「ひとりメーカー」時代――IAMAS、ビーサイズ、UPQのキーパーソンが語る"ものづくり"の新しい局面

Takako Ouchi
Takako Ouchi
2015年10月26日, 午後 03:00 in iamas
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製品の企画・設計・製造・販売まで一人――。言わば「ひとりメーカー」とでも表現できるようなハードウェアスタートアップに注目が集まっています。

こうした最小人数でのものづくりを検証しようというのが岐阜県大垣市にて10月11日に開催した地方創生フェス「POST〜テクノロジーと音楽で、未来を届ける〜」でのトークセッション「テクノロジー×未来のものづくり」です。「いま、ものづくりをとりまく状況に大きな変化が起きていること、その変化を検証することで次の一歩を考えていこう」(モデレーターを務めたIAMASの小林茂教授)

今回は小林さん自身を含めた、ひとりメーカーの事例となり得るビーサイズ、UPQの取り組みを紹介します。

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ものづくりの新しい局面を検証する


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小林茂さん


小林茂さんはプロトタイピングツール「Gainer」「Arduino Fio」の開発者でもあり、こうしたプロトタイピングのためのツール、メソッドの研究だけではなく、ワークショップやハッカソンなどのイベントを通した実践的な活動も数多くしています。最近取り組んできたロジェクトに、9月末にクラウドファンディングで資金調達に成功した「光枡」があります(光枡プロジェクトについてはこちらの記事をどうぞ)。
小林:異業種の人たちが集まって、それぞれが自分たちが持っているスキルを投資する。電子回路とかハードウェア、ソフトウェア、アプリ、ウェブサービスが絡んだものを作ろうと思うと普通にすごくお金がかかるんですけど、それぞれが持っているスキルを投資して集めることで、力を合わせることで具現化することができる。

光枡はそれに挑戦して、現実のものとした。そういった事例が身近なところ、まさに大垣から起きているということもあります。そんなことを見ていくと、いまものづくりといわれている主流のところ、既存の事業に関してはそんなに大きくはやり方は変わらないだろうし、変える必要がないのだと思いますが、ただ、そのまわりの新規事業と言われる部分、新しいエリアが出始めたんだなと思います。

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イベント当日、展示していた光枡


では、いまどんなことが起きているのでしょうか?

美、真、善=デザインとテクノロジーで社会貢献する、ビーサイズ・八木さん


八木啓太さんは2011年にビーサイズを設立し、「STROKE」というLEDのデスクライトを作りました。色味が自然の色に近い、目に優しいというのが特徴です。パイプを4か所曲げて作ったようなシンプルなデザインですが、その筐体デザインも、LEDの制御回路の設計も、八木さんがPCで作成しました。当初は自分でパーツの組み立てまでしたというので、製品の企画・設計・製造・販売まで一人。そのため「ひとりメーカー」と呼ばれたことも。

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八木啓太さん

富士フイルムで医療機器の機械設計を担当していた八木さんですが、大学では電子工学を学び、その頃からプロダクトデザインに関心があり、独学で学んでいたといいます。機械設計に電子回路、プロダクトデザインができれば、一人でものが作れるなということから、週末に一人で作るという活動を始めたそうです。

そんなとき自然光に近いLEDと出会い、デスクライトを作ってみました。実際に形にして使ってみると、柔らかい光が目に優しく「これはいい」と。売れるんじゃないかと独立を考えます。スティーブ・ジョブスのこの言葉「今日が人生最後の日だったら、今日やる予定のことをしたいか?」が好きだという八木さんは、「デスクライトを作るのが僕のやるべき人生かなと思った」と、富士フイルムを退職。退職金と貯金を合わせ1000万円でスタートすることになります。

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STROKE。パイプを4箇所曲げて作ったような、シンプルなデザインのLEDデスクライト。GOOD DESIGN賞およびreddot design awardを受賞

その後、震災もあってなかなか協力してくれる工場が見つからなかったそうですが、部屋の一角を組立工場にして、ここに最初100台分のロットを用意します。いよいよ量産というところで1000万円はなくなり、1台1台、自分で組み立てることにしたのです。耐久試験(恒温試験)に必要な恒温槽も、肉まんの保温庫を楽天で買い改造したそう。

いまは売上も延び、製造や物流をアウトソースするなど順調に。メンバーも増え、社内の設備も恒温槽や3Dプリンタ、切削機など社内に取り揃えています。こうしたファブリケーションツールで非常に早く設計できるようになったといいます。
八木:外部にお願いすると、早くても2、3日はかかっていたのが、2、3時間でものができたりする。そうすると検証してダメだったらやり直し、みたいなサイクルがいままでよりも圧倒的に短い時間でできるようになる。いいかえれば、低い失敗コストでたくさんの設計をしながらチューニングしていくということができるようになってきました。

たとえば、LEDのデスクライト。光の出るところがまぶしくないかどうか。ほんの僅かな違いを、ちょっとずつパラメータを変えて3Dプリンタで造形する。確認しまくって調べるという荒業も短い時間でできるようになった。光学シミュレーションでもできますが、まぶしさは感じ方次第なので実際やってみるのが一番正確なんです。

3Dでプリントしまくって確認する。それがしやすい時代になったことで、小規模なチームでも開発が速く、低コストでできるようになってきました。想像だけではなかなか及ばないこと、実際に形にしてみる、動かしてみる、ということも1日あればできる。それが、小さなベンチャーにもできるようになった背景かなと思います。


これらすべて同じパーツをパラメータ違いで作成したものだという


現在、ビーサイズの製品は、Hyatt Regency、Barneys New York、蔦屋家電などの店頭でも販売しています。

ビーサイズのミッションは「デザインとテクノロジーで社会貢献する」こと。ギリシア哲学でいう「真善美」を、ものづくりに置き換えて、芸術(美)はデザイン、学問(真)はテクノロジー、道徳(善)は社会貢献ととらえ、会社のポリシーにしたそうです。社名も「真善美」が由来、B(美)si(真)ze(善)とのこと。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA第2弾の製品、REST。木製のコースターのようだが、置くだけで充電できる充電器。リビング、寝室で溶け込むような充電器を作ろうということから木で作るということを考えたそう。
八木:デザインとテクノロジーで社会貢献する、その3つを兼ね備えているプロダクトなら、もしかしたら2500年後の人もいいなと思うプロダクトになるんじゃないかなと。これを社名に込めようと美、真、善のローマ字の頭文字をとってビーサイズとしました。それが1つでも欠けたら出さないという目標を掲げてものづくりをスタートしました。プロダクトもその1つの結果というふうに思っています。

こうしたポリシーを共有したうえで、大手企業とコラボレーションするということも始めています。現在は、STROKEのバージョンアップ、それに海外展開を準備しているそうです。

買ってくれた人が「違いを語れる」家電を作る、UPQ・中澤さん


家電メーカーからカフェのオーナー、ハッカソンで電気が通ったものづくりに回帰、そしてUPQを立ち上げた中澤優子さん。Engadgetはじめ、さまざまなメディアに取り上げられています。中澤さんは立ち位置として製品企画とプロジェクトマネージャー、製造は主にアジアにアウトソーシングしています。こうしたスタイルから「ぼっち家電」と呼ばれることも。

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中澤優子さん


2012年にカシオを退職、その後、秋葉原にカフェをオープン。新しいメニューを考えたり、オリジナルのオーダーケーキを作ったり、クッキングレッスンをやったり。ある意味、ものをつくることには変わりなく、「一人でできるものづくりを楽しんでいた」。2014年、たまたま「ハッカソン」というイベントがあることを知り、なんかおもしろそうなイベントがあるぞと参加することに(このときのハッカソンはEngadgetが運営をサポートしているau未来研究所ハッカソン)。

そのとき知り合ったメンバーと、アイデアから企画して、3Dプリンタでプロトタイピング、ArduinoやKonashiなどで機能モデルまで作る。この体験は、カシオでものづくりの現場にいた中澤さんにとって驚きでした。

「イベントで集まったメンバーでものを作ることができる。商品企画の部署にいたんですが、エンジニアも含めて当時そんなこと思ってもみなかった。そんなことをやっているメンバーもいなかった。それから2年で、こういったことが自分のカフェの近くで行われているというのが不思議な経験だった」


Engadget電子工作部のハッカソンイベントでプロトタイプを作成したXbenも製品化を目指している


逆に、ものづくりから離れている2年の間に起こった変化だからこそ、ずっと現場にいて変化の余波を感じていたわけではないからこそ、素直に変化を飲み込むことができ、そして、すぐに飛び込むことができたのかもしれません。
中澤:カフェで食べるものを作っていたんですが、久々に電気が通ったものづくりをして、やっぱりものづくりができる時代が近づいているなと。一度離れてしまったけれど、また家電を作れるようになるのかなというふうな思いで、7月にUPQという会社を立ち上げて、スマホやBluetoothスピーカー、大型ディスプレイ、椅子とかスーツケースを作る会社、ブランドを立ち上げました。




既存のカテゴリーの製品群ですが、買ってくれた人が明確に違いを語れる家電、家具のブランドにしようというのが、UPQのポリシーです。語れるというのは、誰かに「これすごいでしょ!いいでしょー」と自慢したくなるということ。実際に言わなくても、持つことで高い満足度が得られるということ。

これは、カシオ時代の経験からなのでしょう。当時の家電、特にPCやデジカメ、携帯電話など、いかに他社の競合機種のスペックより上をいくかの競争でした。いま、ここ数年は、(もちろん競争はありますが)その製品によってどんなユーザー体験が提供できるかということを重視するようになってきましたが、以前は多くの場合スペックのみで差別化していました。
中澤:スペック競争を踏まえた商品企画、設計をやっていて、実際にこれが本当にユーザーさんに届くのかなと。私だけじゃなく、たぶんこれはメーカーのみなさんはわかるんじゃないかな。それをやめてみたらどうなるだろうと、せっかく自分の判断だけでできるのであれば、チャレンジしてみようかなと。もちろんスペック競争があるのはわかっているんですが、そこを超えて選んでもらえるポイントにこだわっています。

8月に7カテゴリ24製品を発表。UPQの製品は、10月現在ECサイトのほか蔦屋家電およびビックカメラで店頭販売しています。​
中澤:去年の10月にはハッカソンって言葉さえも知らなかった私が一歩踏み出す、チャンスを逃したくないとしがみついてがむしゃらにはしった結果、こういう機会までもらえる世の中になった。量販さんに、ぽっと出の私がものを売っている。販売するほうも日本のものづくりを盛り上げたいよと言っていただける、そういう時代なんだなと思います。

八木さんや中澤さんの取り組みは、「こうすれば誰でもできる」というモデルにはならないかもしれません(当然、これが正解だと1つに絞れるものではないので)。ただ、ファブリケーションツールの進化だけでなく、人の側の変化がいま求められていて、こうした事例を重ねていくことが人の変化につながり、ものづくりにかかわる環境全体の展開につながるのだと思います。


関連記事:"ぼっち家電"でも1人で作っているわけじゃない――ビーサイズ八木氏、UPQ中澤氏、IAMAS小林氏が語る新しいものづくりのチーム論とは

大内孝子(おおうち・たかこ):フリーライター/エディター。主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)がある。
 

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