告も多数ありました。



ネットワークの監視体制の報告は本番を想定した内容で、これは危機管理上公開はNG。海外部門は海外の拠点に日本の状況を報告、物資や機材の調達に関する報告があがったほか、購買部門は通信機器の供給元であるサムスンからのバックアップの報告をあげました。



300名の訓練参加メンバーのうち140数名が拠点に到着しましたが、途中で誰がどこの拠点のいるのか、といった情報が錯綜します。もしそれが意志決定者だった場合には、判断の遅れに繫がる可能性もある課題です。



10時を少し過ぎたところで、両角寛文副社長(代表取締役執行役員副社長)が新宿ビルに到着。同氏は自宅のある埼玉県から約40数kmの道のりを自転車を使ってやってきました。2年前の訓練では最短ルートを使って拠点に向かいましたが、今回は別ルートの遠回りをするルートを選んだそう。災害によって道路が通行できない、橋が落ちたといった事態を想定し、複数のルートを知っておくためと語っていました。

訓練終了後に両角副社長に話を聞くと、まずは自分や家族の安全が優先と前置きした上で、いつやってくるかわからない災害に対して繰り返し訓練する必要性を話し「東日本大震災はたまたま平日に発生しましたが、もし休日に発生したら初動が非常に遅くなっていたはずです」と話していました。ただし、午前中とはいえ夏場の42kmの自転車走行はなかなかこたえたようで「2年前よりかなり体力が落ちている」と語っていました。

今回の訓練では、実際にイリジウムを使おうとしたがうまく通信できないなど、実用上の課題も見えました。KDDIでは今後、傘下のUQコミュニケーションズやJ:COM、関連する通信機器保守会社とも連携したさらに大規模な訓練も検討していきます。このほか、災害を想定した取り組みとしては、陸上自衛隊や海上保安庁との取り組みを行っており、東日本大震災の復興支援の取り組みも実施しています。こうした取り組みはドコモも公開しています。