FeliCaはいま日本で広く普及している非接触通信技術。スーパーやコンビニの会計で読み取り機にカードをかざして「ピッ」とすることで支払いや駅や空港で改札を素早く抜けられる。これを携帯電話やスマートフォンに入れた「おサイフケータイ」を使っている方もいるだろう。FeliCaそのものは通信規格とセキュリティ技術の名称で、一般的にわれわれが目にしているのはサービス事業者が提供している「Suica」「楽天Edy」「WAON」「nanaco」といった各サービスブランド名だ。

FeliCa技術の開発は1980年代にまでさかのぼるが、初の採用事例となったのは1990年代後半の香港の交通カード「八達通(Octopus)」で、日本ではEdyのテストサービスが2000年から開始され、翌年のJR東日本でのSuica正式導入とともに一般利用がスタートした。2004年にはNTTドコモから「おサイフケータイ」サービスがスタートし、モバイル端末での利用が可能になった。


このように、原稿執筆時点の2015年でカードサービス開始から20年、モバイルサービス開始から約10年が経過するなど、FeliCa技術の提供開始から一定年数が経過している。現在、FeliCaの端末搭載やカード発行ベースを含めたチップの出荷数は8億9000万に達したというが、JR東日本の例にみられるように、1日あたりのカード発行枚数が約1万枚ペースを維持しているなど、いまだ伸び続けている。

とはいえ、FeliCaのカードやおサイフケータイで決済可能な商店やサービス事業者も都市部を中心にかなりの規模となり、すでに日本ではインフラとして成熟期を迎えつつあるといえる。今回は、10月1~2日にわたり東京都内で開催された「FeliCa Connect」で紹介された情報のうち、特に技術面でのFeliCa最新情報について重要なトピックをまとめる。

■FeliCaの世界でいま起きていること

FeliCa以外の世界に目を向けると、いま海外の多くの地域ではMifareやType-A/Bと呼ばれる規格に準拠した非接触通信技術をベースにした規格のサービスが普及し始めており、決済や交通系カード、身分証や入館証など、さまざまな分野で活用が進んでいる。また同規格の通信にした低コストな「RFIDタグ」の利用が進み、アパレルや物流分野で実際に導入されているケースも報告されている。このほか、これまでクレジットカード大のICカードで運用されていた仕組みを、より可搬性に優れたキーホルダーやリストバンドのようなデバイスに収納して使われるケースも散見される。
カード利用を前提に策定されたFeliCa仕様はアンテナデザイン面での制約に

FeliCa技術を開発したソニーが次のステップとして現在模索しているのは、こうした対応デバイスの柔軟性だ。もともとスマートカードでの利用からスタートしたFeliCaは、後に携帯電話に組み込まれるようになり、その後はシール型の簡易利用に特化した「FeliCa Lite」が登場している。ただし、実装されるデバイスや媒体によって非接触通信に用いるアンテナの実装スペースに限界があり、もともとのスマートカードでのFeliCa利用を前提にしたサービスの場合、こうした異なる実装形態のデバイスでは読み取り機との相性の問題で利用に支障をきたすことがある(「おサイフケータイ」実装でも一部問題になったといわれる)。
FeliCa内蔵ブレスレットを紹介するソニーIP&S PSG FeliCa事業部 事業部長の坂本和之氏

これは、非接触通信で読み取り機にカードを読み取らせる場合、カード側の内蔵チップを起動して通信を行うのに必要な磁界強度がアンテナサイズの関係で実現できないことに起因する。つまり、FeliCaの基準を満たすためにアンテナで一定サイズを確保する必要があり、デザイン上の制約を受けていたわけだ。
アンテナ要素を2つに分離することで、従来の定型デザインにはない新デバイスへの応用を検討する

そこでFeliCaのさらなる利用促進のため、2つの問題解決に着手した。1つめは小型アンテナの開発で、デザインにある程度の自由度を持たせつつ、必要なアンテナ精度を確保することだ。ソニーでは、アンテナ要素を「メインアンテナ」と「サブアンテナ」の2つに分解し、FeliCaチップそのものはサブアンテナ側に取り付ける方法を検討した。これにより、サブアンテナで非接触通信実現に最低限必要な要素を満たしつつ、それとペアになったメインアンテナでアンテナ強度を増幅するようにする。ブレスレットの実装がわかりやすいだろう。
Wena Wristは社内ベンチャーから誕生したFeliCa応用例の1つ

またアンテナを2種類に分離したことで、メインアンテナとなるカードモジュールに、異なるサービスを導入したサブアンテナ+FeliCaチップをブロックのように組み合わせ、多目的カードのような使い方も可能になっている。さらなる応用例としては、アナログ時計にスマート機能を搭載した「Wena Wrist」や、リングを二重構造にすることで指輪へのFeliCa搭載を可能にする仕組みなど、社内ベンチャーを活用してさまざまなアイデアを模索している。
工夫しだいでは指輪型デザインも可能に

■FeliCa検定緩和でデザインの柔軟性を確保へ

ただ、ソニーIP&S PSG FeliCa事業部 事業部長の坂本和之氏によれば「新アンテナデザインの採用にあたってFeliCa検定を見直す必要が出てくる」と説明している。FeliCa検定とは「FeliCa RF性能検定」の通称で、FeliCaの通信特性が指定基準を満たしているかをチェックするものとなっている。仮に二重アンテナデザインで小型の組み込み装置にFeliCaチップを組み込んでも、もともとスマートカードの利用を前提にしていたFeliCa検定には通らない可能性が高いという(非接触通信は距離による減衰が激しいため、通常のカードよりも読み取り機に接近/接触させて使う必要がある)。結果として、こうした組み込み装置向けのFeliCa検定基準を別途用意することになるというのだ。

すでに検定見直しに向けた動きは進んでいるようで、CEATEC 2015で展示されていた「16 Lab」の指輪型デバイスでは、現在はType-A/Bベースの通信技術を採用しているものの、将来的にソニーなどと協議のうえで指輪内にFeliCaチップを内蔵し、このデバイスだけでロック解除や決済などの仕組みを利用できる方向を目指しているという。FeliCa検定見直しから実際に製品が登場するまでは最低でも1~2年は必要とみられるが、今後はよりユニークなデザインを採用したデバイスが登場してくるだろう。実際、RFIDタグではアンテナをより小型化したソリューションが開発されつつあり、条件の緩和しだいではデバイス設計の柔軟性もより高くなると考える。
                               CEATECでデモストレーションを行ってた16 Labの指輪型制御デバイス。PCやスマートフォンとBluetoothペアリングすることで、指の移動モーションやクリック操作でアプリケーションの遠隔操作が可能になる。NFC+チップも内蔵するため、指輪そのものに非接触通信の決済機能を持たせることも。

■ソフトウェア化でFeliCaはグローバル対応へ

もう1点、FeliCa Connectで出てきた技術的重要トピックとして「FeliCa」のグローバル対応が挙げられる。NFC(Near Field Communication)の名称で示される非接触通信技術では、世界的に利用されているType-A/B方式のサポートがうたわれているものの、Type-FことFeliCaでは暗号化通信の部分がサポートされておらず、FeliCaと(世界標準的な)NFCの世界で互換性がない。結果として、仮に海外で利用されているType-A/Bベースの非接触通信に対応したクレジットカードを日本に持ってきても、読み取り機側での個別対応が必要なほか、FeliCaを直接サポートしない海外のNFC搭載スマートフォンにはFeliCa系のサービス(例えば「モバイルSuica」など)を導入できず、相互運用が行えないという問題がある。
アンテナ技術は日々改良されており、このように指先程度のサイズにアンテナとチップ(RFID)をすべて含ませて、指輪の石部分に埋め込んで利用することも。これは2014年9月に仏マルセイユで開催されたNFC World Congressにて、戸田工業のフェライト技術を紹介したもの

解決策として考えられているのは、Type-A/Bベースのチップ上にFeliCaの仕組みを実装してしまうことで、つまりFeliCaのソフトウェア化だ。NFCなどの非接触通信で使われるセキュリティチップを「セキュアエレメント(SE)」と呼ぶが、スマートフォンには「UICC(いわゆるSIMカード)」または内蔵(eSE)の形で搭載され、チップ内蔵ストレージ内のJavaアプレットを実行する形でアプリケーション(サービス)を登録している(「Javaカード」と呼ばれる)。このチップ内のストレージの使い方などの基準はGlobalPlatform(GP)で業界標準が定義され、基本的にUICCを含む多くの方式でサポートされている。

FeliCaのソフトウェア化においては、GlobalPlatformに準拠したうえでFeliCaの機能を実現するFeliCaアプレットを用意し、汎用のJavaチップ上でFeliCaエミュレーションを行うことでサービスを実装する。すでに香港の八達通で同アプレットを搭載したプリペイドSIMが販売されており、旅行者はNFC対応スマートフォンさえあれば、「おサイフケータイ」のように手持ちのスマートフォンを(本来は専用のFeliCaカードが必要な)香港内の交通サービスや決済に利用できる。このほか、インドネシアのKCJ(KA Commuter Jabodetabek)がIndosatとの提携で同方式の採用を表明しているほか、将来的には日本のおサイフケータイにも応用していきたいというのがソニーとフェリカネットワークスの考えだ。
アンテナ改良と並び、FeliCaの最新技術トピックとして重要なのがソフトウェア化。GlobalPlatform準拠の汎用セキュリティチップ上にFeliCaのJavaアプレットを搭載し、エミュレーションでハードウェアのFeliCaチップと同等の機能を実装する。すでに香港の八達通などの商用事例が存在する

ただし、実際にこれを採用するかは各サービス事業者の判断に委ねられるため、いくらソフトウェア方式のパフォーマンスがFeliCaのハードウェアチップとほぼ同等だったとしても、採用の可否や導入タイミングは未知数な部分が多い。いずれにせよ、FeliCa検定緩和によるデザインの柔軟性確保と技術のソフトウェア化は、FeliCaの利用スタイルを今後数年かけて少しずつ変化させていくことになるだろう。

次回はもう少し、ビジネス面での最新動向や国内での利用動向などを掘り下げていく。