「ぼっち家電」でも1人で作っているわけじゃない――ビーサイズ八木氏、UPQ中澤氏、IAMAS小林氏が語る新しいものづくりのチーム論とは

Takako Ouchi
Takako Ouchi
2015年10月26日, 午後 03:00 in iamas
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「ものはチームで作るからこそおもしろいと思っているから。いろんな人のスキルを組み合わせることで、何か新しいものができあがる。それぞれの100%を超えたものになる」。この言葉、"ぼっち家電"メーカーと言われることもある、UPQ中澤優子さんが話した言葉です。ぼっちなのにチームが重要、いやぼっちだからこそチームが重要なのかもしれません。

そんな議論が岐阜県大垣市にて10月11日に開催した地方創生フェス「POST〜テクノロジーと音楽で、未来を届ける〜」のトークセッションで繰り広げられました。登壇者はUPQ中澤さんのほかに、ビーサイズ八木啓太さん。モデレータはIAMASの小林茂教授です。

新しいものは企業の中でも作れるのか、外でしかできないのか?


ビーサイズ八木さん、UPQ中澤さんの2人とも大企業を飛び出してやっている形ですが、大企業の中にいても、こういった新たな価値を持つものを作り出していくことはできるのか、大企業の外でスタートアップと言われているところでしかできないのか、という議論が盛り上がりました。

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八木:メーカーの中でできなかったかというと、たぶん可能性としてはできたかなと思います。組織の中を少しずつ説得していって、新規事業室を作るとか、何か協力チームを作って、プロジェクトを立ち上げて承認してもらうとか、やり方はもしかしたらいろいろあったのかもしれない。

しかし八木さんは、2011年当時は状況的にそれは非常に難しそうだなと感じたといいます。会社としての方針があり、作りたいプロダクトがそこにあてはまらない。非常に難しいなとなったときに、会社を辞めて自分1人でできるのであれば、それが合理的だと考えたのです。ただ、こうした事例が増えていくことによって、企業の側の考え方が少しずつ変わって、もっと新規事業を、たとえば社内起業のように起こしていけるようになればすごくいいかなといいます。

一方、中澤さんは蔦屋家電やビックカメラ、今回UPQの製品を取り扱ってくれることになった店舗を例に(蔦屋家電との契約にかかった日数はなんと3日)、大きな企業でも、新しいことを始める動きがあること、決断のスピードが速くなっていることから、世の中が変わってきたことで大手メーカーでも変化があるんじゃないかと予想しているといいます。

世界中でものづくりのスピードが急激に変わったという事実は、企業も無視できなくなってきたというのはあるのでしょう。ただ、意思決定のプロセスがやはり大きな組織ではそれなりにコストもかかることになるし、そのプロセスは企業によりさまざまです。
小林:大企業はとか、ベンチャーはとか、よくそういうくくりで言いいますが、大企業と言っても本当にいろいろやり方は違うでしょうし、昔からあるところでもすごくアグレッシブにやり続けているところもある。小さいけどすごく動きが鈍いところもある。人や組織によって違うというところもあるのかもしれないですね。

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ハードウェアが絡む「ものづくり」、その魅力


いま、ハードウェアを介在するサービスが大きな可能性があるものとして注目を集めています。しかし、可能性が大きいこと、その振り幅が大き過ぎて、アイデアをプロダクトの落とし込むことが難しいというのも現状です。次に、ハードウェアが絡む「ものづくり」についての議論が進みます。
小林:いろいろなプロダクトが出てくる中で、もやもやとした段階ってあると思うんです。いわゆるアイデア、部分的な技術、何かに使えそうだけど、そのもやもやした段階から最後の製品・サービスまで仕上がってくるところ、どこかガラッと変わる瞬間みたいなもの。そういう経験はありますか?

八木:僕の場合はコンセプトを決めるというところが一番出発点で、そこから一度目標設定をすれば、基本的にはそれに忠実に再現していけばいい。

自分が生活者として不満に思うこと、気がかりなこと、面倒くさいこと、ちょっとイライラすることをヒントとしてストックしておいて、一方で何か新しい技術、新しい発想とかそういうものをストックしておく。すると、あるふとしたときに、当たり前に不満だとみんな我慢しているけど、このテクノロジーを使ったら一瞬で解決できるという結び付きが生まれるんです。

その結びつきをコンセプトとしていく。そこには解決したい不満が最初からコンセプトの前提条件として含まれているので、あとはいかに忠実に再現するか、そのために技術ができることを最大限高めていくというようなものづくりの仕方です。途中で前提条件を変えてしまうとそれはもう違うプロダクトなので。一度決めたコンセプトは基本的に忠実にやっていく。ダメだったら淘汰されるということはあります。違うプロダクトを作るということもあります。

中澤:2つ、大事にしていることがあります。

携帯電話、ケーキ、ビール、お化粧品など、いろんなものを作ってみて、これは共通していると思ったのは、先ほど「語れる」といいましたが、自慢できるかどうか。いいでしょ、すこいでしょと。人に言わないまでも買ったことの満足度が高いもの。そういう気持ちを盛り上げられるかどうか。モテるかどうか、も同じだと思うんですが。そういうことが盛り込まれているかどうか。

もう1つ、製品の寿命をのばしていくために必要だなと思うのは、長く使っていても「あれ、こんなところにこんなおもしろい機能ついてたんだ」というような新しい発見を入れる。新しい発見はものに対して興味がもう一度湧くタイミングになります。電気が通ったプロダクトではそういう仕掛けができるので。

小林:ものづくりってどういうところを指すか非常に広い言葉で、伝統工芸や、電子回路にスマホアプリが絡んできたり、サービスだけのものとかいろいろありますけど、電子回路が入ったものづくりの魅力ってなんでしょうか?

八木:電子回路というとたいていマイコンがあって、その中にソフトウェアが入っています。ソフトウェア、ハードウェア、インターネットが入っていることにより、いろいろな組み合わせができるので、より自由度が高いですよね。可能性を追求していったときに新しい組み合わせを発見したり、より多様なアプローチができるのかなと思います。新しい可能性を探りたいというときにソフトウェアを使うのは非常に有効ですし。だから、結果的に取り入れているのかなと思います。

実は、次に作っているものはもっとサービスに近い、クラウドを使うものなんです。いままでなかった新しい体験を提供しようと。となると、そういう仕組みをどんどんなんでも使ってしまえ、トータルで良い体験ができればいいというわけで。そういう複合的なシステムとして作れるというのが魅力なのかなと思います。

また中澤さんは、「ハードがなかったら、そのソフト、サービスをどうやって感じるの?」とハードへの深い愛着を語りつつ、ただ「自分で設計したりはしないようにしている」といいます。
中澤:ものはチームで作るからこそおもしろいと思っているから。いろんな人のスキルを組み合わせることで、何か新しいものができあがる。それぞれの100%を超えたものになる。

小林:いろいろな人の力を集めていかないとできないし、それが集まったときにおもしろいように化ける、ああいう楽しさは一度知るとやめられない。ものだけのところを見ているわけではなくて、コラボレーションでできていくことのおもしろさ、それならではの楽しさ。だから伝わるものがあるということはあると思います。

小林さんも以前、楽器メーカーにいたときの経験を話してくれました。ただの音が出る箱が楽器に変わる瞬間、あるレベルを超えてみんなのパワーが発揮できてくると化けるその瞬間、当時はその変わる瞬間を味わいたいがために......というような感じもあったとか(さらに、それを超えると製品としてのクオリティを担保するための膨大な辛い期間があったそうですが)。

ひとりメーカー、ぼっち家電――。でも本当は1人で作っているわけじゃない


八木さんにしろ、中澤さんにしろ、ベンチャーが家電をやるというところにクローズアップしがちです。"ひとりメーカー"と呼ばれたり、"ぼっち家電"と呼ばれたり。しかしいまのプロダクトは、ハードウェア、ソフトウェア、サービスまで全部そろわないと力を発揮しないと言われています。
小林:やっていくうえですごくおもしろいところじゃないかなと思いますが、反面、いろいろな人たちがうまくコラボレーションしないとできないという難しさもあります。二人は、真逆というか、いろいろな人たちとかかわっていく中で作っていくところの楽しさと意味を熟知していると思うんですが、コラボレーションしていくうえで大事にしていることはなんですか?

八木:コラボレーションするときに前提条件をしっかり共有できるかというところです。プロダクトにしてもサービスにしても、ソフトウェアにしても、何が解決したいのか、何を豊かにしたいのか。当初のコンセプトが前提条件としてあるべきだと思う。

前提条件がずれていってしまうといつまで経っても完成しなかったり、いつまで経っても頑張ったとしても前提から崩れてしまうので、コラボレーションするときは、その前提をきちんと共有できる仲間かどうか、最初に腹を割って話をするようにしています。

また、お互いが得意とするものがある意味かぶらないほうがおもしろいものになると思います。お互いに持っていない得意分野、お互いが違う属性のほうがシナジーが起こりやすいと思っています。

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中澤さんは、基本的には同じとし、ただメンバーが固定で人が選べない場合について。
中澤:プロジェクトマネージャー業なので人を見ています。そもそも何をやりたいかわからない人もいる、わかってもらえるように話をします。メーカー時代にPMで入ったプロジェクトの例ですが、どう考えてもめちゃくちゃになっていたプロダクトで、私はあとから入ったので、誰の思いでこうなっているんですかと聞いても誰も自分ではないと。

上から降ってきて自分のものとして落ちてきていない。みんなの気持ちがそれてしまっている。そのときにやったのは、集まって状況を確認して、まず話し合う。私は作りたいものがあるのでそこに導くんですが、話し合って、出てきたエッセンスは逃さない。

結果、自分のほうには持ってくるんですが、みんなでディスカッションしたというエビデンスが重要なんです。最初に「思いがない」といった人には、「思いがある」ように仕向ける。やらされているという作業者になってしまうとそこに穴が出てくると思うので、まずは自分事にしてもらえるようにします。

八木:やっぱりチームとしてやっていく中で、ビジョンの共有、想いの共有ってアナログ的だけど、ものすごく大事なところだと思います。僕らの場合は、社内のチームもそうだし、部品を加工してもらうサプライヤーさんにも、この部品はこの商品のこの部分でこういう機能を果たすから、この部品がこの精度でできていないと性能が出ないのでお願いしますということを説明します。すると、すごく乗り気で協力してくれる。

図面と3Dデータを送るだけで形式上は作れるんですけど、ただそれをこういう製品を作りましょうと仲間に入れることで、チームに入ってもらう。究極は、使ってくれるお客さんもチームです。プロダクトを支持し、お金を払ってくれるから、その製品のサポートができる。クラウドファンディングもそうですが、お金を払って使ってくれる側と設計する側と、そういう人たちが1つの循環を作るというのが、ものづくりに重要なところかなと思います。

さらに八木さんは、「想定している以上の使い方、意図と違う使い方を発見してくれるというのはすごく多いです。いろいろな人がいろいろな使い方を発見してくれる。これは作りて冥利につきるし、次の発見につながる。そういう可能性の余韻を残したプロダクト、余白のあるプロダクトをつくっていければすごくおもしろいなと思います」と続けます。
八木:ポテンシャルとして十分対応できるものであれば、いろいろな使い方ができる。デザイン上もうちのプロダクトは非常にシンプルになっていますが、それはユーザーさんへのリスペクトを最大にしていくとそうなる。「これが美しいの定義だからこう使いなさい」とおしつけるのはおこがましいという気もしていて。誰しもにとって、受け入れられるような余白を持たせたいと思っています。

小林:ユーザーと一緒に価値を作っていくみたいなところは段々重要になってきている。そこに気づくようなところに来ているのかもしれません。

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中澤さんも、やはり同様に製品を買ってくれたユーザーが想定しない使い方をしているのを見るとうれしいといいます。特に中澤さんは「2か月で24製品!」とメディアでも大きく取り上げられました(実際は2か月で24製品すべてを発売するということではありませんが)。中澤さんが「速さ」にこだわるわけは、ユーザーとのコミュニケーションもその理由の1つのようです。
中澤:今回、UPQの製品リリースではスピードを重視しました。要は何を重視するかで、世の中になくて誰もやっていないものなら、時間をかけて開発してもいいかもしれない。しかし、私がやっているのは既存のカテゴリーのものなので、そういったものはなるべく短期間で作っていきたい。

明確に「それは売れるね」というものであれば、究極、企画書さえもいらないと思っていて、できあがったときにどうお客様に見せるかというところで考える必要はあるけど、そういう時間をギュッと短縮して製品を出して、お客様と会話して次のプロダクトに活かす。それを繰り返すのがものづくりだと考えています。

机上でいくらやっていても進まない。その時間がもったいない。プロトタイピングがいますごく簡単にできるようになっているので、それを活かして速くものを作って、エンドユーザーに届ける。そういうことができると、この先ものすごく変わってくるんじゃないかなと思います。

ただし、2か月を繰り返すことが"正"ではないともいいます。どういう作り方をするかにもよると。OEM、ODMだったり、自分たちでデザインまで起こすか、国内の工場か国外か、いろいろあります。
中澤:たとえば、OEMでやったものを次はODMにしてみようとか、ステップを踏みながら、ものを迅速に出すスキームを、もっともっと手が込んでいるものを速く出すというスキームに育てていくというのも、やり方によってはできるのではないかと思っています。

おもしろいなと思うのは、八木さんと中澤さんはユーザーを巻き込むことを重視していて、でも、そのための方法は(いまのところ)異なります。一方はプロダクトに余白をデザインしておく、一方は迅速に製品を出すことで世に問う、という形。もちろん、作るものによって方法論は変わってくるし、いろいろな方法があっていいので。でも本当に人によるというか、それこそ、これが人が作っているということなのだと感じた点でした。

最後に、小林さんから。
小林:メディアが一人なんとかとか取り上げるのは、新しい可能性にスポットライトを当てたいということの一種の裏返しだと思うんです。それを考えていったときに、日本だから、海外だから、東京だから、東京以外だからとか、というのではなくて、いったり来たりしていく中で開かれていく世界がある。それを二人が身を持って示しているというところがある。そういうふうにみんながとらえるようになれば、もっともっとおもしろいことが起きていく気がします。

(小林さん自身が携わった)光枡のプロジェクトは、地元でベンチャーを立ち上げている人たちと一緒に立ち上げて、そこに地元企業の人が参加して生まれたものです。シリコンバレーじゃないとできない、東京じゃないと、と言わずに身近でもできる。だったら、次に乗り出してみようと、次々と増えてくるところが今後期待できることだと思います。

以前ならとてもリスクが大きいことだったかもしれない。でも、いまそれが少ないリスクでできるようになってきていたり、後押ししようとする人たち、制度や場所がある。こうした前例にインスパイアを受けながら、みんながさまざまなアクションを起こしていけるようになるといいなと思います。
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大内孝子(おおうち・たかこ):フリーライター/エディター。主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)がある。
 
 
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