開発期間17年! ダイソンロボット掃除機「360 Eye」は、なぜもっと早く登場しなかったのか。 エンジニアインタビュー

Takahiro Koyama
Takahiro Koyama
2015年11月19日, 午後 08:30 in 360eye
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2015年10月23日。日本市場を皮切りについにダイソンのロボット掃除機が発売された。サイクロンテクノロジーによって、世界の掃除機市場を席巻するダイソンが、キャニスター型、スティック型に次いで、ついにロボット掃除機市場に参入した。

しかし、ご存じの方も多いが、ダイソンのロボット掃除機の発表は昨年9月のことだ。つまり、発表から発売まで1年以上の年月を必要としたということだ。

この期間、ダイソンは何をしていたのか、そしてそもそもダイソンのロボット掃除機が目指しているものは。これまでの開発経緯をテクノロジーを軸に紐解くべく、ダイソン シニアロボティクスエンジニアのマイク・オルドレッド氏にお話しを伺った。

ロボット掃除機開発のスタートは17年前

ダイソンがロボット掃除機の開発をスタートしたのは1998年のことだという。彼はロボット掃除機を開発するためにダイソンに入社、試作モデルとなるDC06が完成した。

「DC06は開発スタートから2、3年でできあがりました(1999年にトライアル発売)。しかし、既存のロボットに掃除機を乗せるのではなく、きちんと掃除ができるロボットを、キャニスター型と同じ性能、吸引力の搭載を求めたため、残念ながら非常に重くて高価で、市場に投入できるものには鳴りませんでした」(オルドレッド氏)

最初に開発したロボット掃除機「DC06」。大きく、重く、高価なため、製品化は見送られた。

その理由はシンプルだ、各種センサーを搭載するだけでなく、さらにキャニスター型と同等の吸引力を実現するために54個ものバッテリーを搭載した。残念ながら、ダイソンの求めるレベルには達することができず、市場への投入は見送られた。そして、その後もずっと、人知れずロボット掃除機の開発は続いた。

「ロボット掃除機を開発する上で大切なのがバッテリーの消費を抑え、効率的に動作することが求められます。同じ場所を行き来しないようにエンジニアとして、何かできることはないかを問い続けました」

その間、他社からロボット掃除機が次々に市場投入される。しかし、オルドレッド氏はプレッシャーを感じることはなかったと語る。あるとすれば、よりよいロボット掃除機を生み出したいというエンジニアとしてのプレッシャーだけだったいう。

10年前に2つのブレイクスルーが訪れた

ダイソンのロボット掃除機開発にブレイクスルーが訪れたのが、今から約10年前だ。そのひとつが現在、共同開発を行う公立研究大学インペリアル・カレッジ・ロンドンのアンドリュー・デイヴィットソン氏が『Mono SLAM』という技術を考え出したことにある。

SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)とは画像を取り込むと同時に位置の確認とマッピングを行うソフトウエア技術のこと。ライバルメーカーではiRobotのルンバやNeato RoboticsのBotvacなどが採用している。

ダイソンではSLAM技術を利用することで、部屋全体の状況把握とより効率よく、掃除していない場所を掃除することができるとして、自社のロボット掃除機への搭載を決めたという。

360°の動画をリアルタイムで撮影できる3ライブビジョンカメラ。これが室内の特徴的な場所を3箇所認識し、場所を特定していく。

現在、「360 Eye」に搭載されている360°ビジョンシステムでは、水平から上方向45°の角度の映像を毎秒30枚撮影できるライブビジョンカメラに、横方向360°を一度に撮影できるパノラマレンズを組み合わせている。これにより、室内の特徴的な場所を認識し、掃除していない場所と掃除済みの場所などを把握していくことができるのだ。

もうひとつのブレイクスルーが、ダイソンデジタルモーターV2の開発だ。

「DC06の後に制作した段ボール製のモックアップではすでにロボット掃除機として目指すサイズや機能などが詰め込まれています。しかし、このサイズを実現した核となるのが、ダイソンデジタルモーターの変革です。ここまで高回転でコンパクトなモーターを作ることができたことで、ナビゲーションシステムとの組み合わせやその他の要素がつながってきました」

高回転により圧倒的な吸引力を生み出すダイソンデジタルモーターV2。掃除機としての性能を確保するためにも、高度なモーター技術が欠かせない。

ダイソンの掃除機ではサイクロンテクノロジーに注目が集まることが多い。しかし、実は心臓部といえるのは、高い吸引力を実現するダイソンデジタルモーターにある。ダイソンではキャニスター型の開発以降、モーター小型化を進めてきた。ハンディタイプの実現も小型化によるものだ。しかし、ロボット掃除機ではさらに小さなモーターが必要となる。

「360°Eye」では、ハンディタイプ向けのダイソンデジタルモーターV2をカスタマイズして、さらなる小型化をはかりつつ、毎分最大7万8000回転を実現。これにより、強力な吸引力を実現したのだ。

SLAM技術による高度なナビゲーションと、高い吸引力を誇る小型モーター。この2つに目処が付いたことで、ダイソンのロボット掃除機の開発は進んでいく。大切なのは掃除性能を落とさないことだ。

「たとえば空気と微細な埃を分離するサイクロン部。実はサイクロンにはある程度の厚み(高さ)がないと十分な性能が出ないのです。そのため、小型化を行いたくても限界となるサイズがあります。段ボールのモックアップでは、より薄く広いサイクロンが組み込まれていますが、あれでは必要な性能に達しませんでした。サイクロン構造の担当者はその兼ね合いに苦労していました」

「DC06」のあとでイメージ化されたモックアップ。10年以上前、すでに現在の形状にかなり近いイメージができあがっていたという。

そうして搭載されたダイソン史上最もコンパクトなラジアルルートサイクロンテクノロジー。8基のサイクロンでは最大5万Gの遠心力を発生させることで、微細な埃と空気をしっかりと分離することができるという。

このほか、車輪構造にも工夫が施された。DC06では本体サイズとあまり変わらない大きな車輪が搭載されていた。当然、車輪が大きければ大きいほど、段差は乗り越えやすくなる。しかし、本体を小さくするためには車輪も小さくしなければならない。そこで採用されたのが小さな車輪でもしっかりと段差を超えられるベルト駆動式転輪の採用だ。波形のゴム製でできた転輪は滑りやすい床や段差もしっかりと乗り越えることができると言う。

段差や毛足の長いラグなどもしっかりと乗り越えられる「ベルト駆動式転輪」を採用。これも小型化に役立っているという。

従来のロボット掃除機の4倍の吸引力で微細な汚れもキャッチ

こうして昨年、発表されたダイソン初のロボット掃除機「360 Eye」。しかし、そこから発売には1年以上の歳月を要した。その理由についてマイク・オルドレッド氏は大きな2つのクリア可能な課題が見つかったためだと語る。それが、騒音とバッテリー駆動時間だ。

いったんは完成した「360 Eye」だが、実環境での使用実態をチェックしてブラッシュアップするため、1年を要した。

「1年前の時点で良品を出荷できるという自信はありました。ただ、日本の家庭でのベータトライアルを行う中で、動作音とバッテリー駆動時間に関する声をいただきました。これはクリアすべきだと考えました。現在は掃除機が動いていても会話ができるまでノイズレベルは落ちています。また、ノイズの質にも着目し、耳障りだったモーターの回転音も減らすことに成功しました」

また、バッテリー駆動時間に関してはソフトウエア制御のみで当初20~30分駆動だったのを45分にまでアップ。より長い時間、広いエリアを掃除できるようにブラッシュアップできたという。こうして誕生した「360 Eye」。オルドレッド氏は一番の特徴を圧倒的な掃除性能だと語る。

「まず、吸引力は従来のロボット掃除機の4倍あります。これはIEC(国際電気標準会議)の基準に沿ってテストした結果です。また、私たちのラボでもしっかりとテストをして、その結果として、4倍という数字を出しています。これは実際に使って試していただければ吸引力が高いことはわかってもらえると考えています。あとは、自宅に帰ると、このスタイリッシュなロボットがそこにいることでしょうか(笑)」

本体幅とほぼ同じサイズのブラシバーが微細なゴミもかき込んでくれる。

「360 Eye」の今後について、家事の自動化について色々なことを考えていると語るオルドレッド氏。残念ながら具体的なプランは聞けなかったが、360°ビジョンシステムが撮影した映像を持ちいることで、様々なコミュニケーションが可能となり、それが利用者にとってのメリットにつながると、さらなる進化の可能性も垣間見せてくれた。

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